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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第十五話 ソージの家庭教師

 真雪が海賊船に乗り込んでせっせと働いている頃、彼女の探し人であるソージはというと、ニンテに勉強を教えていた。場所はニンテの自室だ。



 ニンテが教えてもらうならソージが良いと言うので、時間が空いた時にでも教授すると約束していた。母であるカイナからの頼みでもあったので無下にもできず、上手く時間を作って教えていた。



「ニンテ、では問題です。この【オーブ】には幾つの大陸がありますか?」

「う~ん……ちょっとまって下さいです」



 そう言って手を広げたニンテ。そして一つずつ追っていき、



「えっと……東大陸に西大陸、南大陸と北大陸、それと中央大陸です!」

「ではそれぞれの大陸名は?」

「ん~と、東は【ドルキア大陸】、西は【ウードベン大陸】、南が【ダダネオ大陸】で北が【ゾーアン大陸】、最後に中央は【オウゴン大陸】です!」

「ええ、正解です。ではそれぞれでの地方の名前は御存知ですか?」

「…………?」



 どうやら地方名まではまだ学習していなかったようだ。



「ではしっかり憶えて下さいね」



 ソージはニンテの手元に地図を広げていく。そして指を差しながら説明していく。ふむふむとその説明を聞きニンテは頷いている。

 彼女は今まで学習習慣が無かっただけで馬鹿ではない。むしろとても記憶力が良く、特にこうして興味のある情報だと一度で覚えてしまうほど優秀な頭脳を持っている。



「そっかぁ、ここって《ノックルス地方》って名前だったんですね!」

「ええ、ここ【ドルキア大陸】には《アンジャクス》、《グド》、《ノックルス》の三つの地方があります。他の大陸の中でも二番目に大きい大陸です。覚えておくように」

「は~いですぅ!」

「それでは次の問題。この【オーブ】には様々な種族が存在しますが、大きく分けると幾つの種族に分けられますか?」



 ニンテは「む~」と可愛らしく口を尖らせている。そして手を開くと一本ずつ種族名を言う度に折っていく。



「えっとぉ、人族、魔族、獣族、竜族、水棲族、精霊族だから……六つです?」

「やりますね。正解です」



 そう、この世界は大きく分けてそれだけの種族が混在している。また人族の中でもさらに分類され、ドワーフや小人などもここに属している。



「では《魔核》を持たない種族は?」

「ん~とぉ、獣族と竜族!」

「おお、それもまた正解です。しっかり勉強してるじゃないですかニンテ。偉いですよ」

「えへへ~」



 頭を優しく撫でてあげると気持ち良さそうににんまりしているニンテ。

 彼女の言った通り、獣族と竜族には魔法士なら誰でも持つ《魔核》が存在しない。故に彼らには魔法が使えないのだ。その代わりに卓越した運動能力や、特別な異能を持ち合わせていたりするのだが。



「では獣族にはどんな特殊能力がありますか?」

「人型になれますです! 前いた孤児院でもそんな子がいましたです!」

「その通りです。擬人化という能力を彼らは使えます。まあ、最もそれも全ての獣族が成し得られることではないようですがね。そもそも擬人化できるのは優秀な獣族だけという話をよく耳にします」

「へぇ~、それじゃユウシュウな人はツヨいってことなんです?」

「優秀にもいろいろあるそうです。簡単に言えば存在の力と言えば良いでしょうか……」



 そうは言ったがニンテは分からないのか難しい顔して唸っている。



「単純に物理的な力が強いだけでは擬人化はできないということです。心と体、双方が恵まれていて初めて成せるとのことですから」

「ん~むつかしいですぅ」

「あはは、でもニンテは理解できている方ですよ。オレも最初はチンプンカンプンでしたから。徐々に理解していけばいいんです。そのうちそういう獣族とも親しくなるかもしれませんしね」

「はいです! がんばって覚えますです!」



 そう意気込むニンテに頼もしさを覚えつつも、ソージは少し苦笑を浮かべてしまう。



「しかし、ニンテは記憶力は良いんですが、算術はあまり得意ではないようですね」

「う~だって数字って見てるだけでああ~ってなっちゃうんですぅ」



 口を尖らせながらニンテは言う。彼女にはどんな適性があるのかいろいろテストをしてみた結果、文章力、記憶力には目を見張るものがあるのだが、どうやら論理的な思考は不得意のようだ。

 特に計算に弱く。簡単な問題にも四苦八苦していた。



「では、ニンテが出世しても金銭管理だけは任せられませんね」

「あ~う~、がんばりますぅ~」

「あはは、ではここで少し休憩しましょう。美味しいものでも作ってきますので、楽しみに待ってて下さい」

「わ~いですぅ!」



 喜び、笑顔を浮かべるニンテを一瞥するとソージは一人で厨房に行き、貯蔵庫を覗いて果実を幾つか取ると、調理台に立つ。



「想いを(かたど)れ、橙炎(とうえん)



 手から橙色の炎を生み出し、それが包丁のような形に変化していく。奇妙なオレンジ色の包丁が出来上がる。

 それを器用に動かして、果実の皮をサクッと剥いていく。その動きに澱みがなく、瞬く間に裸にされていく果実。



 あっという間に全ての果実は丸裸にされ、ソージはそれらを大きなボールに入れて、今度は包丁を棒状にしていく。ゴリゴリと押し潰すように果実の形を変えていく。

 ある程度潰してドロドロにしたら、今度は小麦粉を新しいボールに入れ、ミルクをそこに加えてこねていく。



「さてと、次はっと」



 どんどん調理工程は進んでいき、



「よし、完成」



 大きな皿にそれは置かれており、ソージは満足気に頷くと、それを持ってニンテのもとへと向かった。

 その途中に、二階から降りてきたヨヨと鉢合わせをする。



「おや、お嬢様、お休みなさっていたのでは?」



 彼女は昨夜遅かったようで、昼過ぎになると少し休むと言って自室へと向かって行ったのだ。まだ小一時間ほどだったので、満足な睡眠を得られたのかなと思ったが、



「いえ、何だか良い香りがしたのよ」

「お嬢様もいかがですか? 上手くできたと思いますので」

「ええ、後で自室に……いえ、これからあなたはどこかへ行くの?」

「はい。ニンテに勉強を教えていまして、頑張っているご褒美にと」

「あら、それは良いことね。なら私もそこに行くわ。ニンテの部屋?」

「ええ」

「そう、なら行きましょ」



 ヨヨを連れ添って二人でニンテの部屋へと向かった。



「ヨ、ヨヨ様っ!?」



 突然現れたヨヨに驚いているようで即座に椅子から立ち上がるニンテ。それをヨヨは手で制して、



「そんなに畏まらなくていいわ。少しご相伴にあずかろうと思ってね」



 寝起きのはずなのに綺麗な微笑を浮かべるヨヨにニンテは見惚れているようにぼうっとしている。ソージはそんなニンテの前にあるテーブルに皿を置く。



「うわ~! とってもおいしそうなニオイしますぅ!」

「名付けて《季節のジャムピザ》です」



 この時期に最も旬な果実を数種類ジャムにし、ピザ生地の上に塗った食べ物だ。またその上にはバニラアイスも乗せてあり、温かいピザの上で徐々に溶け出している。



 ちょうど果実の種類が四種類だったので、ピザも四等分してそれぞれに違うジャムが塗られてある。

 一つは《春桃》で作ったジャムで、甘い香りが堪らない生地。

 一つは《桜レモン》で作ったジャムで、酸味が強いが癖になる生地。

 一つは《ピンクメロン》で作ったジャムで、ほのかな酸味と上品な甘さの生地。

 一つは《たんぽぽ苺》で作ったジャムで、甘さに加えてサクサクッとした歯ごたえも楽しめる生地。

 ヨヨとニンテはピザを手に取り、パクッと口に含む。するとニンテの頬が上気し蕩けていく。



「ふわぁ~とてもおいしいですぅ~」

「ええ、さすがはソージね。美味しいわ」

「ありがとうございます。お飲物をお持ちしますのでお待ち下さい」



 そう言ってソージは褒められたことが嬉しく頬を緩ませながら部屋から出て行った。

 飲み物を持って帰って来ると、何故かそこに……



「またサボりですか……母さん」



 そう、自分の母親であるカイナがおもむろにピザを頬張っていたのだ。



「あらソージ! ま~た腕を上げたわね! あ、飲み物持ってきてくれたの! 気が効くぅ~!」



 そう言いながらカップを取ろうとするのでヒョイッと上に上げる。スカッと空を切るカイナの手。



「あんもう、何よぉ!」

「母さんの分はありません。欲しかったらご自分で調達なさって下さい」

「ぶ~ソージのいけず~! いいも~ん! 自分で取って来るから! あ、ニンテ、そっちのアイスがまんま残ってるやつ置いといてよ!」

「え、あ、はいです!」



 まるで台風のような勢いで消えていくカイナ。



「……ニンテ、そのアイスが乗ってるやつ、食べてもいいですよ」

「え? でもこれはカイナ様が……」

「いいんです。そうですね、ではこうして……」



 そのピザを三等分にすると、ヨヨとニンテの皿に置き、そしてソージは一切れ分を口の中に放り込んだ。



「あら、意地が悪いわねソージ。まあ、私も頂くけど」



 そうしてヨヨも同じように口へと運んでいく。もう残っているのはニンテのだけだ。



「ほらニンテ、遠慮せずに」

「え、でも……」



 やはり上司に残せと言われて口をつけるわけにはと思っているのか渋っているニンテ。



「いいんです。それに最近太ってきたわ~とか言ってましたから、母さんのためだと思って食べて上げて下さい」

「……い、いいんです?」

「ええ」

「食べなさいニンテ。美味しいわよ」



 ヨヨにも言われて、ニンテはゴクリと喉を鳴らして食べる。モチモチとした食感に、果実の甘みと酸味が口内を刺激。またも彼女の顔がにやけていく。

 そこへタイミング良く、カイナが帰って来た。



「待っててくれたかしら~! 私のピ……ザ……?」



 物凄い笑顔で部屋に入って来た彼女の顔が石化する。そしてギギギと首を曲げソージを見てくる。



「……ピザは?」

「さあ? 風の妖精さんでもやって来て(さら)っていったのでは?」

「そんなわけないじゃないのよぉ~っ!」



 それからカイナを宥めるのは大変だった。こんなのが母親だと思い肩を落としてしまうが、本当に面白い母親である。










「でもソージ様の魔法ってベンリですよね~」



 いつものようにソージが、早朝に橙炎で創ったジョウロで花に水やりをしていると、同じように水やりを手伝ってくれていたニンテがマジマジとジョウロを見つめながら言ってきた。



「何です突然?」

「だって、魔法ってすごいですけど、ソージ様のはもっとすごいです!」

「はぁ……」

「ニンテは元々マカクがないので魔法が使えませんけど、前いた孤児院では使える人はいました。その中でもやっぱりソージ様の魔法ってベンリすぎだとおもいます」

「まあ、そうでしょうね」



 ソージ本人にもその自覚はある。ソージ自身、この世界で生きてきていろんな魔法士にも出会って来ている。その者たちと比べても、やはり自分の魔法の便利さは群を抜いていた。



「ソージ様の魔法っていったいどうなってるんです?」

「あはは、知りたいですか?」

「はい!」



 無邪気な笑顔を向けてくるニンテに思わず顔が綻んでしまう。



「そうですね、このオレンジ色の炎のことは知ってますよね?」

「あ、はい。この前もニンテたちを乗せてお空をとんでましたです!」

「ええ、これは橙炎といって、簡単に言えばオレの想像を具現化する効果を持っています」

「…………ソージ先生、分かりませんです!」



 ニンテがピシッと手を上げて言ってきた。ソージは彼女のノリに乗っかるつもりで咳払いを一つする。



「おほん、では分かりやすく教えて差し上げましょう。この橙炎は、頭の中に思い描いたもの、まあ形ですね。それをこうして物体として出現させることができます。いいですか?」



 一度ジョウロを消す。そして再び右手に魔力を集中させる。



「想いを像れ、橙炎」



 右手から再びオレンジ色の炎が現れ、ジョウロの形になりソージの手に取っ手が握られてあった。



「今オレは、頭の中でこういうジョウロの形をイメージしました。そのイメージを炎が形作ってくれるのです」

「ほえ~」



 ニンテは面白そうにツンツンとジョウロを人差し指で突いている。



「そう、今ニンテがしているように、普通の炎は触ることはできませんよね? いえ、触ることができても掴んだり、その上に乗ったりなどできるはずはありません」

「あ、そういえばそうです!」

「それがこの橙炎の特性です。この炎は掴むことも触れることもできます。ですからその上に乗ることも容易。さらに……」

「ええっ!? う、ういた!?」



 そう、突然ジョウロが独りでに空中に浮きフワフワと気持ち良さそうに揺れているのだ。



「こうして自由に動かすことも可能です。まあ、魔力は結構消費するのですが」

「……あっ! だからニンテたちを乗せてとべたんですね!」

「ええ、正解です」

「ふわ~、あれ? もしかしてソージ様が使ってる包丁とかお鍋とかがオレンジ色なのって……」

「その通りです。アレもコレです。洗わなくていいので水道代も浮いて家計に大助かりです」



 ソージはこうやって家事などで使用する道具を炎で造り利用しているのだ。料理包丁然り、掃除モップ然り、洗濯カゴなども全てソージは橙炎を使っている。



「ベンリすぎですよぉ~うらやましいですぅ~」

「あはは、でしょうね。ですけどこの魔法にだってちゃんと制限はあるんですよ」

「え? そんなものあるんです?」

「ええ、先程ジョウロに水が入っていましたよね?」

「あ、はい」

「あの程度の水なら問題はないんですが、基本的に炎なので水には弱いですね。こんなジョウロ程度ならたとえば風呂に投げ入れただけですぐに消滅しちゃいます」

「まあ、火ですもんね~」

「他にもオレから一定の距離に離れると、数分で勝手に消滅しますし」



 ソージはやれやれといった感じで肩を竦める。



「ん~じゃあ雨の日とかって、ソージ様役に立てなくなっちゃうんですか?」

「いえいえ、その時はまた違う方法で乗り切れますが、あくまでもこの橙炎に関して言えば、雨の日に使うのは避けたいですね」

「ふ~ん、いろいろあるんですね~」

「他の炎もいろいろ使い勝手が良い反面、制限が必ず存在しますからね」

「ほ、他のって、そんなにいっぱいあるんです!?」



 ニンテは興味津々なのか目をキラキラさせている。



「あはは、その続きを話してあげたいですが、どうやらそれはまた今度ですね」

「ええ~どうしてですぅ~?」



 不満気に頬を可愛く膨らませる十歳児。



「ほら、あそこ」



 そうしてソージが指を差した先には、他のメイドたちがいてこちらに向かって来ていた。ニンテを探しに来たようだ。そろそろメイドとしての仕事が始まるのだ。そしてそれはソージも同様であり、そろそろヨヨを起こす時間だった。



「さあ、今日も一日、頑張ってお仕事しましょうか」

「はいです! でもソージ様! またお話聞かせて下さいね! ゼッタイです!」

「ええ、約束です」



 ニッコリと微笑むと、ニンテも嬉しげに頬を緩ませるとメイドたちのところへと走って行った。






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