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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第二十八話 ユーの抱えてるもの

 二人きりになり、ニンテはさっそく新しく入ったメイドのユーにいろいろ教えるために意気込んでいた。

 彼女にとっては初めての後輩で、しかも年下で女の子ということもあり、絶対仲良くしたいと思っていたのだ。



「えっと、ユーちゃんって呼んでもいいです?」

「あ、う……いいの」

「やった! それじゃね、ニンテのことも好きによんでくださいです!」

「え……えっと…………ニンテ……さん?」

「む~何か固いです~。できればおんなじちゃん付けがいいです~」



 好きに呼んでくれと自身が言ったことをすでに忘れているニンテだった。



「うぅ……ニンテ……ちゃん」

「えへへ~、それじゃ行きましょうです!」



 ニンテは本当に嬉しそうに破顔する。そしてユーの手を取ろうとした時、



「ダ、ダメなの!」



 物凄い勢いで腕を引っ込められて、ニンテもキョトンとする。



「あ、あのごめんなさいです……」



 しょんぼりと肩を落とすニンテに、あわあわと焦りを見せるユー。



「あ、ち、ちがくて……その、イヤとかじゃなくて……うぅ」



 必死に言い訳をしているが、拒否られたことがかなりショックだったのかニンテは若干涙目である。



「あら? どうかしたのかしら二人とも?」



 そこへ屋敷の当主であるヨヨがやって来た。歩く姿も美しく、気品溢れるその佇まいは誰もが目を奪われるほどだ。












「あ、ヨヨ様……」

「もしかしてニンテがユーの案内役かしら?」

「は、はいです」

「ん? 何か元気が無いわね。あ、ユー、その服似合ってるわよ」

「あぅ……あ、ありがとうなの」



 二人の仕草を見て、どうにも雰囲気が良くないと察しヨヨは何があったのか尋ねる。



「それは……」



 ニンテは言い辛そうに口ごもる。二人の様子を見て、喧嘩をしたというわけではなさそうと判断して二人を交互に見つめ口を開く。



「ユー、ニンテの案内は嫌かしら?」

「ち、ちが……イ、イヤじゃないの……でも……」

「でも?」

「…………」

「ねえユー、ここであなたは働くのよね?」

「そ、そうなの」

「なら、この屋敷にいる者は全てあなたの家族よ」

「……か……かぞく? ユーの?」



 目を大きく見開き口をポカンと開けるユー。ヨヨはクスッと笑みを溢すと、



「ええ、私も、ソージも、ここに居るニンテもみんながあなたの家族。だから少しずつでもいいからあなたからも私たちに近づいてきなさい」

「かぞく……ユーのかぞく……で、でもユーのことしれば、きっとまたなくなる……から……だから…………ユーにさわっちゃダメなの」



 ポロポロとその大きな目から大粒の涙をユーが流し始める。それにギョッとなるニンテは、どうしたらいいか分からず先程のユーのようにあわあわとなっている。

 しかしヨヨは比較的冷静に努めて、



「分かったわ。ならみんな、あなたに無理矢理触ったりしないわ」

「……ほん……と?」

「ええ、何か事情があるのでしょ? でもこれだけは覚えておいて。この屋敷に迎え入れられた者は、みんな何かしら人には言い難い事情を抱えているわ。それでもみんな笑顔で暮らせるの。何故だか分かるかしら?」

「ううん」

「それはね、みんなが一生懸命に生きているからよ」

「…………」

「あなたも一生懸命に頑張るって言ったでしょ? ならその一生懸命の中で、この子たちのことを知っていきなさい」



 ヨヨは優しくニンテの頭に手を置く。



「きっと、あなたが考えていることがどれだけ小さいことかすぐに理解できるから」



 微笑みながらそれだけ言うと、ヨヨはニンテに「あとはよろしくね」とだけ言って立ち去って行った。ニンテも元気良く返事をした。そしてどことなくユーの表情も緩んでいた。












 ヨヨがニンテたちから離れ、角を曲がると、



「お見事でしたヨヨお嬢様」

「覗き見は感心しないわよソージ」



 ソージは、ニンテたちから離れてずっと角を曲がったところで様子を見ていたのだ。その理由として、やはりユーの他の人に対する態度が気になったからだ。

 メイドからも聞いたが、面接を受けに来た時も、他人が必要以上に近づくとビクッと怯えたように一定の距離を保っていたらしい。それに先程頭に触れた時の反応。



「ですが、お嬢様のお言葉で二人は打ち解けるきっかけができました。先程とは違い、良い雰囲気です」



 見ればニンテは笑顔でいろいろ説明をして、ユーもフンフンとちゃんと話を聞いている。二人の間には少し遠い距離は確かに存在しているが、それでも前進しているのは間違いない。



「私があそこを通りかからなければ、あなたが何とかしたでしょ?」

「あそこまで上手くいったかは分かりませんよ?」

「ふふ、そういうことにしておきましょう」



 そこでヨヨは一旦笑みを崩すと、



「ソージ、一応ユーの身元を調査しなさい」

「よろしいんですか?」

「ええ、幼い彼女が一人、陸に上がって来たということは、何かしら事情があるはず。もしかしたら彼女の家族が探しているかもしれないわ。本当ならユーから聞くのが一番なのだけれど、無理矢理聞くのは逆効果だわ」

「その通りですね」

「でもこのまま彼女が喋るのを待っている間に、あの子の家族や友達が誘拐か何かにあったと考え探しに陸へ上がってくる可能性も高いわ」

「もしそうなれば騒ぎになりますね」

「ええ、だからそうなる前に、事情を察知して、彼女の家族がいるのであればコンタクトを取り、その旨を伝える必要があるの」

「分かりました。では急いで情報収集に動きます。何かお嬢様の方で気づかれたことはありませんか?」



 もしあればそれを頼りに調べる範囲を狭めることができる。



「そうね、恐らくだけど、彼女は星海月(ほしくらげ)の一族ではないかしら?」

「星海月というと、確かに近海に生息する種族ですね。基本的に穏やかで争いを好まない種族だと聞きます」

「ええ、あの子の身形に、そしてあの羽衣。アレは星海月の特徴よ」

「なるほど。畏まりました。その情報を元に調査してみます」

「しっかりね。あの子たちは、あそこの変態さんに任せていれば、少なくとも大事にはならないと思うから」



 ヨヨの指差した方向には、ニョキッと顔だけ出して二人の可愛らしい少女たちを興奮気味に見つめているメイド長がいた。



「…………別の意味で大事にならなければいいのですが」



 ソージは実の母親の危険性に一抹の不安を抱えながらも、さっそくユーの情報収取へと向かって行った。





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