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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第十八話 動く執事

 ヨヨが何者かに連れ去られたという事実に気づいたのは、ヨヨがフェムに攫われて十分後のことだった。



 今屋敷中の者たちがソージを筆頭に、ヨヨの書斎に足を踏み入れていた。部屋を訪ねたソージが、中からヨヨの返事が無いのでおかしいと思い入ってみれば、そこはもぬけの殻であり、どこに行ったのかメイドたちに訪ねても知らないと言う。

 一応屋敷中を探してはみたが、ヨヨの姿を発見できず、いよいよこれはおかしいと思ったソージは再び書斎に来ていたのだ。



「皆さん、少し離れていて下さい」



 ソージがそう言うと、ドアを開けたまま外へメイドたちは出て行く。ソージは右手を地面へとかざし、



(しるし)を映せ、青炎(せいえん)



 ソージの右手から青い炎が顕現し、部屋を覆っていく。そしてそれとは別にソージの目の前にも壁のような形に変化する。



「えっと……なにが始まるんです?」

「しっ! いいから黙って見てなさいな」



 ニンテがドアの外から中の様子を見て、ソージの行動に疑問を感じたようで言葉にしたが、それを他のメイドが注意した。

 すると壁のようになった青い炎に、何かが映し出されてきた。



「ヨ、ヨヨ様っ!」



 ニンテが叫ぶのも無理はない。そこに映像として映っているのは間違いなく書斎で仕事をしているヨヨなのだから。しかしまたも大声を出したことで注意を受けるニンテ。

 しばらく見ていると、仕事をしていたヨヨ様の目の前に謎の人物が二人現れる。そしてヨヨは組み敷かれ、連れ去られてしまった。



 ソージは青い炎を消すと、軽く溜め息を吐く。



「どうやら、敵は厄介な魔法を使うようですね」

「そうみたいね~、まさか透明になる魔法なんて、結構レアだわ」



 ソージの言葉にカイナが反応を返した。



「それに相手は南大陸の関係者のようですね。確かドレスオージェは【ラヴァッハ聖国】の王侯貴族にあった名前でした」

「よく覚えてるわね~」

「ええ、以前私用で南へ行った時に、ついでに実力のある貴族の名前くらい探っておこうと思い、幾つかの貴族名にその名前がありましたから」

「ふ~ん、でもその王侯貴族様が何でヨヨ様を? 何か反感買ってたっけ?」

「いえ、オレの知る限りでは、【ラヴァッハ聖国】とは関わりを持っていないはずです。あそこは有名な自動人形の聖地ですが、お嬢様の携わる仕事に自動人形に関するものはありませんし……」



 ヨヨの仕事はスケジュール管理も含めて、ソージは全て把握している。その中には少なくとも相手の反感を買うようなものはなかったはずだとソージは考える。



「そうね~、相手も表情を見た限りじゃ、別に復讐とかそんな感じじゃなかったし」

「そうですね。もしかしたら誰かに雇われて仕事をしているのかもしれませんが……」

「どうしたの?」

「あ、いえ……」



 ソージは果たして本当に誰かに雇われているという考えが当っているのか不思議に思う。



(相手は王国貴族。それにドレスオージェと言えば、数々の優秀な人形師や造形師を輩出してきた名門。そんな人物が、誰かに雇われたりするのか……?)



 見た感じ、ドレスオージェと名乗っていた少女はプライドの高そうな雰囲気を醸し出していた。それにまだ子供みたいだから尚更誰かに使われても許容できるような矜持は持ち合わせていないだろう。しかしヨヨが攫われたのは間違いない。とにかく今は相手の目的よりも、ヨヨの居場所を見つける方が先決だった。

 その時、ダダダと物凄い勢いでメイドが部屋に入って来た。その手に一通の紙を持って。



『ヨヨ・八継・クロウテイルの身柄を預かった。返してほしくば、ソージ・アルカーサ一人で【ジャンカックの丘】にある、今はもう使われていない教会に来い。日時は×××』



 ソージは紙に書かれている内容を見て訝しむ。



「ん? 何これ? 要求は?」



 カイナの疑問通り、この紙には金品などの、誘拐なら当然要求しそうなものが一切書かれていない。

 書かれてあるのはソージが一人で来ることと、日時を守れということ。もし約束を違えればヨヨの命は保障しないということだ。



(相手の狙いは何だ? 考えられるとしたら、恨みを買っているのはヨヨお嬢様ではなく、オレということ……?)



 それならば理解できる。ヨヨを攫い人質にすることでソージの身動きを制限して、ソージに本懐を遂げる。ヨヨは(てい)の良い餌として使われた可能性を示唆する。



(恨みか……そんな覚えは…………ああ、いっぱいあったわ)



 ハッキリ言って恨みを買うのであれば、ヨヨよりソージの方が多い。裏の仕事をこなすということは、そういうことだ。バルムンクと旅していた時期も、まるで正義の味方ごっこをしているかのように悪さを行う者たちを成敗してきた。

 それにヨヨのために、誘拐犯をぶちのめしたり、敵対勢力を無力化させたり、魔族を殲滅したりと、それこそ実際に行動しまくってきたのだ。逆恨みをされていても仕方の無いことを多く経験してきた過去を持っている。



(はぁ、これはまたヨヨお嬢様にお小言を言われそうだな)



 自分の落ち度で主を危険に晒してしまったと考えたソージは、やれやれと頭をボリボリとかく。



「この紙は頂いておきますね。少し調べたいこともありますし」



 そう言うと懐に紙を収めた。そしてカイナに視線を向かわせると、



「母さん、とりあえず今から行ってきますね」

「は~い、気を付けて行ってらっしゃい」

「ええっ!? 加勢とかしないんですか!」



 カイナのあっさりとした言動にニンテが驚き声を上げる。



「ええ~、だって紙にはソージ一人で来いって書いてあるし」

「で、でも……」

「大丈夫大丈夫、ウチのソージなら心配ないわよ。でしょ、ソージ?」

「ええ、夕飯までには戻ります」

「……ソージ様」



 心配そうに見上げてきているニンテの頭にそっと手を置くとゆっくりと撫でる。「ふわ……」とニンテは気持ち良さそうに声を漏らす。



「安心して下さい。オレはお嬢様の執事です。必ず戻って来ますよ。そうですね、帰って来た時は、お嬢様もお腹を空かしておられるかもしれませんから、食事の用意頼みますねニンテ」

「あ、は、はいです!」



 嬉しそうに微笑むニンテを見てカイナはニヤニヤしながら、



「あらあら、ウチの息子ったら、こ~んな幼気(いたいけ)な女の子まで……罪作りね」

「……母さん、何言ってるか分かりませんが、オレが帰って来るまで今朝言い渡した仕事ができていなかったら、今月の給金は三割減ですから」

「さあさあみんな! 仕事に戻るわよぉ!」



 調子良く部屋から皆を伴って出て行くカイナ。一人残されたソージは、笑みを浮かべていたが、瞬時に崩すとまるで獲物を捕らえるハンターのような目を作った。



(お嬢様に手を出したこと、後悔させてやる)






 






 【ジャンカックの丘】。ここはヨヨの屋敷がある街から西方に位置する場所に存在する。一面には何も無い草原が広がっており、崖近くにポツンと廃墟がまるでアクセントのように存在感を示している。



 その廃墟はかつて教会だったが、賊に襲われて以来、ずっと放置されており、何十年もそのままである。無論手入れも全くしていないので、壁には(つた)などが絡まっていたり、穴が開いていたりする。

 中に入ると、参列している長椅子もところどころ破壊されてある。室内の突き当りにある祭壇も壊されているが、その手前にあるテーブルだけはまだ綺麗なままである。



 そしてそのテーブルに、ヨヨ・八継・クロウテイルは四肢の自由を奪われ眠らされている。



「……う」



 時折入ってくる隙間風が頬を撫でて、ヨヨの美しい金髪も微かに揺れる。



「……ここは……」



 目を開けたヨヨの目に入ってきた風景は、見覚えの無い天井だった。



「遅い目覚めね、クロウテイル嬢?」



 その声を聞いて、即座に自分に起きていることを思い出したヨヨ。そしてふぅっと息を軽く溢すと、



「できればハーブティが欲しいわね」

「へぇ、起きた途端にそんなに余裕を見せるなんて、さすがは若くしてクロウテイルの当主になっただけはあるようね」



 参列している椅子に腰かけていたのは、ヨヨを攫ったフェム・D・ドレスオージェだった。ヨヨは身体の自由が効かないことを悟ると、顔だけを動かして周囲を確認する。



「あら? あの頼もしそうなメイドはいないのかしら?」

「フフ、もしかして気になる?」

「そうね、気になるわ。何といってもアレ―――――――――――――――」









 ―――――――――――――――――――――人間ではないでしょ?







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