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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百三十九話 ヨヨの推測

「とにかく、こちらとしては【日ノ国】を敵に回してまでソージ・アルカーサを仕留めるつもりはありません。マリヲンの消失は確かに痛いですが、まだ我々には手駒はあります。つきましては、【ドルキア】に滞在している《金滅賊》を、あなた方のうちのどちらかに纏めて頂きたいのですが」



 ドドックはこれ以上、下手にクーデター実行を妨げる障害を増やしたくなかったのだ。ソージに関しても、あのマリヲンなら殺せると思ったから仕事を依頼しただけ。

 それがまさか返り討ちに合うとは、彼も信じていなかった。



「あの《猛る姫》が傍にいる以上、ソージ・アルカーサも、彼女に鍛えられた弟子か何かなのかもしれません。これ以上は藪を突くと、蛇どころか三つ首の竜が出てくる可能性があります」

「ということはだ、その執事には二度と関わらないということか?」

「ん~な~んかやられっ放しで情けないけどねぇ」



 ガーヴとミラージュは、互いにも自尊心が高い。たとえマリヲンを倒したのがソージだとしても、自分なら倒せると思っているのだろう。



「いいのです。これ以上、無駄に戦力を削らないようにしましょう。クーデターも続々と準備ができつつあります。【サフィール国】と【トパージョ国】が同盟を結んだ以上、そろそろ動きがあるかもしれません。そちらにも対処をする必要が出ている以上は、もう不気味な執事のことは捨て置きましょう」

「……納得ができんがな」

「ん~まあでも大臣ちゃんの言う通りでもあるしねぇ」

「そうです。我々の宿願は、現皇帝を失脚させ、我々が天下を掴むことです。この腐った世の中を変えるには、もうそれしか方法はありません」

「……世を変える……か。そうだな、ドドックの言う通り、計画を進めていこう」

「そうねぇ、その執事ちゃんは気になるけど、こっちに向かってくる様子はないんなら放っておく方が安全かもねぇ」



 二人が納得してくれたようで、ドドックはホッと息を吐く。ここで二人が自分の力を誇示しようと動き、ソージを倒しに向かわないことに心底安堵していた。これ以上、存在自体が不気味で、後ろ盾も巨大な相手と戦う意味はない。



 ドドックはとりあえずこのことを王であるガナンジュに報告しなければならないことに鬱を感じている。



(いや、ここは伏せておいた方がいいかもしれん)



 もし話せば、厄介なことになると思った。



(直情型のガナンジュ様のことだ。ソージ・アルカーサの所業に怒りを感じて、奴を殺すことに躍起になる可能性もある。今は大事な時、王には計画のことだけを考えて頂こう)



 ガナンジュに報告するべき情報は選別しなければならないとドドックは強く思い、会議を終えた後、ガナンジュのもとへと向かった。












 その頃、ヨヨ・八継・クロウテイルのもとにも、ソージが《金滅賊》の長の一人であるマリヲンを倒したという報が届いていた。それはソージからの手紙による情報だったので、偽りがないことを知り、ヨヨはその情報を【サフィール国】の魔王ノウェムと、【トパージョ国】の魔王キュレアに教えることにした。



 会議室に集まったヨヨたち。ヨヨからソージの手紙の内容を聞き、ノウェムとキュレアは二人して顔を見合わせていた。



「おお! さすがは余が見込んだ者じゃ! まさかイエシンだけでなくマリヲンまで倒すとは! ヨヨ、お主の執事は素晴らしい働きぶりじゃ!」



 ノウェムは、依頼にはなかった仕事をこなしたソージを絶賛していたが、ヨヨは、ソージがわざわざそのようなことをする人物でないことは知っている。

 手紙でも、相手が攻めてきたので駆逐したと書かれてあった。言ってみれば偶然のようなものであるが、得てしてこれがノウェムたちの僥倖へと繋がっているのは間違いない。



「バルムンク殿といい、クロウテイルの執事は人材の宝庫のようですね。まさか【ドルキア】の《金滅賊》の長を倒せるとは驚かされました。これなら……いけますね」



 この波に乗り、【ルヴィーノ国】を攻め落とすことができれば問題は解決に導くとキュレアは考えているのかもしれない。



(いいえ、物事はそんなに単純ではないわね。たとえ【ルヴィーノ国】を制圧したとしても、まだ世界には多くの《金滅賊》が存在するわ。彼らをどうにかしなければ、また第二第三の逆賊国が生まれるわね)



 別にヨヨにとっては、今の皇帝が倒されても直接に被害はない。しかし別の皇帝が就き、その皇帝の采配では世がさらに混乱する可能性は高い。

 ともなれば今以上の悲しみが多くなる戦乱の世になることだった有り得る。ヨヨは世界を変えたいという大それた願いはもってなどいないが、それでも家族が平和に暮らせる世の中ではあってほしい。



 だからこそ、今の世の中はそこそこ満足を覚えてもいる。これが崩されれば、家族の暮らしも脅かされる可能性も出てくるかもしれない。



(《金滅賊》の気持ちも分かるけど、関係のない民を巻き込むのは頂けないわね)



 やっていることはそこらの山賊と変わりのない略奪行為。仲間たちを繋ぎとめるために、食糧や金品が必要なのも分かるが、それを街などを襲って奪うなどもってのほかだ。



 そうした世の中にした歴代の皇帝たちの治世が間違っているといえばそれまでだが、暴力で勝ち取った世の中は、いずれさらなる暴力によって覆されるのが世の常。



(結局はイタチゴッコなのよね)



 ただ、この世界の流れは簡単に変えることはできない。それはもう一本の大樹のように、太い根が深く深く大地に根付いてしまっている。大地から顔を出している部分を取り去ったとしても、地中深く埋められている根は再び成長し、同じ大樹を甦らせる。



 変えるには地中を掘り起こし、全てを新しくしなければ変わることなどない。ただ生半可な力ではそんなことはできないのだ。



(そして今の世界に、そんな力を持つ存在がいるのかしらね……)



 その時、キュレアのもとに側近であるユリン・リーが会議室に入ってきて、彼女に耳打ちをする。



「……!? ほ、本当ですかユリン?」

「はい。どうぞ、彼女たちにもお知らせ下さい」



 ユリンが、ヨヨたちにも話すように促すと、キュレアはその整った顔を若干険しくさせ説明し始めた。

 話の内容は、他の《金滅賊》の長が、【ルヴィーノ国】に集結したという情報だった。その理由は判明していないが、本格的に彼らが動く予兆を感じさせた。



「恐らく今回のマリヲンの件でしょう。まさかたった一人の執事に長が倒されるとは思ってもおらず、情報収集として他の長たちが国へと向かったのでしょう。ソージの手紙にも、マリヲンを街へ向かわせたのは【ルヴィーノ国】だろうと申してますから」



 ヨヨが自分の考えを述べると、他の三人も納得気に頷いた。



「ヨヨの言う通りじゃな。イエシンの件でソージのことを知り、あわよくばソージを味方に引き込もうとしたのじゃろ。かのガナンジュ王は人材収拾が趣味とも聞くのじゃ。だがソージの逆鱗に触れて返り討ちにあった、そんなところじゃな」

「ですが今、【ルヴィーノ国】に倒すべき相手が集まっているのは事実です。叩くなら今ではないでしょうか?」



 ユリンが提案する。確かに今回のクーデターの要であるトップたちが一つの場所に集まっている今は好機かもしれない。



「同盟の件は向こうも把握しているはずです。何かしらの対処をしていると思いますが?」

「ヨヨ殿の仰る通り、考え無しの【ルヴィーノ国】の国王でも、さすがにそこは考えている可能性は否めません。ですが、それを考慮にいれても今攻めるのは優位なのではないですか?」

「確かにユリン殿の考察は正しいかもしれません。ただ一つ、気になっていることがあるのです」

「……? 何でしょうか?」



 ヨヨは皆の視線を引きつけ、静かにその薄い唇を開く。



「そもそも、何故【ルヴィーノ国】はクーデターに踏み切ったのでしょうか?」

「……は? それは戦力が十分に整えられたと考えたからでは?」



 ユリンが首を傾げながら答える。



「はい。それも一つにあるでしょう。事が起これば、四つの大陸から一気に、【オウゴン大陸】を囲うように襲撃する。そうすれば一気に落とせると考えたのかもしれません。ですが、【オウゴン大陸】はいわば一つの大きな城のようなものです。いくら戦力があっても、籠城した相手を落とすのは至難の業です」

「なるほど……確かに言われてみればそうですね」

「ふむぅ、ならばヨヨ、お主は何がきっかけで奴らが行動を起こしていると考えておるのじゃ?」

「私も気になります」



 ノウェムの言葉にキュレアも同調した。



「……籠城を簡単に崩せる方法があります」

「それは何じゃ?」

「……籠城は確かに外からの攻撃に絶大な防御力を発揮します……が、内部からの攻撃には恐ろしく脆い」

「お、おいおいヨヨ、お主まさか……」

「はい。【ルヴィーノ国】と通じている者が、すでに【オウゴン大陸】、いえ、《皇宮》に入っているのではないでしょうか?」



 ヨヨの推測に皆が言葉を失っていた。





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