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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第五十一話 石化解除

「あ……あなたは……」



 ソージはその人物に見覚えがあった。それは先日ソージが一人でここに来た時に出会った渦鱗族の男だった。その時はソージのことを勘違いされて攻撃されてしまった。



 今回も問答無用に攻撃される可能性がグッと高くなったと思い、傍にいるヨヨとユーをいつでも庇えるように警戒態勢をとる。しかしソージのそんな準備も無駄に終わる。



「よぉ、あの時は悪かったな赤髪」

「……へ?」



 何だかバツが悪そうに頭をかく男。そしてそんな男に肩を叩かれた人物が驚くべきことを言う。



「わ、若ぁ! どうしてここに!?」



 数秒の沈黙の後、ソージが思わず、



「若ぁぁぁぁぁっ!?」



 と叫んでしまったのも無理はない。渦鱗族の中で、長を務める者の息子を次代の長として敬い「若」と呼んでいるという情報はソージも耳にしていた。 つまり先日ソージを襲った聞く耳を持たなかった分からず屋の男は、次期渦鱗族の長なのだ。

 衝撃的事実にさすがのソージも言葉を失って固まっている。



「お前ら、ちょっと引っ込んでろ。俺が話すっからよ」

「は、はい!」



 男にそう言われ、他の者は若と呼ばれた男の背後に大人しく陣取った。そしてソージは男をジッと見つめて言う。



「わ、若だったのですねあなたは」

「ああ、まあ、そのなんだ……あの時は悪かったな。ちょっと例の問題のせいでイライラしててよ。ついお前に攻撃しちまった。あれからよ、親父にも怒られてよ! 人間族をいきなり襲って戦争でもする気かボケってな」



 どうやら男から事の顛末を聞いた渦鱗族の長は、なかなかに良識を持つ人物であるようだ。確かに少し話を聞きたかっただけで攻撃を仕掛けたとなっては、渦鱗族の立場も危うくなるだろう。



 そのことをこってり絞られたのだろうか、いまだに男はどこかソージに対して歯切れが悪そうな表情を浮かべている。



「そうだったのですか。いえ、分かって下さればいいのです。それであなたがここに来られたということは、私がここに来た理由も御存知ということですか?」



 そうでなければ仲間を止めたりしないはずだ。



「まあな。一応お前さんの魔法も見せてもらった」



 男はチラリと視線をユーに向ける。ユーはビクッと身体を震わせる。



「そのちんまいのが、まさか今話題の問題児だったとはな」



 ガシガシと頭をかきながら溜め息を吐く男。



「そうです。何故彼女が近海の者たちを石化した理由も、お話すればきっと分かって頂けます。それに先程お見せしたように、石化した者たちなら私が治すことができます」



 ソージの顔をジッと見つめる男。ソージが嘘を言っているのかどうか、改めてその目で確認しているようだ。



「……一つ、教えてもらってもいいか?」

「はい」

「何でそのガキをそこまで庇おうとするんだ? これは言ってみりゃ水棲族だけの問題だ。つい最近まで海の中に暮らしていたそいつとお前らが親しい仲だったとも思えねえ。なのに何でだ?」



 それは確かに感じる疑問だろう。ユーはつい最近まで陸に上がったことは無い。それは星海月族からも情報として聞いていたのかもしれない。そしてそんなユーが、人間と親しくなる機会など無かったと思われても仕方の無いことだ。

 事実、ソージたちはユーと会ってそれほど時間は経っていない。男の言うことは的を射ている。しかし、ソージは彼の言葉を受け首を振る。



「親しくなるのに、時間なんて関係ありませんよ」



 ソージはそっとユーの頭に手を乗せる。



「ユーは、もう私たちの家族なのです。困っていたら助けるのは当然ではないですか」



 男の目が開かれ、そしてゆっくりと元に戻りソージを観察していく。ユーは恥ずかしそうだが、確かに嬉しげにソージを見つめている。そんな二人を見て男は目を閉じて言う。



「…………分かった」

「わ、若っ!」

「黙ってろ」

「う……」



 先程まで矢面に立っていた男が一喝されて押し黙る。



「お前らは何も見えてなかったのか?」

「は?」

「お前はできるか? つい最近まで赤の他人だった奴のために、自分の腕を差し出すような行為がよ」

「……あ」

「アイツは自分の力を証明するためだろうが、一歩間違えれば全身石化してもおかしくなかった魔法を、自分の腕で受けた。普通、そんなことできるわけがねえ。あのガキのことを信頼してねえ奴がとるような行動じゃねえ」

「そ、それは……」

「実際、証明するならそこら辺の海藻とかでも良かったはずだ。けどアイツは自らの腕で証明した。それはアイツがガキのことをどう思っているか、俺らに分からせるためにだ」



 男の言う通りの打算があったのは確かだ。正直別にソージの腕を石化させなくても、彼の言う通り海底に生えている海藻などでも十分証明にはなるだろう。

 しかしそれではソージとユーとの繋がりの強さを証明することはできない。だがソージが自分の腕を差し出したことで、ソージの言葉に説得力を持たせることができたのだ。



「それによ、たった三人だけでこんなトコにきやがった。人間なのにどうやって海の中で喋ってるかとか疑問が浮かぶが、それでもアイツらは人間だ。俺らの縄張りに三人だけで来たのも、自分らには害はないと示すためでもあんだろ」



 確かにそういう考えも多分に含まれていた。下手に大人数で向かえば刺激してしまうし、それは好ましくない。それにやはり少人数だと、相手の警戒が緩むと考えていたのだ。



「お前ら、チークとゾンドを持って来い」

「わ、若、奴らを信じるんですか?」

「ああ、少なくとも敵意は感じねえ。おい赤髪!」

「何です?」

「これから石化したうちの仲間を連れてくる。そいつらを治してもらいてえ」

「ええ、分かりました。ただできればあそこの岩礁でお願いします。私の魔法は海の中だと効果がいまいちですので」



 全く効かないとは言わない。そう簡単には自分の魔法の情報を教えるわけにはいかないのだ。まあ、実際は全く使えないのだが……。



「おう、分かった。けど一つ……」

「はい?」

「治せなかったり、仲間に下手なことをすりゃ、俺だって黙っていられねえぞ? そもそも元凶はそこのガキなんだからな?」



 ギロリとソージを睨みつけてくる。



「ええ、ご安心を」



 余裕たっぷりに返しておいた。







 水面から顔を出している岩礁でソージ、ヨヨ、ユーは待機していた。すると海の中から、見事に石化した二人の人物が、仲間たちの支えにより運ばれてきた。

 岩礁の上に二人を寝かせた。ソージは両手でそれぞれに触れると、緑炎を出して一気に石化を治し始めた。



 その光景を不安気に見つめている女性が二人ほどいる。もしかしたら、この石化した男たちの彼女や妻だったりするかもしれない。

 しばらくすると、石化していたはずの男たちの指や足先がピクリと動き始める。同時に女性たちは涙を流し頬を緩ませていく。



「あ……れ? 俺は……?」

「えっと……ここどこだ?」



 二人の男は目を覚まし、キョロキョロと周囲を見てポカンとしている。そして女性たちがその男たちに涙を流しながら抱きつく。態度を見ていると、やはり男たちと特別に親しい女性たちだったようだ。

 他の渦鱗族の者たちも歓声をあげて喜んでいる。そして石化した者たちは仲間に説明を受けて、それが終わったところでユーが彼らに近づき、



「ご、ごめんさないなの!」



 きっちり謝罪した。石化した者たちも、自分に何が起こっていたのか理解したようだが、必死に謝るユーの姿を見て、「治ったんだからいいよ」と許してくれた。

 そしてそこへ渦鱗族の長と名乗る人物が現れ、再度ユーが彼に頭を下げていた。



「いや、こちらとしては仲間が無事に戻ったのならそれでいい。ちょうど今、最後の種族長会議を行っていたところだった。他の長たちにもこのことを伝えよう。しかし、いくら事が治まったとしても、今回の件での始末はしなければならんぞ?」

「それはこちらとしても考えてあります」



 それに答えたのはヨヨだ。



「ほう、そちらは?」

「紹介が遅れました。私はヨヨ・八継・クロウテイルと申します。族長様の寛大な御心に感謝致します」

「……ふむ、見たところ名のある貴族のようだな。君にとって、この子はどういう存在なのかな?」

「守るべき家族です」

「…………澄んだ美しい瞳をしている。うちのバカ息子にも見習わせたいな」

「なっ!? ちょ、親父ぃっ!」



 男が族長に向けて叫ぶが、族長は完全に無視して続ける。



「他に石化した者たちもここへ運べばいいかな?」

「はい、できればそうして頂けると助かります」

「うむ。ならば急ぐとするか。他の長たちはもう星海月族を追い出す準備を整えているとのことだったからな」



 そう言いながら族長は再び海へと入って行った。

 そうして渦鱗族の長の話を聞いた他の種族長たちも、実際に石化していた者たちを証拠として連れて来た渦鱗族の長の言い分を理解し、半信半疑ながらも石化した仲間たちを次々と岩礁へと運んで行った。



 そして次々と運ばれてくる石化した者たちを、ソージは魔法で元に戻していく。



「お、おにいちゃん、だいじょうぶ……なの?」



 魔法は精神力を多大に消費する。使い過ぎれば昏倒したり、暴走してしまったりすることもある。ソージの額にはうっすらと汗が滲み出ている。心配になったユーが尋ねてくるが、ソージは笑みを崩さない。



「ええ、大丈夫ですよ。ヨヨお嬢様が、オレの魔法効率が崩れないように調整し続けてくれていますから」



 今、ヨヨがソージの身体に触れて、ソージの中の《魔核》に干渉して余分な魔力を使わないように『調律』魔法で調整してくれているのだ。それのお蔭で、本当に必要な分だけしか魔力を使わずに済み、効率も上がって疲れにくくなっている。

 またヨヨ自身の魔力も、ソージの魔力に変換して送り込んでくれているのでまだまだ魔法は使い続けられる。



 最初は半信半疑だった水棲族たちは、仲間の復活に大いに喜んでいた。そしてユーの謝罪にも快く受けてくれる者はいた。ただ、やはり今回の件でユーが糾弾されるべきだという声も無かったとは言えない。

 石化させられた時間は戻っては来ず、周囲の者たちは悲しみと怒りに震えた。罵倒を言いつつ海へと帰って行った者たちも中にはいた。



 しかしユーは怯みながらも頭を下げて謝ることを止めなかった。無意識にしろ、ユーが実際に起こしてしまった事実でもある。彼らの怒りを背負うのが、ユーの罰にもなったのだ。

 かなりの時間がかかったが、ユーが石化した者たちの治癒は成功した。



「ふぅ~さすがに堪えますねこれは」

「そうね、私も結構疲れたわ」



 いまだに帰って行く水棲族の者たちに頭を下げ続けるユーを見たソージとヨヨは、



「ユーも頑張っていますし、もう少し踏ん張りますか」

「ええ、まだ一番大事な舞台が残ってるもの」



 そう、それは当然一番の問題点である星海月族である。



「彼らには、私が直接話すわ。言わなければならないこともあるから」



 そのヨヨの瞳を見たソージは思わず身震いを覚えた。何故なら明らかに瞳の奥に潜んでいる炎に気が付いたからだ。



(こりゃ相当怒ってるな……)



 彼女が怒る理由。それは無論ソージにも理解できる。ヨヨが怒らないのなら自分が怒ろうと思っているほどだった。



「族長、話を円滑に進めるために、できれば御同行をお願いしたいのですが、構いませんか?」



 ヨヨが渦鱗族の長にそう頼み込むと、彼は快く引き受けてくれた。彼もまた海の問題が解決するならと善処してくれるようだ。





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