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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第五話 英霊器召喚

 【ラスティア王国】。多くの種族が住む国であり、西の大陸で最大の国。元々はただの港だったのだが、そこには多くの種族が足を踏み入れる交流の場であったため、拠点として国を築くことになった。



 その任を受けたのは騎士アルセイユ・ブルッセ。アルセイユは多くの支持を受け、時間をかけて国の歴史を作ってきた。



 何故彼がそのような大任を任されたのかは、歴史を振り返る必要がある。アルセイユは皇帝に仕えていた騎士であり、その人望、実力ともに誰もが認めるほどの人格者だった。そしてある事件に携わり、アルセイユは見事皇帝の意に報いた。



 そんな彼に信頼の証として皇帝は、彼ならば国造りを任せられると判断して任を授けた。

 皇帝の期待に応えるためにも彼は国造りに全てを懸けた。それで出来上がったのが【ラスティア王国】であり、彼は初代国王アルセイユ・ブルッセ・ラスティア一世となった。



 それから時が流れ、今国を治めているのはティレイユ・ブルッセ・ラスティア七世である。時代も移り変わり、【ラスティア】は最大の交流の場として多くの人が集まる国になった。



 しかし今、【ラスティア】はかつてないほどの緊張に包まれていた。それは皇帝からの勅命が降ったからだ。

 しかもその内容が愕然とするものだった。



 ――――――――――――――――――【英霊器(えいれいき)召喚】。



 その名の通り英霊を宿すことのできる器を持つ者を召喚すること。過去にも何度も試されたが、ほとんどは失敗に終わっていた。

 ここ【オーブ】には、かつて英雄や勇者と呼ばれた存在がいた。その者たちの持つ力は絶大であり、その力を以て人々を救い、皆の導き手となった。



 英霊というのはそうして世界を湧かせた人物の魂のこと。この世には十傑と呼ばれる英傑が過去にいた。そしてその英傑の魂は、現在、皇帝の住まう宮殿に管理されている。



 その魂をラスティア七世に預けた皇帝は、見事【英霊器召喚】を成功させることを命じた。

 その理由、それは北の大陸である【ゾーアン大陸】、別名【魔族大陸】と呼ばれる、世界最大の大陸に既存する。



 【ゾーアン大陸】には魔族と呼ばれる種族がいる。彼らの中には知性を持ち合わせ、他種族とも問題無く接している者もいるのだが、それは数も少ない。

 ほとんどが獣のように本能のみで行動する者ばかりなのである。そのせいで【ゾーアン大陸】は屈指の危険大陸として、誰も近づかないようにしていたのだが、昨今その中に統率者のような存在が現れたのだ。



 そしてその統率者は、他の大陸にも自分たちの勢力を広げようとし始めたのだ。多くの種族がその犠牲になり、命を散らしていった。



 その事実を鑑みて、皇帝がその暴挙を防ぐために、魔族の暴挙を止めた者には莫大な褒章を与えると触れを出し、我こそはと力自慢の者たちがこぞって統率者を討伐しに行ったのだが、結果は芳しくなかった。

 意外にもその統率者の力が強かったらしく、強者と名高い者たちも挙げた拳を下ろすハメになった。その理由として、敵の多さが挙げられる。



 ならこちらも力を合わせて戦えばと提案した者もいるが、どの国や権力者も腹に一物を構えており、統率者を倒すのは自分たちだという考えを持つので、背後から撃たれることが怖くて組むことが恐怖の対象になっている。



 いつまでも状況が良くならないことに嘆いた皇帝は、かねてから試したかった【英霊器召喚】に動いた。



 皇帝は信頼する国王たちに英霊を託し、召喚の任を与えたのだが、ほとんどの国が失敗に終わる。召喚は誰もができるわけではなく、召喚魔法を使える者しか無理なのだ。



 そしてその召喚魔法は、異世界から器を召喚するのだが、一度失敗すれば二度と試みることができない。

 器を召喚して、生まれた英傑に魔族の統率者を倒してもらう心積もりの皇帝が、次に勅命したのは【ラスティア王国】である。



 ここにも一人、優秀な召喚魔法を扱える者が居ることを皇帝はラスティア七世から報告を受けていた。国お抱えの魔法士だということだ。



 しかし失敗すれば、皇帝の信頼を裏切ることになり、それは大問題に繋がるとして、【ラスティア】では今、召喚の儀を行う王城の地下室に誰もが息を飲み緊張に包まれていたのだ。













 ――――――――――――――――――失敗は許されない。



 まさか自分がこのような大任を任されるとは思ってもおらず、いまだにどこか現実感が失われた感覚で、足元に広がる魔法陣を見つめるのは、【ラスティア王国】のお抱え召喚魔法士であるラキ・オーベンだ。



 確かに彼は召喚魔法に目覚めてからは、その実力を買われて国に仕えることができた。そうして順風満帆な生活を送り、ずっとこのような平和が続くのだろうと思っていたが、突如その平和は音を立てて崩れた。



 ある日、ラスティア七世の呼び出しに応え《玉座の間》に向かった。そこでいつも精悍(せいかん)な顔つきで、女中たちにも人気な王の表情がとても暗かった。



 召喚魔法を使ってほしいと言われ、二つ返事で肯定した。今までも国の為に魔法を使ってきたのだから、国に仕えている身をしては当然の義務だと思い首を縦に振った。



 しかしその召喚内容を聞いてラキは顔を青ざめさせた。【英霊器召喚】というのはもちろん知識として知っている。



 ただ試みたことはないし、そんな大それた召喚が成功するとも思えなかった。だが国王は有無を言わせずやれと言った。

 そうしてラキは、意に反して強制的に地下室へと連れられていった。ここまで来たらもう覚悟するしかなかった。



 とにかく全力を尽くす。その後はどうなるか分からない。場に緊張が包まれ、全く成功しそうなムードなど微塵も感じない。

 だがそれでもやるしかなかった。たとえ失敗して職を失ったとしても、やらなくても失うのだからと、自分の運命を呪いながら魔法を行使した。



 魔法陣の中心に、皇帝から預かった英霊が封じ込めてある鉄籠を置く。この鉄籠の中には小さな霊魂が幾つも動き回っていた。まるで早くここから出せと言わんばかりだ。



 ラキは全てが整ったことを確認すると、何度も深呼吸して心を落ち着かせる。場が静まり、国王のラスティア七世含めた兵士たちもジッと固唾を飲んで見守っていた。



 ラキは片手に持っていた本を開くと、一度そこに視線を落とすとゆっくりと目を閉じた。そして懐からキラキラ光る丸い石を幾つも取り出すと魔法陣に向けて放り投げた。



「ルビーは御前(ごぜん)の目、サファイアは御前の口、エメラルドは御前の耳、アメジストは御前の鼻、偉大なる次元を司りし者よ、小さき者の僅かばかりの願いを聞き届けたまえ。我が名はラキ・オーベン。その御力を以て、次元の扉を開き異なる界に在る者を喚びよせたまえ!」













 色とりどりの宝石が眩くそれぞれの光を強く光らせ反応を見せる。しかしその光が徐々に鎮まっていく。

 ラキだけでなく、他の者もやはり駄目だったかと思ったその時、周囲を目も開けていられないほどの閃光が包む。



 光が収まると、そこにいたのは三人の人物。そして見るからに三人の服装は、異界から来た者たちだと認識させた。



「え? な、何だ? 何が起こったんだ?」



 見たところ、少年が一人、少女が二人だった。その中の少年はキョロキョロと周囲を見回し愕然とした面持ちを呈している。



 他の少女たちも呆気にとられているようで身を硬直させていた。そんな三人のもとに、ラスティア七世が近づいていく。その身体は小刻みに震えており、顔を実に喜ばしいのか緩み切っていた。



 それはそうだろう。失敗すると思っていた召喚魔法が成功したのだから。しかも三人も英傑を召喚できたのだから言うことは無いのかもしれない。

 バタンと倒れたラキを丁重に看病しろと兵士たちに命じたラスティア七世。ラキもかなりの魔力と気力を消費し、それに成功した安堵感から意識を飛ばしてしまったのだろう。



「すまないな少年たちよ。私はティレイユ・ブルッセ・ラスティア。混乱していると思うが、まずは名前を聞かせてもらえないか?」



 三人は実際に混乱している様子だったが、ラスティア七世が丁寧に名乗ったので、少し落ち着いたのか、まず最初に少年が名乗った。



「お、俺は……に、二ノ宮……和斗……です」

「セイ……わ、私はその……ほ、ほ、星守(ほしもり)セイラ……で……す」



 少年と少女はそれぞれ名乗り、少し離れたところに座り込んでいたもう一人の少女にラスティア七世の視線は向く。



「して、お主の名は?」



 少女の口元が微かに震えているが、ゆっくりと動き出した。



「ま……き………」

「は?」



 聞き取れなかったようでラスティア七世が聞き返す。再び少女は、先程よりも大きな声で確かにこう言った。



天川(あまかわ)……真雪(まゆき)




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