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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第一章 転生執事編
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第一話 落下したら突然坊や

「待ってぇ、想くん!」



 快晴の空のように済み切ったよく通る声が背後から届き、朝倉想二(あさくらそうじ)はその声に反応を返すように振り返った。



 そこには毎日一度は確実に見る顔があった。墨でも塗ったような曇りの無い黒髪をポニーテールに結っており、こちらに向かって走って来ているせいか、本当に馬の尻尾みたいに盛大に揺れている。

 満開の花もビックリするほど、その表情は明るい笑顔が形作られている。



「ふぅ、やっと追いついた」



 走ってきたせいで息が乱れているようだ。胸を押さえながらその小さな口から息が短期的に吐かれていた。



「別に走ってこなくてもいいだろ?」



 想二が言うと、相手が頬を膨らませて睨んでくる。



「もう、だったら待っててくれてもいいじゃない! お隣さん同士なんだし!」



 彼女、天川真雪(あまかわまゆき)とは小さい頃から家が隣同士という所謂幼馴染関係だ。身長は146センチと、176センチある想二と比べるとかなり小さめだ。本人はいつか150は越してやると息巻いて毎日牛乳を飲んでいるようだが、残念ながら育っているのは別のところである。



 歩く度に上下にプルンプルンと揺れる彼女の胸に備わっている二つの塊。



(ふ~む、見事に育ったな……85? いや90ある? いやいやまさか……)



 想二は、優秀なピッチャーも舌を巻くほどの牽制(けんせい)ぶりを発揮し、目だけを凄まじい速さで動かしてターゲットを視認している。自分ではこれを閃光チラ見と呼んでいる。

 思わず息を飲んでしまうようなその豊かな膨らみに、想二だけでなく、近くを歩いている男子高校生も下手な牽制ぶりを発揮している。



 しかし当の本人である真雪は全くその気配に気づいていない。ハッキリ言って、真雪は自分が男性の注目を浴びているということを自覚していないのだ。

 大きな瞳に、赤ん坊のようなツルツルとした血色の良い肌。そして何より見る者を惹きつけるような太陽のような笑顔を持つ彼女は、間違いなく美少女と呼べるクラスに位置している。



 想二たちが通っている天川学園では彼女のファンクラブもあるほどだ。ちなみに天川学園と聞いて気づくことがあると思うが、天川学園の創始者は彼女の血縁なのだ。

 遠縁ではあるが、それでも現理事長の血を少なからず引いているということで、男たちもそんな彼女に大それた告白などしていないようだ。



 だがその中にもやはり想いを抑えきれずに告白に至る者がいるようだが、凄まじく撃沈しているのだ。しかも何故か振られたダメージを受けているのにも拘らず、他の男子から追い打ちをかけられるように辛辣な言葉を投げかけられたりするらしい。だからこそ、もう彼女には告白する者はほとんどいない。



 天川真雪は皆の観賞用として大事に扱われていると想二は聞いたことがある。先程の理由からそうなったのだろう。皆に屈託なく接する真雪ではあるが、一緒に登校する仲だと思われている想二は、やはり男に疎まれたりしている。



 だからこそ、わざわざ早い時間に家を出て、彼女と顔を合わせないようにするのだが、決まって彼女はこうして追いかけてくるから溜め息しか出てこない。



(まあ、朝から揺れるコレを間近で見れるのは役得だけど……)



 チラリと周囲から感じる殺気にも似た視線に意識を向ける。無論そこには多くの男たちの嫉妬があり、まるで槍のように全身を刺してくる。



(コレが無きゃ最高なんだけどなぁ)



 嬉しそうに笑みを浮かべて歩いているオッパイ魔人の顔をジト目で見つめると、



「ん? どうかした?」



 まるでこの状況を理解していないようで可愛く首を傾けていた。



「はぁ、何でも無い」



 貝になろう。こんな幼馴染を持った自分の人生を嘆く。









 授業も四時限目が終了し、待ちに待った昼休憩が始まった。



「わ~相変わらず朝倉くんのお弁当って華やかだよね~」

「あ、今日も何かもらっていい?」

「私も私も!」



 何故かいつもこうして女子たちが群がってくる。確かに想二の趣味は料理、いや家事全般なのだが、その中でも料理は得意中の得意だったりする。



 この弁当も想二が作っているのだが、どうやら以前、女子たちに弁当が美味しそうと言われ良かったら一口どう? みたいなことからこの状況が始まった。

 彼女たちの嗜好(しこう)にストライクだったようで、あれからおかずの交換などが頻発。想二もまた、自分の作った料理が褒められるのは嬉しいので何も言わず状況に流されている。



 その時に向けられている真雪の視線が痛いのだが、完全に無視しておく。何故ならこれから起きることに巻き込まれたくはないからだ。



 突然教室の扉が開いたと思ったら、すぐに女子たちの視線がそちらに集束する。何故か、それは学園王子と呼ばれている女子たちのアイドルが現れたからだ。

 普通にテレビに出て活躍していても不思議ではないほどのイケメン。運動神経抜群、頭脳明晰、ルックス最高、女子たちが注目するのも分かる。

 そんな彼の名前が二ノ宮和斗(にのみやかずと)。一年上の二年生だ。



 男子たちからは舌打ちが聞こえ、女子たちから嬌声(きょうせい)に近いものが零れている。ほとんどの女子は頬を染めて眺めている。実は彼もまた真雪と同じく観賞用らしい。

 想二も男子である。だから彼らの気持ちは良く分かる。何故それほど完璧な人間が出来上がるのか神に問いたいくらいだ。人間皆平等とは言うが、やはりそれは言葉だけがプカプカと宙に浮かんでおり、まるで現実感などサラサラ無い。



 イケメンくんと違って、想二は運動神経……並、頭脳……並、ルックス……並、特技……家事。これのどこがモテるというのだろうか……。



(あ~あ、イケメンは全てぶち消したい……)



 せめてステータスが並ではなく上の下くらいあったら、もう少し女の子たちの黄色い声援を期待できたのだが、想二が女子にかけられる言葉は弁当のおかず催促だけである。思わず溜め息が漏れても仕方無いのではなかろうか。 



 しかし女子たちの中で、ただ一人いまだに口を膨らませて想二を見続けている少女がいる。それは……



「やあ天川さん、今日も昼食を誘いに来たんだけど、いいかな?」



 ニッコリと女殺しスマイルで真雪に問いかける二ノ宮和斗。しかしそれに見事なまでに気づいていない様子の真雪。友達の一人が真雪に声をかけると、そこでようやく存在に気づいたように、



「え? あ……二ノ宮先輩? どうしたんですか?」

「……いや、昼食のお誘いにね」



 二ノ宮和斗は、真雪の態度に若干頬を引き攣らせながらも笑顔を保ちつつ相対している。そしてソージは、真雪が視線を逸らした瞬間に、弁当を持って教室を出て行く。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだった。もしここで真雪がソージに助けを求めでもしたら、きっとイケメンは完全にソージを敵視し、流されるままにどちらが真雪に相応しいか勝負だみたいなことになる可能性だってある。そんなのは勘弁。



 想二が弁当を持ちながら外に出て、建物の外に造られてある屋上へ繋がる階段を上っていると、落下防止のために設置されてあるフェンスに寄りかかっている女生徒が目に入った。



 何やら電話で誰かと話しているようだ。耳に入ってくる言葉で判断すると、どうやら相手は母親らしい。階段にある扉を開くと、すぐそこには音楽室がある。合唱部か軽音部で、昼に部員と打ち合わせでもしている時に電話でもかかってきて、外に出てきたのかもしれない。



 そんなことを思いながらもさっさと屋上に向かおうとその傍を通ろうとした時、それは起こった。



 突然女生徒のもたれているフェンスから音がしたと思ったら、バキッと外側に向けて広がっていった。



(え……?)



 そこからはとても体内時間が凝縮されたような感覚だった。段々とフェンスと床の角度が広がっていき、そこにもたれていた女生徒の体が外側に傾いていく。



 想二は気づいたら走っていた。無論その女生徒とは面識は無い。全くの赤の他人だ。しかし瞬時にこのままでは彼女は落下して死んでしまうと思った。



 そう思ったらもう走り出して、彼女の腕を掴もうと必死に伸ばしていたが、間に合わないと感じ、自分でも何故そんなことをしたのか分からなかった想二だが、気づいた時、彼女の身体を自分の身体で守るように包み込むと、二人同時に地面に向けて真っ逆さまに落ちていった。



 











 …………ここはどこだろう?



 まず初めに思ったのはそれだった。妙に意識はハッキリとしていた。そして馬鹿なことをしたなと溜め息を鼻から出す。

 こうして意識があるのだから、あの階段から落ちた自分が死んではいないことを知る。だが身体がまったく自由に動かせない。軽く麻痺しているかのように、いや、違うか……まるで全身が虚弱したような感覚を覚えていた。



 さすがに無傷ではなかったかと思い、なら何故身体に痛みが無いのか不思議に思った。



 …………どういうことだろう?



 しかし次の瞬間、思考を凍らせる出来事に遭遇する。



「ハ~イ、ソージ~、おまんまの時間でちゅよ~」



 目の前に誰だか分からない女性が現れ、彼女の腕が伸びたと思ったら、突然身体に浮遊感が走る。女性特有の柔らかさと香りが感覚をくすぐる。



 そして何を思ったか、その女性はおもむろに胸元を開き、そして……



 プルン!



 もう何が何だか分からなかった。身体は言うことを聞いてくれないし、目の前の美女は突然痴女のような行動に出るしで、混乱、大混乱を超越して完全に思考がストップしてしまった。



「あら? 今日はどうしたのかしら? いつもならお腹すかせてる時間なのに……」



 女性が困ったような表情をしているが、困っているのは想二の方だった。想二も男だ。ハッキリ言って目の前にオッパイがあったら、手を伸ばしてしまう衝動にかられるのは当然。



 しかしあまりに突然のことで、このオッパイをどう扱っていいか分からなかったのだ。



(ゆ……夢? そ、そうだ夢だ! だってこれじゃまるでオレが赤ちゃんみたいだし!)



 夢ならば、それは仕方無い。そう思い、これは赤ちゃんプレイを深層心理で望んでいたのかもしれない自分の夢だと言い聞かせ、とりあえず手を伸ばす。



(……柔らかい)



 フヨンという擬音が一番正しいだろう。初めて意識して触る胸は、想二の全神経を手に集中させた。だが何故か本来なら欲情するであろう性感が働かない。

 それよりも何故かこうして胸に触れていると、まるで温かな陽だまりの中にいるような心地好さと安心感が包んでくる。



(これじゃまるで……)



 本当の赤ん坊になったみたいじゃないかと思いつつも、自然と口が女性の胸の中心へと向かっていく。本能に突き動かされているような感じだった。

 しかしそこで不可思議な感覚に囚われる。



(な、何で味がするんだ?)



 そう、それは明らかな現実感を突きつけてくるような感覚。女性の温もり、母乳の味然り、夢ではありえない衝動が脳天を突き抜ける。



(オレ……一体どうしてしまったんだ……っ!?)





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