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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第二十三話 大団円

 その光景を見ていたニンテは半べそをかきながら、



「ひっぐ……あ、あのカイナしゃま……ヨヨしゃまは一体……」



 そんな彼女の頭を優しく撫でてカイナは微笑む。



「もう大丈夫よ。ヨヨ様の魔法はとっても強力だから」

「え……あ、あれは魔法なんでしゅ?」

「ええ、見ておきなさいな」



 ヨヨの身体から出た魔力、それはドンドン溢れて部屋を覆い尽くすほどになっていく。



「しゅ……しゅごいでしゅ……」



 ニンテは唖然としている。



 そしてその魔力が徐々に圧縮していきヨヨの右手に集まる。そのままソージの身体に吸収されるように消えていく。

 すると先程まで呼吸をするのも辛そうだったソージの息が、普段のそれに収まっていく。真っ赤に染まっている顔も、同様に元の健康状態に戻っていく。



「覚えておきなさいニンテ、アレが私たちの当主様、ヨヨ様の調律魔法よ」

「ちょう……りつ?」



 ニンテの呟きと同時に、膝をつくヨヨ。カイナは「まずいわ!」と叫びながら支えようとして向かうが……それは必要無かった。



「……ありがとうございます、ヨヨお嬢様」



 ヨヨが倒れる前に力強く支えたのは、ベッドに寝ていたソージだった。



「お世話をおかけしました」



 軽く息を乱しているヨヨに向かってソージは言う。



「……まったくよ。本当に無茶するのだからあなたは」



 身体をソージに支えられながらヨヨは口を動かす。



「すみません。ですがお嬢様も、オレの魔法の反動を一気に治すのは無茶ですよ」

「ふふ、そうね。私もあなたのこと言えないわね」



 ヨヨは深呼吸するように息を整えると、真っ直ぐソージを見つめる。そしてその視線はゆっくりとソージに手渡されたネックレスに向かう。



「あなたの想い、嬉しく思うわ」

「それは光栄です。寝込んだ甲斐があった……お、お嬢様?」



 ソージはヨヨが不機嫌そうに睨んできていたので言葉に詰まった。



「だけど、こういうことはもう許さないわ」

「し、しかしですね……この力があれば」

「黙りなさい」

「う……」

「あなたが私を想ってやったのは重々承知よ。だけど今後、黙ってこんなことをやるようなら、きついお仕置きがあなたを待っているわ」

「そ、それは……ち、ちなみにどのようなものなのでしょうか?」

「そうね。私の世話も含めてカイナの世話も見てもらおうかしら?」

「もう二度とやらないと誓います」

「ちょ~っとぉ、何か私にもダメージきたんだけどぉ~」



 カイナが叫ぶが、冗談じゃなかった。ヨヨの世話はいつもしているからいい。ハッキリ言ってヨヨは自分ができることは自分でしているので問題は無い。



 しかしカイナは違う。もしソージが世話役となったら、きっと今まで以上にずぼらになるはず。言いたい放題言われることも間違いない。きっと一週間で胃に穴が開く自信があるので、それだけは本当に勘弁だった。



「ふふ、ならもうしないこと。分かったわね?」

「は、はい」

「いいわ、私は疲れたから少し寝るわね。ソージも治したとはいえ、今日は大事をとって休みなさい」

「で、ですが……」

「命令よ」

「……畏まりました」



 ヨヨの魔法のお蔭ですっかり身体は良くなっているので働きたいが、命令を破ることはできない。仕方無く今日は大人しくしていようと決めた。



「ソージ様ぁぁぁぁぁっ! よかったですぅぅぅぅぅっ!」



 ニンテは泣きながら抱きついてきた。彼女を優しく受け止める。



「あはは、すみませんでしたニンテ。それに皆さん。この通り、もう身体は何ともありません。本当にご心配をおかけしました」



 丁寧に頭を下げると、他の者たちもホッと胸を撫で下ろし、仕事へと戻って行った。









 ソージはベッドに横になりながら昨夜のことを思い出していた。 

 新しく創り出した炎。それは黄炎。まず黄炎で物体に紋章を刻む。そしてその紋がある場所なら、たとえどこにいても一瞬で飛ぶことができるのだ。



 簡単に言えば転移だろう。しかしソージ本人だけしか飛ぶことができない。また、刻んだ紋章に触れている者の心身状態を察知することもできる。

 だが心の機微を正確に把握することは叶わない。ただ伝わってくるのは焦りや怒りなど、強く表に現れている感情だけである。



 ソージはこの魔法の力で、タグに紋を刻み、ネックレスにしたのだ。これで肌身離さずヨヨが持っていてくれさえすれば、彼女に危機が迫った時、その感情を感じて即座に転移することが可能になった。

 しかし紋が刻まれている期間は一週間なので、定期的に刻み直す必要はあるが。



 こうして新たな炎を得たのは良かった。

 本来ならゆっくりと時間をかけて新しい炎を創るのだが、急ぎ過ぎたということと、魔法効果が強力過ぎたということもあり、その反動でああなってしまった。



 何とかヨヨの調律魔法で無事、元の身体に戻ったが、あのままだと恐らく一週間以上は寝込む羽目になっていたかもしれない。

 何事も急ぎ過ぎるのはよくないと改めて学んだ精神年齢三十一歳の少年だった。



(だけど、やっぱお嬢様の調律魔法は次元が違うな……)



 無論先程のソージの状態なら、ソージが扱う緑炎でも治せるだろう。しかし物とは違って生物を治癒するのは時間がかかるのだ。本来壊れた物を直すために創り出した炎だったが、どうせならヨヨが怪我した時に治せるようにと条件を増やした。



 しかし制限が強く、擦り傷程度なら一瞬で治せるが、結構な傷病になるとかなりの魔力と時間を必要とするのだ。きっとヨヨと同じことをしていたら、今頃夢の中にいるだろう。



 しかしヨヨは少しふらついただけでそれを成し得た。



 調律魔法は、その名の通りヨヨが直接触れて歪みを正しくする魔法である。ソージの青炎のように物体の記憶を探るのではなく、ヨヨは触れたものの全てを視ることができる。



 先程、ヨヨはタグの紋に触れて全てを察したかのような表情をしたが、彼女にはその紋が何を意味するのか把握したのだ。

 そうして触れるだけで全てを覗き、好きなように調子や構造を変えることができる力。部屋を覆うような魔力を宿すヨヨだからこそ扱える稀少魔法だ。



(昔、お嬢様を怒らせてずっと下痢にさせられたな……思い出したくない)



 その時、三日間、ソージはトイレの住人と化した。そう、そういうこともできる魔法なのだ。

 しかし強過ぎる魔法は魔力もそうだが体力や精神も大幅に削る。そう簡単にヒョイヒョイ使える魔法ではない。



 それなのに、一切の迷いなくヨヨはソージのために使ってくれた。



 ソージはふと起き上がると、その足でどこかへ向かって行った。









 ソージは目の前にあるドアをコンコンコンとノックした。



「……ソージ?」



 中から聞こえたのは、まるで自分が来ることを予期していたようなヨヨの澄み切った声音だった。入室の許可を得ると、静かにドアを開く。



「大人しくしていなさいと言ったはずだけど?」



 少し怒気を絡ませたような言い方。だがソージは、ベッドに横になっているヨヨの隣まで向かい頭を下げる。



「申し訳ございませんでした」

「…………はぁ、仕方の無い子ね」



 呆れたようなヨヨの溜め息が耳に入る。しかしソージの目の先には嬉しい光景が映った。



「ふふ、ちゃんとしてるわよ。だって、あなたが必死で作ってくれたものだもの」



 彼女の首にはネックレスがかかってあった。さっそくつけてくれていることに思わず頬が緩む。



「ねえソージ、あなたは…………私の執事になって後悔は無い?」



 いつもと変わらぬ表情で彼女は言っているが、微かに声が震えている。何を不安がっているのかと思い、笑みを溢す。



「何を仰っているんですか?」

「…………」

「オレはここにこうしていられるだけで幸せです」

「…………」

「不満なんて一つもありません。だから、そんなことはもう聞かないで下さい」

「……ふふ、愚問だったわね」

「ええ、オレはヨヨお嬢様の執事ですから」

「なら改めて言うわ。ソージ、これからも私のために尽くしなさい。あなたは、私だけの執事よ」

「畏まりました、ヨヨお嬢様」



 二人は互いに微笑み合い、そしてソージは人差し指を口元に立てた。ヨヨは「え?」という感じだったが、ソージは音を立てずにドアの前まで行き、一気にドアを開く。



「「きゃあっ!?」」



 ドアにもたれて聞き耳を立てていたのか、部屋になだれ込んできたのは、カイナとニンテだ。



「あ、こ、これは違うのよ! ただ、ソージの後ろ姿が見えたから、もしかして疲れてるヨヨ様を襲いに行ったんじゃとか思ったわけじゃないからね!」

「わ、わわわ! ニ、ニンテはカイナ様にムリヤリ連れてこられて!」

「ちょ、ちょっとニンテ、そこは私を庇うのが筋でしょうが!」

「ええぇぇぇっ!?」



 これでもかと言わんばかりに驚くニンテを横目に、ソージは大きく溜め息を吐くと、



「お嬢様、一つだけ不満がありました」



 ソージはジッとカイナの顔を見つめる。「え? なに?」といった顔をして状況を飲み込めていないカイナである。



「ふふ、そのようね。でも退屈はしないわよ?」

「あはは、言えてますね」

「二人とも何笑ってるのよぉ~! あ、もしかして昨日ソージが作って保存してた饅頭をさっきこっそり食べた時に食べカスでも…………あ」 



 カイナは今の言動が失敗だったと気づいたようだがもう遅かった。ソージは冷笑を浮かべると、カイナを見下ろす。



「ほほう、母さん。今月は給金七割減です」

「そ、そんなぁ~! 後生よぉソージィィィ~! そんなんじゃ生きてけないわよぉ~! ニンテも何とか言ってよぉ!」

「ええっ! ニンテ関係ないですぅ!」

「八割減にしましょうか、母さん?」

「もう私のライフポイントはギリギリよぉ~!」



 そんな三人のやり取りを見ていたヨヨは、楽しそうに笑いこう呟く。



「最高よ、あなたたち」





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