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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第二十九話 強者な美女

 一方その頃、【ラスティア王国】に召喚された日本に居た時のソージの幼馴染だった天川真雪は、ともに召喚されてきた親友の星守セイラとともに、東大陸である【ドルキア大陸】の海沿いにある【パブテン】という街に来ていた。



「ここに想くんに繋がる情報があればいいんだけど……」



 真雪は艶々と光に反射するほど綺麗な黒髪を持っている。ポニーテールにしているので、歩く度にユラユラと規則正しく揺れている。

 身長こそ小さく幼い顔立ちではあるが、女性を象徴とするその胸の破壊力は凄まじく、ソージ曰くオッパイ魔人を称されるほどのものを備えている。



 学園に居た時は、その美少女ぶりも発揮し、男子生徒の注目を浴びる的になっていた。そして隣で歩くセイラも美少女である。

 彼女は外国人とのハーフであり、茶髪ではあるが、その双眸は青く澄み切っている。いわゆる碧眼というやつだ。



 テレビでアイドルをしていますと言われても即座に納得のいくルックスを持ち合わせていた。

 そんな二人が何故この世界にいるというと、魔族の暴動を止めるために【ラスティア王国】の計らいで召喚されたからだ。



 【英霊器召喚】。この【オーブ】にはかつて世界を湧かせた勇者や英傑が存在していた。そしてその魂を封じ込めたものを皇帝が所持していた。

 一部の魔族の暴走を止めるために、皇帝が国に命じたのが彼女たちの冒険の始まりであった。見事、その身体に英霊を宿す器として召喚された真雪たちは、魔族を倒してくれれば元の世界に戻すと言われ、仕方無く力を貸すことにした。



 結果的に魔族を統率していた者を滅ぼしたのは、真雪たちではなくソージだったのだが、彼女たちが倒したと国には広がり、盛大に迎えられていたのだが、真雪は魔族が住む大陸である【ゾーアン大陸】で会った赤髪の少年にソージの面影を見て、彼を探すために、こうして【ラスティア】から抜け出てきたのである。



 ちなみにセイラもソージには会いたい理由がある。彼女はソージが死ぬきっかけを作った女生徒だからだ。ひょんなことから真雪と出会い、意気投合してこの世界に来て一緒に生活することになったが、真雪が赤髪の少年に会いたいことを知ると、セイラが後押しした。

 彼女もまたソージに会いたいという想いがあるのだ。



「この街に情報屋があるでしょうか?」



 セイラは街をキョロキョロと見回している真雪に問いかける。



「う~ん、分からないけど、まずは何か食べない? お腹減っちゃった」

「ふふ、そうですね。セイラもです」



 二人はずっと歩き続けており、何も口にしていなかったのだ。手軽に食事ができる店を探し歩いていると、目の前異に人だかりができているのに気付き、何かあったのかと二人も近づいて行った。

 人をかき分けていくと、二人の人物が顔を突き合わせて物々しい雰囲気を作り出していた。一人は男で、顔を真っ赤にした酔っ払いのような様子だ。



 そしてもう一人は、端正な顔立ちとモデルのようなスタイルを持った女性だった。年齢でいうと二十歳くらいには落ち着いていて見える。

 羨ましいほどにサラサラとした薄桃色の髪が微風に揺れている。真雪はそんな彼女を見て、まるで映画のワンシーンを観ているような気分に陥る。

 美しい女優とチンピラとの対決。そんな感じの図式。



「えと、あの……何があったんですか?」



 真雪がいかにもぶつかり合いそうな二人を見て、近くにいたやじ馬に聞く。



「何でも、あの男が女は弱いんだから、男の後ろに黙ってついて来ればいいんだとか言ってて、それを聞いたあの女性がまあ、反論してこうなったわけだね」

「それは男の人が悪いです!」

「え? あ、いや、まあ、酒の席での話しだしなぁ」



 真雪の言葉にバツが悪そうな表情を浮かべるやじ馬。どうやら男の方は、昼間から酒を飲んでおり、つい口が滑ってしまったのだろう。それを聞いたあの女性が、その言葉に憤りを感じたというわけだ。



「それじゃあの男の人が謝ればすべて解決するんじゃ……」

「謝ると思うかい? あの酔っ払いが?」

「…………確かに」



 見た目も頑固そうというより、まるで昔気質な江戸っ子のような風体を持つ男性。一度言葉にした以上は、進んでそれを撤回しそうにない雰囲気だ。



「まあ、それで女性が、女の強さを見せてやろうとか何とか言って、こういう状況なわけらしいよ」

「そ、そうなんですか……」



 よく見れば女性の方は腰に剣を下げている。鎧のようなものを身に纏っているわけではないが、立ち姿が堂に入っていて、強そうなイメージを伝えてくる。



「もう一度言おう! 先の言葉を撤回するつもりはないのか!」



 女性が怒気混じりの口調で叫ぶように言う。



「けっ、こちとら海の男よ! 俺の言葉を取り消したきゃ、認めさせるぐれえの気迫を見せろってんだ!」



 どうやら衝突は避けては通れないようだ。



「えぅ……あ、あの真雪さん、止めた方がいいのでは?」



 セイラが不安気に尋ねる。



「そうだね、怪我したら大変だし……あっ!」



 間に割り込もうと思った瞬間、男が女に掴みかかった。しかし女はその細い身体をサッと横に傾け、突進を避けた。



「おらぁっ!」



 男がさらに詰め寄ると、今度はその腕を女は掴み、その勢いを利用して男の身体を地面へと叩きつけた。



「く、くそぉ……」



 男は唾をペッと地面に吐くと、



「海の男を舐めるなよぉっ!」



 かなりの気迫で女に再度掴みかかろうとする。しかし女はその場から大きく跳び上がると、身体を回転させて踵落としを男の脳天に落とした。



「ぐふぅっ!」



 男はフラフラとよろめき、そしてバタンと地面に倒れた。白目を剥いて完全に意識を失っていた。



「これで分かったろう。性別関係無く、強い者は強いのだ!」



 その瞬間、周りから歓声が溢れた。










 酔っ払いを手玉にとり、あっさりと撃破してしまった女性に真雪とセイラはポカンとしていた。ハッキリ言って、二人が大怪我しないように止めようと思った真雪だが、驚くことにあっという間に決着が着いてしまった。

 しかも明らかな圧倒。女性が装備している剣の柄に手を触れずに男を倒した。



「強い……ですね」

「う、うん、それも物凄く」



 セイラの言葉を聞き、頷きを返す。確かにかなりの実力者であることは間違いないだろう。今倒した男を見下ろしながら勝利宣言をしている女性の強さは本物だと感じた。

 その女性が拳を高く突き上げて、人々の歓声を浴びていると、



「姫様ぁぁぁぁ~っ!」



 どこかから甲高い声が大気を震わせる。歓声の中でも良く通る悲鳴にも似た叫び声だった。

 ちょうど真雪たちの対面する側の人垣をかきわけて入って来たのは十四・五歳ほどの少女だった。



 黄色い髪をツインテールに結っていて、そのテールが腰よりも長く動く度に面白いようにアチコチに流れている。

 小さな顔に収まっているクリッとした大きな目が涙目で揺れている。微かにそばかすも目立っているが可愛らしい。しかも大きなリボンが胸元についているワンピース姿がとても似合っている。



「おお、オルル、どうしたのだ?」

「もう! どうしたのだじゃないですよ! 私が情報屋を探してくるので、店で大人しく待ってて下さいって申し上げたじゃありませんか! 何ですかこの騒ぎは!」



 どうやら先程現れた少女はオルルと言うそうだ。頬を膨らませて怒り心頭で言葉を発している。



「い、いや、でもこれは不可抗力だぞ! 女を馬鹿にされたのだ! ここで黙って見過ごせば人の上に立つ者としては器が知れてしまうぞ!」

「こんな騒ぎを起こしておいて、何を仰いますか! 器がどうのこうの仰るのでしたら、相手方が何を申されようとも風のように受け流すお心をお育て下さいませ!」

「う、し、しかしだな……」

「人の上に立とうとなさるお方なら、言い訳しない!」

「あ、う…………ごめんなさい」



 先程のような勇ましは欠片もなくなりシュンと、まるで母親に怒られている子供のような様子を見せる女性。



「大体姫様は昔からそうなのです! いつもいつも何か言われたらすぐにカッとなって状況に流されるままに行動されるのです! いいですか! そんなことではお探しの方にも会えませんし、会ったところでガッカリされるのがオチですよ!」

「そ、それは困るぞっ!」

「ならばご自重なされませ」

「う、うぅ~」



 何か言いたげに女性はオルルを見つめているが、



「そんな目で訴えても駄目です。罰として今日のお夕飯は、姫様の嫌いなキノコ入りのスープを出します!」

「そ、そんなぁ! それはあんまりだぞオルル! 反省するからそれだけは止めてくれっ!」



 ガラリと雰囲気が変化した現場に理解が追いついていない者が多数。それもそうだろう。酔っ払いとはいえ、頑強そうな男を軽く倒した女性が、つい先程現れた、強そうに見えない少女にガミガミと説教を受けて涙目になっているのだから。

 しかしその時、女性に倒された男がムクッと起き上がって、背中を向けている女性に向かって突っ込んでいく。



「ぶん殴ってやらぁっ!」



 我を忘れたように怒り狂っている男。そしてオルルはそんな男をハッとして見ると、彼女の様子を察した女性もまた背後から近づく存在に気づく。そして女性の手が剣の柄に触れたところを見て、



(マズイよっ!)



 真雪はあのままでは取り返しのつかないことに繋がると推測して、表情を引き締めると、素早くしゃがみ込み、地面に右手を置く。



「――――――――――――――――召樹(しょうじゅ)!」



 真雪が唱えた瞬間、男の眼前にある地面から突如樹が出現して男の侵攻を止めた。そして、



樹縛(じゅばく)っ!」



 今度は男の足元から蔦のようなものが生え出し、男の身体を絡め取り拘束した。



「な、何だこれはぁっ!?」



 男だけでなく周囲の者もざわつきながら、突如として現れた樹に意識を集中させている。だが剣も持っていた女性だけは、真雪に視線を向けていた。






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