顔合わせ 2
「詩織、護君。遅いよ」
境内の入り口に着くとお母さんが、口を開く。
「ごめんなさい。友達とばったり会っちゃって話してた」
「そうなの。それより、早く行きましょう。予約してあるから」
お母さんは、嬉しそうに歩き出す。
「ごめんね。なんか、お母さん浮かれてるね」
恥ずかしいな。
「いいよ。嬉しそうなお義母さんの顔を見ていたら、こっちも楽しい」
護の楽しそうな声。
よかった。
「護、ありがとう。私、護にとって、お荷物なのかなって、思ってたんだ。けど、私は私なんだって。他の人にはなれない。それに、護に釣り合うように頑張ればいいんだって、思いしった」
「オレもさ。詩織の事、もっと信じることが必要だなって。自分の想いだけを表に出して、恥ずかしい思いさせたな。オレは、何時までもお前の事を大切にしたい。愛しく思ってる」
護が、優しく肩を抱き締めてくる。
「詩織が、オレを頼ってくれるように、今は頑張るだけだ」
寂しそうに言う護に。
「頼りにしてるよ。でも、今は重荷になるだけでしょ。受験が終わったら、一杯甘えちゃうかもよ」
笑顔で言う、私に。
「いいよ。詩織の我儘、聞いてあげる。一杯我慢してるもんな」
護が、私の額を軽くつつく。
エヘヘ。
「こら、そこ。何時までいちゃついてるんだよ。店に入るぞ」
勝弥兄の激が飛ぶ。
「はい」
入ったお店は、和食料理屋だった。
和室に案内されて、座る。
私は、護の横に。
会席料理が運ばれてきた。
わー。
凄い、ご馳走だ。
「さぁ、食べようか」
お父さんが言う。
「じゃあ、玉城さんが、乾杯の音頭を」
護のお義父さんが、照れながらも。
「明けましておめでとうございます。今年一年が、良い年でありますことと、私と息子共々よろしくお願いします。乾杯」
と、挨拶する。
「乾杯!」
チィン。
カチィン。
グラスが触れ合う音。
私と護、それに優兄は烏龍茶。
護のお義父さんとうちの両親、双子の兄達は、ビールをそれぞれ口つける。
「うまい!」
隆弥兄が、一言呟く。
「頂きます」
私は、手を合わせて料理に手を出す。
「おいしーい」
私は、次から次へと口に運ぶ。
半分ぐらい食べたところで、お腹が一杯になる。
「もう、入らない」
私が言うと。
「勿体ないなぁー」
優兄が、そう言って私のお膳に手を出してきた。
「どうぞ」
私は、優兄にお膳を差し出す。
「詩織。本当に一杯?」
お母さんにも聞かれて。
「うん。もう入らないよ」
と、即答した。
「帯の締め付けのせいじゃなくて…」
「うん。違うよ」
「そっか。じゃあ、皆が食べ終わるまで、散策してきたら。ここのお庭、綺麗だから」
お母さんに言われて。
「じゃあ、そうする」
私は、席を立って、お庭を散策する事にした。
庭には、小さな池に朱色の小さな橋が架かっていた。
その奥には、寒椿が咲き乱れていた。
ウワー。
綺麗。
でも、何でお母さんは、知ってたんだろう?
私は、ゆっくりと庭を歩く。
ふと、後ろから抱き締められる。
振り向くと、護だった。
「どうしたの?」
「うん。ちょっとな。それより、詩織。着物姿、綺麗だよ」
さっきも言ってたよね。
「ありがとう。最初は、着るつもりなかったんだけどね」
私が言うと護が驚いた顔をする。
「だって、私、護と会えるとは思ってなかったんだよ。お母さんが急に思い立ったように着せるから…」
「そういや、オレを見て戸惑ってたもんなあ」
「うん。両親が、やたらと時間を気にしてたけど、まさか、護のところと待ち合わせしてたなんて思わないよ」
私は、膨れっ面をする。
「オレもさ、ビックリしたんだよ。急に隆弥さんから電話もらって“初詣、お前の親父さんとうちの家族で行かないか?“ってきた時には、本当にビックリした。しかも、詩織のバイトの休みの日で、親父の都合がつけば…」
隆弥兄…。
「まさか、私と護へのサプライズだったのかな?」
「さぁな。でも、こうして堂々と会える事になったんだし、よしとしないか」
護の笑顔が、私を安心させる。
「なぁ、詩織。この間の奴とは、どこまでの関係だったんだ?」
護が、小声で聞いてきた。
「何処までって?」
「だから、キスとかしたのかって事だよ」
真顔で聞いてくる。
「気になる?」
私が言うと。
「そりゃあ…」
ボソッと言う。
「私のすべての初めては、護だよ」
「嘘だ」
「何で、嘘なんかつかないといけないの? 彼とは、精々手を繋ぐぐらい。お互い幼かったから」
私は、護の顔を覗き込む。
視線が絡み合う。
そして、お互いの顔が近づく。
軽い口づけを交わす。
「私のすべての経験は、全部護が初めての人になってるから」
私は、もう一度護の耳元で、囁く。
「なっ…」
そう言って、護の顔が赤くなる。
「そういうこと言うな」
「ウフフ…。護の顔、真っ赤」
私は、笑いながら言う。
「からかうな」
私の頭をくしゃくしゃにする。
「ちょっと。やめてよ」
私は、その手から逃れようと逃げ出す。
「おーい。お前ら、何時までじゃれあってるんだ。帰るってさ」
優兄が、呼びにきた。
「はーい」
私は、返事をする。
護が、私の手を取って、歩き出した。
別れ際。
「今日は、本当にありがとうございました」
護のお義父さんが言う。
「いえいえ。こちらこそ、楽しかったです」
お父さんが答えてる。
私は、護を見つめる。
「詩織。もう少しだけ待っててくれるか?受験が終わるまでは、会えない」
護の決意が、伝わってくる。
「うん、大丈夫。待ってるから、受験頑張って」
私は、笑顔で言う。
返事の代わりに私の頭を軽く叩く。
護の最高の笑顔が、最後に見えた。
「じゃあな」
「バイバイ」
「護。受験、頑張れよ」
隆弥兄と勝弥兄が、護にエールを送る。
「はい!頑張ります」
護の力強い返事が、帰ってきた。
兄弟仲だけじゃなく、親子仲も良いって、いいよね。
なんだかんだ言われても、護は皆に認められてるんですね。