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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第二十七話 ユーの特技

「う~あ、あのあの……にあってるの?」

「ええ、とても良くお似合いですよ」

「あ……ぅ……」



 顔を真っ赤にさせて俯かせているのは先程面接で合格したユーである。この度、経理担当として働いてもらうことになったのだが、正直ソージは自分の腰ほどにしか達していない身長の少女を見て不安が残る。



 今彼女にはメイド服を着てもらったのだが、彼女にも言った通り確かに可愛らしく似合っていた。しかしやはり見た目はニンテよりも幼く、本当にこれから仕事を続けていけるのか不思議だった。



 だが面接時、卓越した能力を見せつけてくれたのも目の当たりにしている。あの時、ヨヨが出した計算問題を瞬時に答えたことで、ヨヨは合格を認めた。

 ヨヨが何故そのような問題を彼女に問いたのかは理由がある。面接している時、机の書類が数枚ユーの足元に落ちてしまったが、ユーは親切にそれを拾ってソージに手渡してくれた。この間、約数秒ほどだろう。



 そしてすぐにユーが「三まい、まちがってる」と言った。何のことだか最初は分からなかったが、あとでヨヨに聞いて納得した。

 今回の面接時に使用した計算用紙は全部で七枚。経理希望者全員に受けてもらった問題である。そのうち時間はかかったものの正解者は四人。つまり四枚。そして間違っているのは残りの三枚だった。



 こちらは答えが分かっていたので、一目見て正解か否か分かるので、別に赤ペンでチェックを入れたりはしていない。つまり用紙には問題とその計算結果が書かれているだけだ。

 ただもし七枚全部落ちて、その答えを見て四人が同じ答えをしていると目視していたのであれば、三人が間違いであるという可能性が高く、でたらめに言ったとしても当たる可能性は高い。



 だがあの時、ユーの足元に落ちた用紙は全部ではなく四枚だけ。そのうちの一枚は正解で、三枚は間違いの解答。つまり全部バラバラの答えだったわけだ。

 その中で、たった数秒チラッと見て三枚が間違い、一枚が正解だと見極めたユーの言動がヨヨには引っ掛かり、あの問題を試した結果、彼女には他を逸するほどの計算能力があることが判明した。



 この【オーブ】にも四則演算は存在する。だがそれができるのは高度な教育を受けた者だけであり、貴族などの身分が高い者や、大商人の位置に立っている者など、この世界では一般人とは呼びにくい者たちばかりだ。まあ、ヨヨはできるのだが。



 しかし九九といった便利なものは無いし、四則演算といっても複雑なものは貴族も手を出してはいない。

 だからこそ、単純な足し算で解ける問題だったとしても、五ケタ以上の計算式を、しかも頭の中だけで正解を導き出したのが、幼女だとはソージも俄かには信じられていなかったのだ。



「あ、あのユー?」

「な、なんなの?」

「その、誰かに計算の仕方を教えて貰ったりしたんですか?」



 無論教えてもらっていたとしても暗算は驚愕すべき能力ではある。



「よく……ショウニンごっこしてたの……みんなで……いまはひとりだけど……」



 何だか急に雰囲気がブラックムードになってしまい、突いてはいけない問題に触れてしまったようで焦るソージ。



「しょ、商人? あ、そ、そうなんですか! いや~ユーは賢いですね!」

「……え? かしこい? ユーが?」

「ええ、単純な計算力ではオレもユーには敵いませんよ。だからユーは賢いです」

「あ……えへへ……な、なんだかうれしいの……」



 両手を口元に当てながら頬を緩めるその姿は、カイナとは違うが、確かに保護欲を存分に刺激する威力がある。



「それじゃ、君にしてもらう仕事についてなんですが、経理って分かりますか?」

「けいり? ……ううん」

「ですよね~」



 さすがに子供の商人ごっこでは経理という言葉は出てきていないようだ。



「会計・給与に関する処理を行うことなんですが……」



 ユーを見てみると「ユー、とてもわからないの」的な感じでジッと不安気に見上げてくる。



「そうですね。まあ、簡単に言えばお金の計算したり、屋敷内にある備品などをしっかりと把握し、何が足りているのか、もしくは足りないのかをきちんと知っている仕事ですかね」

「びひん?」

「あ~、食材であったり、トイレ用紙や掃除用具。まあ、生活に必要なものを知っておく必要が経理にはあるんです。できそうですか?」

「うん、いっしょけんめいする」

「あはは、そうですか。それじゃ、まずは屋敷内の案内をしなければならないんですが、担当者がもうすぐ来るので待ってて下さいね」

「えっ! お、おにいちゃんじゃ……ないの?」

「お、お兄ちゃん? い、いや、その響きは何ともくすぐったいけど嬉しい……じゃなくて、えっと、オレはこう見えても結構忙しくてですね、たくさん仕事があるんですよ。ですからユーにピッタリな案内役を用意しましたから」

「う~ピッタリ? こ、こわくないの?」

「ええ、とっても可愛らしい子ですよ」



 するとダダダダダダと盛大な足音を立ててこちらへ向かってきた者がいた。



「お待たせしましたですソージ様ぁ!」



 ニンテだった。彼女の突然の登場にビクッとユーは身体を震わせていたが、ソージは彼女を安心させるために彼女の頭の上にそっと手を置く。



「あ……え……ウソ……」



 思わずサッと手をどけたソージ。



「へ? 何が嘘なんです? あ、すみません、つい頭に手を! もしかして撫でられるの嫌でしたか?」

「う、ううん! ちがうの! その、ユーにさわるとキケン……だから」

「へ? 危険?」

「でも……なんでかだいじょうぶだったの……」

「ソージ様! ダメですよ女の子の頭を気安く触っちゃ!」

「ご、ごめんニンテ、気をつけますから!」

「そうですよ! 女の子の髪は命そのものなんです。ですから軽々しく触っちゃいけないんです。カイナ様に教わりましたです!」



 えっへんという感じで胸を張るニンテ。また母親かと思わないでもなかったが、今回ばかりはニンテの言うことが正しいと思うので素直に謝罪した。



「ではニンテ、あとはお任せしますね」

「はいです! 先輩なので任せて下さいです!」



 むふふ~と鼻を膨らませているところを見ると、後輩ができて嬉しいようだ。先輩風を吹かせてみたいのかもしれない。そんな彼女が微笑ましくてついソージは顔を綻ばせてしまう。

 手を振ってその場から去ろうとすると、服を引っ張られる感覚を感じ振り向けばそこにユーがいた。



「えっと……どうかしましたか?」

「あ、あの……よ、よろしくなの」

「え? あ、ああ、挨拶ですか。そう言えば自己紹介してませんでしたっけ?」



 バタバタしていて名乗るのも忘れていたのを思い出す。



「また近いうちに歓迎会もしますが、とりあえずオレは、この屋敷の執事長を務めているソージ・アルカーサです。どうぞよろしくお願いします」

「執事長といっても執事はソージ様だけですけどね」

「こらニンテ、話の腰を折らない」

「あはは、すみませんです。それじゃ次はニンテです。ニンテはニンテって言いますです。まだまだ新米のメイドですが、よろしくです」



 ニカッと彼女らしい笑顔を浮かべている。



「あ、あのあの……ユー・ソピア……なの」



 こちらは自己紹介に慣れていないのか、頬を紅潮させて顔を俯かせながらの紹介だった。



「ふわ~かわいい子です~」



 ニンテもユーの可愛らしさに負けたのか、ニコニコしている。だがそこへソージはハッとなって後ろを振り向く。…………誰もいない。



(いや、アレはっ!?)



 耳を澄ませば壁の向こうから全力で百メートルをダッシュした後のような人の呼吸音が聞こえる。



「……ニンテ」

「なんです?」

「一つだけ言っておきましょう」

「は、はいです」



 ソージの真剣さにニンテの喉もゴクリとなる。



「いいですか、赤い髪をした変態メイドと遭遇したら、即座に叫ぶんですよ?」

「え、あ、あのそれって……」

「分かりましたねっ!」

「は、はいですぅっ!」

「はい、良いお返事です。では頼みますね」



 そうしてもう一度壁の方を振り向いたが、



(ちっ、気配を察して逃げたな……)



 ソージは神出鬼没のモンスターを何とかして討伐しなければと思い、もう一度ニンテたちに手を振ると、その場から去って行った。





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