それぞれの想い
翌週。
先生からの呼び出しがあるかと覚悟していたが、平穏無事に過ごせた。
放課後。
生徒会活動が無いから、帰り支度をしていたら。
「水沢詩織さん居ますか?」
不意に名前を呼ばれる。
顔をあげて呼ばれた方を見ると見知らぬ男子が立っていた。
しかも、またもやクラス中の注目を浴びる。
仕方がないので。
「里沙、悪いけど、護が来たら待っててもらうように言っておいて」
伝言を里沙に残して、入り口の彼の所に行く。
「何でしょうか?」
私が伺うと。
「ここじゃあ、話せないから…」
って、歩き出す。
仕方がないので、後を付いて行った。
校舎裏に連れて来られて、何かと思ったら。
「僕、一年の井上春樹って言います。水沢先輩、僕あなたの事、一目見て惚れました。僕と付き合ってください」
いきなりの告白。
エーーーッ。
これは、断らなきゃいけないよね。
「ごめんなさい。私、貴方とは付き合えません」
私は、頭を下げた。
「僕が、年下だからですか?」
「そうじゃない。彼氏が居るから、無理なんです」
「彼って…」
彼が、私の後ろに目を向ける。
その視線が気になり、振り返る。
そこには、護の姿があった。
「詩織。また、告白されてる…。だから言わんこっちゃない。目を離すとこれなんだから…」
呆れ顔で言いながら、私の肩を抱く。
「僕、諦めないですから……」
逃げるように去っていく。
また、変な台詞を……。
私は、嫌な予感がする。
「詩織。また、変な捨て台詞を言わせてる。オレ、安心して卒業出来るのか?」
護が、苦笑してる。
「出来なかったらどうするの?」
「お前が言うなよ。まぁ、そうなったら、毎日校門で出待ちするかな」
って、冗談ぽく言う。
「それとも、同棲するか?」
真顔で言う護に私は、困った。
嬉しいんだけど、一緒に居てもいいのだろうか?
護のお父さんに悪いのではないのか?
それにお父さんやお母さんに迷惑掛けてしまうのではないか?
第一に、私達まだ学生なのだから、それはいけないのではないか?
私の頭には、以上の事が浮かんだ。
「どうしたんだ。黙り込んで…」
「ううん。何でもない。帰ろ」
「そうだな」
私達は、教室に置いてある鞄を取りに戻り、帰る事にした。
その翌日も翌翌日も、なぜか呼び出されては、告白される。
その度に断るのだが、諦めてもらえず、私も途方に暮れていた。
「詩織。毎日大変だね」
里沙が苦笑交じりで言う。
「本当だよ。テスト勉強が、出来ないよ」
私も、ブー垂れてみた。
「ところで、クリスマスパーティーどうする?」
里沙に言われても、何の事かわからずにいた。
「何それ?」
「えー。詩織知らないの? 毎年行われてる、生徒会主催のクリスマスパーティーだよ。申し送りに書いてあったよ」
嘘ー。
どうしよう。
「いっそう、クリスマスダンスパーティーにしないか?」
横から、佐久間君が言ってきた。
「それ、いいね」
里沙が、賛成する。
「三年生の受験の息抜きも兼ねてさ」
その一言で、やたらと嬉しそうになる里沙。
「他のメンバーに聞いてからにしようか。そこで賛成であれば、進めよう。テスト終了次第、生徒会室で話し合おう」
「了解」
「ところで、この間の事、本当なのか?」
佐久間君が、小声で聞いてきた。
やっぱり、覚えていたか…。
私は、里沙に助けを求める。
が、里沙は、素知らぬ顔。
「どっちなんだよ。いい加減教えろよ。気になるだろ」
そうなんだよね。
佐久間君も、私に告白してきた一人なんだよね。
そんな時に護が、婚約したって言うから…。
「ごめん。その話は、今出来ない。私一人で言えることじゃないから…」
私がそう言うと。
「何だよ。もったいぶらなくても良いじゃん」
そう言って、佐久間君は何処かへ行ってしまった。
「いいの? 佐久間君、怒ってるんじゃない?」
「仕方ないよ。本当に私一人で決めて、話すわけにいかない。決まった時点で、佐久間君には言うよ」
「そうか。その覚悟があるなら」
里沙が、私の肩を叩いた。
「すみません。水沢詩織さん居ますか?」
またもや、呼び出される。
ゆっくりしてられないよ。
仕方なく、席を立って呼ばれた方に行くのであった。
「詩織ちゃん。今日は、何人に告白されたのかな?」
言い方が、怖い。
放課後、護と図書館でテスト勉強をする事になった。
その帰り道の事だった。
「何人と言われても、数えていない」
っと、答えると。
「へぇ…。オレが、知ってる限りで十人かなぁ」
よく数えていたなぁ。
私自身、そんな余裕無いよ。
「ちゃんと、断ってるんだよね?」
「全部、断ってます! でも、いつも一言余計な言葉がついてくるのは、なぜなんだろう?」
「お前が、隙だらけだからだと思うぞ。って言うか、お前それオレに焼きもち焼かせる為に言ってるのか?」
護が、拗ねる様に言う。
「そうじゃないけど、なぜか、皆最後の言葉が“諦めないから“なんだけど、どうしてだろう?」
「お前なぁ……。自覚持てよ。今まで皆、前に出てこなかったのは、普段そんなに目立たない存在だったから安心してたんだよ。それが、生徒会長という目立つ位置に出るから、焦り出してるんだ」
護が、説明する。
「何で、そんなに詳しいの?」
「オレが、そうだからな。我こそはモードだから。オレに場合は、運がよかっただけだと思うけどな」
運だけなのかな。
じゃあ、私の気持ちはお構い無しなの?
「一つ聞いても良い?」
「なんだよ」
「今、護と付き合ってるけど、私が他の人と付き合ってたらどうした?」
「そうだなぁ。オレも他の奴等と変わらない事してるんじゃないか。捨て台詞も一緒かもな」
そうなんだ。
「そういえば、呼び出し無かったな」
護が、思い出したかの様に言う。
「うん。でも、佐久間君には、聞かれたよ」
「何て答えたんだ」
「“その話は、今は出来ない。私一人で言える事じゃないから“って、言っておいた」
「そっか…」
「彼には、きちんと話をするつもりだよ」
「何で?」
「彼は、私の事を何時までも気にしてるみたいだから、ちゃんと伝えて諦めて欲しいから…」
「ふーん」
なんか、納得してないみたいだけど…。
「詩織はオレのだよな」
エッと…。
その言い方は物みたいに聞こえるんですけど…。
「何で、即答しないかな」
「そうだけど、私は物じゃないから、どう答えようか迷った」
「ごめん。オレ、絶対に第一志望校を合格して、卒業する。そして、詩織との婚約を完全にする。」
護の意気込みに。
「頑張ってね。私は、応援しかできないけど…」
励ます事しか出来なかった。
「じゃあ、明日からのテスト頑張ろうな」
そう言って、護が去って行った。
「ただいま」
私は、玄関を開けて中に入る。
「お帰り。遅かったじゃん」
優兄が声を掛けてきた。
「うん。護と図書館で、勉強してたから…」
「そっか。護、怒ってただろ」
「エッ…」
「詩織が、放課になる度に男から呼び出されてるのを見てたからさぁ。気が気じゃ無かったんじゃねぇか」
全然そんな素振り見せなかったけどなぁ。
「まぁ。明日からのテスト頑張ろうな」
優兄は、それだけ言って部屋に戻っていく。
私も、自分の部屋に行くと携帯が鳴った。
私は、携帯を鞄から出して、電話に出る。
「はい」
『詩織。オレさぁ、親父に話してみるよ。卒業したら、同棲出来るように…。その時は、絶対に逃げるなよ』
「護。それは、不味いんじゃないの? うちのお父さんだって、説得しないといけないんだよ」
『大丈夫。同棲って言っても、今住んでるマンションだから…。嫁さんとして家に住めば良いんだよ。親父も帰えって来るのも遅いし…』
そんな事言われても、近所の目とかあるよね。
「ダメだよ。せめて、一年我慢しようよ」
そしたら、私も制服で出入りしなくてもよくなるし…。
『わかった。もういい!』
エッーーーー。
なんか、怒らせちゃった。
どうしよう。
私は、慌てて護に電話する。
けど、コールだけで、出てくれない。
本気で怒ってる。
私は、優兄の元に急いだ。
「優兄! どうしよう。護が…」
私は、優兄の部屋のドアを叩く。
ドアを開けて、優兄が顔を出す。
「何があったんだよ」
優兄が、部屋に入れてくれる。
私は、床に座り込む。
「何があった?」
優兄が、私の横に座って聞いてきた。
私は、さっきの事を全て、話した。
「それは、護が先に急いでるとしかとれんな。詩織の事が心配で、仕方ないんだよ。でもなぁ…。こればかりは、親父も許可してくれるかどうか……」
優兄も困ってる。
「そうだよね。だから、“せめて後一年待って“って言った途端に怒っちゃったんだよね」
「しゃあねぇなぁ。俺が、電話して意図を聞いてやるから、待ってな」
そう言うと優兄が携帯を取り出して、護に駆け出した。
「護?俺なんだけどさぁ。詩織がなんか困ってるんだけど、何か言った?」
私は、大人しく優兄の会話を聞いていた。
「うん……、うん…。そういう事か…。お前の気持ちもわからんでもないが、詩織を困らせるのはよくないぜ。今も、オロオロしながら、半泣き状態だぞ」
エッ…。
私、泣いてないよ。
優兄がウインクする。
「護が、変わってくれって」
優兄から電話を受けとると。
「護?」
『詩織、ごめんな。オレ、どうしても詩織と一緒に居たくて、無理を言ってるのはわかってた。…けど、お前の傍に居られないのなら、一緒に住みたい気持ちが勝った。理性がぶっ飛んでた』
護の切ない声。
「ううん、いいよ。私も不安なんだよ。護、モテルから、心配なんだ。それに護は、誰にでも優しいから、他の女の子達が、勘違いしていくのを見てられない」
『そうかもな。ちゃんとケジメがついた時には、同棲の話もしてみようと思う。それまでは、我慢するよ』
「護…、ごめんね。愛してる」
私は、それだけ言うと、優兄に携帯を返した。
「護。明日からのテスト、お互いに頑張ろうな」
優兄は、それだけ言って電話を切った。
「優兄、ありがとう」
「そんなの気にするな。あいつの性格知ってるから、落ち着かせるのには、慣れてる」
「一時は、どうなるかって思った。あんなに怒ったの初めてだったから…」
「そうなのか? まだ護、本気で怒ったこと無いんだな。あいつの嫉妬深さには、俺も手に負えないがな」
苦笑する優兄。
「ありがとう。勉強の邪魔してごめんなさい」
私は、それだけ言うと優兄の部屋を出て、自分の部屋に戻った。
机の上に置いた携帯にメールの着信マークが点滅してる。
私は、慌ててメールを開く。
“詩織、ごめんな。
オレ、焦ってたんだな。
お前が、人気者なんだと、改めて思ったよ。
それでも、お前はオレを愛してるって
言ってくれてる。
その言葉、信じて良いんだよな?
オレも、お前を愛してる。
愛しい詩織へ 護
PS, 期末テスト頑張れよ“
護らしい文面だね。
私は、返信を打つ。
“護、さっきは凄くビックリした。
あんなに怒ったの初めてだよね。
私、本当は嬉しかったんだ。
今すぐ同棲しようって言ってくれた事。
でも、流石に返事は出来なかった。
お父さんの了解を取るのは、難しそう
だったから…。
それに、私達まだ学生だし、親に学費
を出して貰ってる身なので、簡単には
いかないと思う。
私が、高校を卒業してからでも、
遅くないよね。
(多分護の事だから、待てないかな?
でも、私としては、待ってて欲しい)
愛してる 詩織“
ちょっと長くなっちゃた。
でも、今の私の気持ちを知ってて欲しいから…。
私は、送信ボタンを押す。
そして、明日のテストに向けて、勉強に打ち込んだ。