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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第四十九話 残る問題

 ソージがヨヨの書斎に入ると、話題はもちろん今後、近海での問題をどう乗り越えるかだ。そして解決へと導けるきっかけとして、手に入れたかったものが今書斎に置いてある。

 それはユーが石化した水球だった。



「これがもしオレやヨヨお嬢様の力で治せるのだとしたら、水棲族の方たちと交渉ができますね」

「ええ、そうね。ソージ、さっそくだけど緑炎で元の状態に戻せるかやってみてくれるかしら?」

「畏まりました」



 ソージは地面に転がっている刺々しい水球に近づくと、右手をかざして「癒しを施せ、緑炎」と唱える。するとソージの右手から緑色の炎が生まれ、水球を丸ごと包んでいく。



(……む? これはなかなか強力な魔法だな)



 ユーの魔法の強力さに思わず唸るが、こうして魔法で覆ってみるとよく分かる。これは単なる石化ではないということが。そして尖っている部分が石化から解除されて水へと戻っていく。

 そしてその水が床へと零れるところを確認してソージは魔法を一時中断した。



「ふぅ、どうやら治せそうです」



 結構集中力のいる仕事ではあるが、間違いなく石化から元に戻せることが分かりソージは安堵していた。これで問題無く最終ステージへと向かうことができるからだ。



「そのようね。私もあなたが来る前にそれに触れて、視たわ」

「どうでしたか?」

「確かに石化魔法ではあるけれど、同時に時間停止魔法でもあるようなの」

「……やはりそうでしたか」

「気づいていたのかしら?」

「いいえ、お嬢様のように時間停止魔法とは断定できませんでしたが、ただの石化魔法ではないと感じました。ユーの魔法は、恐らく石化したものの時間を止めることができるということなんですね」

「その通りよ。極めて特殊で強力な魔法よ。権力者や悪人が知れば、利用しようと企むほどね」



 そう、この石化魔法は決して人を殺す魔法ではない。相手の時を止めて未来へと送る神秘な魔法の一つだった。

 故にこの魔法を解析して、不老長寿を得ようとする輩だって中に出てくるかもしれない。時間を止めるのだから、もし石化という効果を無くしてそのものの老化や成長を止めるような効力を見つけることができれば、為政者や上層貴族、いや、ほとんどの者が手にしたいと思うだろう。



「……危険ですね」

「ええ、だからできればユーの魔法は多用しないことが望ましいわね」

「まあ、もしそのような輩が出て来ても、オレが守りますが」

「ふふ、あの時もそうだったけど、ソージったら、ニンテとユーの父親みたいよ?」



 あの時というのは、彼女たちがジャックに殺されそうになってキレた時のことだろう。



「いやいや、そこは兄とか言ってほしいんですが……」



 さすがにこの歳でニンテのような十歳児は勘弁してほしい。ニンテが嫌というわけではなく、まだ父親などと考えられないだけだ。



「ふふ、でも安心なさい。この屋敷の者に手を出す輩は、決して許しはしないわ」



 ヨヨもまたニンテとユーのことを気に入っているのだ。自分の家族が傷つけられるのを黙って見過ごすような人物ではない。



「これでユーの魔法効果は判明しました。もう明日には星海月族が、他の水棲族に追い出されます。今日はもう日も沈みますので、明日の朝、参りますか?」

「ええ、決着をつけるわよソージ」

「畏まりました、ヨヨお嬢様」



 明日で期限の一週間になる。この日を逃せば、下手をすれば近海で争いが勃発してしまう。それは海だけの問題ではなく、そこで漁などをする人間にも影響が出てくるし、火種がどこまで大きくなるかも分からない。

 それにユー自身が、それを止めたいと思っているのだ。ならば家族であるソージたちは、それに向けて全力を注ぎ込むだけである。







 翌日早朝、ソージとヨヨ、そしてユーの三人は屋敷の玄関で屋敷の者たちに見送られていた。これから向かうのは星海月族が住む近海である。時間もギリギリであることから、もう何かしら動きが向こうで起こっているかもしれないので、急いで向かう必要があった。



「う~、ユーちゃん、ぜったいに帰って来てくださいです!」



 ニンテがユーの手を取り涙目を浮かべている。ユーがもしかしたらいなくなることを危惧しているのかもしれない。

 正直、これからの出来事の先に、ユーがどの道を選ぶか分からないのだ。もし海の問題が平和的に治まったとして、ユーが海へと帰るかもしれないし、それはユー自身が選ぶことなのだ。



 無論ソージたちの思いはユーに残ってほしいという気持ちが強いが、あくまでも強制しないことがヨヨの美徳でもある。当主の意向を覆すわけにはいかないので、ソージもそれに従っているのだ。



 ユーもこれから先、どんなことが待っているか分かっていないようで戸惑った表情を浮かべている。彼女にとっても、ここは帰るべき場所を迷わせるほど大きなものになっているようだ。



 それがソージにはとても嬉しいことだった。何でもないただの屋敷なのだが、やはり気に入ってくれるのは喜ばしいことなのだ。しかも一度家族として迎え入れているのだからその思いも強い。



「行くわよユー」



 ヨヨの声で名残惜しそうにニンテと手を離すユー。そしてソージは橙炎で乗り物を創り出すと、視線をデミックの方に向ける。



「やはりタフですねデミックさんは」

「ブハハ! あったぼうよ! こちとらあれしきのことで仕事を休むようにはできちゃいねえんだ!」

「ですが昨日一日は寝込んでいましたけどね」

「おおっと、なかなか言うじゃねえかソージ! 何だ? いつものお返しか何かか? そういや完全に傷を完治させてくれたのはソージだったよな」



 そう、戦いが終わり、すぐにデミックの治療を引き継いだのはソージだった。ヨヨの『調律』魔法は治療に特化している魔法というわけではないので、完治には時間が少しかかる。だから瞬時に癒せるソージが後を継いだ。



「こりゃ礼をしなきゃな! どうだ? 今度酒場でキレイどころを集めてハーレム祭りなんてどうだ?」

「ハ、ハーレム祭り!?」

「そうだぜ? お前も男なんだ? いつも涼しい顔してたって、頭ん中は男魂で溢れてんだろ? いるぜ、零れ落ちそうなほどたゆんたゆんとした女もよぉ」



 デミックが両手を胸にやりユッサユッサと動かす。



「……ち、ちなみにバストサイズとかは?」

「そんなもん、より取り見取りに決まってんだろ。この前なんか、九十を越えた若い女がたっくさん来たぜ?」

「きゅ……九十……むぅ」



 それは是非とも一度この目で見て保養にあやかりたい。ソージも何だかんだいっても男なのだ。女性に興味が無いわけではない。ただ今までは仕事やら修行やらで忙しく出会いなど皆無だったが、ハーレム祭りと聞いて黙って見過ごせるほど達観はしていないのだ。



 思わずゴクリと喉を鳴らすが、すぐに背中から氷のように冷え切った声が全身を突き刺してきた。



「……ソージ、何か面白そうな話をしているようだけれど?」



 ギギギと油の切れたロボットのような仕草で頭を回転させて背後を確認するソージだが、そこには笑みを浮かべたヨヨが静かに佇んでいる。

 しかし何故だろうか、彼女の全身から身を凍らすほどの冷気が滲み出てきている。そして確実に目が笑っていない。



(ま、まさか今の話を聞かれた……とか?)



 これはマズイと思った。ヨヨも年頃の娘だ。こういう話には女性として嫌悪感を持つようで、最近は特にソージが街で見かけた女性の容姿などを褒めると、若干機嫌が悪くなったりならなかったりするのだ。

 若くして当主に立ったせいか、街娘たちのようにオシャレや遊びを楽しんだりしていないので、もしかしたらそんな女性たちが羨ましいのかもしれない。



 そして特に胸の話をしたりすると、毎晩必ずマッサージに呼ばれて満足するまでマッサージをさせられるのだ。無論胸を揉んでいるわけではない。それだけは断固として主張しておく。



 それに揉もうにもヨヨの慎ましやか過ぎる胸を揉むのはなかなかに難しいのだ。とにかく胸の話は、ヨヨのいる前では厳禁なのに、ソージはつい男魂に引き摺られてしまった。



「ヨ、ヨヨお嬢様……?」



 額から冷たい汗を流しながらも言葉を絞り出す。



「……ソージ?」

「は、はい!」



 ビシッと背筋を立てて気をつけの姿勢を保つ。



「今晩、マッサージ二時間ね」

「……か、畏まりました」



 これで今日も夜にやろうとしていた仕事が溜まってしまった。心の中で泣いていると、バンと背中を叩かれる。



「ブハハ! ソージも大変だな!」



 やかましいわ! と言葉にせず楽しそうに笑うデミックを睨みつける。肩を落としながら橙炎に乗り込むと、しっかりヨヨとユーをエスコートする。これだけは執事として忘れてはいけない。ヨヨが皆に顔を向けると、



「では行ってくるわね」

「き、気をつけてくださいです!」

「ソージ、しっかり守んなさいね!」

「頑張って来いよ、セッティングはしといてやっから!」



 ニンテ、カイナ、デミックの順に言葉が飛んでくる。ていうかデミックがうるさい。いや、決してありがたいとかは思っていない。……多分。

 橙炎に乗った三人は、上空に浮かび上がり海へと飛んで行った。




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