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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第四章 闇の人形師編
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第百九話 元執事長の実力

 ソージが裏庭に到着した時、そこには執事服ではなく青い道着を身に付けたバルムンクと、屋敷の主であるヨヨが立っていた。



 ソージもまた執事服ではなく道着を着込んでいる。あれから裏庭へ向かう前に、多分こうなるだろうなと予測して部屋に戻り道着に着替えておいたのだ。



「ほほ、どうやらちゃんとオルルさんのお言葉が伝わったようでございますな」



 淡々と喋るバルムンクだが、その言葉を聞いてソージは背中にじんわりと冷たいものが生まれるものを感じている。

 覚悟を決めて大きく深呼吸すると、二人の近くへと進むソージ。



「お待たせ致しました。まさかヨヨお嬢様もおられるとは」

「バルが是非見ていてほしいと言うものだから来たのよ」

「そうですか……あ、あのバルさん、ゆ、緩みがあるとお聞きしたのですが……」



 少しでも刺激すると爆発するようなものを扱うかのごとく慎重に言葉を吐くソージだが、バルムンクの瞳がキラリと光り、次の瞬間彼から閃光が放たれる。



「おわっ!?」



 咄嗟に上半身を後ろへと逸らす。閃光に見えたのはバルムンクの拳だった。



(あ、危ねえぇ……)



 心底自分の反応速度に感謝する。もし直撃していれば弾かれたパチンコ玉のように遠くへ飛ばされていたかもしれない。



「ほほ、これくらいは避けられるようですな」

「あ、危ないじゃないですか!? い、一体何をいきなり!?」



 するとバルムンクの柔和な面相が崩されキリッとした表情で見つめられた結果、ソージは言葉に詰まってしまう。



「お聞きしましたよソージ殿」

「な、何をでしょうか……?」

「最近この屋敷に賊が入り込んだ時のことでございます」



 ……え? 賊? 



 突然の攻撃により混乱していた思考を元に戻して過去を掘り起こす。そして確かに屋敷の中に賊が入って来たことがあった。

 あれはユーがこの屋敷へ来てまだ間もない時、そのユーを追って殺し屋が仕向けられたのだ。他ならぬユーと同種族の星海月族の手によって。

 しかしソージはその賊を返り討ちにしてユーを救うことができた。



「その時ですが、ソージ殿……油断して家族を殺されそうになったとか」



 やんわりとした口調ではあるが、バルムンクから凄まじい威圧感を感じてソージは無意識に喉を鳴らしてしまった。

 確かに最初から全力でいかずにニンテを危険に晒してしまった。その時、ユーの魔法で事なきを得たが、もしかしたらニンテが死んでいた可能性も高かった。



「まだあります。つい先日もそうですな。確かまだ青年とみられる若輩者にお嬢様を襲われ、あまつさえシャイニー殿を人質にされた結果……」



 突然バルムンクが懐から執事服を取り出して広げて見せた。



「ああ!? そ、それは!?」



 彼が広げたのはソージが着用していた服。



「こうして賊の攻撃により深手を負いましたな?」



 ネオス襲来。その時、彼のナイフ攻撃により腹部に穴が開いたのは確かだった。しかしこのことに関してはソージにも言い訳がある。



「で、ですが、あの時は動いたらシャイニーが殺されてしまうという状況でして……」

「そうでございますね。なら少し時間を戻しましょう」

「え? 時間?」

「これは何でございましょうか?」



 バルムンクが再び懐から取り出したのは一枚の紙。そこには修繕費用と書かれてあった。



「そ、それは……」



 額から流れる冷や汗とともに、ソージは一気に口の中が枯渇していくのを感じた。



「ソージ殿が、もし最初から賊を全力で殲滅しようとしていたら、こうも街が傷つくこともなかったのでは?」

「う……」

「そこで賊を全て倒していればシャイニー殿も人質にされなかったのでは?」

「うぅ……」

「賊には容赦してはいけない。わたくしが口を酸っぱくしてお教えしましたよね?」

「ぐうぅ……」



 バルムンクの正論にソージは何も言い返せない。全てによってもっと簡単に解決できた道があったのに、ソージの落ち度によりソージだけでなく周りも危険に晒してしまったからだ。



「どうやら少し鍛え直す必要がございますね―――――――――――――ソージ殿」



 ブオンッと突如としてバルムンクから激しい気流が放出される。しかもソージに向かってだけにだ。近くにいるヨヨには髪の毛一本揺らしてはいない。

 これだけの闘気を自在に操れること自体がすでに化け物級なのだが、今のソージはこれからのことを考えると逃げ出したくなる衝動を押さえられずにはいられなかった。



 だがここで逃げるわけにはいかないのだ。ソージは覚悟を決めて歯を食い縛り前を向く。



「ほほ、表情だけは少しマシになりましたかな? ですがまだまだ――――――」

「え?」



 目の前からバルムンクの姿が消失する。



「――――甘いですな」



 突然背後から聞こえてきた言葉にゾクッと背筋が凍った瞬間、右脇腹に凄まじい衝撃が走る。



「うぐぅっ!?」



 ソージはそのまま地面へと転がり一気に土塗れになってしまった。そこへ先程バルムンクの用件を伝えてくれたオルルが、シャイニーとコーランを連れてやって来た。どうやら興味本位で足を延ばしたようだ。



 しかし今は彼女たちに挨拶できる立場にない。ソージはすぐさま立ち上がりバルムンクのもとへ走る。



 その速さは常人から見れば手が届かないほど洗練された動きだろう。しかしソージは拳や蹴りを放つが、紙一重でバルムンクにはかわされる。ソージはそのまましゃがみ込み水面蹴りを与えようとするが、ヒョイッとバルムンクは軽く跳び、そのままソージの顎を蹴り上げてきた。



「うぶっ!?」



 一瞬星が目の前に散ったが、ソージは頭を振って正気に戻すと、



「想いを像れ! 橙炎!」



 右手から橙炎を創り出し鞭を形作る。そして彼の足元に目掛けて鞭を振るい、右足を掴むことに成功する。そのまま力一杯引き抜いて体勢を崩そうとするが、その力を逆に利用されて、疾風のような動きで距離を潰してきた。



 そしてバルムンクの膝蹴りが見事額に直撃して後方へと玉転がしのようにソージは転がっていき、その先に木材を積んでいるのだが激突して崩してしまう。

 その音を聞いたのか、真雪やセイラ、それに何故か屋敷中の者たちも次々と集まってきた。演劇をしているわけでもないのに、集まり過ぎだろと思いつつもソージは視線をバルムンクから外さない。



「そ、想くんっ!?」

「パパァァァッ!」



 真雪やシャイニーから声が聞こえるが、応える余裕はない。



 ソージは今度は右手と左手から白炎を生み出す。ソージにとって殺傷力が高い魔法であるが、今まで彼に通じたことは一切ない。



「喰らい尽くせ! 白炎!」



 ヘビのように二つの大口を開けた白い炎がバルムンクに襲い掛かる。しかしバルムンクの笑みは崩れない。



「遅いですな」



 ピシュンと立っていた場所からバルムンクが移動し、白炎の上方を突く。そして彼は右手人差し指を立てると、そのまま真っ直ぐ白炎に突き出す。



「《一指点撃(いっしてんげき)》っ!」



 彼の指に突かれた白炎は一瞬にして霧散してしまった。さらに彼はもう一つの白炎の下方へ素早く移動すると、そのまま拳で突き上げて上空へと吹き飛ばす。

 次にソージとの間を詰めて、すかさずソージの襟を持ち白炎目掛けてぶん投げる。



「おわぁっ!?」



 大砲から発射されたような勢いで白炎と激突してしまう。白炎は実体がありタイヤのような硬さなので、この速さで叩きつけられると、



「かはっ!?」



 瞬間息が吐き出され意識が飛びかけてしまう。だがバルムンクのターンはまだ終わらず真すぐ向かってきた。また人差し指を立てている。



(ま、まずい!?)



 ソージは咄嗟に白炎を踏み台にしてその場から脱出するが、バルムンクの攻撃は白炎に伝わり消失してしまった。

 どうやら最初からソージが避けることを前提にして、白炎を消すことが目的だったようだ。



(くっ……つ、強過ぎる……!?)



 まるで子供扱いレベルだった。



(これが初老の執事のスペックかよっ!?)



 まさに人外にも思えるほどの強さ。さすがはかつて《伐鬼》と呼ばれただけはある人物だ。旅をしていた時もそうだが、彼の強さの底が見当たらない。

 いつか彼にまいったと言わせるのが目標でもあるのだが、永遠にその光景を拝めないのではないかと思ってしまうほどだ。



 身体を回転させて地面へと着地するが、同じように降りてきたバルムンクは余裕の笑顔を浮かべている。



「行きますぞ……ソージ殿」



 見れば両手の人差し指を立てている。



 ソージは間を詰めてきた彼に対し、咄嗟に橙炎で身体を覆う。しかしそんな鎧を纏ったソージに気遅れすることなくバルムンクの両手による攻撃は開始された。

 前身をくまなく蜂のように刺してくる。



 ドドドドドドドドドドドドドドッとあまりにも苛烈な連撃によりソージはその衝撃で宙に浮いたまま身動き取れずにいる。

 そして最後の一撃が放たれた瞬間、身に纏っていた橙炎が砂で作られた鎧のようにボロボロに破壊され、その一撃がソージの鳩尾へと突き刺さっている。



「……《烈火点撃(れっかてんげき)》」

「ぐはぁっ!?」



 全身に電撃が走ったような衝撃が走り凄まじい激痛によって膝をついてしまうソージ。そんなソージを見下ろしながらバルムンクは言う。



「……もう、終わりですかな若人(わこうど)よ」




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