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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第三十三話 情報を求めて

 泣き止んだユーはたどたどしい言葉遣いをしながらも説明してくれた。まず彼女は星海月族で間違いないとのこと。そして近海に一族とともに住んでいたこと。

 そして今ユーは七歳なのであり、家族は母親だけ。ただ一族は数十人ほど一緒に生活していた。



 平和に暮らしていたのだが、半年ほど前からユーの身体に変調がきたし始めたという。突然彼女は謎の高熱で倒れてしまい、ユーの母親だけでなく一族皆が心配して、ユーを治すために奔走していた。

 しかしある日、一族の者が奇妙な光景を目にする。それは寝ているユーの周りがカチカチに石化していたのだ。ユーを中心にして、それは日を追う事に広がっていった。



 星海月の一族の皆は、これもユーを襲っている病気のせいかと思い、他の種族の者たちにも何か知らないか情報収集に回っていた。しかし返って来たのは「知らない」だった。



 そして母親がユーにご飯を食べさせようと近づくが、突然大泣きし始めたユーの身体から放電現象が起こり、それに触れた母親が一瞬で石化してしまったのだ。

 それを見た一族の者たちは愕然としていたが、このままではいけないと思い、ユーの身体を調べようと近づくが、やはりまた放電現象が起き、それに巻き込まれた者は全員母親のように石化した。



 しかしこの頃から、次第にユーの状態が落ち着き始めた。熱も下がったようで、赤かった顔も元に戻った。そしてしばらくして目を開けた彼女を待っていたのは、石化した母親だった。

 一族の長に何が起こったのかユーは聞いた。そこでユーが患った病のせいで、皆がそうなってしまったのだと言われ、ユーは呆然自失になった。



 病なので自分のせいではないと長には言われたが、ユーにとっては自分が病にかかったせいで母親を失ったのだと……そうとしか思えなかったのだ。

 長も、これは事故のようなものだと一族の者たちに言い聞かせ、決してユーを責めないように厳命した。



 それに納得いく者がいれば、やはり納得いかない者も出てくる。ある日、ユーが泣き腫らした目で石化した母親を抱き添い寝をしていると、ユーと同じくらいの一族の子供たちがこちらも泣き腫らした顔でユーのところへやって来た。



『おまえが父ちゃんを殺したんだっ!』

『そうだそうだ! このひとごろしィ!』

『おまえなんかきらいだっ!』



 石化した大人の子供たちだった。突然失った親の悲しみと、ユーに対する怒りで、子供たちは揃ってユーを非難し始めた。そしてそれは苛烈になり、石を投げたり、直接殴ったりと、ユーは苛めに遭っていた。 



 元々優しく穏やかな性格のユーは、頭も良いので子供たちを憎むことも怒ることもできなかった。子供たちが怒っているのは、自分のせいでもあるのだからと。

 しかしとうとうその子供の手が石化した母親に向いた。子供が投げた石が、母親の右腕に当たり、ヒビが入ってしまったのだ。



 それを見たユーは目の前が真っ白になり、叫び声を上げた。そして気づくと周囲にいた子供たちが全員石化してしまっていたのだ。

 そして騒ぎを聞きつけてやって来た一族の者が、



『お前がやったのか……? アレは病気じゃなかったのか?』



 その言葉を皮切りに、一族の者たちの目の中に闇が見えた。



『この異端めがっ!』

『お前のせいでみんなが! 今すぐ出て行けっ!』



 そんな一族の者たちの言葉が投げつけられ、それを長が止めているが、ユーは大人たちの自分を見る目が怖くてまた悲鳴を上げた。そしてユーの身体から放電現象が迸り、それに触れた海藻や魚たちが瞬時に石化していく。



『く、くそ! このままじゃ住処が! ええい! 消えろユーッ!』

『ま、待つんじゃっ!』



 長が止めに入るが、一族の男がユーに向けて手をかざし空気の塊のようなものを放った。それがユーに直撃する。凄まじい痛みに身体を俯かせる。

 さらに追い打ちをかけるように男が攻撃をしようとするが、長が庇うようにユーの前に立つと、背中でユーに向かって言う。



『早く逃げるんじゃ。すまなんだ、こんな状況を招いてしまってのう』

『で、でもおかあさんが……』

『母親は儂に任せておくんじゃ。それよりもここで殺されるよりは逃げて生き延びるんじゃ』

『で、でも!』

『早く行かんかぁっ!』



 長の威圧感に当てられ、逃げるようにその場からユーは去ったのだ。

 それからはしばらく一人の生活が始まった。どこか住み易い海域を探して泳ぎ続けた。



 だが海を彷徨っている間に、いろんな魚や他の水棲族が近づいてきて、その度に恐怖を感じると身体から放電現象が起きた。そしてその放電に巻き込まれた者はすべて石化してしまった。



 病ではなく、石化は自分のせいだと認識できたユーは、それからはなるべく誰もこないような深海に住んでいた。

 だが深海にいても、一向に収まらない自分の特異体質。そしてふと、陸だったらこの体質を治すことができるのではと、水面に映る光に手を伸ばしたのだ。 














 ユーから話を聞いたソージとヨヨは、話し疲れたのかソファの上で眠ってしまったユーを見つめている。ソージはその上にそっとタオルケットをかけて風邪をひかないようにする。



「ずいぶん泣いたし、話してもらいましたからね。ゆっくり休んで下さい」



 ヨヨはソージが入れた紅茶を口に含むと、



「大体想像通りのことがこの子の身に起きたようね」

「ええ、恐らく魔法の発現による一種の暴走でしょうね。本来魔法が発現する時は意識してするものがほとんどです。ですがこの子の場合は、病気がきっかけになったのでしょう」

「そうね。恐らく最初はただ体調を崩しただけだったのでしょうね。だけどその時に魔法発現時期が偶然にも重なってしまい、魔法の制御ができず暴走してしまった……ということね」



 ユーが体調を崩したことと、魔法発現は直接繋がりはないということ。体調を崩したのはあくまでも偶然。しかしちょうど体調を崩している時に、彼女の魔法発現の時期が重なってしまった。



 高熱がずっと続いたのも彼女の胸の中にある《魔核》が活発に動いたためによる発熱である。だからこそ、一度魔法を発現してからは、すぐに熱が下がったのだ。病自体は重くはなくすぐに治っていたのかもしれない。



「ええ、不幸な事故です。ですが、そのことを知らない星海月族の者たちにとっては、この子の魔法が脅威に思えたのでしょうね」

「まあ、一瞬で人を石化させるのだから、それは恐怖でしょうね」



 少しだけ憑き物が落ちたような顔で眠るユーを見ていると、とてもそんな悲しい過去を経験している子供とは思えない。



「ですが、起こってしまったことです。今海でそのことについて問題になっていることも事実。このまま我関せずを貫き通して成り行きを見守るのも一つですが……どうされますか?」

「ふふ、ソージ、それは挑発かしら?」



 ヨヨは美しい笑みを浮かべながらその切れ長の瞳で見つめてくる。



「いいえ、滅相もございません」

「私がこれからすることを一番理解しているのはあなたでしょ?」

「…………」

「ふふ、そうね、まずは海の現況をもっと詳しい情報を得るとしましょうか。ソージ、準備なさい」

「畏まりました、ヨヨお嬢様」



 ソージは恭しく頭を下げた。














「……う……」

「あら、起きたのぉ?」



 ユーが眠りから目覚めたのは、眠り始めて二時間後ほど経った後だった。あれから彼女をソージがベッドに寝かせていた。そして一人では起きた時にユーが不安がると思ったヨヨが、カイナに傍にいるように命じた。



「……ここは?」

「ソージの部屋よぉ。まだあなたの部屋を用意してなかったからね~。夜には準備できると思うけど」

「……おにいちゃんの……おへや?」

「そうよ。でもよく話してくれたわね~。頑張ったわユー」



 そうしてカイナは彼女の頭にそっと手を置いて撫でる。ビクッとした彼女だが、気持ち良さそうに目を閉じていた。



「あ、あの……おにいちゃんたちは?」

「ん~ちょっとお出かけかな」

「おでかけ?」

「ん」

「どこに?」

「ユーのためにいろんなとこへよ」

「……ユーのため?」

「そ、だからあなたは安心してもう少し休みなさい」

「で、でもユーのせいでうみのみんなが!」



 バサッと布団をどけるとユーは起き上がろうとする。だがカイナはちょんと彼女の額に触れると、ニコッと微笑む。



「大丈夫。ウチのヨヨ様とソージ様はかな~りやるから!」

「……?」



 カイナが何を言っているのか分からず終始キョトン顔をしていたユーだった。







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