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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百三十五話 ターゲット

「何ィッ!? ジッダが殺されただと!?」



 過激派魔族の統率者だったイエシンを殺したのがソージ・アルカーサという人物だということは調査して明らかになったこと。

 そこで【ルヴィーノ国】の国王であるガナンジュの命令通りに、調査役に最適なジッダという部下にソージを観察し、情報を収集する役目を任せたのだが、そのソージに殺されたらしいという情報が大臣であるドドックの耳に入ってきた。



「むむぅ……ジッダは実力もあるはず。それなのに殺されたというのか……」



 情報収集役としてドドックの信頼が厚い部下がいち執事に殺された現実を受け入れられずにいた。



「いや、そもそも奴はイエシンや他の魔族を一人で殺していたな……さすがにジッダだけでは荷が重かったというわけか」



 どうやら自分の判断ミスが部下を死なせてしまった事実に渋い表情を浮かべていた。



「致し方ないな。こうなれば交渉などは無理だろう。国王様の仰る通りにソージ・アルカーサを殺す方が都合が良いか……いや、そもそも奴は屋敷から動いてはおらん。我々の邪魔をこれ以上するつもりなどないということか……?」



 もしこのクーデター計画を事前に阻止しようとしているのであれば、イエシンだけでなく《金滅賊》や自分たち【ルヴィーノ国】を叩きにくるはず。

 それを行わないということは……



「ただ単に、奴が個人的にイエシンを倒す理由があっただけということか……?」



 それならば説明がつく。イエシンに個人的恨みなどの理由があり倒したというのであれば、確かにイエシンという戦力を失ったが、放置していても問題はない。

 クーデター阻止を目的としてイエシンを倒したのだとしたら、いずれその牙が【ルヴィーノ国】にも向けられる可能性があったが、そうでないのであれば放置に限る。



「藪をつついて蛇を出さん方が良いか……」



 だがそれは国王であるガナンジュの命に背くことにもなる。何故なら彼は交渉が不可能であるなら殺せと言っているのだ。

 しかしこれ以上戦力を割くわけにもいかない。特に【ルヴィーノ国】の者を動かすことは控えたい。



「他国の動きも気になるしな……、あまり人数を割かん方が良いな。ならばとりあえず【ドルキア大陸】の《金滅賊》を動かしてみるか……?」



 彼らならば、数も豊富だし殺しにも長けている者たちがいる。そう考えて、ドドックは彼らにソージ・アルカーサの暗殺を任せることにした。












 【東大陸・ドルキア大陸】の東側に位置する海岸沿いに木造で造られた小屋が建っている。その周りには大勢の《金滅賊》たちが火を起こし鍋を囲っている。

 一人の部下が小屋の中に入り、ソファの真ん中に座り、左右に女性を侍らせている男性の前で跪く。



「ああ? 何事かね? 僕はこう見えてもこのレディたちのご機嫌取りに忙しいんだけどね?」



 サラサラ金髪ヘアーを手で払いながら、流し目で部下を見つめる男。名を―――――マリヲン・グレーシーという。【ドルキア】の《金滅賊》を束ねる長である。

 二十代後半の青年だが、左右にいる美女たちに相応しい美貌を持ったイケメンである。その碧眼に魅入られた女性は完全に目がハートになっている。



 部下はいつものことだと思っているのか、顔色を変えずに手紙をマリヲンに手渡す。



「ん~これは……」



 手紙の内容を見たマリヲンが不機嫌そうに眉をひそめる。



「と~っても面倒なお仕事を任されちゃったみたいだね。まあ、無視することもできるけど……」



 沈黙が流れたままマリヲンが口を開くのを全員が見守っている。するとマリヲンは静かにソファから立ち上がると、



「クロウテイルといえば、かなり美しい少女が当主だと聞いてたね。それは是非僕のものにしてみたいねぇ」



 まるで獲物を見定めるハンターのように怪しく瞳の光を放った。

 すると膨れっ面で左右の女性が立ち上がる。彼女たちが嫉妬していることを知ったマリヲンだが、女性たちの頬にキスを一つずつすると優しく微笑みかける。



「大丈夫さ。君たちも僕のレディたちさ。だけどこの愛は、全ての美女に分け与えなきゃならないだろ?」



 ウィンクをすると女性たちは心を貫かれたみたいに腰を落としぐったりとソファに身を預けている。



「フフフ、さあ、それじゃレディコレクションを増やしに行こうか」



 今、ヨヨが屋敷にいないことなど知らずに《金滅賊》のナルシスト長であるマリヲンが、クロウテイルの屋敷へと向かうことになった。










 《金滅賊》の長が向かってきていることも知らずに、ソージは暢気にお菓子を作っていた。今日の午後のティータイムは《チョコレートフォンデュ》である。

 この時期に旬の果物をたくさん用意し、屋敷の者たちと一緒に食べるために用意したのだ。大鍋一杯に注がれているグツグツ煮込まれたチョコレートと、冷やしたチョコレートの二種類がある。



 好みでホットでもコールドでも果物につけて食べることができる。食堂に集められた皆は、ソージのもてなしに全員が大喜びし、串に各々が果物を刺してチョコレートにつけて口にしている。



「はうあ~おいしいですぅ~」

「あまいのだいすきなの!」

「あまあまぁ~」



 お馴染みのニンテ、ユー、シャイニーの幼女三人組が甘いのが大好きなのは知っている。いや、彼女だけでなく、屋敷の者たちは皆甘いものが好きなのだ。



「もうソージのバカ! 最近太っちゃったのに、何でこんな美味しいもの作るのよぉ!」

「別に嫌ならお仕事に戻って頂いて構いませんが?」

「さあ、たっくさん食べるわよぉ! ああ! ちょっとニンテ、その《ガーネットベリー》は私のよぉ!」



 カイナの変わり身振りの早さに、そこまで仕事をしたくないのかと呆れるソージ。



「あらあら、このホットも甘さが増しているようで美味しいわ~」



 ユーの母親であるシーも頬に手を当てて満足気に笑みを浮かべている。そしてソージも一緒に食べていると、シーがクスクスと笑う。



「ん? どうかされたんですか?」

「うふふ、ここについてるわよ、ソージくん」



 そう言ってソージの口元についていたチョコレートを、その白魚のような細い指で撫で取った。



「あ、そ、その、ありがとうございます」

「いいえ、ん……」

「ええっ!?」



 驚くことにそのそのチョコレートをペロリと赤い舌で舐めとったシー。その行為には凄まじい色気が含まれていて、思わずゴクリと息を呑む。



「ふふふ、どうしたのソージくん、お顔が真っ赤ですよ?」

「あ、い、いえっ! 何でもありませんですはいっ!」



 胸の動悸が治まらないが、これ以上彼女の顔を見ているとずっと見続けてしまいそうなので顔を背ける。



(くぅ~シーさんってば、天然なのか魔性かのか分からねえ~!)



 狙ってやっているのか、それとも自然にやっているのかソージには判別不可能。だがどちらでもいいと思っている自分は男として間違ってはいないような気がした。



 シーの魅力にコロリといきそうになっているソージだが、それを見ていたのか、幼女三人組も、自分の手にわざとチョコレートをつけて、ソージの前にやってきた。

 そしてジ~ッと三人がソージを見上げてくる。



「え? あ、あの三人とも?」



 訪ねた瞬間、自分の手につけたチョコレートを、三人が三人ともペロペロと舐め始めた。まるで飴でも舐めているようだ。



「あらあら~」



 シーはそんな三人を微笑ましく見つめている。しかしながらソージはどういう反応をしたらいいか戸惑っている。恐らく、シーの行動はソージが喜ぶものだと思ったようなのだが、どうにも三人のペロリは、若干汚らしい行為に思えて肩が下がる思いだった。



 それでも何もしないのもどうかと思ったので、一人ずつ手に取り、しっかりとハンカチで拭いてやった。ソージに構ってもらったことで満足したのか、上機嫌の三人は再びチョコレートの方へ飛んでいった。



「お前はホント~に罪作りな奴だよな? 手当り次第マンよ」

「そんな漫画の中だけにいそうな名前をつけないで下さいデミックさん」



 健康な褐色の肌を宿した庭師である男性のデミックが、串を片手に近づいてきた。



「カカカ、それにしてもよ、当主様はまだ帰ってこねえのか?」

「ええ、連絡はありますので大丈夫ですよ」

「ま、心配はしてねえよ。あの肝っ玉のでけえ当主様のことだ、今頃王族を従えてたりしてな」

「…………お嬢様ならやりかねなさそうなので口にしないで下さい」

「カカカ、それだけ器がでけえってこったろ?」

「そうですね。お嬢様なら一国相手でも決して引かないでしょうし」



 正直、ヨヨの器の大きさは国王にも負けていないと思っている。別に王になってほしいわけではないが、そんなヨヨを危険視する輩が出てこないかはいつも心配している。

 以前にも、ヨヨの将来性や才能に嫉妬して命を狙ってきた者もいた。



(ま、嫉妬する感情は理解できるんだけどな)



 ソージは執事として完璧なバルムンクのことを嫉妬しているといってもいい。いずれ彼の背中に追いつき追い越せるように努めようと決めている。無論殺したいなどとは思わない。

 殺せばせっかくの目標がなくなってしまうからだ。そういう考え方ができない者が世の中にはたくさんいるんだろうなと思いつつ、再度 《チョコレートフォンデュ》を堪能する。





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