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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第四十八話 キレたソージ

 突き飛ばされたユーは地面に転がり、水球の範囲外まで押しやられた。これでユーは水球に当たることはないだろう。しかしそれは誰のお蔭だ……?



「い……いや……」



 ニンテがユーを庇って突き飛ばしたのは明白。そしてユーは逃れることができたが、その凶刃は今まさにニンテを襲おうとしていた。



「だ……だめ……」



 周囲がスローモーションに感じる。必死に自分に逃げてと叫ぶニンテ。慌てた様子でこちらに顔を向けているソージたち。

 そして凶悪な表情で自分を、いや、ニンテを殺そうとしているジャック。ジャックがここにやって来たのはユーを海に連れ戻すため。彼はそう言っていた。



 つまりこの状況を作っているのは自分の存在なのだとユーは自覚している。もし、ここで誰かが死んでしまえば、自分が殺したのも同じだと、激しい後悔の念が過ぎる。

 自分さえ海から出なければ……この体質を何とかしようと思わなければ……あのまま一族から逃げ出さなければ……



 きっとこの状況は起こり得なかった。ユーは身体を震わせ、そしてふとニンテの顔が目に入る。怯えながらも確かに彼女は―――――――――――笑った。

 それは笑ったように見えたのかもしれない。新しくできた友達……そして家族と言ってくれた人々。自分が人間と違っても快く受け入れてくれた。



 そして今、自分の命よりもユーの命を優先してくれたニンテが死に近づいている。それを強く意識した時、頭の中に物凄い情報が流れてきた。

 それが一つ一つどんな情報なのか理解はできなかった。だが、ユーは初めて確信した。



 今、ニンテを救えるのは自分の力だけなのだと。いみじくも、ソージが教えてくれた。魔法は誰かを救うことができると。

 ユーは歯をカチッと鳴らすと、キッとニンテを襲おうとしている水球を睨みつける。そして大きく息を吸うと、



「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 突如、ユーの身体から凄まじい放電が迸り、それが真っ直ぐ水球へと向かっていった。そして一瞬にしてニンテを守るように、彼女の前方へと紫電が伸びた。

 ヨヨの命名したユーの魔法『電攻石化』。その動きはまさに電光石火だった。



 ピシィィィィィッ!



 紫電に触れた水球がその場で止まり石化した。そしてゴトンと音を立てて地面に転がった。「……ぞくを…………かぞくをいじめないでぇっ!」

 ユーの心からの叫びが、ジャックの耳を貫いた。










「ば……かな……何だその力は……? 魔法まで石化するなんて聞いてねえぞ!」



 ジャックは今自分が見たものが信じられないのかあんぐりを口を開けて固まっている。



「ええ、本当にビックリですね」



 ソージはニンテの前に立つと、彼女は意識を失っているようで地面に倒れていた。咄嗟の行動だったが、やはり恐怖に耐えられずブラックアウトしたようだった。



 ニンテをそっと持ち上げると、片手で人形を抱くように抱える。そしてそのままユーの方まで行き、彼女も同様に抱える。

 もう誰にも渡さないといった感じで左右の腕で二人を抱え込んでいる。そしてそのままゆっくりとヨヨのもとへ歩きながら口を動かす。



「まさかこんなところで、ユーの魔法が開花するとは思いませんでした。人は危機を感じた時に力を発揮するとは言いますが、彼女の場合、家族が殺される危機を感じて魔法を発動させてくれました。とても嬉しかったです」



 腕の中のユーにニッコリと微笑むと、ユーは顔を真っ赤にして俯かせる。



「ニンテにもお礼を言わないといけませんね」



 ソージはカイナに二人を預けると、再び踵を返してジャックと対面する。



「それと、完全に油断してしまった自分に腹が立ちます。何のために修業してきたのか、これじゃ分かりませんね……」



 皆を危険に晒してしまった事実。それはソージが明らかに相手を舐めてかかっていたことに他ならない。自分の軽率な行動で恐ろしい事態を招いたかもしれないのだ。ふとヨヨに視線を向けると、彼女もソージを睨むように見つめていた。



(こりゃ、本当に失態だったな……反省しなきゃ)



 ソージは思い上がっていた自分を内心で叱咤して、再度ジャックに視線を向ける。



「一つ、あなたにもお礼を申し上げましょう。あなたのお蔭で、こちらが抱えている問題が一つクリアできました」

「な、何を……?」



 微笑を崩さずに淡々と喋るソージに違和感を覚えているのかジャックの額から大量の汗が流れ出ている。



「……ふぅ、それとすみません。ここからはもう、全力でいきます」

「……?」

「……オレはお前を殺すってことだ」

「っ!?」



 膨大な魔力と殺気がソージからジャックに向けて放たれている。



「もう少しでニンテとユーが死ぬところだった。それにヨヨお嬢様も殺すとか言ってたな?」

「あ……う……ひっ!」



 ソージの睨みに耐えられなかったのか、ジャックは慌ててその場から立ち去ろうとする。しかし彼の周りを一瞬にして赤い炎が取り囲んだ。



「く、くそっ!」



 水球を作り放つが、炎に触れた瞬間蒸発してしまう。



「なぁっ!? な、ならこれで!」



 腹を膨らませて水を吐こうとするが、チョロッとしか水は噴出されなかった。



「どうやら、その魔法も尽きたようだな。考えもせずバンバンバンバン撃ち過ぎなんだよお前」

「ひあっ!?」



 いつの間にか背後にいたソージに驚き、腰を抜かすジャック。冷酷な瞳で見下ろすソージはゆっくりと口を動かす。



「やり過ぎなんだよ」

「た、助け……」

「ぶち消せ、赤炎、白炎」



 ソージはそれだけを言うと、炎の中に消えていく。そして赤い炎がジャックへと迫り彼の身体を焼いていく。



「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァッ!?」



 そして赤い炎ごと、ジャックを白炎が飲み込んだ。



「相手が悪かったですね、海の暗殺者さん」



 ソージは最後の決め台詞を言い、ヨヨのもとへと戻って行った。












「……う」

「あ、目が覚めましたかニンテ」



 今ニンテはベッドへ寝かされているところだった。ユーを庇ってそのまま意識を失って倒れてしまったのでソージがベッドへと運んだのだ。



「あ……ソージ……様? ソ、ソソソソージ様!?」

「ええ、ソージですよ」



 ガバッと布団を跳ね除けて上半身を起き上がらせたニンテに優しげに笑みを返すソージ。しかし彼女は状況を理解していないのか目をパチクリしている。そして彼女は左手に温もりを感じたようで、視線をそこへ向ける。



「ずっと、傍に居てくれたんですよユーは」



 そう、彼女の手を握っていたのはユーだった。看病し、そのまま寝入ってしまったユーだが、手だけはずっと握ったままだった。



「無事……だったんです?」

「ええ、ニンテのお蔭です」

「よ、よかったですぅ~」



 安堵したように、起き上がらせていた上半身をパタリとベッドの方に倒すニンテ。



「あはは、ですがあんな無茶はもう止めて下さいねニンテ。肝が冷えたどころではなかったですよ?」

「あ、はは……何か身体が勝手に動いちゃってたんです」

「さすがのお嬢様も顔を真っ青でしたからね。あとできつ~くお小言を言われるかも……ですよ?」

「ええ~それは嫌ですぅ~…………あ、あの人はどうしたんです?」

「もう大丈夫ですよ。それよりニンテ、ユーを守ってくれてありがとうございました」

「……えへへ。はいです。ユーちゃんが無事でほんとによかったです。……ってあれ? ソージ様、何で頬が赤いです?」

「えっと……これはですね……」



 ソージの左頬が真っ赤に腫れていたのだ。ソージはそこを擦りながら、



「若干二名ほどにお仕置きを……」



 実はジャックを倒してから、ヨヨとカイナに呼び出されたソージは、二人から愛のむちともいえるお仕置きを受けた。無論遠慮のないビンタである。理由は、簡単だ。さっさとジャックを倒さず、ニンテたちを危険に晒したからだ。今後の戒めとして盛大なものを受けてしまった。



「ま、まあそのうち治りますから」

「そうなんです? なら良かったです!」



 嬉しそうに可愛らしい笑みを浮かべて、寝ているユーを見つめるニンテ。そんなニンテを見てソージは質問する。



「ねえニンテ、もしユーがここからいなくなったりしたらどう思いますか?」

「そ、そんなの嫌です!」



 即答だった。思わずまた上半身を起こしたほどだ。



「せっかく仲良くなれたのに、お別れなんて嫌です……」

「……そうですか」



 ソージはニンテの傍に寄ると彼女の頭を優しく撫でる。



「ふわ……」

「ニンテの気持ちは、オレと……いや、皆と同じですね」

「え? そうなんです?」

「ええ」



 ソージは二人の顔を交互に見つめると軽く頷く。そしてそのまま部屋の扉へと向かって行く。扉に手をかけたところでニンテに一言言う。



「もう少し横になっていて下さい。オレはヨヨお嬢様のところへ行ってきますから」

「はいです」



 ソージは扉を開けてヨヨの書斎へと向かって行った。





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