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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第五十五話 フェム再登場

第三章です。

「え? 《フェニーチェの灰》……ですか?」



 赤い髪を微かに揺らせながら、目の前のソファに座る少女に紅茶を差し出すソージ・アルカーサ。少女はソージが仕えている屋敷の主である。



「そうよ、もうすぐ復活日らしいわ」

「へぇ、それが先程来られていたナリオス卿にお聞きした情報ですか?」

「ええ」



 本日昼に、ソージが仕えているクロウテイルの屋敷にて、商売関係で懇意にしているナリオス卿がやって来て商談を当屋敷の主人であるヨヨ・八継・クロウテイルと行っていた。



 話しはスムーズに進み、それぞれ有益な情報を交換することができた。その中で、ヨヨが気になったのが《フェニーチェの灰》という代物だった。



「確か《フェニーチェの灰》は、南にある【アサナト火山】の主である火の鳥が復活する時に身体から剥がれる古い羽毛のことですよね?」

「ええ、身体から剥がれた羽毛は瞬時に灰化すると言われているわね。火の鳥フェニーチェ自体も数年に一度ほどしか姿を見せないし、その灰はかなりレアな素材になるのよ」

「そのようですね。その灰で造り上げたものは、半永久的な強度を保ち、劣化しないと聞きますね。ですから武器であったり防具であったり、《フェニーチェシリーズ》と呼ばれる武具は高価でやり取りされるようです」



 火の鳥フェニーチェは、普段は火山の中、いや、マグマの中に身を潜ませているという。そして数年に一度、火山から外へ出てどこかに卵を産むというが、その卵が孵る確率は数千分の一や数万分の一と言われているほど低い。



 元々不死鳥とも呼ばれるフェニーチェは二十年単位でその身体を自ら生み出した炎で包み一度死ぬ。そのまま死んだフェニーチェだが、しばらくすると復活するのだ。何でもフェニーチェが二十年に一度だけ使用する炎のことを《転生の炎》と呼ぶそうで、読んで字の如く、一度死んでもすぐに新たな命が芽吹き始めるのだ。



 つまり死にはするのだが、完全にフェニーチェがそのせいでこの世から消えると言うことは無いのだ。だからなのかもしれないが、絶滅の危険性が低い彼らの出生率が限りなく低いということだ。無論卵から孵り、フェニーチェの数が増えることもある。



 だが実際、今確認されているフェニーチェの数は三体である。そして不死とも言われているフェニーチェだが、それは寿命で死なないということであり、外的要因によって命を奪われることは確かにある。



 過去にフェニーチェ狩りという名目で多くの人物が【アサナト火山】に乗り込んでいき、それなりにいたはずのフェニーチェが狩られたという歴史も実在した。



 だがさすがに稀少生物であるフェニーチェを絶滅させるわけにはいかないと判断した皇帝が、世界中にフェニーチェ狩り禁止という触れを出した。



 狩った者は厳罰が課せられるということもあり、皆は皇帝に逆らうことはできずに狩りを止めた。許可されたのは、フェニーチェが二十年に一度復活する復活日で生まれる灰。それを手に入れることだけだった。



「ちょうど今年がその年なんですね」

「らしいわね。ナリオス卿も、一度でいいから生きている間に見てみたいと言っていたわ」

「お嬢様はそういう思いはないんですか?」

「そうね、確かに一度見てみたいとは思うけど、ナリオス卿みたいな情熱は無いわね」

「まあ、フェニーチェにとっては迷惑千万でしょうからね」

「その通りよ。自らの住処に他人が押し寄せて、自分の欠片だったものを攫っていくのだから愉快な気分ではないでしょうね」

「普通は追っ払ったりするはずですけど、聞くところによるとフェニーチェは臆病な生物らしいですから。人の気配がするとすぐにマグマへと逃げ込むって聞きます」

「ふふ、さすがにただの人間が、マグマの中まで追っては来られないでしょうしね」

「あはは、ですが一度火の鳥フェニーチェが大空を優雅にはばたく姿は見てみたいですね」



 巨大な鳥であるフェニーチェが飛ぶ姿は、それはもう目を奪われるほど美しい姿なのだろうとソージは想像する。できればナリオス卿ではないが、その姿を見てみたいと思った。

 するとその時、バタンと二人がいるヨヨの書斎の扉が開いた。



「話は聞いたわソージ・アルカーサ! その望み、叶えてあげてもいいわよ!」



 そこに現れた人物を、ソージとヨヨはそれぞれ冷淡な表情で見つめている。



「な、何よアナタたち! このアタシ、フェム・D・ドレスオージェ様が来てあげたんだから少しはリアクションしなさいよ!」



 一応リアクションはしている。また面倒事がやって来たと……肩を落とす思いなのだ。

 彼女の隣にいるメイド服を着込んでいる美女が無表情で頭を下げている。まるでお久しぶりですと言っているようだ。



 まず最初に扉を開けて入って来た銀髪の少女はフェムという名前であり、以前ヨヨを誘拐して、ヨヨの無事と引き換えにソージを配下にしようとした少女である。その時、結局はソージに泣かされる結果になってしまったのだが。



 そしてその隣にいる水色の髪を持ち感情を見せない女性はテスタロッサと言って、外見は完全に人間のように見えるが《自動人形(オートマタ)》なのだ。戦闘力も高い兵器型と呼ばれる存在でもある。



 ソージの魔法に二人は破れ、もう二度と迷惑をかけないという条件に見逃したのがヨヨだ。あれから音沙汰も無かったので、ソージのことを諦めたのだとホッとしていた二人だが、どうやらそういうわけではなさそうだ。

 ヨヨは大きく溜め息を吐くと、面倒そうに口を動かす。



「あなた、また魔法を使ってここまで来たわね。言わなかったかしら? そういうことをすると二度はないって」



 ヨヨが睨むと、フェムは少し肩を震わせるが、



「しょ、しょうがないじゃない! だ、だって真正面から来てもどうせ入れてくれるわけないんだから、魔法使ってここまで来るしかないじゃないのよ!」



 彼女の魔法は『透明』の魔法である。その効果は強力であり、一度透明化すれば無論目視はできないし、存在感も皆無になる。しかも彼女が触れたものも透明化できるという反則能力を宿している。



「はぁ、勘違いしているわあなた」

「へ? か、勘違いって何よ?」

「別にお客として来るのであれば、誰もあなたたちを邪険に扱わないわよ」

「……そうなの?」

「だから次にもし来ることがあるとしたらきっちり玄関から来なさい。話を通しておいてあげるから」

「え、あ、そ……その……ありがとう」

「…………歓喜」



 フェムが照れながら礼を言うと、テスタロッサも彼女の気持ちを察したような言葉を呟いた。しかしフェムはハッとなると、噛みつくように指を突きつけ声を張り上げる。



「そ、そんなことはどうでもいいのよ! ソージ・アルカーサ!」

「……何です?」

「フフフ、見たいの? フェニーチェの飛ぶ姿」

「え? あ、はい。まあ見れるなら見たいとは言いましたが……」



 フェムが肩を震わせてフフフと笑っている。何だか不気味で怖い。



「なら見せて上げるわっ!」



 その言葉にソージだけでなくヨヨもまた目を見開く。それはそうだろう。今現在確認されているフェニーチェは三匹。そして狩るのは禁止されているはずだ。それなのに見せてあげられるという意味に興味が惹かれる。



「どういうことかしら?」

「あら、さすがの完全無欠のクロウテイル当主でも気になるのかしら?」



 明らかに優越感を含めたような言い方をするフェム。しかしヨヨは別段気にした様子もなく答える。



「ええ。あなたが、ただのホラ吹きなのかどうか確かめようと思うの」

「だ、誰がホラ吹きよ!」



 どうやらヨヨも少しは気にしていたのか意趣返しをしたようだ。



「ったく、相変わらずふてぶてしいわね。いいわ、なら話してあげる」



 フェムが人差し指をチョコンと立てると自慢気に話し始める。



「フフフ、実はねずっと前だけど、アタシは見つけたのよ!」

「…………何を、ですか?」



 ソージが尋ねると、フェムが目を光らせながら、



「フェニーチェの卵よっ!」



 驚愕すべきことを言い放った。





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