表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
110/182

第百十話 ソージの成長

 本当に化け物だと思った。ソージも常人と比べるべくもなく、相当の実力を持っていると自負している。だからこそ今までヨヨを守り続けてこれたのだから。



 だが今、目の前に立ち、自分を見下ろしている存在は全くの異質を感じさせる。全てにおいてソージを大きく上回っている存在。昔からその立ち位置は変わることはなかった。



 いつかバルムンクに追いつき追い越すことを目標としてきたが、こうして改めて彼の強さを体感すると、その目標がとんでもなく馬鹿げたものだと思い知らされる。



(くそぉ……強いなんてもんじゃないぞ……)



 チラリと仰向けになりながら視線を動かすと、心配げにこちらを見つめる真雪たちが見える。何かを叫んでいるようだが聞こえない。シャイニーは今にも飛び出してきそうだが、オルルに抱きしめられているためやはり叫んでいるだけだ。



 ニンテも、ユーも、シーも、セイラも、コーランも皆がソージを青ざめた顔で見つめている。何とか彼女たちにそんな顔をさせたくないと思うが、どうも身体が動かない。



(はは……こりゃ今日はこの辺で終了かな……)



 もう気分は完全に諦めムードに入っていた。だが次の瞬間、



「コラァァァッ!」



 突如空気を斬り裂くような声が耳をついた。その正体は――――――実の母、カイナだった。



「コラ息子ぉぉっ! さっさと立ち上がって一発ぐらい入れなさいっ! アンタは今の執事長でしょうがっ!」

「…………」

「アンタのその顔、今諦めようとしているとこでしょっ!」



 さすがは母親。顔には出していなかったつもりが、カイナには見抜かれていたようだ。



「周りを見てみなさいっ!」



 見た……もう見た。そう言いたいが口が動かない。心が震えないのだ。



「この子たちにこ~んな顔させてんのはアンタなのよソージッ!」



 カイナの叫びに、皆が彼女の顔を見つめて見守っている。あのシャイニーでさえ、先程までの叫びを止めて黙って見つめてしまっている。



「このまま諦めたらアンタ、分かってるわね!」

「……?」

「毎晩毎晩、私が添い寝しておはようからおやすみまでずっと一緒に生活して、街一番のマザコンにしてやるわよっ!」



 ビシッと指を突きつけて宣言するカイナに、皆がポカ~ンだった。それはそうだろう。何というか、この場に相応しくない言葉過ぎる。しかし何故かソージは頬が緩むのを感じていた。

 固くなっていた身体が次第に解れていくのも分かった。



「それにね! 見なさいヨヨ様をっ!」



 カイナの言うようにヨヨの顔をそのままの状態で見つめるソージ。彼女は一切揺らぐことなく真っ直ぐにソージを見つめていた。その表情を見てハッとなる。彼女の目は疑っていない。ここでソージが諦めてしまうと全く思っていない眼だった。



(そうか……)



 ヨヨが自分を信じてくれている。皆が心配してくれている。



「ヨヨ様の信頼を裏切ったら、もうディープキスだからねっ! ママと! ふっか~いやつ!」



 ヨヨの期待に応えるには? 皆の心配を払拭するには?



 答えは簡単だ。ただ最後まで諦めなければいい。



「そ……それだけは勘弁……してほしいので……立つことにしますよ」



 ソージは苦笑を浮かべながらも身体を震わせ立ち上がることに成功した。



「ほほ、それこそ若人ですな」



 バルムンクも穏やかな笑みを浮かべながら、まるでこの状況を望んでいたかのように言葉を発した。

 ソージは大きく深呼吸をする。するとソージの両手から黄色い球体状の炎の塊が幾つも出現し始める。そしてそれがプカプカと周囲に広がり始め、訝しんだバルムンクがその場から距離を取った。



「むぅ……初めて見る炎ですな」



 それもそのはず。この黄炎はバルムンクが【日ノ国】へ向かった後に発現させた力だ。しかし初めてなのはソージも同じ。……こういう使い方をするのは。



「散れっ! 黄炎っ!」



 ソージを中心にして炎の塊が周囲へと散らばっていく。その領域にバルムンクも閉じ込められる形になる。



「…………身体もガタがきてますんで、一瞬ですよ……バルさん」



 ソージのその言葉を聞いてバルムンクはすぐさま愕然とした面持ちを浮かべる。何故なら瞬きすらも許していないその時間の中で、ソージが立っていた場所から瞬時に懐へと入ってきたからだ。



「むぅっ!?」



 それでもバルムンクは反射的に拳を繰り出していた。閃光のような一撃は見事にソージの顔を打ち抜き、そのまま吹き飛んでしまったが、ギリッと歯を噛み締めると、すぐにまたその場から姿を消した。



「っ!?」



 またも目の前から消失したソージにバルムンクは目を見張る。しかしバルムンクの危機感知能力は凄まじく、すぐに意識をソージへと向けさせる。

 ソージがいたのは彼の上方一メートルの場所。バルムンクが目を鋭くさせると、再び拳を突き上げようとするが、今度はその攻撃には当たらず再度ソージは姿を消す。



 今度はバルムンクの左側に出現。だがそれすらも彼の超常的な反射神経が反応してまるで勝手に身体が動いているかのように左足がソージの顎先を狙って向かってくる。



(まだまだぁっ!)



 あと数センチでバルムンクの足が当たると思われた瞬間、すぐにまたその場からソージは消える。



 この時――――――――――攻撃を開始して一秒ちょっと。



 そのあまりにも短い時間の中で確かに行われた攻防を確認できた者は少ない。しかし間違いなく火花すら散るような接戦をソージとバルムンクは経験していた。

 そしてまだその攻防は続いている。



 ソージが次に出現したのはバルムンクの足元。すでに水面蹴りの準備ができている。しかし先程と同じようにバルムンクはヒョイッと右足で軽く跳ぶと、そのまま左足を素早く戻してソージに攻撃を加えようとする…………が、ソージは笑みを浮かべた。



 その笑みに気づいたバルムンクだったが、すでにもうソージの策にハマってしまった瞬間だった。彼の足元から消えたソージは足を突き出している彼の背後へと現れる。



「一撃ィィィィィィッ!」



 ソージは右拳を震わせて力一杯突き出した。さすがのバルムンクも、体勢を崩された上に、身動きの取れない空中。しかも虚を突かれまくった戦法を受け、この一撃は間違いなく――――――――



 ドガァァァッ!



 彼の身体に届いた。



「ぬっ!?」



 初めて見せる痛みに顔を歪めるバルムンク。だがソージの攻撃はまだ終わらない。



「このままァァァァァァッ!」



 吹き飛ぶバルムンクの死角に次々と出現して攻撃を繰り返していくソージだが、バシバシバシバシバシッと今度は見事に手と足を器用に使って防御するバルムンク。



(さすがバルさん! 同じ攻撃は二度と通じないか!)



 ソージは全身から汗を大量に流しながら、口の中も枯渇感を感じつつ、それでもまだ転移し続けて四方八方から攻撃を繰り出す。



「はあァァァァァァッ!」



 バルムンクの懐へ入りソージは拳を突き出し、それをバルムンクは迎える。そして激突した瞬間、二人を中心に爆風が生まれ周りに浮いていた黄炎は吹き飛んでしまった。



 他の者も風圧を受けて咄嗟に身を構えながら、その風を生み出した存在に注目する。

 そこには拳を突き出しているソージと、両手でもってそれを防いでいるバルムンクの姿があった。



「ヤッハッハ、強うなりましたな……ソージ殿」



 嬉しそうなバルムンクの顔を見て、ソージも力無くだが確かに笑いそして……そのまま地面に倒れてしまった。



「パパァァァッ!」

「想くんっ!」



 シャイニーと真雪が、もう堪らずといった感じで倒れたソージに向かって駆け込んでいくが、そのソージを一早く抱きしめたのはヨヨだった。

 そして意識を失ったままのソージに向かってヨヨは静かに言う。



「よくやったわ……さすがは私の執事よ……ソージ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ