二人の関係
「なんだ、詩織。仕事終わり?」
優兄が聞いてきた。
「うん。休みなのに入ったから、上がって良いって…」
私は、護の隣に座った。
「お客様、ご注文は?」
里沙が、注文を取りに来た。
「コーヒーを」
「わかりました」
そう言って、里沙が離れていく。
普段、コーヒーなんか飲まないのに頼んじゃった。
っていうか、この沈黙は何?
その沈黙を破ったのが、護だった。
「…で、優基。オレに頼みたい事って?」
まだ、何も話してなかったのか…。
「詩織から、聞け」
優兄が、私の方を見る。
あっ、優兄が投げ出した。
「詩織、何?」
そっけない態度。
「ごめんね。勉強の邪魔して…」
私は、言葉を濁す事しか出来ない。
「いいよ。詩織の頼みじゃ、断れない」
「お待たせしました。コーヒーです」
里沙は、注文の品を置くと直ぐに行ってしまった。
「優兄。護にあの事話した?」
「話していない。詩織の口から聞きたいだろうし…」
そう言って、優兄は護の方を見る。
私は、覚悟を決めて、話し出した。
「護。私ね、中学の時に一人だけ付き合ったことがあるの。それが、護の前に座ってる浅井君。昨日、偶然に会って、彼氏が居るかと聞かれて、居るって答えたんだけど、信じてもらえなくて、会わせて欲しいって、言われて…」
そこまで言って、護が。
「わかったから、もう言わなくて良い。言いづらいよな」
優しい笑顔を浮かべて、私の肩を抱く。
二人の前なのに…。
「そこ! 二人の世界を作るな!」
優兄が、苦笑する。
「どういう事?」
浅井君は、不思議そうな顔をする。
「ここからは、オレから話すよ」
護が、真顔で言う。
「実は、オレ、今謹慎処分中。隆弥さんから、詩織に会うなって言われてる」
「じゃあ、今、俺が水沢に手を出しても良いですよね?」
浅井君も、真剣に聞いてくる。
「それは、無理だ」
優兄が、護に代わって言う。
「これは、隆兄から護に対する試練だ。こいつらが、ある条件をクリアしたら、婚約するんだよ。だから、その前に隆兄が護を鍛える為にワザト試練を与えてるんだ」
優兄が、付け足した。
「そんなぁ…。って事は、俺がこの二人の間を割る事、出来ないんですか?」
浅井君が、ガックリと肩を落とす。
「悪いな。オレ、こいつだけだから、他の奴じゃ、物足りないんだ」
護が、私の頭を撫でる。
それが、心地よくて、微笑む自分がいる。
「ハァー」
浅井君が、大きな溜め息をついた。
「水沢の事、諦めがつきました」
私は、浅井君を見る。
「俺さぁ。昨日、水沢に偶然会って、これも運命だと思ってたら、彼氏が居るって聞いて、嘘だろって、信じなかった。今、こうして目の当たりにして、納得するしかないだろ」
私と護は、顔を見合わせて微笑む。
「そんなキラキラ笑顔を見たら、諦めるしかないだろ」
浅井君が、苦笑してる。
「さてと。そろそろ帰るか? 隆兄に見つかる前に…」
そう言って、優兄が席を立った時だった。
「詩織!何してるんだ!」
言ってる側から見つかってしまった。
「詩織。お前が、俺との約束を破るとはな。何、考えてるんだ」
隆弥兄が、頭ごなしに怒ってくる。
「ごめんなさい、隆弥兄。言い分けはしません。私が悪いんです」
私は、隆弥兄に頭を下げる。
護が悪く言われるのだけは、嫌だから。
「わかった。ほら、帰るぞ。護、頑張れよ」
隆弥兄は、伝票を掴むと私の腕を引っ張る。
会計を済ませて、店を出る。
「隆弥兄…。本当にごめんなさい」
「いいよ。ちゃんと理由があったんだろうし。優基の横に居た奴絡みだろ」
隆弥兄が、私の頭をクシャクシャに撫でる。
本当、観察力だけは、あるんだから。
「今日の事は、多目に見てやる。ちゃんと、約束は守れよ。俺も、そこまで鬼じゃない」
「ありがとう、隆弥兄。約束は、守るよ」
私は、笑顔で言った。
そうこうしてるうちに、年を越していたのだった。
隆弥兄、怖い…。
詩織アンテナでもあるんでしょうか?