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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第四話 創炎魔法

 初めは誰かに何かされたのかと思い、驚いて炎を振り払うように手を振っていたが、まるで吸いついているかのように離れなかった。どうやらこれは誰かの仕業では無く、間違いなく自分が生み出したものだと確信できた。

 


 ソージはしばらく手の中で燃えている炎をジッと眺めていた。熱くはない。というより何も感じない。しかしそれは感覚で炎だと理解はできた。



 しかし何故? 炎は普通赤色では? もしくは青? 



 そんな常識がソージの脳内を駆け巡る。



(母さんが使ってたのも確か火だったよな? うん、間違いなく赤色だった)



 ゴキブリのような昆虫をカイナが焼殺した時のことを思い出す。あれからカイナにも聞いたが、カイナの魔法は炎を生み出し操れるものらしい。実際に何度か見せてもらったこともあるが、熱量も規模も相当なものだった。



 カイナは魔法士としても優秀なのだと執事長のバルムンクも言っていた。



 だからその血を引くソージが炎に関係する魔法を扱えるのは別段不思議ではないが、今目の前にある事実は異常な光景だった。



(白い炎? しかも熱くないし………………何なのコレ?)



 そう思ってしまうのも無理はない。この白い炎の用途が全く以て不明なのだから。

 本を地面に置いてじっくり片手でページを捲り読み進めていくと、ほとんどの者は魔法を発現した瞬間、その使い方が頭に流れてくるとあった。



(……流れてきてないんだけど……)



 恐れていたことが起きたのかもしれない。発現はした。魔法は使えた? かもしれない。だが残念ながら懸念した通り………………変な魔法だった。

 実用性どころか、使い方すら判別できない。どうしたものかと思っていると、馬車が屋敷に入ってくる音がした。正確には馬の足音だが。



(あ、お嬢様が帰って来た! あ、でもコレどうしたら……)



 このまま出迎えには行けないと思い、とりあえず消えるように心で強く念じてみた。するとフッと煙のように消失したのでホッとした。



 そのまま訓練を一旦中断して、ソージは出迎えに急いだ。



 屋敷の前では多くのメイドたちが出迎えていた。ソージもカイナの隣に陣取り静かに頭を下げていた。

 ヨヨは父親のジャスティンとともに馬車から姿を現す。ともに馬車から降りてきた執事長のバルムンクは、ジャスティンのカバンを彼から直接受け取ると、大切に抱えて屋敷の中へと向かって行く。そしてヨヨがソージを発見すると、



「ソージ、来なさい」



 恐らく手に持っている小さなポシェットを持つように指示されるのだろうと思い、近づいていく。バルムンクとすれ違う時、「主がお呼びする前に向かうように」と一言注意してきた。小さく「はい」と答えると、進む速さを上げる。



 しかしその時、突然遠くから空気を切り裂いて何かが飛んでくるのを発見。



 それは石のようなものであり、馬の身体に命中する。そのせいで馬が痛みと衝撃に驚き、突然暴れ出した。

 咄嗟のことで、馬に背を向けていたジャスティンは吹き飛ばされる。皆もギョッとなって何事かという様子だ。バルムンクも目を剥いて振り返っていた。



「パパッ!?」



 ヨヨは叫ぶが、同じ脅威はヨヨにも降りかかろうとしていた。馬がまだ小さいヨヨの身体を上空から踏みつけるように落ちてくる。巨体の馬の蹄の下敷きになればヨヨのか細い身体など一溜まりもない。



「お嬢様っ!」



 ソージも咄嗟に叫ぶが、距離があり過ぎて間に合わない。そう思ったその時、ソージの頭の上を何かが物凄い速さで通過した。



 それは見覚えのある火の玉であり、見事馬に命中しヨヨを危険から救った。馬はそのまま火の玉の進んだ方向へと吹き飛ぶことになった。彼女の窮地を救ったのはカイナの魔法だった。さすがはカイナだとメイドたちから一様に感嘆が漏れている。

 彼女は咄嗟の機転で魔法を馬にぶつけて危険回避しようとしたのだ。



 そしてそれは成功した……………………かに見えた。



「危ないお嬢様っ!」



 ソージは再度叫ぶ。確かに馬に踏みつけられるという危機は乗り越えた。しかし馬が火の玉の衝撃で吹き飛んだせいで、その反動を受け今度は馬に繋いであった荷車がヨヨに向かって倒れてくる凶器に変わってしまった。



「……え?」



 突然のことでヨヨも身体を硬直させて、まるで他人事のような感じで固まっていた。しかし自分に迫る脅威に正気を取り戻したのか、



「い、いや……た、助けてぇっ!」



 その時、ソージの体内時間が、まるであの時のように凝縮した。あの時、そう、落下しそうな女生徒を庇った時だ。

 刹那、ソージの頭の中に情報が流れてきた。そしてソージはキッと視線を鋭くさせると、荷車に向けて右手を開いた。そして一言----------



「--------喰らい尽くせ、白炎(はくえん)!」



 ソージの右手から先程の真っ白な炎が噴出し、電光石火な動きでヨヨの前まで来ると、まるで大きな口を開けたように炎は広がり荷車を包んでしまった。

 そして、バキバキと砕いているような音がその白炎から聞こえる。そして音が止むと、役目を終えたかのように炎は霧散していった。



 皆がそれこそ時が止まったかのように動かずその場で佇んでいた。その中でヨヨだけが、ゆっくり顔を動かしてソージを見た。



「ソ、ソージ……あなたが……」



 良かった。ヨヨの無事な姿を確認するとホッとした。だがそこでソージはガクンと肩を落とすと、そのまま前のめりに地面に倒れた。



「ソージッ!」



 そこで時が動き出した。全員が弾かれたように動き出し、ジャスティンとヨヨに駆けつける。しかしヨヨは、向かって来る者たちを退け、倒れたソージのもとに向かう。



 そしてソージを抱き上げているカイナに近づく。



「ソージは?」



 不安気な様子でヨヨはカイナに尋ねるが、カイナは安心させるように微笑む。



「大丈夫です。恐らく初めて魔法を使った反動で意識が飛んだだけでしょう」

「そ、そう……」



 ホッと息をつくヨヨ。ヨヨは眠っているソージの右手を優しく手に取る。



「この手が、あなたが守ってくれたのねソージ」



 優しげに微笑むと、



「やはり、あなたはわたしの執事よ。わたしだけの執事。ありがとう、ソージ」

 











 屋敷から少し離れた森の中、二人の男がその顔に焦燥感を表していた。



「おい! 失敗したじゃねえか!」

「し、知らねえって! それにあんなガキがいるなんて情報も無かったぞ!」

「ちっ、とにかくさっさとずらかるぞ!」



 男たちはその場から離れようと歩を進めた瞬間、



「どちらへ、行かれるのですかな?」



 目の前に白髪を生やした燕尾服の老人が立っていた。男たちは「ひっ!」と小さく悲鳴を上げる。



「申し遅れました。私、ジャスティン様にお仕えするバルムンクと申します。此度の件、事情をお聞きしたく参上致しましたが、御同行、願えますかな?」



 先程、間違いなく屋敷にいたはずのバルムンクは、飛んで来た石の方向から攻撃をしかけた賊の居場所を推察して、ヨヨとジャスティンの危機が去ったことを知った後、凄まじい勢いでこの場所へ辿り着いていたのだ。



 男たちは、攻撃したのはつい先程のことであり、逃げる時間も十分にあったと思っていたのだろう。しかし現実は、目の前に自分たちが攻撃をした当主に仕えている執事がいた。



 バルムンクは笑みを浮かべてはいるが、目だけは凍り切っている。



 そして男たちの悲痛な悲鳴が森の中でこだまを生んだ。















 ソージが目を覚ました時、そこはベッドの上であり、何故か自分の手を握って眠っているヨヨの姿があった。



「……えっと、どういう状況コレ?」



 というよりも何故自分がベッドの上で寝ていたのか記憶が曖昧だ。



「確か……オレは魔法の訓練してて……」




 そこで都合が良いことに扉を開けてカイナがやって来た。彼女から話を聞くに、丸一日、ソージは眠り続けていたという。そんなソージをかいがいしく看病していたのがヨヨらしい。



 メイドたちの反対を押し切って、自分が看病をすると言い切ったとのこと。父であるジャスティンも、豪快に笑いながら彼女の好きなようにさせてやれと認めた。



 そこでようやく自分が初めて魔法を使いヨヨの危機を救ったことを思い出した。彼女の無事を確認して気が緩んだ瞬間、意識がプツンと途切れたのだ。でもまさかヨヨ自身が看病してくれているとは、何だか申し訳なかった。



「そっかぁ、でもお嬢様がそんなことしていいのかな?」



 いまだに眠っているヨヨの寝顔を見ながら首を傾けるソージ。普段はキリッとして子供らしくない表情を保っているが、こうして寝ていると本当に可愛らしい普通の子供である。



「ふふ、いいのよ。愛は全てを超越するんだから!」



 カイナは嬉しそうに微笑むが、自分の母親が意味の分からないことを言うもんだから、息子として恥ずかしくなった。



「う……ぅ……あ、ソージ!」



 ヨヨが目覚めて、詰め寄ってくる。ヨヨの可愛らしい顔がキスするかの如く近づいて来てドキッとする。心の中で(オレはロリコンじゃない)と何度も繰り返す。



「もう大丈夫なの? 痛いところはないの?」

「は、はい! もう大丈夫……な気がします」



 正直身体に違和感も痛みも感じない。正常だと判断した。ヨヨはホッと胸を撫で下ろし、その場に立つ。



「ソージ、今回のこと良くやったわ。さすがはわたしの執事よ」

「あ、はい。ありがとうございます」



 褒められて嫌な奴はいない。むず痒い気持ちを感じながらも頭をかき照れ笑いを浮かべるソージ。ヨヨも微笑を浮かべると、そのまま扉まで向かう。そしてピタッと立ち止まり、



「良い魔法だったわ。さらに訓練を積んで強くなりなさい。わたしも負けないように強くなるわ」



 それだけ言うと部屋から出て行った。



「ふぅ~」



 ソージは大きく息を吐くと、カイナから馬を驚かせた存在について語った。何でもジャスティンのことを良く思っていない者が、金で暴徒を雇いジャスティンに警告のために事を起こしたという。



 今ジャスティンが抱えている商談が上手くいけば困る者が画策したことだったとのこと。バルムンクが捕らえた二人組が、情報をあっさり吐いてくれたお蔭で、彼らを雇った者たちを追求することもできるとジャスティンはやる気満々なようだ。



「でも驚いたわよソージ、いつから魔法の訓練してたの?」

「ん~結構前かな? 驚かせてあげようと思って黙ってた」

「それは見事な作戦だったわね。お嬢様だけじゃなく、屋敷中のみんなが驚いてたわよ」

「えへへ!」

「だけど、あの魔法は一体何なの? 見た感じ炎のようだったけど、熱量も感じなかったし……」

「うん、実はね、オレの魔法は『特殊な炎を創り出すことができる魔法』みたい」

「……どういうこと?」



 カイナは頭の上にハテナを浮かべている。



「えっとさ、あの白い炎は、オレが創り出したもので、その効果は『喰』。つまり何でも食べちゃう炎ってこと」

「……ちょ、ちょっと待って。それじゃ何? 炎の特性である燃やす効果は一切無いってこと?」

「うん、白炎はね」

「え? 白炎は……ってどゆこと?」



 あの時、頭の中に流れてきた情報はかなり膨大なものだった。あまりに一瞬過ぎて、ほとんど忘れてしまったが、白炎の効果と、自分の魔法の特性だけは覚えている。



 ソージの魔法は『創炎(そうえん)』。つまり炎を創ること。また創り出した炎には、特殊な効果を備え付けることが可能だということ。

 生み出す時、どんな炎にするのかイメージすることが大切だ。



 初めて白炎を生み出した時、たまたまだが空腹でお腹が鳴り、昨夜食べたシチューのことを思い出し、食べたいと、腹を満たしたいと思った。

 無意識にそれが現象化した結果、生まれたのが『喰らい尽くす炎』である白炎だった。ちなみに白なのは、思い出していたシチューがホワイトシチューだったからだ。



「す、凄いわね……それじゃ普通の炎をイメージしたら、私みたいな炎も創り出せるってこと?」

「うん、みたいだよ」

「きゃ~! さっすが私の息子よぉ! もうすっごいじゃない!」



 そう言いながら抱きついてくるカイナ。彼女じゃなくても嬉しく思うだろう。この魔法は確かに使える。

 不安に思っていたように、変な魔法ではあるが、実用性は確実に備えている魔法だった。



 本当は何の役にも立たない魔法なのではと思っていたので、今も実は踊り出したくなるほど嬉しいのだ。

 イメージ次第でどんな効果も得られる炎を創り出せる魔法。これがあるなら、先日みたいにヨヨが危険に陥った時、助けることができると思った。



 執事たるもの、御主人の身を守るのは当然。そして……そして……



(これならもっと家事スキルを飛躍的にアップさせることができるし!)



 内心でガッツポースをしていた。



 ソージ・アルカーサ。やはりどこまでいっても主夫心を忘れない少年だった。




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