家族
「ただいま」
お母さんと二人、玄関を潜る。
「遅かったな」
優兄が、リビングから顔を出した。
「うん。色々と話ながら来たから…」
お母さんと顔を見合わせて言う。
優兄が、怪訝そうな顔をして見ていた。
「さぁて、早く作っちゃおうか」
お母さんと二人で、買ってきたものをキッチンに運び袋から出す。
「詩織。ちゃんと手を洗ってね」
「はーい」
お母さん言いわれて、元気に返事する。
そこに護が現れた。
「何か手伝いましょうか?」
護が、声を掛けてきた。
「護君は、お客様だから、テレビでも見てて」
お母さんが、言うけど。
「オレが、手伝った方が早いですよ」
護は、腕捲りをして、手を洗い出す。
「じゃあ、お願いしようかな」
「はい。まずは何を…」
護が、嬉しそうに言う。
「玉葱、キャベツ、椎茸の微塵切りにしてもらおうかな」
「お安いご用です」
そう言うと、さっさと言われた物を刻む出す護。
「護君、手際いいね」
お母さんが、護に話しかけてる。
「そうでもないですよ」
「詩織よりも上手」
「お母さん!」
私が、慌てて言うと、二人が笑い出す。
「ほら、詩織は人参摩り下ろして」
「はーい」
私は、言われた物を摩り下ろしていく。
手に力が入りすぎて、痛くなってきた。
私が、手を振ってると。
「代わるよ」
護が、スッと手を出して来た。
「微塵切りは?」
「終わった」
早い。
「詩織。ボウルに挽き肉四分の一、残して入れてね」
お母さんに言われて、ボウルに挽き肉を入れる。
そこに、水気を切ったキャベツと玉葱、椎茸、摩り下ろして水気を絞った人参、摩り下ろしニンニクを入れて、それらを捏ねる。
「護君、さっきは隆弥が出掛けてて良かったわね。見つかったら、大変だったわ」
お母さんが、からかうように言う。
「……」
護の顔が、みるみる赤くなっていく。
お母さん、楽しそう。
「しちゃダメなんて、年頃の男の子には難しいだろうけど…。もう少し、自重してくれると嬉しいかな……。って、思うんだけどね」
「……はい……」
護の声が、上ずってる。
フフフ……。
私は、声をたてずに笑う。
「それから、詩織を愛してくれてありがとう。護君が、詩織を大切にしてくれてるの凄くわかる。本当なら、学校に行かなくてもいいのに、詩織のために行ってくれてるよね。感謝してる」
「オレもです。詩織を生んでくれて、ありがとうございます。彼女以上に愛せる人は、居ないです」
護が、真顔で言う。
「そう言ってくれると、嬉しいな」
お母さんが、涙ぐみながら言う。
「護君とは、親子としてもやっていけるわね」
「はい!」
二人とも、仲良しだな。
「そろそろ、皮に包んで。二人でやれるわよね」
「はい」
って、答えてた。
餃子の皮で、具を包んでいく。
久し振りにやるから、上手く出来ないや…。
護の方は、テキパキと手を動かしてる。
「護の凄く綺麗…」
私が見とれていると。
「こんなのコツさえ掴めば、簡単だよ」
護が、手を止めて、私にゆっくりと教えてくれる。
私は、教えてもらった通りに動かしていく。
数をこなしていくうちに、上手くなっていくのがわかる。
「やれば、出来るじゃん」
エヘヘ…。
護に誉められちゃった。
って、こんな事で喜んでちゃいけないよね。
彼氏より下手って…。
これから、一杯料理の勉強しないと、護に食べてもらえないかも…。
少し、不安になってきた。
「大丈夫。ちゃんと食べてあげるから…」
って、小声でいう護。
私が思った事、わかっちゃったのかな…。
もしかして、顔に出てた?
「エスパーみたい…」
私も小声で言う。
「エッ…」
護が、不思議そうな顔をしてこっちを向く。
「さぁて、包み終わった?」
お母さんが、振り向きながら聞いてきた。
テーブルの上には、大量の餃子で埋め尽くされていた。
「護君、本当に上手だね。それに比べて、詩織のは不格好なこと」
お母さんが、情けないって顔をする。
「どうせ、私は下手ですよ」
私が、いじけてると。
「ただいま!」
隆弥兄と勝弥兄が、同時に帰ってきた。
「お帰り、手を洗ってらっしゃい」
お母さんが言うと兄達は、洗面所に向かった。
「お父さんの分の餃子だけ、冷蔵庫に仕舞って、ホットプレートをそこに置くから、リビングにそこの奴持っててくれる」
お母さんの言葉に、テキパキと従う。
私は、古新聞を持ってきて広げ、テーブルに置く。
その上にホットプレートをのせる。
その間に、双子の兄達が戻ってきた。
「なんだ、今日は餃子か…」
なんか、がっかりした声。
「フーンだ。じゃあ、食べなきゃいいじゃん」
私の言葉に。
「その言い方は、詩織が作ったんだな。それなら、食べないとな」
何て、言葉が二人から返ってくる。
「残念でした。私と護で作ったんです」
悔しかったから、つい言っちゃった。
「エッ…。護が!」
二人共、ビックリしてる。
「はい。オレも手伝いました」
護が、大きく頷く。
「ほら、餃子焼くから、持ってきて」
お母さんに言われ、リビングに取りに行く。
大皿を抱えて戻ると、既に兄達は自分の席に着いていた。
「この形が崩れてるのが、詩織のだな」
隆弥兄が言う。
「どうせ、不格好です」
私がすねると。
「大丈夫。味は変わらない」
って、護がフォローしてくれるけど…。
「それ、慰めになってない」
私は、更に拗ねる。
「そう膨れるなって。後で、いい物やるから…」
って、言われたとたん、ご機嫌になる私。
「さぁ、焼けたわよ。食べなさい」
食べなさい?
「お母さんは、食べないの?」
「うん。お母さんは、お父さんと食べるからいいの…」
お母さんが、笑いながら言う。
「じゃあ、お先に頂きます」
私が言うと。
「どうぞ」
嬉しそうなお母さんの顔があった。
「ただいま」
夕食を終えた頃にお父さんが、帰ってきた。
「お帰りなさい」
私は、玄関まで出迎える。
「お邪魔してます」
護が、玄関に顔を出す。
「事情はお母さんから聞いてる。落ち着かないかもしれないが、ゆっくりしなさい」
お父さんが、護の肩を軽く叩く。
「はい。ありがとうございます」
護が、深々と頭を下げる。
「お帰りなさい、貴方」
お母さんが、キッチンから顔を出す。
「ああ、ただいま」
「先にお風呂に行ってください。その間に夕食の準備しておきます」
「わかった」
お父さんは、お母さんに鞄と上着を渡すと、脱衣所に向かった。
「何時もああなの?」
「うん。仲良しさんなんだ」
「羨ましいかな」
護が言う。
「私もね。お父さんとお母さんみたいになりたいなって思ってるんだ」
「なれるさ、オレ達なら」
護が、私の肩を抱いて、小声で言う。
私は、小さく頷いた。
あ、そうだ。
私は、在ることを思い出した。
「護。ちょっと待ってて」
私は、護にそう告げると自分の部屋に行く。
そして、お父さんとお母さんのそれから、護のお義父さんに渡すチョコを持って下りる。
「これ…」
護に差し出すと。
「エッ…。オレ、さっきもらった…」
護が、戸惑う。
「これね。護のお義父さんに渡して欲しいんだ。本当は、私から渡したかったんだけどね」
「何で?」
護が、不思議そうな顔をする。
「これから、お世話になるんだからね。それから、感謝の気持ち」
私が、笑顔で言うと。
「わかった。オレから渡しておく」
護の納得した顔。
「うん。お願いね」
私が、護に笑顔で言う。
それから、ダイニングで忙しそうに動いてるお母さんに。
「お母さん。ハッピーバレンタイン」
そう言いながら、チョコの袋を渡す。
「エッ…、何で?」
お母さんが、驚いてる。
「私から、感謝の気持ち。何時もありがとう」
私は、心からお礼を言う。
「ありがとう」
お母さんの顔が、笑顔になる。
そこにお父さんが入ってきた。
「お父さんにも、ハッピーバレンタイン」
って、チョコを渡す。
「そっか。今日はバレンタインデーか…。ありがとう、詩織」
そう言って、お父さんが頭を撫でてくれた。
「エヘヘ…」
私が、ニコニコしてると。
「あーあ。詩織に先越されちゃった」
お母さんが、残念そうに言う。
「はい。これは、私からね」
そう言って、お母さんがお父さんに渡す。
「ワァー、ありがとう。お母さんからもらえるとは、思わなかった」
感激する、お父さん。
「うん。今年は、ちょっと頑張ってみました」
なんか、入っていけない雰囲気。
二人は、何時までもラブラブだね。
私は、その場に居られなくて、逃げる事にした。