第百四十九話 鬼の少年
グロウズが【ルヴィーノ国】へ辿り着く一時間ほど前、【ルヴィーノ国】の国王であるガナンジュと、大臣であるドドックは城の地下へと来ていた。
そしてそんな二人の後には《金滅賊》の長であるガーヴとミラージュが立っていた。
今彼らの目の前に広がっている光景―――――――それは奇妙な巨大なカプセルが安置されている場所。そして周りにはいろいろな機械が設置されており、カプセルの中には膝を抱えた少年の姿が見える。
「何度見ても信じられないな。これがかの《獄界》からやって来た《鬼》だとは」
ガーヴが腕を組みながら「むぅ」と唸る。
「コイツを見つけた時は打ち震えた。かつて世界を混沌に陥れようと《混沌一族》と呼ばれる《鬼》のミイラを見つけた時はな……」
快感に酔いしれる感じでガナンジュが言葉を発する。
「ん~どこで見つけたのかしらぁ?」
「おやおや、ミラージュ殿も《鬼》を手にしたいということですかな?」
ドドックがからかうように口端を上げる。
「ううん、ただの好奇心よ好奇心」
そうは言っても、彼女の瞳が怪しく光っていることに誰もが気づいていた。
「申し上げてもよろしいですが、もう散々我々が探し尽くしたので見つけることはないかと思いますよ?」
「ふ~ん、そ~なんだぁ」
残念そうに肩を竦めるミラージュ。
「でもまぁ、一応教えてほしいわね~」
「仕方ありませんな。この【ゾーアン大陸】の北に年中氷に覆われている島があるのを御存知ですか?」
「ああ、確かぁ……【鬼灯島】でしょ?」
「そうです。最初はそこに珍しい鉱物が存在すると聞いたので調査に向かったのですが、見つけたのは一つの子供のミイラでした」
「ふ~ん、それがこの子ってわけねぇ。けど《鬼》なんて物語でしか聞いたことなかったけど、ほんと~にいるのねぇ」
「確かに《鬼》が活躍したとされるのは数千年も昔とされておりますからな。我々も見たことは無論ございません。ですが我が王国に昔から伝わっているある文献があるのでございます」
「それが前に見せられた《混沌一族》に関する記述というわけだな」
ガーヴの問いにドドックは首肯する。
「遥か昔、我々の祖先と《混沌一族》とは関わりを持っていたようで、《鬼》について詳しく書かれてありました」
その記述には幾つか段階を分けて《混沌一族》の成り立ちなどから書かれてある。
そしてガナンジュが一番興味を惹かれたのは《混沌一族》のその絶大な力だった。
『鬼一人で一災厄』
そう書かれてある事実に驚きを隠せなかった。たかが一人の鬼で、数十万の命を呆気なく奪うことができる災厄と匹敵するというのだ。
そしてガナンジュはミイラを手に入れてある野望を企てるようになった。それは《鬼》を復活させてその力を利用するというものだ。
その力さえあれば、世界を牛耳っている皇帝や《裁軍》など恐るるに足りないとして、今回のクーデター計画を企画した。
だがそれでも数には不安が残る。だからこそ《金滅賊》やイエシンを取り込むことにしたのだ。無論最初は誰も《鬼》の存在を信じることはできなかった。
だが実際にこうして間近で見てみると、誰もがガナンジュの戯言に真実味を感じたのだ。その一つにカプセルの中に入っている子供の強さが挙げられる。
「マジックアイテムであるこの《フォルサヴェール》を使えば、その者の強さを数値化できます」
ドドックが懐から取り出したのはトランシーバーのような形をした液晶を持つ機械。
「ちなみに……」
ドドックがガーヴに向けて《フォルサヴェール》を操作すると、ピピピという音とともに液晶に数字が浮かび上がる。
「このようにガーヴ殿は327フォルサですな。ちなみに我が王ガナンジュ様は439フォルサでございます」
「ふむ、さすがは一国の王であり戦闘に長けた《赤肌族》といったところか」
そうは言うものの、やはり悔しそうに苦々しい表情を浮かべるガーヴ。
「ですがこの《鬼》の子供は……」
ドドックがカプセルの中に浮かんでいる子供に向かって《フォルサヴェール》を向け、そしてその液晶を見えやすいようにガーヴとミラージュへと向ける。そして二人とも同時に息を呑む。
「は……8431……っ!?」
「す、すごいわねぇ~」
驚愕の数字が表れていた。
「ククク、これでもまだ成長途中だ! だが予感がする! もうすぐコイツは誕生する! 長年こうして莫大な金をかけてようやくここまできたのだ! コイツを利用すれば天下など容易! グハハハハハハハハハッ!」
ガナンジュの喜びも理解できるだろう。もしこれだけの戦闘力を兼ね備えた駒が増えれば、たとえ相手が誰であっても勝利を得られると確信しているのだ。
最初は復活させることも難しいと思われていたが、ガナンジュは諦めずに研究を重ね、そしてようやくもうすぐ復活させることができるのだ。
「では皆さん、《玉座の間》にて、今後の戦略を立てましょう。まあ、近々【サフィール国】と【トパージョ国】が攻めてくるでしょうが、こやつを復活させて、度肝を抜かせてやるのです。それまでは籠城作戦を決行して時間を稼ぎましょう」
「ふむ、ならその時までこのガーヴもこの場にいよう」
「あ、私も復活したところを見てみた~い!」
「よかろう。籠城作戦を長引かせるために、過激派魔族たちには食糧を運んでもらっておる。グハハ、楽しみだ。もうすぐ……もうすぐ俺の時代がやってくる!」
浮かれるガナンジュはそのまま皆を引き連れて地下から出ていった。
だがしばらくして、パキンとカプセルが割れ、中に入っていた液体が零れ出る。そしてその中にいた子供がカプセルの中で静かに立ち上がり、虚ろな瞳のままカプセルから出てきた。
しばらく正気が戻るまで立ち尽くしていた少年。そして徐々に瞳の中に灯が点っていく。キョロキョロと周囲を見回すと、階段を見つける。そこはガナンジュたちが上がっていった階段だ。
しかし少年は階段には向かおうとせずに、その小さな顔を天井へと向けて、そのまま膝を折ると勢いよく跳び上がった。
バキィィィィッと天井を突き抜けて、あっという間に地上へと出る。そこは城の敷地内であり、跳び上がった勢いのまま少年は空中にいた。
そのまま無機質な表情で地上を見下ろし、右手をかざすと、そこからバチチチと黒い放電現象が起こる。そのまま突如として雷のように落下した黒い電撃が国内にいる民たちを次々と襲う。
まるで雷自体が意志を宿しているかのように、獣のごとく素早く動き回り、建物を壊し火の手を上げて民たちの悲鳴を轟かせる。
その雷を受けた者たちは身体を痙攣させるとそのまま地面に倒れる。するとその人物の身体から魂のような物体が浮き出てくる。
その魂のような物体が、次々と少年の口の中へと飛んでいく。そして次第に悲鳴の数も少なくなり、少年も重力に逆らわずに大地へと降り立つと、ゆっくりと城の中へと入っていく。
そして騒ぎに気づいた者たちが少年の前に現れるが、少年の放つ黒い雷にやられて絶命していく。そうやって城の中にいる生命体を続々とその身に奪っていく少年。
ついには少年が《玉座の間》に辿り着く。突然現れた裸の少年に誰もが息を呑む。だが当然の如く、先程までその少年を見ていたガナンジュたちは愕然とした面持ちで目を丸くして固まっている。
「な、何故ここに……う、生まれたのか!?」
そのガナンジュの問いに答えず、少年から凄まじい放電が放たれ、周りの兵士たちを襲っていく。そしてその凶刃はドドックやガーヴにまで迫る。
二人は強烈な叫び声を上げながら白目を剥き倒れる。ミラージュはその悪夢のような光景を見て咄嗟にカーテンで身体を隠して身を固めた。
「な、なな何なのよぉ……一体ぃ……」
一瞬にしてこの場に居るほとんどの者の命を奪った少年。しかも不気味に表情を一切変えずに魂を口にする姿を見てミラージュは恐怖を抱いた。
「お、おお! さ、さすがは《混沌一族》だ! どうだ! 甦らせてやったのは俺だぞ! その力を俺のために使え!」
だが少年はそっぽを向いて周りをキョロキョロしだした。何かの存在に気づいたかのようだ。そして少年が黒い雷を天井へと向けて放つ。それは天井に大穴を開けて外へと飛び出していった。
ガナンジュは頬を引き攣らせながらも少年へと近づいていく。少年も物珍しいものを見るようにガナンジュの周りをチョロチョロと動き観察し始める。
「な、なあに、コイツらのことは気にしなくていい。駒などいくらでも集めることができる。お前さえいれば俺は天下を……っ!?」
その時、ガナンジュの腹部から鮮血が噴き出た。少年がその手でガナンジュの腹部を貫いていたのだ。
「な……にを……っ!?」
ガナンジュは両手で腹部を押さえながら血を吐く。それを見ていたミラージュは、バレないようにカーテンで身体を覆い身を隠す。
少年は物凄い形相で睨みつけてくるガナンジュに向かって黒い雷を放つ。そして彼の魂もその口の中へと収めていった。




