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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第五十三話 一件落着

「お、おかあさんっ!」



 石化した者たちは、星海月族の者が運んできた。そしてその中にはユーの母親もいた。ユーは涙を流しながら石化したままの母親に抱きついていた。

 ソージは次々と石化した者たちを治していった。治った者たちは家族に抱きしめられ喜びを顔に表していた。

 そして最後に残ったユーの母親。



「ふぅ……」

「大丈夫かしらソージ?」

「ええ、これが最後ですから」



 ヨヨの問いに笑みを浮かべて答える。正直かなり疲弊感を感じていたが、ユーの喜ぶ顔が見たいと思ったら元気が湧いてきた。



「癒しを施せ、緑炎」



 ソージの右手から翡翠のような色を宿した炎が出現し、ユーの母親を覆っていく。ハラハラしながら祈るように両手を組んで見守っているユー。

 カチカチに固まっていた肌に、柔らかな質感が戻っていく。星海月族の子供たちに傷つけられていた腕も元通りに治っていく。無論そうなるようにソージが魔法を施してはいるのだが。



「……ユ……ユー……?」

「おがあざぁぁぁぁぁぁぁんっ!」



 完全に元通りになったユーの母親を見て、ソージとヨヨもホッと息をつく。しかし母親の方は、一体何があったのか理解できていないようだ。

 そこでヨヨが彼女に近づいて事の顛末を全て伝えた。



「そう……でしたか。それは……」



 母親はゆっくりと立ち上がると、星海月族の者たちに向かって頭を下げた。



「申し訳ありませんでした」



 ソージは彼女の姿を見て大人だなと心底感じた。普通なら、いや、ソージなら自分の娘が一族から追い出され、あまつさえ暗殺者まで仕向けられたらきっと許せない。とてもではないが頭など下げる気にはなれないだろう。



 だが彼女は一応の筋を通すつもりで、こうして頭を下げているのだ。無意識でもユーが起こしてしまった事実は事実なのだから。謝罪すべきことはする。それが彼女なりのけじめなのだろう。そこにソージは母親としての強さを感じた。



 そして怒鳴られたりすると思っていたのか、星海月族の者たちは、突然の謝罪に何を言っていいか分からないようで困惑を表情に浮かべている。

 さらにユーもまた彼女の隣に立って同じように頭を下げている。これで文句を言えるようなら、その者は空気を読めていない愚か者だろう。さすがにそのような者がいなかったのがせめてもの幸いだった。



 そして今度はソージとヨヨの方に身体を向けて頭を下げてきた。



「申し遅れましたわ。私はシー・ソピアと申します。この度は、私の娘がお世話になりましたようで、本当に感謝致しますわ」

「いいえ、彼女を気に入り守りたいと思ったのは私の判断に他なりませんから。そうね、ソージ?」 

「はい。ユーはもう私たちの家族ですから」

「おにいちゃん……おねえちゃん……」



 その大きな瞳から涙がポロポロ零れ出てくる。ソージはクスッと笑うと、その手で涙を拭ってやる。



「ユー、涙を流されるより、オレたちは笑顔の方が嬉しいですよ?」

「…………うん。えへへ……ありがとうなの」



 それはもう天使の微笑みだった。思わず抱きしめたい衝動にかられたが、カイナと同じ変態になりたくはないので自重することにしたソージ。



「本当に良い方たちがこの子の傍に居て下さって嬉しく思いますわ」



 シーは、とても綺麗な笑顔を浮かべる美女だった。まだ二十代前半のように見えるその姿は、ソージが見た星海月族の誰よりも美しくて長い《燈衣》も羽織っていた。



 透き通った白い肌にスラッとした輪郭、そして見事なまでのプロポーションは思わずゴクリと喉を鳴らせる。



(……八十五……いや、もしかして九……)



「ソージ?」



 ビクゥッとソージは身体を硬直させる。まさか声に出してしまっていたのかと思い、声をかけてきたヨヨの方を恐る恐る振り向くと、別段いつもと変わらない表情だったので安堵する。



 恐らく急に黙ったソージに疑問を感じて声をかけたのだろう。こんな状況で胸のことを考えていたことがバレたらと思いゾッとする思いだった。



(も、もしバレてたら『調律』魔法で一週間下痢コースだったかも……)



 そう考えると本当に危なかったと背中に流れる冷たい汗を感じながらも溜め息を漏らす。



「ところでこれからのことですけど……」



 ヨヨがシーにそう尋ねると、そこへ割って入ったのは渦鱗族の族長だ。



「そのことだが、先にも申したように、確かに一件落着にはなったが、今回このような騒ぎを起こしたことに対してのケジメをつける必要がある」

「それはワシが責任を持ちたいと思いまする」



 答えたのは星海月族の族長であるザイスだ。



「ほう、それは何故かな?」

「ユーは星海月族の者ですじゃ。ならばワシが責任を負うのは当然の義務ですじゃ」

「しかし、お主はそこの子供を切り捨てたのではなかったかな?」

「そ、それは……」



 そう、ザイスだけに言えることではないが、星海月族の者たちは揃ってユーを見捨てたのだ。責任を一切ユーに押し付けて問題を処理しようとした。それなのに今更責任を負うというザイスの言葉には重みは全く感じない。



「ザイス様、そのお言葉だけで私たちは救われるような思いですわ」

「シ、シー……」

「ですが、今回の件、罪を問われるのでしたら私たち親子ですわ」

「そ、それは違うぞシー! そもそもワシがもっとしっかりしておったらこのようなことには!」

「そうかもしれません。ですがもうそれは終わったことでもありますわ」

「う……」



 そう、過去のことをどれだけ嘆こうが失った時間は取り戻せない。やってしまった事実を変えることなどはできないのだ。



「皆様の判断は一族を維持させる方法として一つの正しい選択でもあったでしょう。ですから私がそのことについてとやかく申し上げられるような立場でもございません。娘の危機に、暢気に石化していたのですから」

「し、しかしそれは……」



 仕方の無いことではある。しかし母親である以上、仕方無いで済ませることではないのだろう。ソージとヨヨは彼女の決断を黙って見守っている。



「それに、私も人の親です。たとえ同じ種族だとはいえ、実の娘に暗殺者を仕向けられたことを、完全に忘れることなどはできようはずがございませんわ」

「…………」



 ザイスだけでなく、その場にいる星海月族の者たち全員が顔を俯かせている。今になって自分たちがしでかしたことを悔いているのかもしれない。

 そしてシーの言うことも尤もだ。今回このような事件を起こし、そして完全に敵視されたユーとともに一族と一緒に暮らすことは正直難しいものがあるだろう。

 だから彼女は決断したのだ。



「今まで、お世話になりました。私たちは、一族との決別をここに宣言しますわ」



 ユーも彼女がそういう決断をすることが分かっていたのか別段驚いてはいない。それどころか、そういう決断をさせることになって悲しんでいるようだ。

 シーは渦鱗族族長と対面すると、



「我々親子は、この海を離れますわ。今回はどうか、その落としどころでご勘弁願へないでしょうか」

「…………いいだろう。他の種族長にもそう伝えておこう」

「感謝致しますわ」



 渦鱗族族長はそれでもう用事は無くなったと言わんばかりに海の中へと戻って行った。シーは彼が見えなくなるまで頭を下げ続け、そして再びザイスに身体を向けた。



「ユーも御挨拶なさい」

「は、はいなの。そ、その……い、いままでおせわなりましたなの!」

「ユー……ワシは……」

「か、かんしゃしてるの!」

「え?」

「だ、だって、おさがセキカしたおかあさんをずっとまもってくれてたから、こうやってあえたから……だから…………ありがとうございますなの!」

「……ユー」



 ザイスは項垂れるように頭を垂れると、小さな声で「すまなんだ」と呟いた。そしてシーとユーは再び頭を下げると、ソージが創り出した橙炎の乗り物に乗って浜辺まで移動した。



「改めてお礼を申し上げますわ。本当にありがとうございました」



 浜辺に到着すると、再びシーが感謝してくる。



「先程も申し上げました通り、私にとって必要だから行動したまでです」



 ヨヨは淡々と言い放つ。



「これからどうなさるおつもりですか?」

「えっと……正直考えておりませんの」

「……?」

「とりあえず、一族たちにはイラッとしたものですから、啖呵を切ったつもりなのですが…………どうしようユー」

「おかあさん、かんがえなしなの」



 どうやら意外にも計画性の無い女性だったようだ。そこでヨヨの目がキラリと光る。



「なら、あなた方二人、正式に私に仕えてみる気はありませんか?」

「……え?」

「それは良い案ですねお嬢様。ユーは経理に関して抜き出た才能を持っていますし、そこへシーさんが加わって下されば、メイドの補充にもなりますしね」



 ソージが付け加えるように言う。



「あ、あの……よ、よろしいのでしょうか? というか経理担当って、ユーはこちらの方にお仕えしていたの?」

「うんなの! ケイリのたんとうしゃなの!」

「まあ! いつのまにか出世して! お母さん嬉しいわユー!」



 シーはユーに頬ずりして喜んでいる。こういう姿を見るととても微笑ましい。ユーも嬉しそうに笑っている。



「それで? 返答をお聞きしても?」

「あ、はい。私でよろしければ是非お願い致しますわ。御恩もお返ししたいと思っておりましたので」

「ユーもおにいちゃんたちといっしょがいい!」

「あはは! ありがとうございますユー。ニンテや母さんも大喜びですよきっと!」



 ソージは彼女の頭を撫でると、ユーは照れたように頬を上気させて笑みを浮かべている。その様子を見たシーの瞳がキラ~ンと光り輝く。



「あらあら、そうね。歳の差なんて関係無いですわね」



 何やら意味の分からないことを言っているが、ソージには理解不能だった。ヨヨが一つ、咳払いをすると、皆が彼女に視線を向ける。



「決まりよ。これからあなた達二人の主人になるヨヨ・八継・クロウテイルよ。私に仕える以上は目一杯働いてもらうから覚悟しなさい」

「はいなの!」

「はい。これから娘ともどもよろしくお願い致しますわ」



 何はともあれ、最高の経理担当と、メイド一名を補充できた。これで少しは仕事的に楽になるなとソージは一人安堵した。





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