最初で最後の制服デート
長くなってしまいました。
読むの大変かも知れませんが、楽しんでもらえれば嬉しいです。
後片付けを分担して行う。
やっぱり、ちひろさん、最後まで抵抗してたな。
って言うか、護も嫌がっていなかった。
私が落ち込んでると。
「どうした?」
って、柚樹ちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「何でもないよ」
私は、笑顔で答えて、掃除を済ませる。
「里沙。こっちは片付いたから、後頼める?」
「いいよ。詩織は何処に行くの?」
「体育館の様子を見に行ってくるから、よろしくね」
里沙にそう告げて、体育館に向かう。
体育館の入り口から、中を伺うともう片付けが終わっていた。
「みんな、お疲れ様。ありがとうね」
私は、声を掛けていく。
「どういたしまして」
それだけ言って、体育館を出て行く。
「佐久間君。戸締まり頼んでもいいかな」
「ああ、やっとくよ…」
返事を聞いて、体育館を後にする。
私は、生徒会室に行って、今日の報告書を書く。
報告書っていっても、何を行ったかという、記録を残すためだ。
その時、部屋のドアが開いた。
「お疲れ様」
「お疲れ。反省会する?」
「そうだね。これからのイベントにも役立つと思うから」
メンバーが揃ったところで、反省会をしだした。
「今日は、此処までだね。お疲れ様」
「お疲れ様」
みんな、散り散りに帰っていく。
私は、生徒会室の鍵をかける。
「里沙、行こうか…」
「うん」
職員室に鍵を返して、二人で下駄箱に行く。
いつもなら、下駄箱に二人の顔がある。
でも、今日からは、二人は居ないんだ。
って思うとなんだか寂しくなる。
「さーて、これから、楽しもうね」
私が、明るく言う。
「そうだね、せっかくのデートなんだから、楽しまないとね」
里沙も、明るく言うのだった。
でも、心ここにあらずだ。
私達は、二人で正門に行くと二人の顔が見えた。
私達は、二人に駆け寄る。
「お疲れ様」
二人同時に言うのだった。
「これからどうする?」
「取り合えず、腹ごしらえかな」
優兄が言う。
「まぁ、そうなるだろうな」
護も頷く。
里沙は、優兄の一歩後ろを歩いてる。
私は、どうしようか悩んだ。
さっきの事もあるし…。
素直に横に並べない自分が居る。
「ファーストフードで良いか?」
優兄が言う。
「いいよ」
ってことで、ファーストフード店に行く事になった。
昼時にしては、意外と空いていた。
「席、取っといてくれるか?」
護に言われて。
「わかった」
私と里沙は、空いてる席に座る。
「どうしたの? さっきから、黙ってるけど…」
里沙に声をかけると。
「うん。どうやって、切り出せばいいのか、わからなくて…」
悩んでるようだ。
「そっか…。途中で二人になれれば、話せるかな?」
「そうだね。二人っきりになれれば、話す事も出来るかも…」
「じゃあ、食べ終わってから、別行動にする?」
「うん」
晴れやかな顔の里沙。
その代わり、私は…。
そんな時だった。
「ねぇねぇ、君達。二人だけ?」
って、突然声を掛けられる。
「いいえ、連れが居ます」
「嘘だ。さっきから見てたけど、ずっと二人で話してたよね」
引き下がってくれない。
「私達、本当に彼を待ってるんです!」
私が、語尾を強めて言うと。
「そんなの断る為の口実だろうが…」
って、言い返される始末。
「遊びに行かない?」
「無理です」
二人で断るが、腕を引っ張られる。
「ちょっと、やめてくださいっ!」
私が声をあげた時だった。
「お前ら何?」
「勝手に人の彼女口説いてんなよ!」
彼等の後ろから、護と優兄の怒声。
「スミマセン…」
って、いそいそと逃げて行く。
「まったく…。目を離すと直ぐこれだ…」
二人が、溜め息をつく。
「お前等二人共、目が離せないとはな…」
「まったくだ…」
護と優兄が、呆れたように言う。
「注文し終えて、戻ろうとしたら、絡まれてるんだから…」
「私達、何もしてないもんね」
「そうだよ。勝手に言い寄ってくるんだから…」
里沙と二人で、膨れる。
「わかってるよ、お前等二人揃うと最強だな」
「最強って、どういう意味かな?」
「お前等が、自分等でわかってないわけ?」
私と里沙は、顔を無会わせる。
「さっきから、この店に居る男共が、お前等の事チラチラ見てるんだぞ」
「えー。詩織ならわかるけど、何で、あたしもなの?」
何て、里沙が言う。
「里沙ちゃんも可愛い分類にはいるよ」
優兄が言う。
「それに、誰よりも頑張りやさんだもんね」
明るい声で、優兄が言う。
「お待たせいたしました」
店員さんが、バーガーとドリンクを運んできた。
「ありがとうございます」
私は、ついお礼を言ってしまった。
「ごゆっくりどうぞ」
それだけ告げると、行ってしまった。
「この後、どうする?」
護が言う。
「別々に行動しない?」
私が言うと。
「里沙ちゃんは、それでいいの?」
優兄が、里沙に聞く。
「うん」
里沙が、静かに頷く。
「そっか。じゃあ、食べ終わったら、別行動だな」
護が言う。
本当は、別々は嫌だったんだけど、里沙の思いを組んであげると、そうなるよね。
ハァ…。
自分が気付かないうちに溜め息が出る。
「詩織。どうかしたのか?」
護が、聞いてくる。
「何でもないよ」
慌てて、否定して笑顔を見せる。
さっきのが、気がかりだなんて、言えない。
私達は、昼食を終えると、別々に移動した。
「詩織。お前、何か余計な事を考えてるだろ」
護に言われても、言えなかった。
「何でもないってば」
思わず、語尾が強くなる。
あ、ヤバイかな。
「あ、そう。勝手にしろ」
護は、そう言って、先に行ってしまう。
あーあ。
せっかくの最初で最後の制服デートだったのに…。
自分でダメにしちゃった。
私は、仕方がないので、家に帰ろうと方向転換して歩き出した。
何やってるのかなぁ、私。
やっぱり、不安なんだよね。
護の事、信じてるけど。
どこかで、信じ切れてない自分が居るんだ。
ちひろさんの事だって、まだ、私の中では吹っ切れていないのかもしれない。
婚約寸前なのに、こんなに不安を抱えてるなんて…。
何か、嫌になっちゃうな。
こんなにも、心狭かったけ、私…。
「…おり。詩織って」
肩を捕まれて、振り返る。
「ったく…。どうして、追って来ないんだよ…。って、何泣いてるんだ」
護が、私の顔を見ると驚いた顔をする。
エッ…。
泣いてるの?
「また、気付いていないのかよ…。そんな顔して…」
護が、優しく涙を拭ってくれる。
「そんなにオレに言えない事で、悩んでいたのか?」
護が、優しく私を抱き寄せて言う。
私は、首を横に振る。
「じゃあ、何に悩んでるんだ。オレに話せ」
護に暖かい胸に抱かれながら、私は。
「不安になったの…」
呟くように言う。
「何に?」
「怒らない?」
「怒らないから…」
「自分じゃ、護に相応しくないんじゃないかって…。私より、ちひろさんみたいな人の方がいいんじゃないかって…」
私の今思ってる事を口にする。
ハァー。
護から、溜め息が聞こえる。
「また、そんな事言って…。オレは、お前じゃないとダメなの。って言うか、詩織がいいんだよ。その人を気遣う気持ちを持ち合わせてる、詩織が好きなんだからな」
私の髪を撫でながら言う。
「でも…。さっきのちひろさんの言葉が、頭から離れなくて…」
私の言葉に。
「ちひろが、何て言ったか知らないが、気にするな。オレの事を信じろよ。オレは水沢詩織が好きなの。それが、真実だから」
護の力強い言葉に。
「護…」
嬉しくて、また、涙が溢れそうになる。
「オレには、お前が必要なんだよ。お前の代わりは、誰も出来ないって、前にも言っただろ」
護の真面目な言葉に私は。
「うん」
頷く事しか出来ずにいた。
「ほら、制服デートしたかったんだろ、行くぞ」
護が、私の肩を抱きながら、歩き出す。
「でも、よかったの?」
「何が?」
「クラスで卒業パーティーとかしないの?」
私が聞くと。
「確かに誘われてたけどな。断ったんだよ。オレは、卒業してまでクラスの奴等とつるむつもり無いしな。それに、オレのためにこうやって、一生懸命考えてくれる彼女をほっとけないし」
護が、答えてくれる。
「でも、しつこく誘われてたんじゃないの?特にちひろさんから」
「そうだな。ちひろは最後まで、オレの腕を引っ張ってたけどな。まぁ、クラスの連中も、嫁が来るのに旦那が来ないとは、って言ってたが…」
エッ…。
私の驚きに護が。
「そっか。詩織には言ってなかったか…。クラスの連中は、オレとちひろが付き合ってると思ってるんだよ、未だにな。だから、ちひろもその勢いで、ずっとオレの腕にしがみついてただけだ。たしか、幹事がオレが居ないと、女子が連れんとは言っていたがな」
冗談交じりで言う。
エッ…。
それって、訂正するのが面倒臭かったから、言ってないだけってこと?
私は、少し悲しくなった。
「クラスの連中に言わなかったのは、詩織が優基だけじゃなくて、隆弥さんや勝弥さんの妹だから言えなかった。二人共、この学校の卒業生だから、言い出せなかったんだよ。知ってる奴は、知ってるから、隆弥さん達の事」
あぁ、そういう事か。
双子の兄達もうちの学校の卒業生。
「そう。だから、言い出せなかったんだよ。悪かったな」
護が、面目無さそうに言う。
「いいよ。隆弥兄の妹って知られたって。私は、私だもん。隆弥兄じゃない」
私が言うと。
「そうだよな。ごめんな、今度は、ちゃんと撤回しておくから…」
護に優しい言葉に私は。
「うん。お願いします」
私は、笑顔で言う。
「でも、ちひろに何て言われたんだ?」
「“護は返してもらうわね“って、すれ違い様に言われたの」
「ハハハ…。返すも何も、オレは物じゃないぞ。って言うか、そもそも、ちひろとは付き合った事も無いのになぁ。可笑しいな」
って、一人で納得してる。
そんな時だった。
「おーい。玉城じゃん。やっぱり来たんだな。嫁さんほっとけ…。って、お前、その子誰?」
って声が掛かる。
誰って?
同じ学校なんだから、わかるはずだけどなぁ。
それに、生徒会長までしてるのに、私の存在って薄いのかなぁ…。
「お前なぁ、うちの生徒会長で、オレに嫁さん」
護が照れもせずに紹介するから、私が恥ずかしくなる。
「始めまして、玉城の嫁の詩織です」
って、私まで、嫁って言っちゃった。
「嫁って…。お前、結婚してたんか!」
大声で言われて。
「これから、結婚するの」
護が、堂々と言う。
結婚は、まだ先だけど、婚約はするから一緒か…。
「嘘だろ。そんな事誰も知らないだろ?」
「一人だけ知ってる」
護が、面白そうに言う。
「誰だよ!」
「水沢優基」
護の真顔に。
「水沢? 何でだよ」
「詩織の兄貴だからな」
「エッ…。って事は…」
彼が言おうとしてる事が、自ずとわかる。
「おーい、どうした?」
護のクラスメートが、駆け付けてくる。
「え、ああ。玉城を見つけて、声をかけたんだけど…」
「エ、マジで? じゃあ、誘うしかないじゃん」
って 声が上がる。
行っちゃうの?
「玉城、行くぞ」
他のクラスメートが護の手を引っ張る。
「ほらほら、嫁さんが寂しがってるぜ」
からかう様に言う。
護は、その手を振り払う。
「悪いけど、行けない。コイツ、ほっとけないから」
護はそう言って、私の肩を抱く。
護…。
「なんだよ、浮気かよ」
事情の知らないクラスメート達が、からかう。
「ほら、ちひろが待ってるぜ」
って、無理矢理引っ張っていく。
あっ…。
私は、そのやり取りを見ている事しか出来ない。
「離せって。ちひろはオレの彼女でもなんでもない。お前等が慰めてやれよ」
護が、いい放った。
その瞬間、皆が呆然とする。
「どう言うことだよ。ちひろはお前と結婚するって、豪語してたぞ」
「そんなのあり得ない。オレは、ちひろと一度も付き合ったこと無い。それに、オレには、婚約者が居るのにちひろなんか相手にするか」
護が、宣言した。
「エッ…」
「そうなのか?」
「そうらしいぜ」
最初に護に話しかけてきた人が言う。
「お前等も、よく知ってる人だ」
護が、私を見る。
私は、どういう顔をしたらいいのかわからずにいた。
「あっ! 生徒会長の水沢詩織!」
って、呼び捨てなのね。
まぁ、私の方が年下だからしょうがないか…。
「俺、狙ってたのに…」
はい?
今、何って…。
「俺、一度コクったのに振られたんだよ」
って言われて。
「そうでしたっけ…」
私が言うと。
「覚えていないんだ」
肩を落とす。
「もしかして、お前。生徒総会の後でコクってたって事はないか?」
護が聞く。
「ああ」
「あの時に告白されてたなら、顔なんて覚えていないかも…」
私の言葉に余計に落胆する。
「あの時期の詩織は、放課になる度に呼び出しされてたから、一々覚えてないと思うぜ」
護が付け足す。
「何で、お前が知ってるんだ?」
「だって、オレ等その前から付き合ってるから」
護が、私を優しく包む。
「そっか。じゃあ、断られるわけだ。玉城みたいなのがいたんじゃ、誰だって断るわな」
納得してくれた。
「じゃあ、ちひろは?」
「あれは、ちひろ自身が広めたんだろ。オレが訂正しない事をいい事にさ」
「そうなんだ」
他のクラスメートも納得したみたい。
「ってことは、詩織ちゃんが本命な訳?」
「勿論。嫁さんだからな」
護が言う。
「嫁って…」
またもや、絶句するメンバー達。
「ああ、オレ達、結婚するんだよ。まだ先の話だがな。でも、婚約だけは済ましちまおうって約束してたし、婚約の条件もクリアしたしな」
真顔で答える護。
「何、そんな所まで決まってたんか!」
驚きを隠せないでいる、クラスメート達。
「ああ、他の奴等には、まだ話さないでくれよな」
護が、釘を指す。
「じゃあ、今日のキャンセルは、嫁さんとデートする為だったてことか?」
「そういう事になるな。って、キャンセルも何も、今日決まったんだろうが、パーティーは」
護が突っ込む。
「って事は昨日から、約束してたのか?」
「そうだよ。それにオレ等、制服デートした事無かったし…」
苛立たしげに言う。
「もし気が向いたら、そこでやってるから、来いよ」
それだけ言い残して去っていく。
「誰が行くかよ」
その背中に小声で言う、護。
何か、可愛いそう。
「悪いな。じゃあ、行こうか」
護が、私を包む。
「やっぱり、知られるのって、恥ずかしいな」
エッ…。
「凄く、堂々と話してたじゃない」
私が言うと。
「そうだよ。クラスの奴等には弱味見せた事無いからな。これくらいじゃないと…」
護が言う。
何を強がってるんだろう?
「オレ、行きたい所があるんだ。付き合ってくれないか?」
突然言い出した護に。
「いいよ」
って、答えてた。
行き着いた場所は、ジュエリーショップだった。
何か、買うのかな?
「詩織は、ここで待ってろ」
言い残して、護は中に入って行く。
私は、ウィンドウに並べられているジュエリーに目を奪われる。
わー、可愛い…。
あっちのは、お洒落だ。
あんなジュエリーが似合う、大人の女性になりたいなぁ…。
ふと、顔をあげると、ガラス越しに優兄と里沙の姿が映った。
私が振り返ると、仲良く歩いてる。
よかった。
安心したところに、二人がキスをするので、私は慌てて目線を反らした。
人通りの多い所でのキス。
多分、今頃二人だけの世界に入ってるから、周りの事は気にも止めないんだろうな…。
でも、よかった。
二人のわだかまりが解けて…。
私は、二人に気付かれないように姿を隠した。
「お待たせ」
店から、護が出てきた。
「どうかした?」
護の言葉に私は。
「あのね。優兄達、大丈夫みたいだよ」
そう言って、優兄達の方に視線をなげる。
そこには、楽しそうに笑っている二人がいる。
「そうみたいだな」
私達も、自然と笑顔になる。
「あの二人も、近いうちに…」
何て、思っちゃった。
「詩織。次、どこ行く?」
「うーんとね。雑貨屋さんに行きたい」
私が言うと。
「そっか。確か、向こうにあったから、行ってみようか」
護が、私の手を握る。
「うん」
私の少し前を歩く護。
その後を追うように私が歩く。
なんだか、不思議な感覚がした。