告白
翌朝。
いつもより、早めに学校へ向かう。
「詩織ー」
背後から声が掛かる。
振り返ると里沙が、私の方に駆けて来た。
「おはよう、里沙」
息を弾ませながら、私の前で止まると。
「おはよう」
笑顔を返して来た。
二人で、学校に向かう。
たわいの無い話を止めどなく話す。
「詩織、進路どうするの?」
突然、里沙が聞いてきた。
「まだ、決め兼ねてる。里沙は?」
「あたし? あたしは、専門校かな」
はっきりとしてる里沙。
里沙は、なりたい職業があり、それを目指している。
「いいなぁ。私なんか、まだ何をしたいか何て、考えられないよ」
溜め息混じりで言うと。
「まだ、一年あるんだし、ゆっくり考えればいいじゃん」
って、里沙は言うけど、一年って以外と短いよ。
私達が、教室に入ると。
「桜、担任が呼んでたぞ」
クラスメートが、声を掛けてきた。
何だろう?
私達は、顔を見合わせる。
「一緒に行こうか?」
「大丈夫。一人で行ってくるよ」
里沙はそう言うと、鞄を机に置くと、教室を出て行った。
自分の席に着くと、何気にグランドに目を向けた。
彼が、グランドを走り続けている姿が目に入った。
グランドを走ってる姿が、印象的で目に焼き付いた。
「詩織。何見てるの?」
突然声が、掛かる。
声の方を向くと、里沙が私の視線を辿っていた。
ヤバイ。
バレちゃうかな。
「何? 誰か居るの?」
良かった。
まだ、バレてない。
「ううん。何でもないよ」
目線を戻す。
「怪しいな。誰か、気になる人でも居た?」
里沙が言うと、外に目を向ける。
その時には、もう誰も居なかった事にホッと胸を撫で下ろす。
「桜、席に着け。ホームルーム始めるぞ」
担任の声で渋々、席に着く里沙。
助かった。
私が、安堵したのを見て、里沙が不思議そうな顔をした。
「水沢。水沢詩織、居るか?」
放課後の事。
帰り支度をしていたら、教室の入り口から呼ばれて、顔を上げる。
入り口の先輩と目が合う。
あれ?
何で私の事知ってるのだろう?
不思議に思いながら、私は鞄を持って行く。
「ちょっと、時間有る?」
そう言われて。
「何でしょう?」
冷静に答えながら、内心は、ドキドキが止まらなかった。
校舎裏に着いて、言われた事は。
「水沢詩織さん。好きです、オレと付き合ってください」
真剣な告白だった。
私の事なんて知らないはずの先輩から告白されるなんて、思いもよらなかった。
ちょっと目が合って、昨日初めて喋ったのに、何で、知ってたのかがわからずに居た。
「詩織ちゃん?」
先輩が、戸惑ってる。
無理もないよね。
私は、笑顔で。
「いいですよ」
って答えた。
「本当!!!」
凄く、喜んでいる先輩。
「一つ、質問していいですか?」
「なぁに?」
やや浮き足たってる先輩にさっき思った事を聞く事にした。
「先輩は、何で私の名前を知ってたんですか? 何処にも接点は、無かったのに…」
私は、教室からずーっと見てたけど…。
「去年の文化祭の時に、バンドで歌ってただろ?
」
あの時は、軽音部の助っ人で歌わされたっけ…。
「あの時に、ちょっと気になる女の子になってた」
照れ臭そうに言う先輩。
「私は、ただの助っ人だったんですが…」
「そうだったの? だけど、物凄く堂々として歌ってたから、てっきり軽音部だと思って友人に聞いたら、教えてくれたから…」
なぁんだ、そうか……。
「その友人って、兄ですか?」
「優基だけど…」
不思議そうに答える先輩。
「だと思いました」
「えっ!?」
先輩が、驚いた顔をする。
「軽音部の水沢優基は、私の一つ違いの兄です」
「嘘だろ。…って事は、オレ、ずーっとあいつに君の事ばっか話してた。なのに、一言もそんな事、言わなかったぜ」
あたふたしてる先輩を見て、私は、笑ってしまった。
「笑い事じゃない! オレ、あいつに何もかも話してたんだよ」
私は、そんな先輩を見て。
「兄からは、何も聞いてませんよ」
って、伝えるとなぜか、ホッとした顔を見せる。
「優基に聞いたんだけど、今、付き合ってる奴とか居ないと…」
遠慮がちに聞いてくる先輩に。
「居ませんよ。私と付き合う人が気の毒で、誰とも付き合っていません」
はっきりと答えた。
「気の毒とは?」
先輩の顔が、曇り出す。
「私には、三人の兄が居るんです。一つ違いの優基兄と、三つ違いの双子の兄が…。優兄は、一つ違いなので、そんなに私の事を気に止めませんが、双子の兄達がいつも煩いので、付き合えないんです。でも…」
「でも?」
「今回は違います。実は、私も先輩の事をずっと好きでした。だから、兄達の前では、言えない事も多々あります。それに家に来られると、門前払いされるのが目に見えていたので、あえて言えませんでした。でも、優兄の友達としてなら、大丈夫だと思います。」
優兄には、迷惑だろうけど…。
「ハードル高いなぁ」
先輩の声が落胆するのが、わかった。
「どうします? 諦めますか?」
私が聞くと。
「誰が諦めるかよ。こんな可愛い子、他の奴等に取られるのは、性に合わん!」
って、逆に意気込んでるし…。
「…って事で。これから宜しくね、詩織ちゃん」
先輩が、笑顔で言うから私も。
「宜しくです、先輩」
って、笑顔で答えていた。
なんか、嬉しいのと不安で、胸が一杯だよ。