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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百三十三話 ルヴィーノ国

 ヨヨの問いに答えを迷っているキュレア。このまま座して沈黙を守っていれば起こり得てしまう被害。そしてユリンもまたヨヨの考えが一理あることを悟っているようで苦々しい表情のまま思案顔をしている。



 しかしヨヨは一つホッとしていることがあった。それは先程グロウズが、あっさりと可能性を示唆したこと。本来なら皇帝が魔族を滅ぼそうとする可能性など易々と口には出せないはず。

 それでも彼はその可能性があるということを口にしてくれた。そのお蔭で薄っぺらい信憑性しかなかったヨヨの言葉に、強烈な説得力が付与されたのだ。



(彼には後でお礼を言わないといけないわね)



 チラリとグロウズを見ると、彼も視線に気づき頬を若干緩めた。その仕草から、どうやら彼が手助けをしてくれたことを理解した。このまま平行線を辿っていくよりも、グロウズの一言で結果を導き出せるのならと、彼は言葉を口にしてくれたのだ。それもヨヨの説明が的を射ているものだったからこそ、彼が後押ししてくれたのに変わりはないだろう。



 あとはこの現実を踏まえて、どういう答えを出すかはキュレア王次第である。しかし彼女はまだ決めかねているようで、ユリンと難しい顔を突き合わせている。

 恐らく一番の懸念は、やはり裏切り行為なのだろう。過去に経験したものが、重い枷となって、彼女たちの判断を鈍らせてしまっている。



(それなら最終手段といきましょうか)



 ヨヨはバルムンクと目線を合わせ互いに頷き合う。そして護衛の兵士たちのもとへ行き、彼らがかついでいる大きな箱を受け取りヨヨの前まで持ってきた。

 その行動に一同はキョトンとなっていたが、さすがに誰も喋らないというのは話が進まないと思ったようで、グロウズが「それは一体何ですか?」と尋ねてきた。



「これはジャンブ殿に用意して頂いたものです」



 バルムンクが箱の中身を開けると、そこには様々な楽器が安置されてあった。



「……楽器?」

「はい、楽器です」



 さすがに何故この場で楽器なのか分からなかったのだろう、グロウズも目をパチクリとさせて不思議そうに首を傾げている。

 ヨヨはその中の一つであるヴァイオリンを手に取り、視線をゆっくりとキュレアに向ける。それまでおどおどしていた彼女だったが、明らかに興味を持ったようで瞳に輝きが見えた。



「キュレア王、そしてユリン殿。今から私の演奏をお聞き下さい。そして是非、私の音をお聞きになり、私の想いを受け取って下さい」



 そう言うと、楽器を構えて静寂が支配する中、ヨヨが透き通るような音を奏でだした。最初は耳を鳴らせるために静かな音を基調として、大人しいリズムを刻み、それを徐々に激しく心躍るような楽しい旋律を生み出していく。



 最初の内はポカンとしていた誰もが、ヨヨの演奏を聞いて聞き惚れるように頬を緩ませ始めている。目を閉じ、音楽に身を委ねる者まで出てくる。

 ノウェムも「お~!」といった感じで口を尖らせて感嘆し、あのグロウズも目を見張っている。まさにヨヨの独壇場。小さなオーケストラである。



 するとキュレアがリズムを合わせるように頭を揺らし始める。ヨヨは閉じていた目を微かに開き、彼女が楽しんでくれていることに嬉しさを覚えた。

 そしてその視線をバルムンクへと向け、彼が首肯した後、箱から小太鼓を取り出すと、ヨヨの音楽に合わせて叩き始めた。音楽にさらに色がつけられ一層素晴らしいものに変化する。



 そしてウズウズしているキュレアの表情を見て、ヨヨはニッコリと微笑み、箱の中に視線を促す。その中にはフルートが置かれてある。



「あ、キュレア王!?」



 ユリンの制止も無視してキュレアは箱に近づきフルートを手に取ると、手慣れたようにささっと調整し、そしてともに音楽を奏で始めた。

 突然のキュレアの行動にヨヨとバルムンク以外全員が吃驚する……が、すぐにその驚きはべつのものに変わっていく。それはヨヨの音楽とキュレアの音楽のユニゾンの放つ無二の音。



 強烈なヨヨの腹に響くような音に合わせ、鋭く美しい音色を持つキュレアの音が絶妙にマッチして、バルムンクの太鼓の音がリズムを刻んでいく素晴らしい芸術を見せつける。



 ユリンもヨヨと顔を合わせて楽しげに演奏するキュレアを見て、軽く溜め息を溢すが、どことなく先程までの冷たい雰囲気が消えていた。



(音楽は国境を越える。音楽を愛するこの国なら、私の想いは届くはず)



 そう思い、今回の演奏を企画していた。キュレアが無類の音楽好きであり、自身も楽器を使って演奏できることを事前に調べていた。中でも得意なのがフルートだということを知り、今回、できれば一緒に演奏できればと思い用意したのだ。



 一緒に演奏すれば、疑いなど消える。何故なら腹に一物を抱えたまま、心を開かなければ、これほど素晴らしい音を奏でることなどできないのだから。

 そしてそれは音楽を愛する者だからこそ、明確に心に伝わってくる。ヨヨにはキュレアの想いが、キュレアにはヨヨの想いが、真っ直ぐに音楽に乗って伝わる。



 演奏が終わった時、突如として拍手喝采が浴びせられた。うっすらと額に汗を浮かべるヨヨとキュレアは、顔を上気させながら互いの顔を見合わせ微笑む。

 まるで言葉は必要なく、音楽ですべてを語ったと言わんばかりの表情だった。



「凄かったぞヨヨ! 今度は是非城の者にも聞かせてほしいのじゃ!」



 ノウェムがかなり気に入ったようで、手放しで喜んでくれている。



「いや、キュレア王も素晴らしかった! 今度は国を挙げて音楽会などどうじゃ!」

「……お、音楽会…………はい、是非!」



 初めて見せる穏やかで明るい笑顔。それがキュレアの本当に素顔なのだろう。そしてユリンはそんな彼女の隣に近づき、苦笑を浮かべながら、



「どうでしたか、ヨヨ殿の音楽は?」

「ええ、とても素晴らしかったです。気高く、強く、そして温かい。とても心躍る音でした」

「それはこちらも同じですキュレア王。あなたの優しい旋律。それはすべてを包むような癒しの音でした」



 ヨヨの言葉に恥ずかしそうに頬を染め上げるキュレア。そしてユリンが彼女の額に浮き出ている汗をハンカチで拭くと、そのままの状態でキュレアに対し頭を下げる。



「キュレア王、ご判断を」

「……私が決めていいの、ユリン?」

「少なくとも、今私が考えていることは、キュレア王と同じだと存じます」

「…………分かったわ」



 キュレアがヨヨに微笑みかけると、視線を動かしてノウェムに向けられる。



「ノウェム王、我が【トパージョ国】は、あなた方とともに逆賊を討つことを決定します」

「うむ! ともに魔族の平和を勝ち取るのじゃ!」



 互いに握手を交わして、笑顔を浮かべている。

 ここに【サフィール国】と【トパージョ国】との同盟が成った。











 二つの国が同盟を結んでしばらく、【ルヴィーノ国】の国王――――――ガナンジュ・バッハ・ルヴィーノは玉座に座りながら、部下から同盟の話を聞き不愉快気に眉をひそめていた。



 まるで高熱を含んでいるかのような真っ赤な肌は、《赤肌族》の特徴を示したものである。大きくいかつい顔面に、鷹のように鋭い赤い瞳。そして全ての筋肉が異常なまでに発達しており、存在感の密度が限りなく濃い。まさに王として相応しい威圧感を放っている。



「信じられんな。まさかあのビビリ国が同盟を結んだだと?」

「どうされます?」



 ガナンジュの目前で頭を下げているのは大臣であるドドックである。同じ《赤肌族》であり、こちらはどちらかというと細身の身体をしている。



「どちらにしろ二つが手を組んだ事実は放置できんなぁ。すぐに対策を立て……」



 ガナンジュの話を遮るように、そこに一人の兵士が走り込んでくる。そしてドドックが兵士に話を聞くと、ドドックの瞳が大きく開かれる。



「どうしたドドック?」

「実はですな、何者かにイエシンが殺されたらしいのです」

「何だとっ!?」



 思わずガナンジュが立ち上がり、声を張り上げる。



「どういうことだそれは! 一体何があった!?」

「それが……確認に向かわせた部下が、【アラクレ島】の惨状を見た結果にございます」

「……【サフィール】の手の者がやったのか?」

「恐らくは……もしくは皇帝が動いたのかもしれません」

「ちィ……面倒なことを」



 ガナンジュは苛立ちを露わにしながら腰を下ろすと、少し考える素振りを見せてからドドックに対し口を動かす。



「まあいい。まだこっちにも手駒はある。《金滅賊》の方はどうなっている?」

「はっ! 彼らについては大陸中に存在していますので殲滅は無理かと。それに攻撃を受けたという報告も受けてはいません」

「とにかくまずは情報を集めろ! 特にイエシンを殺った奴らだ! 奴は猜疑心が強く慎重派だ。それなのに殺したということは、相手はかなりの手練れだ。【サフィール国】にそれほどの実力の持ち主は発見できん。恐らくあのノウェムが雇った者だろう! 調査しろ!」

「分かればどのようになさいますか?」

「金で動くなら交渉だ。もしこっちに靡かぬようなら殺せ!」

「畏まりました」



 ドドックがその場から立ち去る。誰もいなくなった状況、ガナンジュが忌々しげに呟くように言う。



「どいつもこいつもめんどくせえ。俺様が皇帝になったあかつきには、まず【サフィール国】と【トパージョ国】は滅ぼしてやる」



 いみじくもヨヨが推察した通りの考えをガナンジュは持ってしまった。





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