三角関係?
ハァー。
緊張した。
こんなに緊張したの久し振りだよ。
「お疲れ様。今度から、お前達が先頭に立って進めてくれ」
前会長が私の背中を叩く。
「はい。お疲れ様でした」
私は、後片付けをする。
「詩織、頑張ったね」
里沙が、声をかけてきた。
「やっぱり、ステージ慣れしてたね」
「そんな事無いよ。やっぱり、バンドで歌うのと勝手が違うよ」
「ほら、喋ってないで、体育館閉めるから、出ろよ」
佐久間君に促されて、私達は慌てて出る。
「俺、鍵返してくるから」
「ありがとう」
佐久間君が、鍵を持って職員室に向かった。
「そういえば、詩織。玉城先輩に話した? 佐久間くんの事」
「話したよ」
「そっか…」
「詩織ちゃん達、急がないと次の授業始まるよ」
柚樹ちゃんが、心配そうに言う。
「ヤバイ。廊下を走らないように急げ」
私達は、慌てて教室に向かった。
放課後。
今日から、テスト週間なので、生徒会の方はお休み。
私が、鞄を持って、帰ろうとした矢先だった。
「水沢詩織、居る?」
教室の入り口で、誰かが呼ぶ。
その方を見る。
エッ……。
何で、ちひろさんが私を呼び出すわけ?
もう、訳がわかんない。
「居ないの?」
大きな声。
クラス中が、私の方を向く。
「居るじゃない。さっさと出てきてよね」
ちひろさんが、ずかずかと入ってきて、私のところまでやって来ると、いきなり平手打ちをしてきた。
「何するんですか!」
私は、ちひろさんを睨んだ。
「何するんですかって! 玉城くんを私から奪っておいて、何て言い草」
すごい剣幕で言う、ちひろさん。
「それは、ちひろさんの勘違いですよ。護は、ちひろさんの事なんとも思っていないと言ってます」
私は、反論する。
「そんな事ない! 玉城くんは、私の事が好きなはずよ。あなたなんかに渡さない!」
「何で、はずと言う仮定的な言い方なんですか? 私は、断言できますよ。私は護に愛されてます」
「そんな事…」
ちひろさんが、直も言い放そうとする。
ハァー。
私は、つい溜め息をついてしまった。
教室で、こんな事してもしょうがないんだけど…。
私が、黙ってると。
「玉城くんは、私のよ!」
敵意剥き出しで、怖い。
「護は、物じゃない!感情の在る人間です」
私の目の端に護の姿が見えた。
「本人に聞いてみますか?護がちひろさんの事好きなのか」
ちひろさんが驚いた顔をする。まだ気付いていないようなので…。
「ちょうど、本人が来たので…」
私の言葉に慌てて振り返るちひろさん。
「ちひろ、何やってるんだ! まさか、詩織を脅しに来たのか?」
護の言葉にちひろさんが、困惑しだす。そして。
「玉城くん。この子に言ってやってよ。私と付き合ってるって!」
護の腕を掴んで、勝ち誇るように言うちひろさん。
でも、護はその腕を振り払った。
「ちひろ。悪いけど、オレは詩織を愛してる。結婚の約束もしてる」
そう堂々と告げる護。
「嘘でしょ!」
ちひろさんが、声を荒げる。
「信じない」
そう言うと、護の唇に唇を重ねたちひろさん。
うそ…でしょ。
「キャーーー」
周りから、黄色い声が上がる。
護は、無理矢理ちひろさんを剥がし、制服の袖で唇を拭う。
ちひろさんは、そんな護を見て目を大きく見開き。
「あり得ない」
戸惑う、ちひろさん。
あり得ないのは、こっちです。付き合っても居ないのにキスなんて、しないで欲しい。
「悪いが、詩織以外のキスは、受け付けてない!」
護が、ちひろさんを睨み付けてる。
うぉ~、今なんか恥ずかしい事言われた気がする。
「詩織。消毒して良い?」
ん?消毒?
「どうやって?」
「こうやって…」
そう言ったかと思うと、唇を奪われる。えっ。
護の手が、私の頭を押さえる。
甘くて、優しいキス。
周りの黄色い声が響く中、私達は、何度も角度を変えて唇を重ねる。
その度に、チュッと音をたてる。
長いキスの後、私達は、見つめあっていた。
「もう良いわよ。玉城くんなんか、あんたにくれてやるわよ!」
ちひろさんが、苦し紛れの言い訳をして去った。
私達の周りには、人垣が出来ていた。
「水沢。さっきの本当か?」
佐久間君が、聞いてきた。
エッと……。
私は、返事に困って、護を見る。
護も、自分で言って困ってるみたいだ。
私がまごついていると護が、私の腕を引っ張ってそこから逃げ出した。
「ごめん。オレ、とんでもない事を口走った」
帰り道。
護が申し訳なさそうに言う。
「ううん、いいよ。むしろ嬉しかった。どっちにしても、何時かばれてしまうんだったら、早い方が良かったのかも…」
ちひろさんを納得させる為とはいえ、クラス中に知れ渡ったのは、まずかたかなぁ。
「来週、呼び出しされるかも…」
「そうだな。オレも覚悟しておかないといけないか…」
かなり、恥ずかしかった。
まさか、クラスのみんなに注目されてる中で、キスされるとは…。
堂々としてた態度の護、カッコよかった。
「詩織、もう一つ謝らせて」
護が、私の方に向く。
「もう一つって?」
聞き返すと。
「この頬。ちひろに叩かれたんだろ。赤く腫れてる。オレが、アイツにちゃんと言わなかったから…」
護が、私の頬を触る。
痛みなんか忘れてた。
「言われるまで、忘れてたよ。でも、これぐらい大丈夫だよ。ちひろさんの心の痛みに比べた、なんでもないよ」
護の手に自分の手を重ねる。
ほんとは、痩せ我慢してたんだと思う。ちひろさん、目に涙を浮かべていたし、口先だけで護の事諦めていないと思う。あの執着心は、真似できない。
「お前、優しすぎ。相手の気持ちまで察する事無いだろ」
護の目が怖い。
「そんな怖い顔しないでよ。私が、逆の立場だったらって思っただけなんだから…」
護が、私の腕を引き寄せる。
そのまま胸の中に抱き竦められた。
護の鼓動が聞こえる。
この場所が、一番落ち着く。
「護…」
護を見上げる。
護の優しい笑顔が、垣間見える。
「私、護の傍に居てもいいんだよね?」
「ああ、オレの傍には、詩織に居てもらいたい。って言うか、手放す気無いけどな」
って、断言する護。
私は、嬉しくて、護の頬にキスをする。
「……なっ…」
護の慌てた顔が、可愛い。
「だから、前にも言ったけど、不意打ち禁止だって…」
「それは、わかってるから…」
護の背中に腕をそっと回す。
護の腕に力が籠る。
「しかし、今日の生徒総会の挨拶の後の笑顔、滅茶苦茶可愛かった。また、ファンが増加するだろうな」
護が、呟く。
「そう…かな?」
「そうだよ。あの笑顔で、虜になった奴が続出してた。一年の方でも、結構いたからなぁ」
「そうなの?私は、護の事しか見てなかったし、あの時も、野次が飛んでくるんじゃないかって、ハラハラしてたんだよね。拍手で迎えられた時、嬉しくて、つい笑顔になっちゃったんだよね」
その時の事を思い出して言う。
「って、お前。オレの敵を増やしただけじゃんか…。卒業した後、オレはどうすれば良いんだよ」
護が、頭を掻きむしる。
「大丈夫だって、さっきも言ったけど、私は、護の事しか見てないんだから」
「また、そんな可愛いこと言って。詩織がそうでも、回りがほっとか無いだろうが…」
また、強く抱き締めてくる。
そうなのかなぁ…。
護の心配が、的中するとは、この時は思わなかった。