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チョコより甘い時間

正門に護を凭れさせる。

「本当に、大丈夫?紫色に腫れ上がってるよ」

「ああ、大丈夫だ。詩織は、心配性だなぁ」

護が、笑顔で言う。

「だって。何かあってからじゃ、遅いんだよ」

「ハイハイ。わかったから、今日は、素直にお前の言う事聞くよ」

二人でじゃれてると。

プップー。

クラクションの音。

隆弥兄だ。

ハザードランプを点滅させて、降りてきた。

そして、護の足の腫れを見て。

「派手にやったな。歩くのも辛いだろうが…」

そう言いながら、隆弥兄が護に肩を貸す。

「詩織。お前、護の着替えを持って、先に帰ってな。この足じゃ、自分の家から学校に通うのは、辛いだろうから、うちから通学させる」

隆弥兄が言う。

「エッ…」

「一様、俺が何時も行ってる病院に、連れて行くから、安心して家で待ってろ」

隆弥兄は、それだけ言い残して、行ってしまった。

護の事は、心配だけど隆弥兄に言われた通りにするしかなかった。



グランドに戻って、雪菜ちゃんに声を掛ける。

「雪菜ちゃん。護の制服を取りに行きたいんだけど」

「それなら、私が後で届けますよ」

雪菜ちゃんが嬉しそうに言う。

「悪いけど、今渡してもらえるかな。たぶん、護、うちで預かる事になるから」

「何故ですか?」

雪菜ちゃんの鋭い突っ込み。

私が答えられずにいると。

「何故、そこまでするんですか?」

雪菜ちゃんが、凄んでくる。

どうしよう…。

ここで、言っても良いのかな…。

悩んでいると。

「俺もそれを知りたい」

浅井君や佐久間君か、私に近付いてきた。

まだ、帰っていなかったんだ。

ハァ……。

「私の兄と仲良しだから、今日一日様子を見るんだって」

嘘はついていないよね。

「本当にそれだけですか?」

雪菜ちゃんの怪訝そうな顔。

「実は、うちと護の家、家族ぐるみの付き合いだから、家に泊まっても何も問題ないのよ」

「エッ……。それって……」

感が良いな、雪菜ちゃん。

「もうほとんど決まってる事だから。今ここて話でせるのは、ここまでしかない。護の許可無しに話せる事じゃないから」

曖昧にぼかす事しか出来ないが…。

「何だよ。その回りくどい言い方は。はっきり言ってくれ」

三人に詰め寄られる。

「わかった。私と彼…護は、近々婚約します」

私は、観念して言う。

どうせ、直ぐにバレテしまう事だから…。

「エーーーーー」

三人が同時に叫ぶ。

「マジ?」

「マジかよ…」

「本当ですか?」

三人の言葉が同時に響く。

信じられないって顔をして、私の方を見る。

「本当だよ。嘘つかない。一番上の兄なんか、護の事を気に入って、弟扱いしてる」

それでも、信じてもらえない。

「今だって、病院に連れっててるんだから」

私は、真顔で言う。

「詩織。どうかした?」

里沙が、声を掛けてきた。

その後ろには、優兄の姿が見えた。

そうだ。

「優兄。お願いがあるんだけど…」

私は、優兄に向き直って言う。

「何だよ。面倒臭い事は、ごめんだぜ」

「あのね。サッカー部の部室に行って、護の制服を取って来て欲しいんだけど…」

「…わかったよ。取ってくるから、その間にそのゴタゴタ、解決しておけよ」

そう言って、優兄はサッカー部の部室に走っていく。

「里沙、ゴメンね。優兄とデートだったよね…」

「いいよ。優基さん詩織には、甘いから」

里沙が、苦笑してる。

「で、これどうしたの?」

里沙が、三人を見る。

「うん。私達の関係を話したら、この調子になっちゃって…。しかも、信じてもらえないし」

そう答えてたら、優兄が戻ってきた。

「ほら、制服。で、肝心の護は?」

「今、隆弥兄と病院」

私が、答えると。

「何か、あった?」

「脹ら脛を相手チームに蹴られて、腫れが酷いから、念の為に連れてってもらってる」

「そっか。…で、あっちの三人は、さっきから百面相してるけど?」

優兄が、面白そうに言う。

「実は、あの三人に迫られて、言っちゃったんだよね」

「言っちゃったって…。婚約の事をか?」

私は黙って頷いた。

「護の許可は得てるのか?」

私は、首を横に振る。

「護なら、わかってくれると思う」

「そっか、ならいいか。まぁ、俺も後でフォローしてやるよ。今日から、家に泊まるんだろ」

優兄が、優しく言う。

「その予定だけど…」

「それより、あの三人をどうするかだよな…」

優兄が、腕を組んで考え出した。

「あの三人なら、口外しないと思うよ」

自分達の弱点を言う人達じゃ無いもの。

「それより、今のうちに逃げた方がいいんじゃない」

里沙に言われて、私達はその場から逃げる事にした。


「詩織。俺、これから里沙ちゃんとデートだから」

優兄が、嬉しそうに言う。

「そんなの言わなくてもわかってるって…」

その横で、里沙が照れてるし…。

「じゃあね、詩織」

「うん、バイバイ」

二人は、手を繋いで行ってしまう。

フー。

私も帰ろ。


護、大丈夫かな?

私の前では、強がっていたからな…。

隆弥兄になら、甘えられるのかもしれない。

私は、護の事を考えながら、歩く。

あっ、チョコどうしよう…。

まだ、渡していなかったよ。

どうやって、渡そうかなぁ。

本当は、デートの時にでも渡そうと思ってたんだけど。

今日から家に泊まるんだから、家で渡せばいいのだろうけど…。

渡す、タイミングだよね。

だけど、無理させたくないしなぁ…。

私は、考え込んでいた。

「何やってるんだ、家の前で」

勝弥兄が、私の前に立っていた。

「何でもない」

そう言って、慌てて中に入る。

「ただいま」

元気よく言う。

「お帰りー。って、今日は護君とデートだったんじゃないの?」

お母さんが、不思議そうに言う。

「うん、ちょっと試合の時にアクシデントがあって、今隆弥兄が護を病院に連れってってるから」

「そうなの。お昼どうする?」

「食べる」

「じゃあ、準備するから、着替えてきなさい」

お母さんに言われて、私は自分の部屋に行き、部屋着に着替える。

着替えを済ませて、下に降りて行くと。

「ただいま」

「お邪魔します」

って、声が玄関から聞こえてきた。

私は、そのまま玄関に向かう。

「大丈夫?」

私が聞くと。

「こいつさ。お前の前だと、物凄く我慢するんだな」

隆弥兄が、苦笑交じりに言うから、何事かと聞き出すことにした。

「どう言う事?」

「こいつ。詩織と別れてから、物凄く痛がってさぁ。ギャップがありすぎて、笑ったよ」

隆弥兄が、説明してくれた。

その間、護が照れ隠しのように俯いてる。

やっぱり。

「で、状態は?」

「骨に、異常はないが、しばらくは腫れが続くそうだ。その間に熱や痛みも出てくるだろうって。で、痛み止と解熱剤をもらってきた」

症状を説明してくれる護

無理させられないよね。

ハァ…。

「あら、お兄ちゃんと護君だったの? お昼はどうするの?」

お母さんが、キッチンから顔を出す。

「俺等、食べてきたから…」

隆弥兄が、冷たく言い放つ。

「そ。詩織、私達でお昼食べよう」

お母さんが、私の方を向いて促す。

「そうだね」

私達は、ダイニングに向かい、昼食をとった。


その後、護はお義父さんに電話して、家に暫く泊まる事を話して、許可を取る。

お母さんには、隆弥兄が話してくれた。

「じゃあ、暫くは、家に居るんだね」

お母さんが、護に目を向ける。

「お世話になります」

護が、お母さんに頭を下げる。

「堅い挨拶は無し。…で、部屋はどうしようか…」

お母さんが珍しく、上機嫌だ。

「優基に部屋でいいですよ」

遠慮がちに言う、護。

「でも、歩くのが辛いでしょ? 一階の客間を使って。そうとなったら、片付けなくちゃね」

お母さんが、忙しく動き出した。

「ゴメンね。お母さん、護の事好きだから、何でもしたくなるんだよ」

「嬉しいよ。でも、迷惑じゃないかな?」

護が、険しい顔で言うから。

「迷惑だなんて、思っていないよ。私も嬉しいし…」

語尾が、小さくなる。

「それなら、いいんだが…」

「こらこら、そこでイチャつくな」

隆弥兄が、苦笑してる。

「はーい。あっそうだ。部屋から、護の制服を下ろさなきゃ」

私は、自分に部屋に向かう。

鞄から、護の制服を取り出して、持っていこうとして、鞄に忍ばせていたチョコが目に入った。

そうだ!

チョコを制服の間に挟んで、客間まで運べばいいんだ。

直接渡せなくても、カードが入ってるから、私からだってわかるよね。

私は、チョコを隠すように制服を持って、下に降りる。

「護。制服、部屋に置いておくね」

「ああ、オレも行くよ」

護が、急に立ち上がる。

「ちょっと、急に立ち上がって大丈夫なの?」

心配になって、護に駆け寄る。

「ああ、今は痛み止が効いてるから、大丈夫だ」

そう言って、私を押しやる。

「肩、貸そうか?」

「いや、大丈夫だ」

私は、護の少し前を歩いて、部屋に案内する。

「ここだよ」

そう言って、部屋のドアを開ける。

「意外と、明るいんだな」

「うん。この部屋、角部屋で光が一番集まるように作られてるんだって…」

「そうなんだ」

そう言いながら、ベッドに腰を下ろす護。

私は、制服をクローゼットの中に仕舞う。

ちょうどいいかなと思い、制服の間に隠していたチョコを取り出す。

そして、護の傍に行って。

「今日は、思わぬアクシデントで、デートは駄目になっちゃったけど…。セイント・バレンタインデー」

そう言って、チョコを護に差し出す。

「エッ…。オレに?」

護が、驚いてる。

「他に誰が私に本命チョコを貰ってくれるのかなぁ?」

私が、半泣きで言うと。

「そうだな。オレしか居ないか」

護が、笑顔を見せてくれる。

護が、チョコに目線を移して、カードを手に取る。

「今、読まないで…。恥ずかしいから…」

「そうなんだ」

って言いながら、予想に反して読み出した。

わー。

メチャクチャ、恥ずかしい。

読み終えた護が。

「オレの方こそ、愛してる。これからも、一緒に居ような」

そう言って、唇を重ねる。

長いキスが続く。

甘いキスに酔いしれる。


「護。月曜日、学校に行くの?」

フと疑問に思った事を口にする。

「何で?」

「だって、三年生って、自由登校のはずでしょ。無理して出なくてもいいじゃんか」

「そうだけど…。オレは、お前が心配だから行くよ」

躊躇無く言う、護。

嬉しいけど、無理しなきゃいいけど…。

そうだ。

護に言わなきゃいけない事があるんだった。

「護、あのね。さっき、護の制服を録りに戻った時に佐久間君と浅井君、それと雪菜ちゃんに言っちゃった」

「言ったって何を?」

不思議そうに聞き返してきた。

「私達の関係を話しちゃった」

「婚約してる事をか?」

「ごめんなさい。どうしても、隠し切れなかった」

私は、俯きながら、護の顔を覗き込む。

「…ハァ…。いいよ、気にするな。本当の事だから」

微笑んで答えてくれる護に、私は胸を撫で下ろした。

「護なら、そう言ってくれると思った」

そう言って、護に抱き付く。

そんな私に護は、髪を撫でてくる。

「本当、お前は可愛いな」

って、髪にキスを落とす。

「護の前だけだよ。こんなに甘えるの」

私は、笑顔で護を見る。

「そっか…。なら、オレも甘えようかな…」

って言うと。

「今日は、ごめんな。せっかく楽しみにしてたデートだったのに…。詩織の手前、意地を張ってたから、今頃になって、恥ずかしくなってきた」

護の顔が赤くなる。

「いいよ。デートは何時でも出来るから。それより護の方が心配。辛かったら、辛いって言って欲しいよ。私達、隠し事しないって約束でしょ」

「そうだけど…。でも、やっぱり好きな子には、見せたくない姿だから…」

護が、肩を落とす。

「そうかもしれないけど、私は、どんな姿だって、護だって思うもん」

「詩織…」

護が、私の肩を優しく抱き寄せる。

私は、逞しい護の胸に顔を埋める。

護の鼓動が、私を安心させる。

「なぁ、詩織…」

「何?」

「オレ、邪魔してないか? …その…」

何となく言いたい事がわかった。

「邪魔じゃないよ。私は居てくれる方が安心するし、相談にのってもらえるもの。悩んだ時は、色々と話せればって思てるんだ」

「詩織……。やっぱり、お前が好きだ!」

護が、強く抱き締めてくる。

私は、それに応えるように護の背中に腕を回す。

「護。私も大好き」

そのまま護の唇にキスをする。

次第に口付けが深くなっていく。

「ダメだ。止まらない…」

護が、そっと私を押し倒す。

唇から首筋、鎖骨にそれらが落とされる。

「ちょっと…。護…」

私は、慌てて押し退けようとしたけど。

護は、やめる気配がない。

護の手が、服の裾から忍び込んでくる。

護が、触れた部分から熱がこもる。

「詩織…。今、お前を食べたい…」

護の甘い声が、私の耳をくすぐる。

「ダメだよ…。お母さん達が…来ちゃうよ」

私の言葉に。

「そうかもしれないが…。もう、我慢できない…お前が、欲しい…」

切な気な声に私は。

「……うん…」

って、頷いていた。

「詩織の声、聞きたいけど、押さえてな」

護の言葉に。

「…う…うん…」

私は、自分の口を手で押さえた。

声が、漏れないように……。

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