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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第十九話 ソージVSテスタロッサ

 ヨヨの言葉にそれまで笑顔を浮かべていたフェムが固まる。その反応を見て、ヨヨは確信を得たかのように笑みを浮かべる。



「やはり、そうだったのね」

「何のことかしらね?」

「ふふ、惚けるなら、先程の反応をしないことね」

「…………アンタ、性格悪いって言われるでしょ?」

「あなたほどではないと思うわよ?」



 するとフェムはギリッと歯を噛むと、



「アンタ、状況分かってるの? アンタに今自由は無いのよ? アタシの気分次第で」



 カツカツと大胆な音を立てながらヨヨに歩み寄ってくる。そして懐から出したナイフをヨヨの首元に当てる。



「こうやってすぐにでも死ぬのよ?」

「……やれるの?」

「何ですって?」

「あなたには目的がある。その目的があるから私を攫った。そしてこうして身体の自由を奪っている。賊ならもう殺しているか、売り飛ばしているか、慰み者にしているか、そのどれかよ。だけどあなたは違う。私には死なれると困る理由があるはず。少なくともまだ、殺せない。違うかしら?」



 そう淡々と告げると、増々フェムの顔が紅潮していき、ナイフを持った手が震える。



「こ、殺さなくても痛めつけることはできるわ。何ならやってみましょうか? 一生治らない傷でも与えれば少しはその軽口が重くなるかもね!」



 フェムはそれでヨヨが怯える様子一つくらい見せると思ったのかもしれないが、



「そうね、だったらやってみるといいわ」



 返って来た言葉は予想外のものだったらしく、フェムはまた驚愕に顔を歪めた。



「じょ、冗談じゃなく、本当にできるのよ! アンタも女なんだからそんな傷嫌でしょ!」



 認めなさいよと言わんばかりに睨みつけてくるフェムに対し、ヨヨはあくまでも冷静に口を動かす。



「そうね。でも一つだけ言っておくわ」

「な、何よ!」

「もし私に傷一つでもつければ……」

「つ、つければ何よ?」

「……そこであなたの人生が終わると思いなさい」

「な、何を……っ!?」



 その時、フェムとともにいたメイドがサッと姿を現し、



「……来訪」



 短くそれだけを呟く。フェムはそれを聞き、ナイフを再び懐に納めると、ニヤッと笑った。



「待ってたわ…………ソージ・アルカーサ」



 彼女が振り向いた先には、燕尾服を着用した赤い髪の少年が軽く頭を下げていた。



「お迎えに上がりました、ヨヨお嬢様」













 完全に廃墟と化した教会に足を踏み入れたソージは、祭壇のある場所で身体を紐のようなもので拘束され寝かされているヨヨを発見する。どうやら無事のようで安心する。



「まず自己紹介をさせて頂きます。私はヨヨ・八継・クロウテイルお嬢様に仕える執事、ソージ・アルカーサと申します」



 それに答えたのは映像の中でドレスオージェと名乗っていた少女だ。ヨヨとはまた違った魅力を持っている美少女。少女は銀髪を手で払う仕草をしてニッと口角を上げる。



「アタシはフェム・D・ドレスオージェよ。こっちはメイドのテスタロッサよ」



 フェムの隣にいる水色の髪の毛を持つ無表情の女性が微かに頭を下げる。



「これはご丁寧に。さて、お嬢様を返してほしいのですが」



 努めて笑みを浮かべながら言うと、



「いいわ、ただし条件があるの」



 そう、それは予想していた。何も要求しない誘拐犯などいない。金品関係ではないとすると、それはやはり呼びつけたソージに関係することだと推測している。

 恐らく自分が知らず知らずに恨みを買っており、相手は命を要求するものだと思い、相手の目を見つめる。



「どのような条件でしょうか?」



 とりあえず聞いてみた。しかし次にフェムが驚くべきことを言い放った。



「アタシのものになりなさいっ!」



 瞬間、思考が停止した。



 今、彼女は何と言った? もう一度頭の中で反芻してみる。アタシのものになりなさい? それは言葉通りの意味に捉えるならば、自分に仕えよと言っているようだ。



 正直今回の件は、自分が原因だと考えていたが、こういう関わりをしているとは全く思っていなかった。あくまでも相手がソージに恨みを買っているのだろうと推測していたのだ。



 横たわっているヨヨも、その目的を予想していなかったのか久しく見ないような唖然顔をしている。



「……一応確認しておきますが、それはあなたに仕えろということでしょうか?」

「そうよ! アナタのような存在には、アタシみたいな高貴な存在こそが相応しいわ!」



 ヨヨと負けず劣らずのその平坦な胸を張っているが、余程自分に自信があるのか、それとも今の宣言に酔いしれているのか満足気な表情をしている。



「……もしかして、その交渉を優位に進めるためにお嬢様を攫ったのですか?」

「そうよ! ただアナタにそう言ったところで了承するはずないと思ったからね」

「いえいえ、たとえここで私があなたに仕えると言ったところで、それを証明するものはないでしょうに。すぐに裏切りますよ私」

「フフフ、それに抜かりは無いわ」



 フェムが懐から黒い筒状の物体を取り出す。そして怪しく口角を上げながら、その筒の蓋を開けて中から丸めてある紙を手に取った。



「コレが何か分かる?」



 紙を広げて見せつけてくる。



「《ブラッド・オース》……」

「あら、アンタには聞いて無かったんだけど、その通りよ」



 ヨヨが答えたが、合っていたようでフェムが軽く頷く。



「なるほど、《ブラッド・オース》ですか。通称《血の誓約書》。そこに血印(けついん)した者は、遵守を違えた場合、災いが起こると言われていますね」

「そうよ、これは本来、自動人形(オートマタ)と人形師の間に契約の印として使われているけど、無論人間同士でも使えるわ。こんなペラペラでも、希少価値の馬鹿高い代物よ」

「確か、優秀な人形は感情を宿すと言われています。その人形が感情のままに主を裏切らないように作った魔法具でしたね」

「フフフ、凄いわね。市場に出回っていないコレのことをそこまで知ってるなんて、増々アナタを手に入れたくなったわ」

「それは光栄ですが、要はお嬢様を助けたければ、そこに血印せよと、そういうことですか?」

「その通りよ」

「お断りします」

「…………ならこの女がどうなってもいいのかしら?」



 今度はナイフを取り出すと、フェムはヨヨの胸に突き立てるように構えた。



「それは困りますね。ですが、それは止めておいた方が良いと忠告しておきます」

「理由を聞いてもいいかしら?」

「ええ、その方が私の主だからです」

「……?」

「もし少しでも傷つけようものなら……」



 ソージは笑みを崩し、冷酷に目を細め睨みつけると、



「ぶち消しますよ?」



 ソージは明らかな殺意を迸らせる。それに当てられて「う……」とフェムは息を詰める。テスタロッサは完全な戦闘態勢に入る。

 だがそんな浴び続ければ心身が疲弊するほどの殺気の中、フェムは笑みを溢している。



「欲しいわ! やはりアナタは良い! テスタ!」



 フェムがテスタロッサの名前を呼ぶと、テスタロッサはスカートをたくし上げ、太ももに装着してあった二つの黒光りするものを取り出し、両手に構える。



(双銃? あの形状は魔力銃か……)



 外見は銃口が普通の銃より大きい小型の銃である。名前の通り魔力を充填し、その魔力を凝縮した弾を撃ち出す。その威力は込める魔力にもよるが、連射も可能な銃なので厄介な代物である。



「動きだけを奪いなさい!」

「……理解しました」



 テスタロッサが鷹のように目を細めると銃を向けて放ってきた。ソージはすかさずその場から横に飛び、参列してある椅子の影に身を潜ませる。

 魔力弾は椅子を破壊し、壁にも穴を開けていく。なかなかの威力だった。無防備に当たれば、文字通り動きが奪われるだろう。



(さて、どう処理するか……)



 まるで溜まった書類でも片づけるような感じでソージは内心で呟いていた。





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