里沙の悩み
卒業式に前日。
私達、生徒会メンバーは忙しく動き回っていた。
卒業していく先輩達に何か渡せる物がないかと考えて、手作りコサージュを作る事になった。
卒業生の人数分とクラス担任の分。
二年生の女子生徒に手伝ってもらいながら、ピンクと白のコサージュを作る。
「ゴメンね。皆に迷惑かけてるよね」
「いいよ。私達も先輩達に何かあげたかったから。こんな事でよかったら、いくらでも協力するよ」
「ありがとう」
私も手を動かしながら言う。
そんな時だった。
「詩織。ちょっといいかな?」
里沙が、真顔で言う。
「いいよ。ちょっと抜けるけど、後任せていいかな。自分の分担分が作り終わったら、帰っていいからね」
私は、それだけ言ってその場を離れた。
屋上に出ると、里沙の方から口を開いた。
「ねぇ、詩織。あたし、どうしたらいいのかなぁ」
「優兄の事?」
里沙が小さく頷く。
「里沙の事だから、ギリギリまで悩んで、答えがでなかったんだよね」
私は、里沙を見つめて言う。
「うん」
そっか…。
「じゃあ、私から言える事は、自分がどうしたいかじゃなくて、相手の事を想ってあげる事」
里沙が、ビックリする。
「それって…」
「うん。里沙も夢があるよね」
「うん」
里沙が素直に頷く。
「その夢ってさぁ、優兄も応援してくれてるんだよね?」
「夢の話は、してないから…」
「そっか…。ても、里沙は夢の事、応援して欲しいよね」
里沙は、コクりと頷く。
「それなら、わかるよね。優兄は、今夢に向かってるんだよ。だったら、里沙が応援してあげなくてどうするのかなぁ。それに、優兄は、里沙にしか甘えないと思うから、支えてあげて欲しいんだよね」
「エッ…」
私の言葉に里沙が、驚いている。
「優兄は、家族の中に今甘えれる相手が居ないんだ。この間、初めて誰かに甘えてるところを見たんだ。里沙は、そんな優兄が唯一甘えれる相手だと思うから。だから、支えて欲しいの。妹の私には、甘えるとこなんか絶対に見せたがらないから」
私の言葉に里沙が黙る。
「優兄は、全部自分でやってしまおうと思ってしまうから。なかなか里沙にも相談しないかもしれない。でも、今回は違う。ちゃんと、里沙に話したんだよね、一人暮らしすることを…。それは、里沙に応援してもらいたいって気持ちと、傍に居てあげられなくなる不安が入り交じって、話したんじゃないの」
里沙が、ハッとした様に顔をあげた。
「だったら、里沙がどうすれば良いか、わかるよね」
私の言葉に、里沙が微笑む。
「そっか。あたしは、笑って送り出せばいいんだよね」
「そうだよ。そして、一言だけ言ってあげればいいんじゃないかな」
私は、その一言を告げるのはやめた。
多分、里沙もわかってるはずだから…。
「うん。あたしは、優基さんを信じて待つことにする。その間に、自分の夢を掴む」
やっと、里沙の本当の笑顔が見えた。
「そうだよ。近くに居なくても、応援してるってことを伝えてあげて…」
私が言うと、力強く頷く里沙。
「しかし、里沙も護も、優兄も夢があっていいなぁー」
私が呟くと。
「何言ってるの。詩織は、詩織のままでいいんだからね」
って、里沙が言う。
「でも、それって、未だに目標がないのと一緒じゃんか…」
「大丈夫。詩織もちゃんとやりたい事が見つかるって」
里沙が、慰めてくれる。
「そうかな…」
「そうだよ。ねぇ、詩織。明日、卒業式が終わったら、ダブルデートしない?」
里沙が言ってきた。
「って言うか。ギリギリまで勇気出そうに無いから、詩織に後押しして欲しいって言うか…」
そう言うことか…。
「いいよ。明日、気持ちがきちんと伝わるといいね」
「うん。あたし、頑張るね」
笑顔の里沙を見つめて。
「それでこそ、里沙だよ」
って、私も笑顔で言うのであった。