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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第三十五話 情報獲得

 やっぱり守銭奴の目の光だった。

 だがヨヨは涼しい顔で平然と答える。



「ええ、構わないわ」

「…………や~っぱ、ヨヨちゃんは、家族のためだったら出し惜しみしないよネ~。ソージちゃんたちは幸せ者だネ~」

「はい。お嬢様にお仕えできて幸せですよオレは」



 本当にそう思っているので口にしたのだが、ピクリとヨヨの肩が動いて、ノビルはヨヨの顔を見てニタ~ッと笑みを浮かべる。



「あ~あ、熱いネ~、暖房器具とかないのにどうしてだロ~」



 からかうような口ぶりで彼女は言うが、ソージにとっては何でそんなことを言っているのか首を傾けるだけだ。

 実際にソージはヨヨの後ろ姿しか目に映ってはいないが、ノビルの目には頬を紅潮させているヨヨの顔があった。努めて平静を装うとしているが、明らかにソージの言葉に動揺していることは間違いない。



「そ、そのようなことはどうでもいいのよ! 情報を売るの売らないのどっちかしら?」



 かなり言葉に強みを感じるが、ヨヨはノビルにそう言うと、ノビルもケラケラと笑った後、すぐに表情を引き締め直した。仕事人の顔だ。



「まず、どんな情報を聞きたいのか詳しく教えてネ」

「分かったわ」



 ヨヨは、今近海で起こっていることをかい摘まんで話すと、ノビルはフムフムと相槌を打ちながら聞いている。そして話し終わった後、



「どうやら、ワタシが手にした情報と一致してるようネ~。つまりヨヨちゃんが知りたいのは、近海に生息している種族がどういう話し合いをしているか、そして星海月族が今どのような現況にいるか聞きたいってわけだネ」

「そうよ」

「オッケ~、その情報なら新鮮なものがあるから期待していいヨ~」

「助かるわ。それで? 幾らになるのかしら?」

「そうだネ~、まあこの情報はそれほど秘匿されているものでもないシ~、少しマケて、二百万ドラスでいいヨ~」



 目が飛び出るかと思った。もし初見なら「に、ににににに二百万っ!?」と大騒ぎしていただろう。彼女ががめついのは知っていたが、やはり巨大過ぎる対価だ。

 本来情報屋の扱う情報は大体ランク付けされている。下からE・D・C・B・A・Sとあるが、今の情報はランク付けするとC以下は確実だろう。



 相場で言うとCランクは大体高いものでも五十~百万くらいだろう。それが最高値の倍を言ってくるのだから、初見殺しも大概だ。

 また相手がヨヨだからいいが、これが見知らぬ男性客相手だとしたら、十数倍にも跳ね上がるのだから心臓が飛び出てもおかしくは無い。普通はもう彼女から情報を買おうとしないのが普通だ。



 なら何故、彼女が情報屋としてやっていけるのかというと、それは今まで彼女の扱う情報に偽りが一切無かったためだ。極めて正確、また新鮮な情報が早い。

 それが、彼女がこの世界で、やっていける理由である。



「二百万ね、ソージ」

「はい」



 ヨヨに返事を返すと、ソージは目を細めて右手を何もない場所へとかざす。



「開き納めろ、紫炎(しえん)



 呟くと同時に、右手から紫色の炎が渦を巻きながら出現する。そして次第にそれはちょうどソージの肩くらいで扉のような形に変化していく。しかも見た目は両開きの扉だ。

 その扉が外に向けて開くと、中は真っ暗な空間が広がっている。そこにソージは手を入れると、



「ん~あ、ありました」



 ゴソゴソと手を動かし、そこからある物を掴み引っ張り出す。それは頑丈そうな素材でできているカバンだった。そのカバンをカウンターに置く。



「アハ~、相変わらずソージちゃんの魔法は不可思議で面白いよネ~」



 ノビルには何度か見せているので、楽しそうに笑っているだけだが、初めて見る者にとってはきっと驚くだろう。

 この炎の特徴は物の出し入れを行える収納能力に特化した炎なのだ。つまり手に持つなど持つ必要はなく、どこに行くにも手ぶらで旅行だってできるのだ。



 しかも中には食べ物も入れておくことができ、劣化しないし腐らないという嬉しい効能付き。料理をするものにとって、ここに入れておけば、いつでも新鮮な食材を調理できるのでありがたい能力なのだ。

 ただソージが生物と認識しているものは収納できないという制限はある。



「では開けます」



 カバンを開けると、中には小さな巾着袋が入っており、さすがにノビルもそれを見て眉をひそめている。ヨヨはクスリと笑みを浮かべると、その巾着の口を開いて中を見せる。



「コ、コレはッ!?」



 ノビルは大きく目を見開き口を開けている。そして次の瞬間、カウンターに魔法陣が生まれ、そこから小さな物体が出現する。



「モフスケ、鑑定なさイ!」

「モッフフ~」



 突然現れた名前の通り、茶色のモフモフの体毛で覆われた犬のぬいぐるみのような存在。二足歩行をしてはいるが、愛らしいパッチリとした両眼で、右眼にはモノクルをしている。尻尾が丸っこいのでつい触りたくなってしまう。

 トコトコと動き、片目を閉じると、モフスケはジ~ッと巾着の中を見つめる。



「モフモフ~」



 それを黙って三人が見つめていると、



「モフモフ~モフット! ウン、コレ本物モフ、ノビル!」



 無論これは着ぐるみではなく、中には人は入っていない。それなのに言葉を喋る。最初見た時は仰天したのをソージは覚えている。

 このモフスケは彼女、ノビルの魔法なのだ。彼女が魔法で創り出した魔法生物といってもいいだろう。人のように行動し喋る。そしていつもはノビルの魔力の中に潜んでいるらしく、必要な時にこうして出現させるのだ。



 そしてクロスケの能力は鑑定。その名の通り、見たものを鑑定する能力を持っている。



「じゃ、じゃあやっぱりコレって…………《虹砂(にじすな)》?」

「ええ、そうよ。これだけあれば足りるわよね?」

「た、足りるもなにも……コレだけでも最低でも三百万は下らないヨ! え? ホントに良いノ?」



 完全にヨヨが持ってきた対価に戸惑っているノビル。それほど《虹砂》は貴重なものなのだ。



 【ドルキア大陸】からさらに東にある海に浮かぶ島に生息するイリスバード。その生物が産む卵を、孵化させずに三年以上70℃以上の温度で温め続けることで灰化し、それが虹色を帯びるのだ。

 しかしイリスバードはなかなか卵を産まない生物なので、手に入れるには根気が必要になる。さらに全ての卵が虹色を帯びるとは限らない。ほとんどの卵はただ灰化するだけなのだ。



 だからこそ、この《虹砂》は稀少であり、今でもオークションでは百グラムに億の値を付ける代物である。

 今手元にある《虹砂》は吹けば消えてしまうほどしか量はないが、それでもオークションに出せば値が速攻で釣り上がっていくだろう。



 だからこそ、二百万と口にしたノビルが、それ以上のものをヨヨが出してきたので吃驚しているのだ。



「お、お、お釣りいル?」

「いいえ、いらないわ」

「ホ、ホントッ!?」



 さらにノビルは口を大きく開ける。もう信じられないという感じだ。



「だけど、条件があるの」

「……条件?」



 ノビルは警戒ように視線をヨヨに向ける。



「そんなに難しい要求ではないわ。これから近海問題に私たちが介入するつもりだけど、それを解決するまで情報を優先して流してほしいのよ」

「……近海についてだけでいいノ?」

「ええ、どうかしら?」



 ノビルは腕を組みながら目を閉じて考え始める、時折片目を開けてチラチラと《虹砂》を見ては頬を緩ませている。



(本当に好きだな……お金)



 ソージは彼女に呆れるばかりだが、逆に分かりやすいので好感は持っている。お金さえ払えば、彼女は嘘をついたりしないからだ。

 そしてしばらくして、ノビルがモフスケに顔を向け、



「どう思うモフスケ?」

「モフ? イイと思うモフ。ソレにヨヨたちはお得意様モフ~」

「ウ~ン…………ヨシ! 分かったヨ! その条件で売るヨ!」



 商談が成立した。

 ノビルにカバンごと《虹砂》を渡すと、ノビルは静かに口を開く。



「んじゃ、今から情報提示するネ~。出といで、フワキチ!」



 彼女の言葉終わりに、またもカウンターに魔法陣が出現し、そこから今度は羊のようにフワフワな真っ白の体毛に覆われた、これまた二足歩行するぬいぐるみが出てきた。



 チョロンと巻かれている尻尾が可愛い。しかもこちらはお腹に取っ手のようなものが付いている。しかも何故か日本の警察がするような敬礼をしていた。



「情報は鮮度が命でありますフワ!」

「ハ~イ、そういうことでお腹開けま~ス」



 ノビルがフワキチのお腹の取っ手を引っ張ると、引き出しみたいにスライドされて出て来た。中に入っているのは内臓とかそういうオチではなく、数枚の紙だった。

 ノビルはそれを手に取ると、取っ手を元に戻す。そしてヨヨに手渡しながらウィンクする。



「そこに、ヨヨちゃんの知りたい情報が乗ってるヨ~。毎度ありネ~」



 《虹砂》を手に入れたことが相当嬉しいのか顔がニヤついているノビル。ちなみに彼女が出したフワキチももちろん魔法生物である。

 能力は情報のダウンロード。そしていつでも好きな時に、こうやって紙などの媒体で取り出すことができるという優れものである。

 まさに彼女の魔法は、情報屋になるために培われたもののようである。



「礼を言うわ。行くわよソージ」

「畏まりました」



 二人がノビルに背を向けると、



「またネ~、ヨヨちゃん、ソージちゃん~」



 ノビルが手を振って送ってくれていた。ソージは軽く会釈を返してその場を後にした。





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