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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第二章 新たな家族編
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第二十六話 小さな面接者

 初っ端から採用という驚愕の体験をしたソージだが、それから何人か面接を受けたが、ヨヨの眼鏡に適う人材がいないようで軒並み撃沈している。

 カイナなどはイケメンが現れた時に「あら、イケメン!」と頬を緩ませていたが、当然顔で判断するヨヨではないので何度か質疑応答して、そのイケメンはすぐに落とされた。落ち込んだ彼の顔を見て何故か気分が良かったのはソージの秘密だ。



「あとどれくらいいるのかしら?」

「そうですね、報告によるとあと一人……ですね」

「まあ今日だけに限定しているわけでもないし~、一人だけでも見つかっただけでも良しとしたらどう?」



 カイナがそんなことを言ってきたのでソージはやれやれと肩を竦めると、



「母さん、そういうことは最後の人を面接し終わってから言って下さい」

「あ、ゴメ~ン。何かこの流れだともう決まらなさそうな感じだったからついね~」

「まったく……次の方どうぞ」



 すると最後に部屋に入って来た人物を見て、三人の誰もが呆気にとられたかのように固まる。ペチペチと裸足でやって来たのは、奇妙な格好をした――――――――――――少女だった。



「……あ、あの……その……やっぱりやめとくの!」



 そう言いながら部屋から出ようとする彼女をソージは呼び止める。するとピタリと動きを止めた彼女は「う~」と顔を真っ赤にしながらソージたちの方を向く。



「と、とりあえず、その椅子へお座り下さい。ね?」



 敬語を使うべきか迷い、それでも相手を安心させるためにも最後はにこやかに言ってみた。すると挙動不審に目を泳がせた少女はコクリと頭を動かすと椅子へと腰かけた。



 今までなかなかに個性的な人材が面接を受けに来たが、この少女はその最たるものだった。貝殻を繋ぎ合わせた服を着て、向こうが見えるほど透き通った羽衣を頭から羽織っている。何よりも迷子の子犬のような表情に、裸足という格好がその思いを加速させる。



(確かに誰でもいいから希望者は通せとは言ったけど、限度があるだろ……)



 とにかく面接希望者は全員ヨヨが確認したいと言ったので、メイドがどう思おうが一応通すように言ったソージだが、さすがにこんな幼女を通すとはどうだろうと思った。



「えっと、とりあえず、名前をお聞きしてもよろしいですか?」



 とにかく違和感が抜群だが話を進めなければならない。ソージの言葉にビクッと身体を動かした少女は若干怯えた表情を作り、その小さな口を震わせた。



「こ、ここって……その……セイカツできるってきいたの……」

「え? 生活ですか? あ~まあ、採用されればこの屋敷には部屋が余っているので住み込みで働いて頂くことは可能ですが」

「ほ、ほんとにここにユーがいてもいいの?」



 初めて少し希望を秘めた瞳を向けてくる少女。



「ユー? それがあなたの名前ですか? えっと、採用されれば滞在されても構いませんよ」



 努めて優しい声音を出すと、少女がパアッと笑顔を浮かべるが、すぐにその表情を崩し陰りが帯びる。



「うぅ……でもでも、ユーはなにができるの?」

「はい?」



 それを面接官に聞くのかと衝撃を受けたが、助けを求めるようにカイナを見るが、目を輝かせてウズウズしている。



(あ、これは彼女の可愛さについ抱きしめたい症候群が出てるな)



 よってカイナは頼りにならないとヨヨに視線を向ける。彼女は真剣な瞳でユーと名乗った少女を見ている。するとヨヨが初めて口を開く。



「ねえ、あなた、もしかして水棲族(すいせいぞく)かしら?」

「え、あ、そうなの」



 水棲族? 確かにユーの持つ透明感は水棲族の特徴でもあるが、そんな彼女が何故海を捨てて陸へ? しかも屋敷で働こうとしているのか理由が見当もつかない。



「水棲族は基本的には海で生活するし、食糧も住処も手に入れようと思えば簡単に手に入ると聞くわ。なのにあなたは何故陸に上がったの?」



 やはりヨヨも気になっていたのか、ソージと同様の疑問を尋ねる。するとユーはさらに肩を落とし泣きそうな顔を浮かべる。



「ユーは……ユーは……ユーだってはなれたくなかったの……だけど……クスン」

「いいわ。無理に話さなくて」

「え? いいんですかお嬢様?」

「ソージ、女性の悩みに気軽に首を突っ込んでいいものではないわよ?」

「……はぁ」



 女性と言われても相手は幼女なのですがとは言えなかった。ソージの戸惑いを無視してヨヨは続ける。



「では違うことを聞くわ。あなたは一人なのよね?」

「う……そうなの」

「それで、ここにやって来たのは生活できる拠点を探しに来た、ということでいいのかしら?」



 ユーが言うには、街でフラフラと歩いていると、壁に貼ってある一枚のチラシに目がいき、そこに書かれている屋敷に住めるという言葉に魅力を感じたという。



 どうやら数日前に陸へと上がったが、何をすればいいか分からず彷徨っていると、食べ物が恋しくなったという。そこで街で食べ物を見つけて欲しいと頼んだが、金を持っていない彼女は門前払いを受けたとのこと。

 金はどうやったら手に入るのか聞くと、働いて稼ぐと当然のことを言われた。そこで陸ではそうしなければ生活できないのだと思った彼女だが、では働くにはどうすればいいのか分からず、街中を歩いている時に例のチラシを見たということだ。



「なるほどね。あなたの現況は理解したわ。でもこちらも慈善事業をしてるわけではないのよ。たとえここで少しの施しを与えて放置したとしても、近いうちあなたは必ず同じ壁に当たり結局は海に帰ることになるわ。それは嫌なのでしょ?」

「ウミは……いまはヤなの」



 口を強く一文字に結び、ギュッと両拳を握っている。余程海で何かがあったのだと判断できるが、それはヨヨの言うように簡単に深入りしてはいけないような気がした。



「しかしね、先程も言ったけど、私たちも慈善事業ではないの。何の能力も無い者を屋敷で面倒を見るつもりはないの」



 ヨヨは当然のことを言っているのだが、世間の厳しさを目の当たりにしているのか、ユーはまた泣きそうな顔をしている。

 こういう表情には弱いソージは、何とかしてあげたい衝動にかられるが、今の自分の立場で好き勝手できないことも知っている。全てはヨヨの采配次第なのだ。



「……そうね、あなたは何ができるのかしら?」

「……え?」

「あなたのことを私に教えなさい。採用するかどうかはそれで決めるわ」

「あ、あの……おいださないの?」

「あら? まだ話も聞いていないのに追い出す理由が見つからないわ」

「で、でもまえにあったひとにおしごとたのんだら、すぐにでてけっていわれたの」



 それはそうだろう。見た目が明らかに怪しい幼女を誰も仕事を斡旋したりはしないだろう。



「そう? でも私はそんな愚かなことはしないわ。だって見た目なんて些細なことだもの」



 そう、ヨヨとはこういう人物なのだ。



「大切なのはその者が私に貢献できるかできないかよ」



 全ては能力次第だと言う。



「もちろん、人柄も大事ではあるわね」



 ヨヨの言葉をポカンとして聞いているユー。



「だから教えなさい。あなたは何ができるのかを」

「ユーの……できること……」



 う~んと唸りながら小首を傾げる仕草はとても可愛く、隣で「ハアハア」と言っているカイナがうるさいと思うソージだった。



 いつの頃からだろう……こんなに母親が危なくなったのは……。



 思わず目頭が熱くなるのを感じながら、ユーが口を開くのを待っていると、窓から風が吹いて来て、机の上に置いてあった書類が数枚ユーの足元へ落ちる。

 ユーが椅子から「うんしょ」と言いながら降りて、その紙を拾うとソージの方へ持ってきてくれる。



「ありがとうございますユーさん」

「あ、そ、その……ユ、ユーでいいの」



 さん付けされるのが恥ずかしいのか顔を真っ赤にして顔を俯かせる。その初々しさを見て、さらに隣からまるで盛りのついた犬の呼吸音が聞こえてくる。



「え? あ、な、何するのよソージ!」



 カイナを猫を持ち上げるように、ヒョイッと襟首を持つと、そのまま部屋の外へポイッと捨てて扉を閉めた。無論鍵もだ。



「ああもう! 何するのよぉ~っ! 開けなさいよぉ!」



 それはできない。主に少女の貞操のために。ソージは何事も無かったように席へ戻るが、いまだに外では叫び声が聞こえる。



「ああ、気にしないで下さいね。アレはああするのが一番ですから」

「え、あ、そう……なの?」



 ユーは不安気に扉の方に顔を向けていたが、ゆっくりと椅子に再び腰を落とした。その時、ユーがチラチラと机の上にある書類を見るので、



「どうかしましたか? ああ、これですか? これは面接に使った書類で……」

「まちがってるの」

「……へ?」



 何を言われたのか突然のことで分からず、



「えっと、何か?」

「それ、まちがってるの」

「それって……この書類ですか?」



 ユーが指差しているのは間違いなく先程彼女の足元に落とした書類の束だ。その時、ヨヨは目を鋭く細めると、



「何が間違っているのかしら?」

「えと……その、ぜんぶじゃなくて……三まい、まちがってるの」



 するとヨヨはハッとなると、「書類貸しなさいソージ」と言うので、ソージは返事をして机にある書類を手渡す。そして真剣に目を通すヨヨは、その視線をユーに戻す。



「……ねえユーと言ったかしら?」

「う、うん」



 ヨヨに睨みつけられているので、戸惑っている様子を見せるユー。



「少し問題を出すから答えなさい」

「わ、わかったの」

「お嬢様?」

「ソージは黙ってなさい」

「は、はい」



 何やらかなりの真剣さを感じて押し黙るソージ。そしてヨヨがペンを引き出しから取り出し、紙に何かを書き始め、書き終わるとそれを読み上げていった。



「では問題よ。今、屋敷に五人の使用人がいるとする。一月に一度給金を払うのだけど、一人は148000ドラス、一人は122000ドラス、一人は237000ドラス、一人は86590ドラス、一人は254700ドラス」



 ドラスというのはこの【オーブ】での貨幣である。基本的には日本円と同じなので分かりやすい。



「さらに先に挙げた三人には危険手当があるとして給金の20%を付加させるわ。また五人全員にボーナスとして15000ドラスが与えられたわ。さあ、五人が受け取った給金の合計は幾らかしら?」



 どうやら問題を紙に書いたようだが、決して難しくはない問題である。こういう問題を先程の書類にも書いてあって、経理希望者に、時間制限を用いて解いてもらったのだ。

 しかしほとんどの者が満足いく結果を残してはくれなかった。計算に時間が掛かり過ぎる者がほとんどであり、中にはやはり計算間違いする者もいた。



 紙を手渡しジックリ考えさせてもそれなのに、ただ読み上げるだけで答えろというのはさすがに酷だと感じたが、



「1024690なの」



 …………はい?



 ソージは何の迷いも無く即答するユーを凝視してしまう。しかしヨヨはクスクスと笑みを溢すと、



「ふふふ、ソージ、良かったわね。最高の経理を見つけたわよ」

「え? ま、まさかお嬢様、今のって……?」

「ええ、彼女は本物よ」





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