第百四十二話 最優先事項
ヨヨたちが会議をしている部屋にコンコンとノックがされる。代表してユリンが応対すると、そこにはバルムンクが立っていた。
「来たわね」
ヨヨはバルムンクがそろそろやって来るだろうと予測はしていた。そしてこの場にいるノウェムたちにも、バルムンクがグロウズを調べているという話もしておいた。
そして話が終わればこの場にやって来るということも。
バルムンクは室内へと促され、ヨヨの背後に控える。キュレアが席を勧めるが、「執事ですから」という理由で拒否した。しかしヨヨが「キュレア王の仰る通りにしなさい」と一言添えると、バルムンクは丁寧に皆に頭を下げてヨヨの隣の席に腰を下ろした。
「さてバル、まず結果を聞かせてくれるかしら?」
「畏まりましたヨヨ様」
皆の視線がバルムンクの唇へと注がれる。誰もが真剣な眼差しで、キュレアなどは喉をコクリと鳴らすほどだ。しかしそれも仕方がない。
バルムンクの調査した結果次第では、あの《五臣》であるグロウズと敵対するかもしれないのだ。正直彼に暴れられたら、城はすぐにでも半壊してしまうだろう。それほどまでに彼の実力は並外れている。
静寂が漂う中、バルムンクの唇がゆっくりと開かれる。
「結果的に申し上げれば………彼は白でございます」
その言葉にこの場にいる者がホッと安堵の溜め息を漏らした。緊張が一気に緩んだ。
「良かったのじゃ~」
さすがのノウェムも、あのグロウズと敵対したいと思っていなかったようだ。
「しかしバル、その根拠を聞かせてもらえるかしら?」
「はい」
そこでバルムンクから、グロウズとどのような対話をしたのか説明を受けた。
「そういうこと。やはり彼も《五臣》の中に裏切り者がいるかもしれないと考慮しているようね」
「はい。ですが根拠はなく、同じ《五臣》といえど軽々しく疑うことなどできず……といったところでしょうか」
「これでヨヨが申しておった上層部に内通者がいる線がより強くなったのじゃ」
ノウェムが腕を組みながら難しい顔を作る。
「そのようですね。あのグロウズ殿がそのようなお言葉を発したということは、少なからず怪しい人物が《五臣》に存在するということですからね」
ユリンの噛み砕いた説明に皆が頷きを返す。
「で、ではグロウズ殿もこの会議に参加して頂き、内通者を特定するために動いて頂くというのはどうでしょうか?」
そう提案するキュレアだが、ヨヨは首を横に振る。
「いいえ、内通者を特定するというのはかなりの時間を有します。相手も慎重に動いているようですから、たとえグロウズ殿が動いても容易に尻尾は掴ませないでしょう。その証拠に、彼はその正体を掴めていません。恐らくは《五臣》の誰かに違和感を覚えている……その程度なのかもしれません」
キュレアは「そうですか……」と、自身の提案に穴があったことに肩を落としている。
「ですが、この会議に参加して頂くというのはいいことだと思います」
「そ、そうですか!」
「はい。しかし内通者うんぬんの話はオフレコにして、話す内容は【ルヴィーノ国】の攻め落とす方法です」
「え……な、内通者は放置ですか?」
呆気にとられたように目を見開いているキュレアに対し、補足としてユリンが説明し始める。
「内通者がいようがいなかろうが、我々がするべきことは変わらないのですキュレア王」
「……?」
「今から内通者を探って、見つけて処罰したとしても、長い時間がかかるでしょうし、その間に【ルヴィーノ国】が【オウゴン大陸】へと攻め込む可能性の方が高いです。あくまでも内通者探しは、【ルヴィーノ国】を打ち倒してから……ということです。今我々がするべき最優先事項は、【ルヴィーノ国】を攻め落とすこと。そうすればクーデターも未然に防ぐことにも繋がります」
「そうじゃのう。《金滅賊》だけで【オウゴン大陸】を制圧できるとは思えんしな」
ユリンの言葉にノウェムが賛同すると、キュレアも納得したように軽く顎を引いた。
「ノウェム王の仰る通り、確かに《金滅賊》の規模は大きなものですが、大きな頭である【ルヴィーノ国】を叩けば、おのずと手足である《金滅賊》は瓦解するでしょう。そうでなくとも、《裁軍》が蹴散らしてくれるはずです。その理由として、やはり統率できる者が少ないということが挙げられます。イエシンの消失、そして幸運なことに【ドルキア】方面の《金滅賊》の長はヨヨ殿の執事が倒してくれています」
ユリンは一息をつくように軽く言葉を止めた後、さらに続ける。
「今《金滅賊》の長はたった二人。【ドルキア】にはいません。そして過激派魔族も動かせない。となれば、指揮をとれる人材が不足しています。烏合の衆である彼らを指揮するには、かなりのカリスマ性が必要になるでしょう。故に恐らくは【ルヴィーノ国】の誰かが総指揮をするはずです。つまりその総指揮である【ルヴィーノ国】を押さえることができれば……」
「このクーデターは確実に失敗に終わる。そういうことですねユリン」
「はい、キュレア王の仰る通りです」
しょせんは有象無象の集まりである《金滅賊》。彼らを指揮するには一国の王に匹敵するほどの才がなければならない。さらに種族も違う過激派魔族を束ねることなど、人間には無理で、恐らくは【ルヴィーノ国】が指揮をとらねばならないはず。
そして【ドルキア】も大陸が違うということで、素直に他の大陸の《金滅賊》の長の言うことを聞くとは限らない。今、クーデターを企んでいる者たちは崖っぷちに立たされているような不安定さがあるのだ。
「ですがこれもすべてはイエシンとマリヲンを倒してくれたソージのお蔭じゃな! うむ! 全てが終わったらヨヨとともに余の配下にならぬか!」
突然の勧誘。ヨヨは涼しい顔を浮かべて首を横に振る。
「とても魅力的なお誘いで光栄ですが、私にはあそこで暮らすのが好きですから」
ヨヨにとって、一番大切なのはあの屋敷であり、屋敷に住んでいる者たちなのだ。生まれ育ったあそこを離れて【サフィール国】に移り住むという選択肢はない。
「ふむぅ……残念じゃな……お主らが住んでくれたら、一緒に遊べるし、きっと毎日が楽しいのにのう」
ここにプッコロがいたら「何を厚かましいことを仰っておるのですか! というか遊ばずに仕事して下さい!」と怒鳴ってくるだろう。
口を尖らせているノウェムは、とても王などとは思えないほど子供っぽい。見た目と同じで精神年齢も低いのだろう。
だがヨヨも、彼女のそんな申し出に温かいものを感じていた。それはやはりノウェムの人柄を知っているからだ。本気でヨヨたちとともに過ごしたいと思っているからこその言葉だ。嬉しくないわけがない。
「ヨヨ殿には、是非【トパージョ国】のお抱え楽士として迎えたいとも思いますが」
驚くことに参戦してきたのはユリンだった。どうやら音楽を愛する国である【トパージョ国】は、相当ヨヨの腕前が気に入ったようだ。キュレアもユリンの言葉に優しく微笑み頷いている。
「ふふ、ありがたいお話ですが、今はまず、これからの問題を解決してからゆっくりお話しましょう」
ヨヨは脱線してしまった話を元に戻す。
「さて、とにかく我々がするべきことは【ルヴィーノ国】を討つこと。そのためにはグロウズ殿にも会議に参加して頂きましょう」
皆も賛同してくれて、バルムンクにグロウズを呼びに行ってもらった。




