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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第十四話 謎の目的

 真雪とセイラは今、勢いとはいえ海賊船に乗ってしまい、周囲から様々な視線の中心にいた。その中で特に不愉快げに視線を送っていたのが真雪が腕を掴んで乗船を強引に認めさせたユーラだった。



「そんで? お前らはどういうつもりなんだ?」

「えっとですね……どういうつもりも何も、さっき言った通りなんですが……」



 真雪も我に返って、自分がしてしまったことに顔を引き攣らせていた。隣にいるセイラは真雪にしがみつくような形で「えぅえぅ」と嘆いている。

 真雪はそんなセイラを巻き込んだのは自分のせいだと感じ、こうなった以上、ユーラに自分たちの旅の目的を教えることにした。



 確かに彼女たちは船を襲った海賊だが、ユーラに関してだけ言えば、何となく乱暴なことはしないだろうと思っていた。それは同年代だからという思いなのか、それともただの勘なのかは分からないが……。



「なるほど、お前らは東大陸に行きたいわけか」

「そ、そうです……」

「そんで、海賊のアタシらに足になれって、そういうことか?」

「……で、できれば……」



 するとユーラはダンッと床を踏みつけると、



「ふっざけんなっ! 何でアタシらがそんなことしなきゃなんないんだよ! 大体アタシらは海賊なんだぞ! そんな相手に乗船を願い出てくるなんてお前は頭おかしいのか!」

「えっと……あはは」

「笑ってる場合か! つうか何でこの状況で笑えるんだよぉ!」



 ユーラが頭を抱えていると、



「クハハ、船長、別にいいんじゃねえか? 俺らもちょうどそこら辺に行くわけだしよぉ」

「ほ、本当ですか!」



 先程剣士の相手をしていた男が助け舟を出してくれた。



「ちょ、おいレイス、余計なことは言うな!」

「クハハ! この男ばっかの群れん中に花が咲いたようで、野郎どもは結構喜んでっけど?」

「何ィ!」



 ユーラが周囲を確認すると、確かに男たちはニヤニヤして嬉しそうだ。



「ちょっと待てお前ら! アタシだって一応女だぞ!」



 すると男たちは互いに顔を見合わせ溜め息を漏らす。



「だってよ、頭は女だけど花っていうよりは……獣?」

「それはアタシの種族だろうがっ!」



 ゴツンと余計なことをいった子分を拳骨で小突くユーラ。確かにこの世界には獣族という種族がいて、その特徴をユーラは宿している。猫のように細長い尻尾に、頭に巻いているバンダナの下には恐らく可愛らしい獣耳があるのだろう。人型になれているということは、ユーラは獣族の中でも優秀な血を持っているということだ。



「まったく、アタシだってコイツらみたいに着飾れば少しは……」



 ブツブツと何か言っているが、レイスは面白そうに笑っているだけだ。そしてそのレイスが近くに来て、



「嬢ちゃんら、東大陸に行きてえんだろ?」

「あ、はい」

「なら途中まででいいなら送ってってやんよ」

「ほ、本当にいいんですか!」

「あ、こらレイス! 何でお前が船の進路を決めてるんだよ! 船長はアタシだろうが!」

「別にいいじゃねえか船長。旅は道連れ世は情けって言うだろ? それに海賊は海賊でも、俺らは義賊の意志を貫いてんだぜ?」

「う……それは…………ああもう、好きにしろ!」



 プイッと顔を背けて海に視線を向けるユーラ。何だか悪いことをしたようで真雪は申し訳なさそうな表情をする。



「ま、気にすんなって嬢ちゃん。頭はああ言っても、一度船に乗せた以上は無下に扱うことはねえ」

「あ、ありがとうございます」

「クハハ、けどこちとら海賊だからよ。襲撃とかしょっちゅうだし、そこは覚悟しとけよ?」

「あはは、お、お手柔らかに……」

「それは敵さんに言ってくれ。まあ、ここら辺は比較的大人しい海だし、大丈夫だろうけどよ。まあ、《赤海》に入りゃどうなっか分かんねえけどな」

「その、敵って他の海賊とかですか?」

「あ? まあ、そうだな。他には国の警備船だな」



 どうやら騒がしい船旅になりそうだった。下手をすればこの海賊船が万が一警備船に捕らえられた時、海賊扱いされてもおかしくはない。無論真雪たちの身分などを調査してもらえれば、何だかんだで放免はされそうだが、その時は大人しく【ラスティア王国】に帰ることになってしまう。だから真雪たちにとっては、このまま船が誰にも見つからずに東大陸へ着くことを祈るしかない。



「ご、ごめんねセイラ。勝手な判断で行動して……」



 親友には謝らないといけないことがたくさんだ。自分勝手な判断で行動してしまい、それに巻き込んだのだから。だがセイラは微笑みを浮かべると、



「大丈夫です。け、結果オーライなのではないでしょうか?」



 確かにこのまま東大陸に連れて行ってくれると言うのだから結果的には良かったかもしれないが、危険な旅になりそうなのでセイラには申し訳ないのだ。



「ま、この船が沈められることはねえよ。俺らは強えかんな」

「そうそう、あの自動人形(オートマタ)だって、頭にかかりゃちょちょいのちょいでさぁ」



 そう言ったのは魔法士と戦っていた男、名は確かガジとか言った。レイスは細マッチョな体型だが、ガジはどちらかというとぽっちゃり体型だ。



自動人形(オートマタ)……あの、聞いてもいいですか?」

「あ? 何だ?」



 真雪は聞きたいことがあったのでレイスに尋ねる。



自動人形(オートマタ)って一体どういうものなんですか?」

「知らねえんか?」

「はい」

「そっか。自動人形ってのは、人を模して造られた動く人形だ。いろいろ種類はあるが、あの自爆した奴は兵器型(キリングタイプ)だ。まあ兵器そのものっつうこった」

「へ、兵器?」

「ああ、嬢ちゃんらも見たろ? あの爆発。ありゃ、ターゲットを殺すために仕込まれた最終兵器の自己爆弾だ。元々兵器型(キリングタイプ)ってのは造んのに金もかかるし時間もかかるしで、製造中止してたらしいんだけどよ、何でもある国がもっと簡単に造れる製法を編み出したとかで、今じゃ裏オークションじゃ、結構取引されてるって話だぜ」

「ある国?」

「【ラヴァッハ聖国】だ。人形師や造形師の発祥の地だな」



 南大陸にある国の名前だった。



「それがどうして皇帝様に献上品として運ばれていたんですか? しかも兵器なんですよね? それに見た感じ、あれはまだ未完成だったんじゃ……」



 そんな真雪の言葉に反応したのはユーラだった。



「へぇ、観察力はなかなかのもんだなお前」

「え、あ、ありがとうございます」

「……お前ら、名は?」



 二人は素直に名前を言った。海賊なら名前だけで、自分たちが英傑としてこの世界に呼ばれたことは推測できないだろうと判断した。



「マユキ・アマカワにセイラ・ホシモリねぇ…………変わった名前だな。ニュアンスが【日ノ国】っぽいが、もしかしてそっち出身か?」

「え、えっと……」



 まさか英傑として召喚されましたとは言えず、どう答えたものか迷ってると、



「ま、別にお前らの出身なんてどうでもいいか」



 いいのかよと周囲から突っ込みが聞こえた。結構さっぱりした性格をしているようだ。そのお蔭で真雪たちは助かったのだが。



「お前の観察力に免じてさっきの質問に答えてやる」

「あ、はい! お願いします先生!」

「お、おにぇがいしましゅ!」



 真雪だけでなくセイラも答えを求める。しかしセイラは噛み噛みだったが。



「せ、先生だって……しょ、しょうがないなぁ、そこまで言うんならアタシがレクチャーしてやろうじゃないか!」

「嬉しそうだな頭」

「う、うるさいレイス! さっさと仕事に戻れ! お前らもだ!」



 顔を真っ赤にしたユーラを見て男たちは楽しそうに笑いながら方々(ほうぼう)に散っていった。



「おほん! えっと……質問の答えだったな」



 取り繕うように咳をするとユーラは順序立てて説明してくれた。



 まずあの自動人形(オートマタ)は【ラヴァッハ聖国】で造られたものではないということ。その理由として、もし【ラヴァッハ聖国】の物なら、いちいち真雪たちがいた西大陸に寄る必要が無いからだ。

 真っ直ぐ南から中央に存在する皇帝の住む大陸である中央大陸に向かえばいいのだから。そしてもう一つ、人形の完成度が低過ぎること。



 ハッキリ言って真雪の言うように、あの自動人形は未完成だった。本物はそれこそ人と比べても遜色無いほどの出来栄えらしい。

 するとここで疑問が出てくる。一体誰が造ったのか? そして何故そんな粗末な未完成品を皇帝に送ろうとしたのか?



「誰が造ったかは正直分かんないな。だけどそいつの狙いは分かる」

「狙い?」

「ああ、それは……」



 二人はジッとユーラの口元に注目する。



「……皇帝暗殺だ」



 彼女が言うには、あの戦闘兵器を使って、皇帝の御前で見せ、突然暴れ出した自動人形が皇帝を殺す。そういう筋書きだったのだろうと。

 だがもしユーラのように皇帝以外の者が近づいていたら、それは失敗したのではと真雪は尋ねる。



「ああ、あくまでも皇帝暗殺は最高目的だろう。人形を造った奴の当初の目的は、皇帝が命を狙われているという事実を広めること……だな」



 たとえ暗殺に失敗したとしても、皇帝が住む宮殿で献上品である兵器型自動人形(キリングタイプ)が暴れれば、皇帝が狙われたと思われるのが自然だ。



「どうしてそんなことを?」

「さあな、これはあくまでアタシの推測だ。けど未完成品を送ったってことは、最初から暗殺が成功するなんて思っちゃいない。皇帝に危機感を持たせることがそいつの目的だったと思うのは普通だろ? まあ、アレで皇帝が本当に死んだのならめっけもんだとか思ってたんじゃないのか?」

「はぁ……あ、だからそれを止めるために義賊のユーラさんたちはあの船を襲ったんですね!」



 真雪はそれならユーラたちは皇帝のために行動した勇敢なる者たちではないかと思って目を輝かせた時、



「は? 全然違うぞ? つうか皇帝が死のうが生きようがどうでもいいし」

「…………へ?」



 真雪だけでなくセイラまでもがキョトンだった。



「あの船を襲ったのは、アタシが探してるものが運ばれてるかもって思ったからだ。けど、また違った……」

「……あ、あの、探しものって何ですか?」



 するとギロリと、先程までと違って殺意に満ちた瞳を宿すユーラに、真雪は息を飲んだ。



「……自動人形(オートマタ)さ」

「え? ……自動人形(オートマタ)ですか」

「そうだ、あんな粗悪品じゃなく、それこそ普通の人間と何もかも同じような人形。アタシはそいつと、そいつを造った奴を見つけ出すためにここにいる」

「……何かあるんですか……その人形に?」

「……別に、ただの復讐だ」



 寒気がするほどの目を、自分と同じ年頃の少女がしていることに愕然とした。きっとあの船に積んでいるのが、その人形だと思って襲ったのだろう。しかし違った。



「一応お前らに聞いておく。額に瞳を持った銀髪を知ってるか?」

「え? ううん、知らないですけど」

「そっか……ならいい」



 一体過去に何があったのか、興味が湧いた真雪だったが、そんな軽々しく突っ込める内容ではないと悟り、それ以上は聞かなかった。



 それからユーラは自室へと戻って行き、ただで乗せてもらうのも悪いからと、真雪とセイラは、料理や掃除など手伝えることは手伝った。





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