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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第三十九話 忍び寄る影

 《ノックルス地方》にある【サニキア】という街の酒場に、全身をグレーのローブで覆った男が入って来た。

 顔もフードで覆っているその男の不気味な様相に、酒場に居た客たちの視線が自然とその男に集まる。

 その男はカウンター席に座ると、



「オヤジ、情報を買いたい」



 腹に響くような野太い声が室内に流れる。店主であろう恰幅の良いオヤジが食器を白い布で拭き続けながら、こちらも低い声で答える。



「誰かは知らんが、店に来た以上、まずは何か頼んでもらいてえな」



 その店主の言葉を皮切りに、背後から客たちがその男に近づいてきた。皆が男で、誰もが柄の悪そうな者たちだった。



「オイオイ、俺らの憩いの場に、辛気くせえのは勘弁だぜ」

「ああ、ここはてめえみてえな怪しい野郎が来るトコじゃねえんだ」

「おら、顔見せてみろ!」



 客の一人が、座っている男のフードを掴んで勢いよく払うと、そこからは青い肌に魚のようにギョロッとした目つきを宿した男がいた。



「て、てめえ、水棲族だったか」

「けっ、道理で魚くせえって思ったぜ」

「気持ちの悪い―――――」



 ザクッ!



「てめえが……え?」



 客の一人の胸を何か細いものが貫いていた。それは男の背中から突然何かが伸びてきているようで、他の客たちも何が起きているのか唖然としている。しかし刹那、



 グシュグシュザシュザシュッ!



 男の背中からローブを突き破り複数の棘が出現し、背後にいた客たちを串刺しにした。



「が……あ……ぎ……っ!?」



 客たちは口から血を吐いてガクッと頭を垂れた。店主は「ひィッ!?」と食器を落としながら怯えている。男の背中から棘が元に戻って行くと、それにより支えられていた客たちの身体はそのまま床に倒れてしまった。

 すると酒場内にいた他の客たちも悲鳴を上げながら外へと逃げて行った。

 男はニヤニヤしながら、その充血した瞳をギロリと店主に向ける。



「もう一度言う。情報を買いたい」

「な、なななな何でもお聞き下さい!」



 店主も先程とは手の平を返したような態度を見せている。少しでも機嫌を損なえば死が待っていると思っているのだろう。男はフードで再び顔を覆うと、



「なら聞く。ここらへんで水棲族、いや、星海月族のガキの情報はあるか?」

「へ? ほ、星海月族……ですか?」



 額から大量の汗を流しながら店主は尋ねる。



「ああ、外見は五歳ほどのガキだ。ここらへんで見たと噂があった」

「ちょ、ちょっと待って下さい。今調べますから!」



 その恰幅で信じられないほどの速さで背後の棚を開けて調べ始めてた。そして一枚の紙を男の前に見せる。



「こ、これがそうなのか分かりませんが、数日前に奇妙な事件がここから近い森で起きまして」

「奇妙?」

「は、はい。何でも札付きの不良だった二人の男の石像が見つかったんです」



 石像という言葉の時に男の眉がピクリと動く。だが言葉は挟まずに黙っている。



「調べてみれば、その石像は何者かに石化された本物だということが判明しました。まあ、札付きの悪人でもあったので、むしろ喜ぶ者が多かったですが」

「おい、それがどうして星海月族と繋がる?」

「じ、実はですね、その二人が一人の子供に絡んでいるのを見ている者がいたんですよ」

「ほう」

「その子供がどうにも、水棲族っぽい子供だったようで」

「なるほどな。それで? そのガキがどこに行ったか分かるか?」

「詳しいことは分かりませんが、ただもし、その子供が他の街を目指しているのでしたら、ここから一番近いのは【モリアート】です」



 店主の言葉を聞いて男の口角が三日月形に歪む。すると椅子から静かに立ち上がると、



「なかなかに優秀な情報だ。これは礼を弾むべきか?」

「い、いえっ! お、お金はいりませんっ!」



 だから出て行ってくれというような感じで顔を青ざめさせている。



「クク、無料か。それは嬉しいねぇ」



 気分良く笑い声を酒場内に響かせながら、倒れている客たちの身体から流れ出て作っている血だまりをピチャリと踏みしめ酒場から出て行った。













 ヨヨから魔法の存在を聞かされてから数日、ユーはソージとともに裏庭で魔法の訓練をしていた。



「そう、その調子ですよ」



 今、ユーは目を閉じて集中している。ユーの胸の中にある《魔核》の存在を意識し、そこから魔力を抽出する方法をソージが教えて、ユーは真面目に訓練に取り組んでいた。

 ソージが驚いたのは、ユーの才能だった。ソージは《魔核》から魔力を感じるだけでもかなりの時間がかかった。



 しかしユーはものの一時間ほどで、《魔核》から生まれた熱を感じることができた。いくらヨヨによって知識を得て、ソージにマンツーマンで教えてもらっているからとはいえ、驚くべき成長速度だった。

 確かにユーは、無意識でも魔法は発動していたので、ソージよりも早く《魔核》から熱を感じることができるのは当然なのかもしれないが、ソージは少なからず彼女の才能に嫉妬を覚えた。



 だがこれならすぐにでも魔法が使えると思い、ソージにとっては嬉しい誤算だった。そして今、ユーは《魔核》から魔力を抽出し、それを魔法化することに専念していた。

 ユーの両手には彼女の小さな手にちょうど収まるほどの木の実が握られてある。魔法を使い、それを石化させようとしているのだ。



 集中しているユーの身体から魔力が滲み出て、そして良い感じにパチパチッと放電現象が起きている。



(この放電がユーの魔法だ)



 ヨヨが命名した『電攻石化』。その放電に触れたものを石化させる強力無比な魔法である。しかし放電現象を起こすことは大分上手くできるようになったものの、まだ対象を石化させることには至っていない。



「むぅ~っ」



 ユーも目を強く閉じて踏ん張っている様子だが、時折放電現象は起きるものの、それはまさに一瞬であり、なかなか自由にコントロールできていないようだ。だが魔法の存在に気づき、たった数日でここまで発現できているのは、ソージからしては驚嘆に値するものだった。



 しばらくするとユーが「ふにゅ~」と頭からプスプスと湯気を出しているような感じで地面に座り込む。慣れない魔法は精神的にかなり堪えるので仕方無い。



「あはは、今日はこれくらいにしておきましょうか」

「う~ごめんなのおにいちゃん、うまくできなくて」

「何を言うんですか。ユーはとても優秀ですよ。少なくともオレが羨ましいと思えるほどの才能を持っています」

「そ、そうなの?」



 可愛らしく見上げてくる彼女の顔は、火照っているようで頬が上気している。



「ええ、ですから焦らなくてもいいんです。近いうち、必ず魔法を扱えるようになりますよ」

「……うん、がんばるの」



 彼女の成長は確かに思った以上のスピードである。しかし星海月族に課せられた一週間という期間までにはもしかしたら間に合わないかもしれない。

 もし彼女が魔法をコントロールできて、何かを石化し、それをソージやヨヨが治せるようだったら、それを交渉に持ち込むことだってできるのだが、間に合わなければ……。



(これは歓迎されなくても、オレが海へと向かうことになるかもしれないな)



 ソージの存在は、この前出会った渦鱗族の男から他の水棲族たちに伝わっているだろう。星海月族の回し者とされている以上、ソージが平和的に近づくのは難しいかもしれない。

 それに石化を治せるという確証もないのに、そんな力を持っていると言っても、信じてもらえないか、何かを企てているのかもしれないと危惧される可能性が高い。



 そこで何とか交渉に入っても、もし本当に治せなければ後々面倒なことになりそうなので、ヨヨからもその方法はユーの魔法習得が間に合わない最終手段にした方が良いと言われている。



 ユーが今生み出せる放電を見て、すかさず木の枝などをそれにぶつけてみたが、石化はしなかった。まだ覚醒しているわけではないのか、まだ何かが足りないのか……。それは分からないが、今はまだユーを信じて待つしかないということだ。



(ユーの話から察するに、身の危険を感じたり混乱した時に周りにあるものを石化させたようだけど……)



 ヨヨに提案したことがある。もし切羽詰まって来たのだとしたら、ユーには悪いが、少し身に危険を感じさせるようなことを経験させたらどうかと。

 そうすれば上手くいけば石化したものが手に入るかもしれない。しかしヨヨ曰く、それはリスクが大きいから絶対してはいけないということだ。



 魔法は暴走時が一番危険である。それは周囲に及ぼす影響もそうだが、最悪本人の精神崩壊にも繋がる可能性があるとのこと。特に目覚め始めているユーの小さな身体に暴走は毒にも等しいのだ。決して好んで選ぶべき選択ではない。

 そのリスクを考えた時、やはりどう考えても危険なことをユーにはさせられないと思いソージも納得した。



(まだあと四日ある。最終判断はお嬢様に任せるしかないよな)






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