再会
翌朝。
私は、制服に着替えて鞄と兄達のチョコを持って部屋を出た。
兄達の部屋をノックして、部屋に入る。
「ハッピーバレンタイン!」
そう言って、兄達に手渡す。
「俺達のもあるんか?」
隆弥兄が言う。
「うん。いつもありがとうって気持ちを込めてね」
「ありがとう」
勝弥兄が、はにかんでる。
「…で、何で制服なんか着てるんだ?」
優兄が聞いてきた。
「里沙に聞いてない?今日、サッカー部の練習試合があって、応援しに行くんだよ」
「そっか。それなら仕方ないな」
なんか、優兄落胆してない?
その時。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「誰だよ。こんな時間に…」
隆弥兄が、苛立った声で言う。
「多分、護だ。一緒に行く約束してたから…」
私が言うと。
「気を付けて行きなよ」
「うん。じゃあ、行ってきます」
兄達に言うと、玄関に急いだ。
玄関を開けると、護と目があった。
「おはよう」
お互いに言い合う。
チョコ、いつ渡そうかな?
何て考えながら、学校へ向かう。
今、渡しても邪魔だよね。
うーん。
って、悩んでたら。
「どうした、悩みごと?」
護が、顔を覗き込んできた。
エッ…。
「百面相になってる」
そう言って、笑い出す。
「何でもないよ」
って、笑顔でごまかす。
「それより、今日の対戦あいて、どこ?」
私は、対戦相手までは、把握してなかった。
「確か、高陵学園だって言ってたぞ」
護、後輩に聞いたんだな。
でも、高陵って…。
浅井君が進学した学校だ。
でも、彼が、サッカー部に入ってるとは思えない。
彼は、中学の時は、バスケに打ち込んでたし…。
「どうかした?」
「ううん。何でもない」
護に気付かれないように言う。
校庭では、サッカー部がウォーミングアップしていた。
その側で、生徒会メンバーが集まっていた。
「おはよう」
私は、皆に向かって言う。
「おはよう。って、旦那も一緒かよ」
佐久間君が、聞こえよがしに言う。
昨日の今日で、ちゃんとした対応してる。
そんな彼の態度に対して、私も自然に対応する事にした。
「いいでしょ。護は、サッカー部のキャプテンだったんだから、後輩の応援ぐらいいいじゃない」
何て私が言ってたら。
二年生のキャプテンが護を見つけて、駆け寄ってきた。
「玉城先輩。お願いがあるんですが…」
そう言って、言葉尻を濁しながら護に事を見る。
「なんだ?」
護の低い声。
いかにも、不機嫌そうだけど…。
後輩の前だから?
「メンバーが足りなくて、玉城先輩、出てもらえませんか?」
護は、暫く考えてから。
「わかった」
一言告げる。
「…と言うことで、ちょっと行って来る」
護が、私の頬にキスをする。
「ちょ…っと…」
私は、慌てて辺りを見渡す。
よかった。
誰も見ていなかったみたい。
ホッと、胸を撫で下ろす。
「熱いね」
里沙に言われて。
「…なっ…」
顔が、熱くなる。
「あっそうだ。…チョコ」
私は、鞄からチョコを取り出す。
「はい、友チョコ」
私は、里沙に渡す。
「あっ、あたしもあるよ」
里沙が、渡してくれる。
「ありがとう。考える事は、一緒だね」
「そうだね。他の皆にも渡すよね」
「うん。そのつもりだよ。今にうちに、渡しちゃおうか」
二人して、チョコを配る。
「これって、本命?」
佐久間君が、聞いてきた。
「義理だよー」
って答える。
「義理かよ」
なんか、残念そうに言う。
私は、その場を離れて、忍ちゃんの所に行く。
「一様、迷惑掛けてるから、そのお礼を兼ねてるんだけど…」
私が言うと。
「ありがとう、詩織ちゃん。私もあるんだ」
忍ちゃんが鞄から取り出して、渡してくれる。
それに続くように柚樹ちゃんがチョコをくれる。
「実は、いつ渡そうかなって、思ってた時に詩織ちゃんと里沙ちゃんが配り始めたから…」
柚樹ちゃんが、ホッとした顔を見せた。
「よかったね、お兄ちゃん。義理でも、詩織ちゃんからチョコもらえて」
忍ちゃんが、拓人君に言ってる。
「忍。一言多いぞ」
拓人君が慌ててる。
そんなやり取りをしていたら、視線を感じて振り返る。
そこには、浅井君が居た。
エッ…。
何で?
「水沢。何で、ここに…」
浅井君が、近づいてくる。
「実は、私、この学校の生徒会長なんだ。今日は、サッカー部の要請で、応援に来てるんだ」
私が、説明してると、横から里沙が顔を出す。
「久し振りだね、浅井くん」
里沙が声掛けると。
「なんだ。桜も居たのか」
興味なさそうに言う。
「居たのかって、あたしは詩織のおまけみたいに言わないでよ。で、何でここに居るの?」
里沙が、口を尖らす。
「それ、私も聞きたい」
「俺、高校では、サッカー部に入ったんだよ。今、俺がキャプテンなんだ」
得意そうに言う浅井君。
「そうなんだ」
里沙が、答える。
「じゃあ、俺もそろそろ行かないと…」
それだけ言って、背中を向けて歩き出す。
「あ、水沢。試合終わったら、待っててくれるか?」
思い出したかのように言う浅井君に。
「ごめん。先約があるから無理」
って言い返した。
「それは、残念だ」
そう言って、彼はグランドに行ってしまった。
確か、あの時、諦めるって言ったよね。
彼と入れ代わるようにして、護が私のところに来る。
久し振りのユニフォーム姿が、格好よくて、見入っちゃった。
「詩織、アイツもサッカー部だったんだな」
「そうみたい。私も、今知ったばかり」
「そっか…。試合前に、充電させて欲しいんだけど…」
護が、私の腕を引っ張り、校舎の影に移動する。
そして、唇が重なる。
私は、辺りをキョロキョロと見渡す。
「大丈夫だって、誰も居ないから…」
護が、クスクス笑う。
そして、もう一度唇が重ねられた。
「よし、充電完了。しっかりオレを応援するんだぞ」
「うん。でも、何でキャプテンマークなんかつけてるの?」
本来なら、二年生のキャプテンが着ける筈なのに…。
私の疑問に。
「監督とコーチに押し付けられた」
溜め息を漏らす、護。
「そうなんだ。じゃあ、試合中に護に怒号が聞けるんだ」
「怒号か」
不適に笑う。
「私は、嬉しいよ。護のユニフォーム姿が見えて」
笑顔で護に伝える。
「また、不意打ちかよ」
照れ出す、護。
「だって、本当の事だもん」
「わかった。じゃあ、応援よろしく」
護は、私の頭を軽くポンポンと叩くと、グランドに向かっていった。
私もその後を追うように、向かう。
この後、とんでもないアクシデントが起こるとは、思っていなかった。