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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第四十六話 執事登場

 街を歩いていると、ソージの胸の中にある《魔核》がまるで誰かが呼んでいるかのように熱く脈動し始めた。



(こ、これは……っ!?)



 この感覚の正体は、ソージが新しく先日創り上げた炎の能力によるものだった。それは黄炎。その炎の能力は簡単に言えば転移である。

 例えば屋敷内のどこかに黄炎で紋章を縫い付ける。すると、ソージがどこにいてもその場所へと転移することができるのだ。



 またその紋章に触れている者の心身状態を知ることができる。だが心の機微を正確に把握することは叶わない。ただ伝わってくるのは焦りや怒りなど、強く表に現れている感情だけである。

 以前に金属のタグに黄炎の紋を刻みネックレスという形でヨヨにプレゼントした。いつでもヨヨの危険を察して飛んで行けるようにするためだった。彼女は快く受け取ってくれた。



 そして今、その黄炎から伝わってくる強い感情がある。怒りや軽蔑など、不安なども混じっている。何かがヨヨの前で起きている証拠である。それにヨヨが帰って来いと呼んでいる気もする。



「ユー、オレは今すぐ屋敷に戻ります!」

「え? あ、どうしてなの?」

「どうやら屋敷で何かが起きているようなんです」

「な、なにが?」

「分かりません! ですから一刻も早く戻りますよ!」

「わ、分かったの!」

「想いを像れ! 橙炎!」



 二人が乗れるだけのオレンジ色を宿した炎を生み出し、その上にソージは乗る。そして初めて見るユーは戸惑いながらもソージの手を強く握りながら炎に乗った。

 本当ならすぐさま転移していきたいが、残念ながら転移できるのはソージただ一人だけ。必然的にユーを残してしまう結果になる。



 執事としての判断ならヨヨを優先して一刻も早く向かうべきなのだが、ここでユーを一人にして、もしその間に何かあった場合、ヨヨを失望させてしまう結果に繋がるだろう。



 暗殺者がいつやって来るか分からない状況で、ユーを一人にすることなどできないのだ。

 だからこそ、少しだけ遅れても二人で帰るという選択をしたのだ。



「飛ばしますからしっかり構っていて下さいね!」

「わ、わわわわかったの!」



 ソージの腰にしがみつくユー。そして炎は物凄い速さで屋敷へと向かって行った。

 












 ヨヨが書斎で仕事をしていると、悲鳴が外から聞こえた。すぐさま何事かと思い窓の外から顔を覗かせると、そこにはローブを纏った人物と、その目の前で倒れているデミックの姿があった。



(……まさかっ!?)



 ヨヨは激しく床音を鳴らしながら玄関へと急ぐ。そこにはすでに多くのメイドたちが不安気な表情で困惑していた。そしてソージの母親であるカイナが倒れているデミックに寄り添っている。



「ヨ、ヨヨヨヨヨ様ぁぁぁぁっ!」



 群れの中にいたニンテが恐怖に歪んだ表情を浮かべて抱きついてきた。



「何があったの?」

「わ、わ、わかりませんです! い、いきなりあのひとがデミックさんにぃ……」



 ヨヨは視線をローブの人物に向ける。そして露わになっている顔から特徴を割り出し、状況を正確に把握していく。



(陸鮫族……ね。するとやはりユーを追って来たのね)



 ヨヨはそのままメイドたちの前に出ると、外見上陸鮫族の男であるその人物に向けて声を届ける。



「ここへ何か用かしら?」

「……! ……ほう、お前が情報にあった若い当主様ってとこか?」



 とても野太い声。心地好い低温ではなく、濁声で腹の中を不愉快気に響かせている。



「あなたは陸鮫族。つまり水棲族ね。海に住むあなたが、ここへ何しに来たのかしら?」

「いやなに、ちょっと探し物をな」

「……それは私の家族に手を出さなければならないほどのものなのかしら?」

「ククク、なかなか言うじゃねえか小娘。もう気づいてんだろ? 俺の目的をな」



 ギロリとした目で射抜くような敵意を向けてくる男。ニンテや他のメイドたちは竦んでいるようだが、ヨヨは全く怯まない。



「……ジャック・ノット」

「クク、ほら、知ってるじゃねえか」



 ヨヨは相手が間違いなくユーを狙ってきた暗殺者だと確信した。ヨヨは視線をデミックとカイナの方に移す。デミックは身体から血を流しているようで痛みに顔を歪めている。



「……カイナ、デミックの様子は?」

「何やら細いもので腹部を貫かれています」

「危険なの?」

「急所は外れているようなのでしばらくは大丈夫ですが、このまま放置すれば危険ですね」

「分かったわ。こちらへすぐに連れて来なさい」

「おっと待った」



 突然ジャックが静止の声をかける。そして彼が手をかざすと、その手の先から大きな水球が出現する。そしてただの塊ではなく、まるで形状がウニのように変化していく。



 水でできているのだろうが、尖っている部分を見ると、硬質化しているようで、アレをまともに受けたら身体を貫かれることは火を見るより明らかだった。



「そっから動くとトドメを刺す」



 カイナは瞬時に身体から炎を出してデミックの前に立つ。



「ほう、炎系の魔法士か……クク、相性が良いな」



 それは無論ジャックにとってはだ。カイナにとってはすこぶる相性の悪い相手である。しかしカイナは表情を崩さずジャックを睨みつけている。



「そんなちゃちな火で、俺の水を防げるかどうか、やってみるか?」



 楽しそうに口角を上げるジャックに対し、ヨヨが言葉を飛ばせる。



「待ちなさい。ジャック・ノット、あなたの目的はユーでしょ?」

「ああ、そうだ。こっちも雇われてる立場なんでな。さっさとそのガキを出せ。そうすりゃ手加減ぐらいしてやる」

「ふふ、海の暗殺者も地に墜ちたわね」

「……何だと?」



 ジャックの殺気が膨らむ。



「暗殺者というのは、誰かの命を奪う仕事を生業とする者よ。それなのにあなたは、はした金で誘拐を請け負った。それでもその肩書に誇りが持てるのかしら?」

「……口を閉じろ小娘」

「それとももう暗殺者は廃業したのかしら? 今ではお金さえ払えば何でも行うプライドも何も無い畜生にでも陥ったということ?」



 ジャックの身体から滲み出る殺気に、カイナはハッとなり、



「ヨヨ様、そこから逃げてっ!?」



 必死の形相でそう叫ぶが、すでにジャックはその水球をヨヨへと放っていた。



「なら死ねぇっ!」



 すかさず恐怖に怯えながらもメイドたちがヨヨを守るように前に立とうとするが、



「大丈夫よ」



 ヨヨの一言が皆の耳をつく。そして刹那――――――――――



 彼女たちの目の前に黒い服を来た赤い髪を持つ人物が現れ、



「喰らい尽くせ、白炎!」



 その人物の右手から白い炎が噴出し、真っ直ぐ向かって来ていた水球を、大きな口を開けたように広がった白が包み込んだ。

 そしてその人物がニッコリと皆を安心させるような笑顔を浮かべて言う。



「お待たせしました、ヨヨお嬢様」






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