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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第二十二話 執事昏倒

 屋敷に戻ったソージたちはメイドたちから温かい歓迎を受けた。ニンテなどは泣きながらヨヨに抱きついてたりしていた。ヨヨはそんな彼女を優しく抱き、微笑みながら頭を撫でていた。



 何故かそこに母であるカイナがいないので不思議に思ったソージがメイドに尋ねると、何でも部屋の中から「帰って来るの早いわよぉ~」と嘆くような叫び声が聞こえるそうだ。



 どうやら帰って来るまでに終わらせるように言っておいた書類整理ができていなかったようだ。よし、減給決定だとソージは心に決めた。

 その後は皆で食事をした。普段と変わらないその日常が、ソージにとっては嬉しいものだった。



 夜になると、ヨヨに自室へ来るように言われソージは向かった。風呂上りで上気した肌を宿しているヨヨは、物凄く色っぽかった。

そんな彼女がベッドに横になり、



「ソージ、して」



 妖艶な笑みを見た瞬間、心臓が直接手で握られたかのように跳ねた。薄い服一枚は、彼女の柔らかそうな身体のラインを明確に伝えてくる。



「し、ししししてというのは?」



 動揺を必死で抑えようとするが、こういう状況があまりなく思わずきょどってしまう。するとヨヨは悪戯が成功したみたいに子供のように笑うと、



「あら? 言ったでしょ? マッサージをしなさいって」

「え? あ……あっ!」



 確かに教会で言われたのを思い出した。



(な、何だ……マッサージか……ふぅ、焦ったぁ)



 何とかあまり顔には出ないように努めるが、



「ふふ、マッサージではないとすると、ソージは何だと思っていたのでしょうね?」

「う……」

「教えてくれるかしら? 私の執事さん?」

「うぅ……お、お嬢様には敵いません……」



 ガックリと肩を落とすソージ。そんなソージを見て楽しそうに笑うヨヨ。



「ふふふ、ではお願いするわ」

「畏まりました」



 ソージはヨヨの言うようにマッサージを開始した。始めてソージはふと聞きたいことがあったので聞いてみる。



「お嬢様、一つよろしいですか?」

「何かしら?」

「何故、あの二人を見逃したのですか?」



 フェムとテスタロッサのことだ。命が狙われたわけではないが、それでも何の咎めも無しで放免するとは不思議だった。



「あら、それなら殺した方が良かったかしら?」

「その方が今後のお嬢様のためだったかもしれません」

「怖いこと言うのね。ふふ、でも心強いわ。私が彼女たちを咎めなかったのは、彼女たちに知らしめるためよ」

「知らしめる?」

「そう、何をやっても無駄だということをね。というより、あなたも気づいていたでしょうに」



 ヨヨの言う通り、彼女がそう思い彼女たちを放置したのは気づいていた。しかし確信はなかった。話を聞いてやっぱりといった思いを受け取る。



「ああいう輩は横にかなりの繋がりがあったりするわ。きっと今回のことも、そういう者たちには伝わる。そしてあなたを敵に回すのは割りに合わないと思ってくれたら一番かしらね。まあ、あくまでも希望的観測ではあるけれど」

「……お嬢様らしいです」

「ふふ、私がそういう無茶な行動を選択できるのも、あなたがいるからよソージ。だから信頼してるわよソージ」

「お任せ下さい」



 しばらくマッサージが続き、それまで沈黙が流れていたがヨヨが口を開いた。



「……ねえソージ」

「はい?」

「…………いつもありがとう」

「……いえ、オレはヨヨお嬢様の執事ですから」

「ふふ、そうね。あなたは私の執事。私だけの……し……つじ……」

「……お嬢様?」

「…………」



 どうやら寝てしまったようだ。今日は大変な一日だった。ヨヨは顔には一切出さないが、まだ十代の少女であり、いくらああいうことを覚悟しているとはいえ、それでも精神は擦り減らしているに違いないのだ。



 ソージはそれを少しでも無くせればいいと思い支えている。それが、執事として仕えさせて頂いている恩返しでもあり、そして……



(ヨヨお嬢様が幸せになれますように……)



 そう願っているからこそ、ソージはここにいるのだ。ヨヨの笑顔を守りたい。無邪気そうに笑うことがほとんど無い彼女だが、彼女が屋敷の者たちを見て、本当に嬉しそうに笑っているのをソージは知っている。

 この小さな肩に、多くのものを背負っているのだ。そして彼女の願いは屋敷の者たちの幸せでもある。



 ヨヨが屋敷の者の幸せを願うのなら、ソージは、彼女の幸せを願おうと決めた。

 ソージは穏やかな寝息を立てている彼女に布団をかけると、音を立てずに部屋を出て行った。



「……ありがとう、私のソージ」



 そんな彼女の呟きは残念ながらソージには届かなった。









 ソージはヨヨを寝かしつけた後、自室に帰るとベッドに腰かけ、今日起こったことを思い出し渋い表情をする。

 その理由として、ヨヨが敵にあっさりと誘拐されたことについてだ。確かに相手の魔法の稀少さがあってのものだったが、それでもソージの手の届いた範囲でヨヨが攫われたのは事実だ。



「ふぅ、もしこれからも透明魔法みたいな厄介な魔法士がお嬢様を狙ってきたら……」



 今回、フェムにはヨヨを殺傷する理由は無かった。しかしもし、ヨヨの抹消を目的とした過激派だったら、ヨヨはすでにこの世にいなかった。

 ソージはベッドから見える窓の外を見ると、そこには日本では考えられないほどの大きい月がこちらを覗いていた。



「……お嬢様の危機をすぐにでも悟れるような力があれば……」



 ソージはベッドから立ち上がると、右手を広げて見つめる。



「そうだ。そういう炎を創ればいいんだ」



 ソージは目を閉じ右胸に意識を集中させる。ドクンドクンと脈打ち、徐々に熱されていく。火傷しそうな熱さを感じながら、その原因である《魔核》から魔力を抽出していく。



 身体の中を暴れるような魔力が右手に集束していく。



(危険を察し、いつでも飛んで行ける力を……)



 するとソージの右手に生まれた炎があった。その炎の色は、空に浮かぶ月のように美しい黄色を宿していた。



 













「ソージが倒れたですって?」



 ヨヨは朝、いつも起こしにくるはずのソージが来なかったことで不審に思った。代わりにニンテが泣き腫らした顔をして飛び込んできた。

 彼女の話によると、いつも早朝に花の水やりをしているソージの姿が見えないので、珍しく寝坊かと思いニンテは彼の部屋へ行った。



 しかしノックをしても返事が無かった。どこかに出掛けているのだろうかと思い、ニンテはソージの代わりに水やりをしていると、やはりソージは来ない。



 他のメイドたちも仕事のために起きてきて、彼女たちにもソージがどこにいるか聞いたが、知らないと言う。さすがに変だと思ったニンテは、ソージの母親であるカイナに事情を説明すると、とりあえずもう一度ソージの部屋に行こうということになった。



 やはりノックしても返答が無い。カイナは「入るわよ」と言いながらドアを開けると、そこには床に倒れているソージを発見したとのこと。

 ヨヨも一体何故そんなことになったのか不可思議に思いソージの部屋へと急いだ。昨日、彼には別段変わった様子は無かった。



 確かに誘拐などいろいろあったが、それでもソージが倒れるほどの相手ではなかった。夜にマッサージをしてもらった時も、普段通りだった。



(それなのに……っ!?)



 珍しく焦った面相をしながらヨヨはメイドたちの間を縫ってソージの部屋に入った。そこにはベッドに横たわっており、辛そうに呼吸をしているソージがいた。



「……ソージ」



 傍にいたカイナにどんな様子か聞いてみた。



「分かりません。ただすごい熱で、体中の魔力も安定していないようで」



 さすがのカイナも、いつものように天真爛漫ではなく、息子の一大事に焦燥感を表情に浮かべている。

 ヨヨはソージの手に触れる。全身から汗を流しているようでとても苦しそうだ。しかもカイナの言った通り、信じられないくらい身体に熱がこもっている。



「一体何が原因なんでしょうか? まさか昨日の誘拐犯に何か……」

「いいえ、そんな様子は見られなかったわ」

「遅行性の魔法とか……さもなくば気づかずに毒を打ちこまれて……」



 怖いことをカイナは言うが、ヨヨは首を振って否定する。



「……昨日ソージに夜マッサージしてもらったのよ。その時、ソージの身体を……視たわ。少し疲れはあったけど健康状態は良好だったわ」

「ヨヨ様がそう仰るなら間違いなさそうですけど……ならどうして……?」

「うぅ~ゾォォォォジざばぁぁぁぁ~っ!」



 ヨヨとカイナのやり取りを聞いて、増々不安になったのかニンテは涙と鼻水を出して顔をグチャグチャにしている。



「……とりあえずもう一度私が視て……」



 ヨヨが目を細めてソージの顔を見つめると、



「う……ぁ……」

「ソージッ!」



 ソージが微かに目を開けた。



「はあはあはあ……お……じょ……う……様?」



 ソージは目だけを動かして屋敷中の者が集まっていることに気が付き、



「どう……して……?」

「ソージ、あなた一体何をしたの? いえ、今はいいわ、とにかく……」

「こ……れを……」



 ソージが歯を噛み締めながら震わせながら右手をヨヨに突き出す。その右手は強く握りしめてある。思わずヨヨはその拳を優しく両手で包む。



「……ソージ?」

「ひら……いて……」

「え? 開く? 何を?」

「……手を」

「……手を?」



 ヨヨは訳が分からないソージの言葉に、それでもソージの拳の下で両手を広げる。するとゆっくりとソージの拳が開いていく。

 ポトッとヨヨの手の中に何かが落ちる。それはネックレスだった。先には小さなタグのようなものがついており、そこには初めて見る紋が黄色で刻まれていた。



「……ソージ?」



 一体これが何を意味するのか判断に苦しむ。しかしソージは辛いはずなのにニッコリと微笑む。



「それ……があれば…………いつで……も…………お嬢様の……もとへ」



 ヨヨはハッとなりもう一度ネックレスに視線を落とし、タグに刻まれてある紋に触れる。そして目を閉じると、またも何かに気づいたようにバッと顔を上げる。



「ソージ……あなた……」



 全部分かった。どうしてソージがこうなったのか。それは全て…………ある者のため。

 ヨヨは静かに立ち上がると、



「みんな、少し下がりなさい」



 カイナは察したように、泣いているニンテとともにベッドから離れた。それを確認したヨヨはソージの顔を見下ろすと、、そっと彼の額に自らの右手を添えた。

 するとヨヨの身体から淡い光が滲み出てきた。





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