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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百七十四話 ネオス再び

 長い地下通路。そこは《皇宮》に存在する避難通路であり、皇帝に危機が迫った時にだけ解放される。

 今そこにカツカツカツと複数人の足音が響いている。四人の男が一つの籠を持ち、その籠の中には皇帝が鎮座している。



 さらにその籠の周りには三人の人物が同じように歩を進めている。《皇帝の薬》と呼ばれるリンネ・アルト・ランドバーグと、《皇帝の厨房》であるアルココ・ビストーチカ。そして《皇帝の耳》のロブ・ヴァーチだ。



 彼らは鬼が襲撃してきたことを悟ると同時に、こうして避難通路へと皇帝を誘導して安全な場所へ連れて行く算段である。

 一番前を歩いているロブの足がピタリと止まる。



「あれあれ~? どうしたのロブ?」



 アルココが気の抜けたような声をかける。だがロブは険しい顔つきのまま前を見据えている。



「……何かいる」



 その言葉通り、前方の暗がりから足音が聞こえてくる。



「ちっ、もうすぐ出口だというのに敵か」



 ロブは舌打ちをしながらも、腰に携帯している鞭を手に持つ。彼の武器である《妙尽鞭(みょうじんべん)》と呼ばれる鞭の一種。伸縮自在であり、魔力を通すことによって自由に操作することもできる効能を持っている。

 足音が徐々に大きくなってくる。闇の中から浮き出るように現れたのは―――――



「……何者だ、貴様は?」

「答える価値があるのか、それは?」



 銀髪に赤いバンダナを額に巻いた不気味な青年――――ネオスだった。



 するとロブの背後から籠が落ちるような音がして振り向くと、籠を担いでいた男たちは一様に身体から血を流して倒れている。 

 だがそれ以上に驚きなのは――――



「どういうつもりだ―――――――――――――――アルココ?」



 アルココが皇帝を籠の中から引っ張り出して腕に抱えていた。ピクリとも皇帝が動かないところを見ると気絶でもさせられているのかもしれない。



「へ、陛下っ!?」



 リンネが叫びながら駆け寄ろうとするが、ロブにそれを止められる。



「迂闊に動くなリンネ」

「で、ででですが陛下が!?」

「落ち着けっ!」

「あぅっ……!」



 ロブに怒鳴られ押し黙るリンネを見て、アルココが苦笑を浮かべながら口を開く。



「あ~あ、女性にはもっと優しくしなきゃダメだってばロブ」

「謀反を起こすつもりか……アルココ?」

「まあね~、ちょっと欲しいものがあってさ」

「……一体何だ? それに……アイツは何者だ?」

「あれ? 知らないの? ねえねえネオス、あんま君ってば有名じゃないみたいだよ?」

「興味無い」



 憮然とした様子のネオスを見てアルココは肩を竦める。



「ネオス……? どこかで聞いた名だな……む? もしや【ラヴァッハ聖国】で起きた《人形師殺害事件》の真犯人と目された人物か?」

「おお、さすがはロブ。マイナーなネオスのことを知ってるなんてね~!」

「死んだとされていたが、一年半ほど前に存在を確認されてから指名手配されたはずだ。それが何故このような場所へ来る?」

「まあ、簡単にいえばここに彼の欲しいものもあるってことかな」

「それは何だ?」

「アルココ、余計なことを口走ってないで、さっさとあそこへ案内しろ」

「はいは~い。相変わらずせっかちなんだから。んじゃさっさとこっから―――――」



 その時、キラリと銀色に光る物体がアルココに向かって闇の中から飛んできた。



「おわっと!?」



 虚を突かれたアルココが慌てて上体を逸らす。その隙をついてロブが距離を詰めて足払いを繰り出す。



「わおっ!?」



 転倒する彼の腕から皇帝が解放され、ロブは彼女を優しく抱きかかえると、手に持った《妙尽鞭》を操作してアルココの身体に巻き付いて拘束する。



「あ~あ、捕まっちゃった……」



 まるで緊迫感のない声音がアルココから発せられる。ロブは皇帝をリンネに預けると、彼女たちの前に立って身構える。



「も~誰かな、さっきナイフみたいなの投げたの!」



 アルココの言う通り、彼を狙って飛んできたのはナイフだった。



「それは悪かったのう。皇帝をぞんざいに扱う者には当然の報いじゃよ」



 闇の中から姿を現したのは二人の人物。【サフィール国】の魔王ノウェムと、ヨヨ・八継・クロウテイルだった。

 ヨヨはその視線をネオスへと向けて目を細める。



「ネオス・D・ドレスオージェ……」

「その名で呼ぶな女。俺はただのネオスだ。もうすぐ神になるがな」

「どうやら相変わらず頭がおかしいようね」

「……ソージ・アルカーサはどうした? 奴も近くにいるのだろう?」

「それを教えると思うのかしら?」



 ネオスとヨヨが互いに譲らず視線を合わせ続ける。



「魔王ノウェムか……間に合ってくれたようで何よりだ」

「ロブ殿、この状況を説明してほしいのじゃが、どうもそういう時間もなさそうじゃのう」

「そこの人物はネオスと顔見知りのようだが、信頼できるのだな?」

「もちろんじゃよ。彼女の名はヨヨじゃ」

「ほう、では彼女が希姫・八継の……なるほど」



 やはり《英霊器》の名は伊達ではないようで、その繋がりでヨヨのことも知っているらしい。



「ねえネオス! これどうかしてほしいんだけどー!」

「黙れアルココ、そこで捕まるようじゃ足手纏いだ。まあ、最初から当てにはしていないがな」



 するとネオスの周囲の空間に亀裂が走り、そこから体中が縫い傷だらけの人形が次々と出てくる。



「《自動人形(オートマタ)》か!?」



 ロブの叫びが轟くと同時に、一斉に皇帝を抱えているリンネに向かって襲い掛かる。



「皇帝を渡してもらおう」

「させんっ!」



 ロブがダンッと床を強く踏んだ瞬間、足元に大きな魔法陣が広がり、そこからズズズズと無数の黒い物体が出現して人形に襲い掛かる。



「……虫?」



 ネオスの呟き通り、ロブが召喚したのは黒い虫。《影蟲(ブラックミスト)》と呼ばれる彼の魔法。様々な形の虫を形作り召喚することができる。



「人形どもを喰い殺せっ!」



 まるで黒い煙が現れたかのように細かい虫たちが人形の身体を覆って身動きを奪う。すると黒い虫たちがドンドン膨らんでいき、小規模爆発を起こす。



「ほう、さすがは《五臣》の一人。妙な魔法を使う」

「貴様に言われたくはない。人形と同じように蟲に喰われるがいい!」



 黒い塊がネオスへと放たれていき、巻き込まれないようにヨヨたちも距離を取る。蟲たちがネオスの身体を覆い始め、人型の黒い物体が出来上がる。



「そのまま爆ぜさせてやる!」



 しかし突如、蟲たちがターゲットを見失ったかのように霧散しだした。



「ど、どういうことだ……?」



 霧散した後、そこにネオスの姿が見当たらない。



「きゃあっ!?」



 振り向けば、床に弾き飛ばされたリンネがそこにいて、ネオスが皇帝を腕に抱えていた。



「い、いつの間に―――――っ!?」



 ロブが愕然とするのも無理はないだろう。捕まえたと思ったら、そこにはネオスの姿はなく、気がつけば背後にいるリンネを吹き飛ばして皇帝を手にしていたのだから。



「目的のものは手に入った。もうここには用はない」



 すると再びネオスの周囲の空間に亀裂が走り、そこに吸い込まれて行くようにネオスが消えていく。



「ま、待て貴様っ!」



 ロブはすかさず駆け寄ろうとするが、ネオスの動きの方が早く、ロブの手が皇帝に届くことはなかった。



「くっ…………アルココォォォォッ! 一体どういうつもりだっ!」



 ロブの怒りは、いまだに床で横たわったままのアルココへと向けられる。



「いや~、ネオスってば《最後の魂》が欲しいらしくてさ」

「何だと!? そうか、それで皇帝を……!? いや、しかし何故貴様は裏切ったっ!」



 彼の胸倉を掴み上げて怒鳴る。



「しょ~がないじゃん。仕事が上手くいったらネオスが僕専用の奴隷人形を造ってくれるっていうんだもんさ。そうすりゃさ、わざわざ食材を自分で探しに行かなくても人形に任せることもできるし、何よりどんな無理難題も文句言うことなく忠誠を誓ってくれるっていうんだよ? しかもめっちゃ美女な感じにしてくれるってさ! 男なら是非ともって感じじゃん?」

「き、貴様という奴は……」

「最低なのじゃ」

「最低ね」

「最低です」



 ロブに次いで、ノウェム、ヨヨ、リンネが侮蔑の瞳を向ける。



「アハハ、何かその視線ゾクゾクするな~」

「ちっ、もういい! 今は貴様に時間を取られているわけにはいかん! リンネ、《皇宮》に戻るぞ!」

「は、はははいですっ!」

「余らもともに行くぞ! 皇帝陛下の危機なんじゃ。黙って見過ごすわけにはいかん!」

「ええ、それにきっとソージも……」



 ヨヨはそこにいけばソージに会える予感を感じているようだ。



「なら急ぐぞ!」



 ロブの先導のもと、彼らは来た道を再び引き返すことになった。





次回更新は12月13日(土)です。

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