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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第五十二話 星海月族との再会

 周囲は多くの岩礁と海藻に包まれている場所であり、透明度の高い海の中では宝石のように光を反射させている砂が光り輝いている。



 岩場には大きな穴が開いているものがたくさんあり、そこには多くの人物たちが住んでいる。その者たちは星海月族といって、皆が羽衣のような美しい物体を頭から被っている。実際は、被っているように見えるだけであり、頭から生えている髪の毛が変化したものである。



 それは女性なら成長する度に、長くそして美しくなっていき、男性は短く髪の毛の一部のように変化していく。名前は《燈衣(とうい)》と呼ばれているものであり、その美しさで女性は男性を魅了するのである。



 今、多くの星海月族が、《燈衣》を波に揺らせながら族長であるザイスのもとへ集まっていた。皆の顔は青ざめたまま、明らかにこれから起こるであろうことに怯えきった表情を浮かべていた。



「くそ! 一体海の暗殺者は何をしてるんだ!」

「そ、そうだ! もうすぐ他の奴らがやって来る!」

「もう時間が無いじゃないか!」



 口々に、彼らがユーを探すために差し向けたジャック・ノットのことを話題に出している。彼ならばきっとユーを探し出し、今抱えている問題を治められると信じていたようだ。



 しかし残念ながら彼はソージの手によって帰らぬ人になっている。その情報を知らない星海月族の者たちは一様に焦燥感にかられている。



「お、長! も、もう時間が……」



 一人の男が不安気に、目を閉じて黙っているザイスを見つめる。そして彼は静かに目を開き口を開く。



「……ここを出よう」

「お、長っ!?」



 男だけでなく、他の者たちも驚愕に包まれている。皆は住み慣れたここを離れたくなどないのだ。



「ならばどうする? 力で解決するのか? 向こうはここらへんに住む水棲族全員が相手じゃぞ? 下手に抵抗などすれば、滅ぼされるのがオチじゃ」



 ザイスの言葉に反論できず皆が押し黙る。そうなのだ。仮に一種族が相手だとしたら、戦って勝ち取ることも選択肢に選べるだろう。

 しかし相手は一つや二つの種族だけではないのだ。纏まって来られて勝てるわけがない。そもそも星海月族は戦いを得意としていない種族の一つである。戦い傷つくだけならまだいいが、もし負けた上、死人が出ようものならやりきれないだろう。



「お、おおお長ぁぁぁぁぁぁっ!」



 その時、突然血相を変えた仲間の一人がやって来た。



「どうしたんじゃ? ま、まさかもう来たというのか!」



 確かに今日が期限の一週間ではあるが、まだ日も落ちていない時間帯。攻め込んでくるには早いのではとザイスは思ったのだろう。



「そ、そそそれが……ユ、ユーが……っ!?」



 男の言葉にその場にいた者たち全員が言葉を失った。













 ソージたちが星海月族が住むエリアに足を踏み入れると、待っていたかのように星海月族全員が長であろう人物を中心にして集まっていた。



(顔色を見るに、どうやらこちらが攻めて来たと思っていたのかな?)



 ソージはその場にいる者たちの顔を確認していくと、誰もかれもが顔を青ざめさせてビクついている。中には手に震えながらも武器を持っている者たちもいる。

 その者たちの中心にいる人物が、ソージの傍にいる者に視線を向けて強張った表情を浮かべながらも口を開く。



「……お久しぶりですな、渦鱗(うずうろこ)族族長さんや」



 そう、彼が視線を向けたのは、ヨヨが一緒に来るように頼み込んだ族長だった。



「ああ、何やら物騒な雰囲気だが、少し話があるのでこちらへ参った」

「……話とは……そこにいるユーについて……ですかな?」



 長はチラリと視線をユーに向けるが、ユーは申し訳なさそうに顔を俯かせている。



「単刀直入に言おう。我々は今回の件でお主らに責任を追及するのを止めにする。これは他の種族の総意でもある」

「っ!?」



 星海月族が全員時を凍らせたように固まってしまっている。それはそうだろう。恐らく最後通告にでも来たとでも思っていたのかもしれない。そうでなくとも吉報だとは間違いなく思っていなかっただろう。



「ど、どういうことですかな族長?」

「それはここにいる人間が話すと言っている」



 そうしてヨヨに話を促した。ヨヨが一歩前に出ると軽く頭を下げた。



「お初にお目にかかります。私はヨヨ・八継(やつぎ)・クロウテイルと申します」

「こ、これはご丁寧に。ワシは星海月族族長を務めておるザイスと言う者じゃ」

「回りくどいのは好みませんので、ハッキリ申し上げましょう。ここにいる私の執事はソージ・アルカーサと申します。彼が今回、ユーの力の暴走で石化した者たちを治癒することに成功しました」



 その発言に星海月族たちがざわつき始める。ザイスも信じられないといった面持ちである。



「せ、石化を治癒した? そ、そんなことが可能なのかの?」

「事実だ。だから私もここにこうしてあなた方に追及はしないと言いに来たのだ。こちらとしては石化した者たちが治ったのならそれでいいからな」



 渦鱗族の族長が補足説明をすると、彼が嘘をつく理由などないことを悟ったザイスは、



「で、では問題は解決したと……いうことですかな?」

「そうですね。あとはここにいる石化した者たちを治せば問題は解決します」



 ヨヨがそう言うが、ザイスは険しい表情を浮かべている。そこへヨヨが追及していく。



「何故そのような顔をなさるのでしょうか?」

「そ、それはじゃな……」



 ザイスのその視線がユーのもとへと向かっている。



「もしかしてこう思われているのでしょうか? 海の暗殺者まで仕向けておいて、何故ユーが無事なのかと? そして無事なら何故憎んでいるはずのあなた方を助けるような真似をするのか……と」



 ヨヨの言葉が的を射ていたのか、バツが悪そうにザイスは顔を背ける。



「ならお答えしましょう。それがユーの望みだからです」

「え?」



 ザイスだけでなく、他の者たちも真剣に耳を傾けている。



「恐らくユーは、あなた方に相当酷い目にあわされてきたでしょう。確かに事の発端は彼女の魔法の暴走なので、あなた方の気持ちも分かります。ですが追い出すだけならまだしも、暗殺者を仕向けて、一族のために人身御供(ひとみごくう)とするやり方。それがどれほど残酷なことかあなた方は理解されていますか?」



 ソージはヨヨの語気に段々と怒りが強く込められていくのを感じた。彼女が怒っているのは、幼いユーを一族のために切り捨てただけでなく、再びその手で捕まえて生贄にしようとしたことだ。



 無論それが悪かどうかなど人それぞれが判断することだ。一族には一族の掟もあるだろうし、考えてみればそういう対処も必要なのかもしれない。

 だがヨヨにとってそれは許されざる行為でもあるのだ。仲間を、家族の命を自分たちの手で奪うことなど、あってはならないと彼女は思っているのである。



「大人であるのなら、子供を守るべきです。仲間であるのなら、ともに歩めるように努めるべきです。それを怠ったあなた方に、正しい理があるとは思えません」

「だ、だけどそいつがいなけりゃ俺らだって平和に暮らせてたんだ!」

「そうだ! お前のせいで俺らがどれだけ迷惑を被ったか!」



 口々に文句を言い始める星海月族に、ヨヨが目つきを鋭くさせながら口を開こうとした時、驚くことにユーがヨヨの前にたち、そしてその小さな頭を下げた。



「ご、ごめんなさいなのっ! みんなみんな、ユーのせいなの! ほんとに……ほんとにごめんなさいなのぉっ!」



 涙を流しながら必死に謝るユーに、誰もが言葉を失ったかのように押し黙っている。ソージは彼女の傍に行き、膝をついて肩を抱いた。そしてその視線を星海月族に向ける。



「謝って許されることではないのかもしれません。ですが、魔法の暴走は《魔核》を持つ者全員に訪れる可能性の高い、一種の自然災害のようなものです。だからこそ、魔法が暴走した時、それを治められるように傍に居る者は知識を必要とします。あなた方に、もう少しでもユーの現状を理解し、魔法について調べ、彼女を支えようという気持ちがあれば、こういう結果にはならなかったでしょう」



 ソージの言葉に反論できないようでほとんどの者たちは顔を背けている。



「ただユーが危険物だと決めつけ、これ以上被害が大きくならないように一族から追い出した。そのため一人になったユーは、この危険な海で身を守るために再度魔法を暴走させる悪循環。もし、あなた方が感情の赴くままユーを追い出さず、彼女を全員で理解しようとしていれば、いつか彼女が魔法を理解し、彼女自身の手によって魔法を解除させることもできたかもしれません」



 だが彼らはユーを危険視しただけで一族から追い出した。さらに暗殺者を仕向け、下手をすればユーが殺されていた。そのことにソージも怒りを覚えている。



「こうして、涙を流して自分の非を認め、必死に謝罪する女の子を、あなた方はまだ危険物扱いしますか?」



 ソージの言葉は全ての星海月族の胸に突き刺さった。誰も何も言えずただただ沈黙だけが流れる。ヨヨが大きく肩を竦めると、



「ソージ、私のセリフ、とらないでほしかったわ」

「申し訳ございません、ヨヨお嬢様」

「ふふ、許してあげるわ。ですが、ソージの言う通りあなた方は、同じ人であり、同じ仲間であった者をまだ責めますか? もしそうであるのなら、今度は私も感情のまま行動するかもしれませんよ?」



 ヨヨの凛とした佇まいに、気圧されている星海月族。ここでヨヨに反論できるほど能天気な者はいないようだ。その中でただ一人、ザイスだけがユーに近づく。そして彼もユーと同じように頭を下げる。



「すまんかったのう。お主を守るべきワシが、結局一族のために選んだことが、守るべき同胞を殺そうとしておった」

「お、おさは! ……おさはユーをまもってくれたの。あのとき、おさがまもってくれなかったら、たぶんユーは…………しんでたの」



 感情を爆発させた一族たちは、ユーを殺そうとしていた。しかし長が前に立ち、彼女を一族から追い出した。それも彼なりの守り方だったのかもしれないが、やはりそれは間違いだったとソージは思った。



 長として、もっと話し合いの場を作るべきだったのだ。先程ソージの言ったように、今回の現象が魔法ならば、その道に詳しい者に話を聞けば、ソージのように石化を治せる人物だって探し出せたかもしれない。

 どちらにしろ、一族から完全に追い出すという選択肢は間違っていた。悪い方法かもしれないが、しばらくユーには幽閉してもらう形で、他の者たちとの接触を避けてもらい、その間にいくらでも調べることができたはずなのだ。

 それを怠って、楽な方法に逃げたからこその現況だった。



「本当に……すまなんだ……」



 ザイスの謝罪で、もう誰一人何も言えなかった。そして他の者たちも、全員ではないが、ちらほらとユーに頭を下げる者たちが現れた。

 ソージはその光景を見て、ヨヨを顔を合わせて微かに笑みを浮かべる。ヨヨも軽く肩を竦めると、ザイスに石化した者たちを岩礁に運ぶように言った。






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