元カレ
バイトを終えて、外に出ると真っ暗だった。
「水沢?」
不意に声を掛けられて、振り向くと浅井君が居た。
「やっぱり、水沢だー!」
って、大声で言う。
「久し振りだな」
「そうだね!中学卒業してから、会ってないもんね」
「そうそう。こんな時間に何やってるんだ?」
「私? バイト帰りだよ。そういう、浅井君は?」
「俺? 俺は、塾の帰り。しかし、お前二年会わないうちに綺麗になったなぁ」
目を細めて言う浅井君に。
「浅井君こそ、カッコ良くなったんじゃない」
真顔で返す。
「そんな、真顔で言われたら、照れるだろうが…」
苦笑する浅井君。
「あのさ…」
「何?」
「俺たち、元に戻らないか?」
エッ…。
何で、今更…。
「俺さぁ。お前と別れてから、ずーっとお前の事しか考えられなくてさ。いつも、頭の片隅にあるんだ。だから…」
言いづらそうに言う浅井君に。
「ごめん。私、彼氏居るから…」
「マジかよ。あの兄ちゃんずも認めてるんかよ…」
「そうだね」
嘘は、付いてないよね。
半分は、認めてくれてるんだもんね。
「やっぱり、あの時、別れるんじゃなかった」
小声で呟く彼。
エッ………。
「高校も別々だから、不安に押し潰されて、別れる選択したけど、あのまま付き合っておけばよかった。」
「ちょっと。私達、別々の道を歩む事に決めたから、別れたんでしょ? 浅井君も納得してたんじゃないの?」
「違う。本当は、別れたくなかった。水沢の事、好きだった。でも、高校も違うし、会う時間を作れないんじゃないかって思って、渋々別れたんだよ」
「エーーーーッ」
私は、驚くしかない。
「そんなに驚く事かよ」
「驚くよ。だって、私、自分に納得いくように落ち着かせてたんだからね」
「じゃあ、元の鞘に戻らねぇか?」
真顔で、浅井君は言ってくるが…。
「ごめん。私にとっては、浅井君は過去の人になってるから。今の彼氏が、私にとって、大切な人なの。だからごめんなさい」
私は、浅井君に向かって頭を下げる。
「じゃあ、その彼氏に会わせてくれ。そしたら、俺も諦める」
エッ。
「それも、ちょっと無理、かな…」
「嘘をついてるんじゃないのか?」
疑いの目を向けられる。
「嘘なんて、ついていない! ただ、彼、忙しいから…」
「そんな事言って、俺と付き合いたくないから言ってるんだろ」
「違う! 私、嘘言ってるんじゃない。事情があって、今会えないだけなの!」
私が、語尾を強めに言った時だった。
「詩織? お前、店の前で待ってろって言っただろうが…」
優兄の声が聞こえた。
「あれ? 今日は、勝弥兄が迎えに来てくれるんじゃなかったの?」
私が言うと。
「勝兄、急用が出来て、俺が来た。それより、何大声だしてんだ?」
優兄が、呑気に聞いてきた。
「エッと、その…」
私が言い淀んでると。
「お久しぶりです、優基さん」
浅井君が、優兄に頭を下げる。
「浅井か? 本当に久し振りだな。で、何の話をしてたんだ?」
「率直に聞きます。水沢に彼氏、居るんですか?」
浅井君が、優兄に聞く。
私は、優兄を見る。
「ああ、居るよ。俺の大親友だ。ただ、今はちょっと、事情があって、な。そうだ、お前が信じられないなら、俺が会わせてやろうか?」
優兄が、提案する。
「本当ですか?」
「あいつに会えば、お前も納得するんだろ。ちょっと待ってな」
優兄が、携帯を取り出して、電話を掛ける。
「もしもし、護。お前にたのみたい事があるんだが、明日、時間あるか?」
優兄が、浅井君を見る。
「じゃあ、明日の午後三時に詩織のバイト先な」
それだけ言って、電話を切った。
「…ということで、浅井はここで俺と午後二時五十分に待ち合わせな」
優兄が、浅井君に言い放つ。
「はい!」
浅井君が、元気の良い返事をする。
「じゃあ、明日な」
そう言って、優兄が私の手首を掴んで歩き出した。
「詩織。明日は、バイト休みだったよな」
「そうだよ」
「お前も来る?」
エッ…。
「会いたいんだろ?」
「会いたいけど、隆弥兄との約束を破るわけにはいかないよ。それに私は、護を信じてるから、大丈夫」
私は、笑顔で優兄に言う。
「そっか…。わかった。男三人で、会ってくるわ」
優兄が、優しい口調で言う。
「しかし、詩織も強くなったな」
突然優兄が言い出した。
「強くないよ。信じれる人が居るから、強くなるんだよ。それに、今は、護も頑張ってるんだから、私も何かをしなくちゃって、逆に焦ってるんだと思う」
「そうだな。俺も、里沙ちゃんの為に頑張るか」
優兄が呟いた。
里沙の為に…か…。
優兄も、大分変わったな。
「ほら、さっさと帰るぞ」
私達は、家路へと急いだ。