第百七十八話 執事登場
重大な発表を後書きに書いてありますので。
「ナ~イス、ヨヨ! さあ、イケメンくん! ここらでお縄についてもらうよ!」
ヨヨの魔法――――『調律魔法』によって、魔力で覆った空間を調律されてしまい、ネオスは自由に空間を操作することができなくなっている。
希姫は娘のナイスアシストを無駄にしないためにもネオスへと詰め寄り攻撃を繰り出す。
「くっ!?」
さすがのネオスも魔法を封じられている状態で希姫を相手することは厳しいようで、先程まで冷ややかに引き締められた顔に焦りを見せている。
「遅いよ! まず一撃ィッ!」
ネオスは腹に一撃を与えられ身体が前のめりになる。そのまま膝蹴りで顎を蹴りあげられて顔が跳ね上がる。
「よ~し! トドメだよっ! 歯、食い縛ってね!」
ギシギシと希姫の右拳が固められていく。魔力も一点集中し攻撃力が高まる。しかしそのまま希姫の拳がネオスを捉えるかに見えた瞬間、床を突き破って《自動人形》が現れ希姫の足を掴む。
「えっ!?」
「さすがに地中までは支配できないということだ!」
今度はネオスが腰に携帯しているナイフで希姫の右肩を斬り裂く。
「ぐっ! このっ!」
希姫は痛みに顔を歪めながらも足を掴んでいる《自動人形》の頭を蹴り上げ吹き飛ばす。その後はネオスから距離を取り右肩を左手で押さえる。
「お母さん!」
「ダイジョブよヨヨ。油断した私のせいだからさ」
「で、ですが……」
ヨヨは確かにここらへんの空間を調律して支配してはいるが、地中の中までは魔力が届かない。だがネオスはどうやら地中の中で魔法を発動させることもできるらしい。汎用力がずば抜けて高い魔法である。
「地中には気をつけなきゃいけないけど、さっきみたいなカウンターがなくなったのは大きいし、助かってるわよ」
「では天井にも気をつけて下さい。私の魔力が届いていない場所からまた人形を出してくる可能性は高いです」
「オッケー」
するとヨヨの背後から襲ってきていた巨大な《自動人形》三体が音を立てて崩れ落ちていく。その身体には無数の蟲が纏わりついており、虫食いのごとく体中に穴が開いている。
どうやらロブが三体を倒していくれたようだ。これでロブもネオスを倒すのに参戦することができる。
だがその時、天井から大蛇のセプスが落下してきた。いや、何かに叩き落とされてきたと言った方が正しい。反射的に上空を見上げると、千手童子が獰猛な笑みを浮かべながら右手に力を込めている。
「楽しませてくれた礼よ! 受け取れぇっ!」
「マズイわっ!?」
希姫が千手童子の攻撃方法を見てゾッとする。すかさずその場にいるヨヨとノウェムのもとへ走り抱えると、
「ロブ! ここは危険よ! 空へ逃げなさいっ!」
それだけ言うと天高く跳び上がった。ロブも信頼できる希姫の言うことだったためか、蟲で足場を作ると、そこに皇帝ネフリティスとリンネを含めた自分が乗り込み空へと上がっていく。
「覇鬼・月転っ!」
千手童子の拳が、地上に落下したセプス目掛けて振り下ろされる。その瞬間、床がボコッと凹んだあと、地中深くで爆弾が爆発したような現象が起こった。
セプスはその衝撃に巻き込まれてまるで砂でできた城のごとく全身が粉々に崩壊していく。爆風によって身体が吹き飛ばされて消失した。
それだけではない。そこにあったはずの建物は全て吹き飛び、近くに存在した《金子の間》も見る影もなく弾き飛ばされてしまっている。
それを上空で見ていたヨヨとノウェムはあまりの威力に瞬きを忘れて魅入っていた。
「な、何なのじゃアレは……アレが鬼という種族なのかのう……?」
ノウェムの素直な感想は、ヨヨも感じていたこと。あの一撃だけで理解できる。まさに人外の生き物だと。それこそ天災が人型に変化した存在ではないかと疑いたくなるほどだ。
もし希姫が千手童子の攻撃を察知してあの場から脱出させてくれなかったら今頃骨すらも残されないまま命を散らしていたことだろう。
希姫に抱えられたまま地上へと降り立つ。そこはすでにクレーターと化していて、中央には千手童子しか存在していない。あれほど巨大だったセプスは跡形もなく消し飛んでしまったようだ。
ヨヨは周りを見渡してネオスの姿も確認するが見当たらない。
(もしかして先程の攻撃で死んでしまった……?)
無論楽観はできないが、この場にネオスがいないことは事実。敵が一人減ったということは喜ぶべきことなのかもしれない。
だがその代わりに、今度はとんでもない相手と対峙しなければならなくなった。
「ククク、楽しかったぞ蛇め。さて、続きはお前で楽しもうかキキよ」
千手童子の矛先が希姫に向けられる。しかし当初の目的通り、ネフリティスの身の安全は確保できそうだ。今も空に浮かんでいるロブの蟲たちによって彼女は守られている。このままどこか遠くへ運べば鬼の手から逃れることはできるはず。
しかしロブたちのさらに上空から一つの影がロブたちへと向かってくるのをヨヨは捉える。
「上っ!」
ヨヨの叫びによってロブたちも上を見上げて脅威に気づく。しかし気づいた時には少し遅く、リンネの傍にいるネフリティスを奪われてしまう。
「きゃっ!」
「くっ! 皇帝っ!」
足場の蟲も崩されてしまいリンネとともに落下してしまうロブ。何とか蟲を操作して足場を作り、再びリンネと自らを落下から防ぐ。
だがその何者かが、ネフリティスを抱えたまま千手童子の方へ降り立つことを許してしまう。
「う……放すのだ! 朕は皇帝であるぞっ!」
「大人しくしていろ」
その人物は千手童子の前に立つとネフリティスを前に出す。彼女が逃げ出さないように肩を押さえたまま立っている。
「……阿弥夜か、ご苦労」
ネフリティスを奪ったのは《九鬼衆》の一人である阿弥夜だった。
「皇帝の命を奪う役目があるのは、千手童子様のみ」
千手童子は幼いネフリティスを冷たい目で見下ろす。「ひっ!」とネフリティスが息を呑む。
「うむ、では頂こうか―――――皇帝」
「い、嫌……触らないでぇっ!」
ネフリティスは恐怖で身体を震わせながら悲鳴を上げる。ロブたちも急いで駆けつけようとするが、とても間に合わない。
「ククク……さあ、革命の時」
千手童子の手がネフリティスに触れるか触れないか――――――。
ふと千手童子は、左側に黄色い光があるのに気付く。一体何だろうかと横目で見つめていると、その光がパッと消失した。刹那―――――驚くことに一人の人間が姿を現した。
その人間が千手童子の顔を殴って吹き飛ばし、そのまま身体を回転させてネフリティスを拘束している阿弥夜の顔にも回し蹴りを食らわせる。
そしてその反動で倒れそうになるネフリティスをそっと軟らかく受け止める。その人間の登場で静寂が周囲を支配していたが、ヨヨだけは安堵したように笑みを浮かべていた。
またその人物もまたヨヨの姿を確認して、さっと頭を下げる。
「ただいま戻りました、ヨヨお嬢様」
「ええ、待っていたわ、ソージ」
突然現れて千手童子たちの手から皇帝ネフリティスを守ったのは、ヨヨの執事――――――ソージ・アルカーサだった。
この小説もそれなりに続きまして、これも皆様のご支援のお蔭です。
前回、ちょうど同じ日にクリスマスプレゼントとして「金色の文字使い」の書籍化発表をさせて頂きました。
もう勘の良い方なら分かって頂けましたでしょうか。
創炎のヒストリア、書籍化決定です。
これも本当に皆様が読んで頂いたお蔭です。
詳しくは活動報告をご覧ください。
次回更新は30日(火)です。