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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百二十七話 覇気を持つ少女

「お初にお目にかかります。私は【モリアート】出身のヨヨ・八継・クロウテイルと申します。この者は父に仕える執事のバルムンクです」



 ヨヨはグロウズの前で自らとバルムンクを紹介した。



「【モリアート】のクロウテイルと言えば情報屋の……かな?」

「その通りです。以後お見知りおきをお願い致します」



 失礼のないようにヨヨとバルムンクは丁寧に頭を下げる。



「そう畏まらないでほしい。私はこう見えても平民出身だ。もう少し気軽に接してもらった方がこちらとしても気を遣わなくて助かるのだが」

「そうは申されましても、あなたが成された業績を考慮すると、とても親しく接することは難しいかと存じます」



 ヨヨの一線を引いた態度にグロウズは恐縮したように頭をボリボリとかく。



「その歳で一切の揺らぎを見せないとは、クロウテイル現当主は冷静沈着という情報は正しかったようだね」

「まだまだ若輩者ですが、クロウテイルの名に恥じない行動を肝に銘じているだけです」

「まさしく誰かにも見習って頂きたいものですな」

「む? おいジャンブ、それはまさかとは思うが余のことではなかろうな?」

「……私は誰かとしか申し上げていませんが」



 完全にノウェムのことだと思うが、ノウェムは口を尖らせながら不愉快そうにジャンブを睨みつけている。



「もういい! グロウズ殿、そういうわけで、ここにおるヨヨに交渉役を任せておる」

「なるほど。面白い人選ではありますね」

「そうじゃろう? ヨヨのことを調査して、こやつならばと余のアンテナがピンと張ったのじゃよ」

「…………一つ、提案をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」



 グロウズが手を軽く上げたので、皆の視線を集める。



「何じゃ?」

「これから【トパージョ国】へと交渉に向かうのですよね?」

「まあの」

「それに是非お供させて頂きたいのです」

「……何故じゃ?」



 ノウェムの目が若干鋭い光を帯びる。それに気づいているであろうグロウズは、完全に受け流しながら淡々と口を開く。



「ノウェム王が推薦するヨヨ殿の手際。それを是非この目で見てみたいと思っただけです。他意はありませんよ?」

「ふむ…………ヨヨはどうじゃ?」

「構いません。それほど特別なことを行うわけではないのでつまらないと思いますが、それでもよろしければ」

「うむ、ならよいじゃろ。交渉に関してはヨヨに一任しておる。ただしいくら皇帝の使いだとはいえ、ヨヨの邪魔をするならば許しはせんぞ?」



 さらに細められた瞳がグロウズを射抜く。グロウズはフッと頬を緩めると、一切の揺らぎを見せない眼差しを彼女に向ける。



「もちろんです。これは皇帝を守るための一端。それを邪魔するというのであれば、皇帝に背く行為。もし私がそのようなことをすれば、遠慮なく打ち捨ててもらいたい」



 グロウズから発せられた言葉には覚悟の重みを感じる。しばらくノウェムとグロウズが見つめ合って、不意にノウェムが肩を竦める。



「……ふぅ~やっぱり本物じゃなお主は」

「それは光栄の至りですね」

「それと一つ言っておきたいが、仮にお主を討つことになっても、討たれない自信があるんじゃろ?」

「いえいえ、確かに今まで培った経験上、簡単に討たれないと自負しておりますが、世の中には想像を絶する強者も確実に存在するはずです。そのような者が相手では、私も討たれることだってありますから」



 チラリとグロウズがバルムンクを見つめるが、バルムンクは目を閉じたまま静かにヨヨの傍に控えているだけだ。



「まあの。少なくともお主と同じ《五臣》は、同等の実力を持ってるという話じゃからな」

「そういうことです」



 皇帝の直近である《五臣》は、その実力を認められている者が与えられる立場である。その中の一人である《皇帝の剣》であるバロウズは、純粋な戦闘力だけを見れば一番強いとされてはいる。



 しかし他の《五臣》もバロウズに劣らないものを備えているらしい。皇帝の信頼を最も手にしている五人の超人と呼ばれている。



「とにかく、ヨヨにあとは任せる。何か必要なことがあるのなら教えてくれ」

「では一つ。今回の交渉では是非ノウェム王にも御同行願いたいのですが」

「ほう、それは余が行かなければならない理由があると?」

「はい。ジャンブ殿にはお伝えしましたが、本来相手の本音を引き出すには、こちらも真摯な態度を見せるべきです。相手は一国の王が相手。なら、こちらも王が足を運ぶべきです。交渉に優劣を作ってはいけません。いえ、作ったとしてもそれを相手に感じさせてはいけません。故に平等の場を作るためにも、ノウェム王が直接、相手と接する必要があります」

「確かにこっちは部下を送って返事を聞こうとしておるだけじゃしな。向こうから見れば誠意を感じられないと思われても仕方ない……か」



 ノウェムも理解したようで顎に手をやり納得気に頷いている。



「交渉を成功させるにはまず対等の立場に立つこと。そして相手には交渉に乗った方が利益があると思わせることです。まずは同じテーブルを囲む。今まではそれすらもできていない状態でした。だからこそ、今回はその舞台を作ることから始めなければいけません」



 ヨヨの凛とした佇まいと、理路整然とした言葉に周囲の者は呆気にとられて固まっていた。










 一国の王を前にして悠然と自分の意見を放つヨヨを目にしてグロウズは目を見張っていた。



(この少女……纏う空気だけなら一国の王と遜色ないぞ)



 ヨヨの醸し出すオーラから、並々ならぬ気迫を感じる。それは武人とはまた違った威圧感であり、言ってみれば覇気と呼ばれるものだ。

 それは持って生まれた資質そのもの。鍛えても手にできない天賦の才。グロウズでさえ持ち合わせていない王が放つ覇気。



(一介の貴族がこれほどの覇気を持つとは驚きだな)



 それに情報屋として培った経験は、彼女の発言に強烈な説得力を生んでいる。彼女の言葉には反論の余地もないほど正しいものだった。確かに交渉を上手く成功させるためには相手を不快にさせては駄目だ。



 今までノウェム王は部下に交渉を任せていたらしいが、相手からすれば誠意を見せるなら王自身が来いということだろう。

 ヨヨの言う通り、今までは舞台すら整えられていなかったのだ。



(まあ、国としてもそう簡単に王を動かせないと判断して今までノウェム王を場に向かわせなかったのだろうが……この状況、確か三度目の交渉。これ以上下手をすれば相手から完全に拒絶されてしまう可能性が高い)



 そうなれば、たとえ王が出ていってもすでに交渉の余地はないと断じて二度と舞台を作ることは叶わないだろう。つまり実質的に今回が最後のチャンスに成り得るかもしれない。



(だからこそ彼女は恐らく側近である彼をまず説得した……か)



 ヨヨから視線をジャンブへと移動させる。彼が参謀役として傍にいることは間違いない。だが今までの手腕から考えるに少し実力不足なのだろう。

 ヨヨはそんな彼をまず攻略した。ノウェム王はああいう性格だから、恐らく反対する可能性は低い。だが周りの者は違う。特に王の身を案じるジャンブは渋ってしまうだろう。



 しかし今回の交渉がどれほど重大な分岐点になるかをヨヨが説明をしてジャンブを納得させたのだ。



(なるほど。交渉役として申し分はなさそうだな)



 もしヨヨが失敗するようなら、力づくでも首を縦に振らせることも考慮にいれていたグロウズだが、その必要はなさそうだと判断する。

 そして彼女の近くに控えているバルムンクにも視線を向ける。



(先程、少し挑発してはみたがまるで静寂を貫くか…………只者ではないな)



 一目見た時からバルムンクは自分と同じ武人だと判断できた。しかもその力量も計れないほど強いものだ。これほどの人物がいち執事として甘んじていることが信じられなかった。

 またそのような人物を傍に控えさせているヨヨの器も見せつけられた。



(存外、楽しい旅になりそうだ)





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