イケメン三人
翌日。
優兄は、朝から出掛けていた。
今日は、バイトも休みだし、家でゆっくりと寛いでいた。
トゥルルル…トゥルルル…。
家の電話が鳴る。
今日に限って、誰も居ない。
私は、その電話に出る。
「はい、水沢です」
「水沢さんのお宅ですか? すみませんが、詩織さんいらっしゃいますか?」
「詩織は、私ですが…」
「よかった。居てくれて。今から、バイトに出てくれないか? 人手が足りなくてさぁ」
「わかりました。今から出ます」
「じゃあ、よろしく!」
相手の電話切れてから、受話器を置く。
バイトに行く準備をして、家を出た。
店に着くと、ロッカールームでユニフォームに着替えて店に出る。
「悪いな、水沢。せっかくの休みなのに呼び出して…」
店長が、声を掛けてきた。
「いえ。大丈夫です」
「本当に助かる。今度、埋め合わせするからな」
店長がそう言って、私の肩を叩いた。
ホールに出て驚いた。
客席が、すべて埋まってて、店の外にまで並んでいる。
「詩織。今日は、休みじゃ…」
里沙が、声を掛けてきた。
「そうだったんだけど、人手が足りないからって、呼び出された」
「そこ。喋ってないで手を動かす」
ベテラン店員に注意される。
「はい!」
里沙と二人、同時に返事する。
それから、私達は接客に勤しむのであった。
やっと、一段落したと時計を見る。
二時五十分。
もうすぐ、護が来る。
どうしよう。
私が、そわそわ落ち着かずにいると。
「どうしたの、詩織?」
里沙に声をかけられるのと同時に、店の入り口が開いた。
「いらっしゃいませ。お客様何名…」
って言いかけて、止まった。
入って来たのが、護だったから。
「どうしたんだ、詩織?」
「ううん。何でもない」
「人と待ち合わせしてるんだ」
知ってる。
「席に案内します」
私は、禁煙席の四人がけに案内する。
「ご注文が決まりましたら、ブザーでお知らせください」
私は、事務的な事を言って、その場を離る。
暫くして、優兄と浅井君がやって来た。
「連れが待ってるはずなんだが…」
優兄が口にして、驚いてる。
「お前。今日は休みだって…」
小声で聞いてきた。
「うん。店長に呼び出された」
私も、小声で言い返す。
「お連れ様のところに案内します」
私は、二人を連れて、護が待つ席に行く。
「こちらです。ご注文が決まりましたら、お知らせください」
私は、事務的な言葉だけを残して、その場を離れた。
暫くして、女子店員が、騒ぎ出した。
「ちょっと。八番テーブルの男の子達見た?」
「見た見た」
「めちゃ、かっこいいよね」
八番テーブルって、護達の事だよね。
「私、一人で座ってる彼が良い」
それって、護の事?
「私は、二人で座ってる通路側の人」
って、わいわい騒ぎ出す。
ピンポーン。
電光掲示板に八が点滅してる。
「やった。私が行ってくる」
「ずるーい。私が行くから」
って、オーダーを取りに行くのに揉めている。
私は、その光景を見ながら、他にテーブルの片付けをする。
「詩織。オーダーとって」
優兄が、私を呼びつける。
「お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「俺、季節のケーキセットで、コーヒー」
優兄が言う。
「俺はミルフィーユと紅茶」
浅井君が言う。
「紅茶の種類は、何にいたしますか?」
「アッサムで」
「オレは、優基と同じので…」
護が、変な顔をしてる。
本当は、私が浅井君の事を紹介しなきゃいけないのに…。
でも、どうやって?
「ご注文を繰り返させていただきます。季節のケーキセットとコーヒーを二つ。ミルフィーユを一つ、紅茶のアッサムティー一つ、以上でよろしかったでしょうか?」
「ああ」
「では、失礼します」
その場を離れて、片付けを再開する。
食器を下げて裏に行くと。
「水沢さん。彼らと知り合いなの?」
突然聞かれて。
バイトに入ってから、今まで一度も話した事の無い子だ。
「何故ですか?」
「なぜって、顔見知りなんでしょ。だったら、紹介して欲しいなぁー」
なんだ、そんな事。
この人、バイトしながら、彼氏を探してるんだ。
「公私混同はしたくないので、失礼します」
私は、逃げるようにその場を後にした。
教えても、彼女達は絶対に受け入れてもらえない事が、目に見えてるもの。
あえて言えるのは、浅井君だけがフリーだってことぐらいだし…。
「八番テーブル、あがったよ」
私は、それを持って護達の席に行く。
護は、足を組んで、もて余していた。
「お待たせしました。ミルフィーユとアッサムティーでございます」
浅井君の前に置く。
「季節のケーキセットでございます」
優兄と護の前にそれぞれ置く。
「詩織。ちょっと、休憩もらってこい。今なら、客も少ないから良いだろ」
優兄が耳打ちする。
「わかった」
「すみません店長。休憩に入っても良いですか?」
奥に居た、店長に聞く。
「あぁ、もう上がっても良いぞ。休みのところ、悪かったな」
店長が、労いの言葉をかけてくれる。
そんな店長に
「お疲れ様でした」
と、声をかけた。
私は、ロッカールームに戻って着替えをし、鞄を持って、一旦裏から出た。
そして、もう一度店に入った。
「いらっしゃい…」
里沙が、口ごもる。
「護達の所へ行くから」
私は、里沙にそう告げると、三人のところへ向かった。
男三人イケメン揃いって、どんなんでしょう?
そこだけ、煌めいてるって感じなんでしょうか?




