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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第二十一話 最強の執事

 廃墟だった教会はまず屋根が食い尽くされ、次に壁、そして椅子や祭壇。瞬く間に目の前から消えていく存在に、フェムは先程覚えていた感動より恐怖が宿っていた。



(な、何よこの魔法……)



 ヨヨとソージを除いた全てが失われていく。そしてその凶刃がフェムたちにも迫って来ていた。無論白炎はフェムたちの存在を認知していない。

 ただ無造作に動き回っているのだが、その通り道にフェムたちがいるのだ。それもそのはずだ。フェムたちは教会の中にいるのだから。



 テスタロッサはフェムを抱えて、自由に飛び回る白炎から逃げ回っているが、何度も身体を掠っている。ギリギリだ。

 その時、肩を食い破られた衝撃でテスタロッサは抱えていたフェムを手放す。地面に投げ出されたショックで魔法が解けてしまう。



 二人の存在が誰の目にも映る。そして白炎は狙ったようにフェム目掛けて飛んで来た。



「ヒィッ!」



 その表情は恐怖に歪められ、死を連想させた。しかし刹那、フェムの身体を何かが覆い、バキィッと機械が砕かれるような音がする。

 フェムの目に映ったのは、自分を庇ったせいで右腕を食い千切られたテスタロッサの姿だった。テスタロッサはそれでも表情を変えない。ただフェムを守るという使命を帯びたロボットだった。



 しかし白炎はすぐさま方向転換して再び向かってきた。このままでは二人同時に食べられてしまう。

 死。死ぬ。死んでしまう。こんな名も無き場所で死ぬのだ。



(いや……いや……いやよいやよいやよいやよいやよいやよぉっ!)



 フェムは無我夢中に、迫ってくる死の恐怖に怯えていた。そして彼女はきつくテスタロッサの傷ついた身体を抱きしめて叫んだ。



「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!」



 目を強く閉じ、もうすぐ来るであろう痛みに備えていたフェムだが、いつまでもやってこない衝撃に対し不審に思い、ゆっくりと確認するように重い瞼を上げた。

 するとそこには、今にも喰らおうとしている白炎と、その隣でにこやかに笑っているソージがいた。












「遅くなり申し訳ありませんでしたお嬢様」



 ソージはテーブルに拘束されているヨヨを自由にすると謝罪する。



「いいえ、よくやったわ。ありがとうソージ」



 ヨヨも怪我など一つも無かったようでソージは安心した。ちなみに今、フェムとテスタロッサの二人は、橙炎で造ったロープで身体を縛ってある。さらにフェムには、ヨヨに装着させていた《魔封錠》のおまけをつけてある。



 ヨヨが二人のもとへと向かうと、



「ひっぐ……ぐす……ご……ごわがった……」



 フェムが泣きじゃくっていた。余程白炎が怖かったようだ。



「いけないわねソージ。女の子をこんなに怖がらせるなんて」

「えっ!? そこを怒られるんですか!?」



 さすがにヨヨの言動には驚きだった。確かに最初から殺すつもりはなかった。何を言っていても、彼女はヨヨを傷つけてはいなかったのだから。テスタロッサについても、炎を食らわせた時、ちゃんと死なないように調節はしておいた。いくら自動人形(オートマタ)だと気づいていたとしても、やり過ぎると壊れてしまう恐れがあったからだ。全くの無傷だったのには少々驚いたが。



 こんなことを引き起こした責任として、少しお灸を据えようと思い、ああしたのだが……。



「ひぐ……っひっひっぐ……」



 確かにロープで縛られて泣いている女の子を見ていると罪悪感が半端無い。テスタロッサはフェムに動くなと言われているようでジッとしている。



「それに、いくら自動人形(オートマタ)だとはいえ、コレはやり過ぎじゃないかしら?」

「…………よろしいんですか?」

「言わなくてもあなたなら分かるでしょ? それにどうせやるつもりなのでしょ?」

「…………はぁ、畏まりました」



 ソージが二人の前まで来て再び手をかざしたので、やはり殺されるのかと思ったのか、フェムは顔を青ざめさせる。



「安心して下さい。害は加えませんから」



 ソージは大きく深呼吸すると、目を閉じる。ソージの額から大粒の汗が滲み出てくる。



(これはやっぱしんどいな……)



 それでも手に魔力を集中させていく。するとソージの手の平から緑色の炎が顕現した。その緑がテスタロッサの身体を覆っていくので、



「や、やめてよぉ! もう許してぇ!」



 フェムは壊されると勘違いしたのか涙を流しながら叫ぶが、



「大丈夫よ。だから黙って見ていなさい」



 ヨヨが言うが、それでもまだ信じられない面持ちでテスタロッサに視線を向かわせるフェム。すると驚愕すべき光景が彼女の視界に入ってきた。

 先程食い破られたはずの肩や、傷の部分に緑炎が覆い修復していく。そして完全に失われたはずの右腕までが元通りになっていく。



「……う……そ……っ!?」



 フェムの驚きは天元突破しているだろう。攻撃だけでなく、このような治癒までできるとは全く以て考えつかなかったはずだ。



「……ふぅ」

「お疲れ様、ソージ」

「ええ、少し疲れました」



 何でもないように会話をするソージたちを呆然と見つめるフェム。



「い、一体……何なの……アナタ……」

「あら? それよりまずは言うべきことがあるのではなくて?」

「あ……う……うぅ~………………あ、ありがと」

「ええ、どう致しまして。あ、フェムさんの右手にも擦り傷が」

「え? あ……」



 ソージは彼女の右手を両手で覆うように包む。



「癒しを施せ、緑炎(りょくえん)。…………これで大丈夫ですね」



 炎とは思えないほど、心地好い温かさが彼女の手を包む。ソージはニッコリと微笑むと、フェムの頬が赤に染まる。すぐに顔を俯かせた彼女を見て、



「あれ? どうされたんですか? もしかしてまだ怪我してたとか? それなら私が治してって痛い痛い痛い!」



 突然脇腹に激痛が走る。見るとヨヨが脇腹をつねっていた。



「あ、あの……い、痛いのですがお嬢様?」

「…………今日帰ったらマッサージしなさい、命令よ」

「え? あ、はい……」



 本当は今日は疲れたから早く休みたいというのが本音ではあるが、主の命令なら仕方が無い。それはともかく、どうしてヨヨが若干不機嫌そうなのか理由が分からなかった。



 ヨヨは場を整えるように咳払いを一つすると、



「さて、あなたたちの処遇だけど」



 ビクッと肩を動かすフェム。



「もう二度と襲撃しないと言うのなら、解放してあげるわ」

「え……ええっ!?」



 それは驚くだろう。どうやらフェムも最初からヨヨを傷つけるつもりはなかったみたいだが、誘拐をして、これほどの騒ぎを起こしたのに、ただ一つの約束で不問にすると言っているのだから。



「え、そ、その……いいの?」

「ええ、だけど次は無いわよ?」



 冷ややかな視線でフェムを見下ろし、フェムもゴクリと喉を鳴らしている。ヨヨは踵を返すと「行くわよソージ」と言う。



「畏まりました。あ、そのロープはあと数分で消えますので」



 ソージはそれだけ言うとヨヨを追っていった。











 ソージたちが去って数分後、確かに彼が言ったように身体を縛っていたオレンジ色のロープは綺麗に消失した。ふぅっと疲弊感を含んだ溜め息を吐き出すとフェムはスッと立ち上がり、見る影もなくなった教会の有り様を見る。



「……あれが赤髪執事の力」



 音も無く、フェムの隣に控えているテスタロッサに視線を向ける。



「それにあの治癒魔法……ううん、あれはもう治癒魔法を越えてるわ。まるで復元よ」



 そして自らの右手に視線を落とす。すると頬が熱くなっていくのを感じて頭を振る。



「ああもう! 何考えてんのよアタシは! テスタ!」

「……はい」



 無機質に返事を返してくる。



「身体は? 本当に何とも無い?」

「……問題ありません」

「そう……いくら搭載兵器を少な目にしてたっていっても、テスタがこんなにあっさりやられるなんて……」



 全てを燃やし尽くすような赤い炎を生み出したと思ったら、一瞬で教会を消した白い炎を生み出し、さらにはテスタロッサの千切れた腕さえ復元した緑の炎まで……。



「……やっぱり欲しいわね」

「……追尾モードON」

「ああダメダメダメダメェッ!」



 テスタロッサの言葉を聞いた瞬間、テスタロッサが目の色を変えたので、慌てて止めに入ったフェム。



「……追尾モードOFF」

「はぁ~、追いかけたいけど、今追いかけたってまた返り討ちに合う可能性が高いわ。それに……」

「……?」

「それにあの女からは、まっこうから勝負を挑んで奪い取ってやるわ!」

「……理解しました」

「それじゃテスタ、まずは相手を知ることから始めるわよ! そうすればあの女の弱点の一つや二つ……それにつけ込んで勝負を挑んで、その勝負に赤髪執事を賭けてもらうわ! フフフ、そして彼はアタシのもの」

「……まっこう勝負では?」



 テスタロッサが疑問に思ったのかコクンと首を傾けて聞いてきた。



「まっこう勝負よ。けど勝負には打算も必要なのよテスタ、覚えておきなさい」

「……理解しました」

「フフフ、次こそは絶対手に入れてやるわよ! 待ってなさいソージ・アルカーサ! オーッホホホホ!」



 高らかな笑い声が、教会の跡地でこだましていた。






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