婚約の条件
三人で、下に降りて行くと全員そろって居た。
「どうしたの?珍らしいね。皆がそろっているなんて…」
私が言うと、お父さんが。
「詩織と護君だっけ。空いてる席に座りなさい」
その言葉に優兄が。
「父さん、俺は?」
席がないのを見て言う。
「お前は向こうだ」
有無を言わさずにお父さんがリビングを指した。
「やっぱり…」
優兄は、一人リビングに行く。
私と護が席に着くと。
「護君は、将来どうするつもりなんだ」
お父さんが言い出した。
「僕は、教師を目指してます」
護が、堂々と答える。
「じゃあ、恋愛してる場合じゃないだろ」
「僕は、そうは思っていません。詩織さんが居るからこそ、僕は頑張ることが出来ます」
真顔で答えてる。
「そっか……。なら、条件を出してクリアしたら、詩織との婚約を許そうじゃないか」
お父さんが、真顔で言う。
「わかりました」
護も、真剣に聞く。
「条件一、大学に合格する事。条件二、高校を卒業する事。この条件がクリアされ次第、婚約を認めてやろう」
護の顔を見る。
「はい。その条件、必ずクリアして見せます。詩織さんに為にも頑張ります」
護は、笑顔でお父さんに返していた。
「よかったな、詩織」
兄達が、喜んでくれる。
リビングから。
「よかったな、詩織」
と、優兄の声が聞こえた。
「ハァー。息子がもう一人増えるのか…」
お母さんが、ガッカリしてる。
息子三人育てといて一人増えるのも、変わらないと思うんだけどなぁ…。
「護君のご両親にも、伝えないといけないな」
お父さんが言うと護が。
「僕、父一人、子一人なので、父親さえ許可してもらえれば、大丈夫なので…」
明るく答える。
護って、一人っ子だったんだ。
「そうなのか?悪い事を聞いてしまったなぁ」
お父さんが、すまなさそうに言う。
「いえ、大丈夫ですよ。僕、この賑やかな食卓は久しぶりで、楽しいです」
そっか。
一人で、夕飯を食べるのって、寂しいよね。
「じゃあ、毎日、夕飯を食べにおいでよ。一人で食べるよりいいでしょ」
お母さんが、護に言う。
「そんな。悪いですよ」
遠慮する護。
「何時も、余分に作ってるから、大丈夫だよ」
「それに、毎日詩織を送ってきてもらってるんだ、遠慮する必要ないだろ」
隆弥兄が言う。
「それなら、護の親父さんの帰りが遅い時だけ、家で夕飯を食べるってのは?」
勝弥兄が言う。
「そうしましょう。私は嬉しいわ。色々な話、聞かせて欲しいなぁ。家の息子達、何も話してくれないから、寂しくて…」
お母さんが、護に訴える。
「今更、話す事何て無いだろ」
兄達が、頷く。
「何時も、これなんだから…」
お母さん、寂しそう。
「詩織の家族って、楽しいな」
優しい笑顔を浮かべる。
それから、たわいの無い話をしながら、時間が過ぎた。
「そろそろ、おいとまします」
護がそう言って、立ち上がる。
「じゃあ、オレが送ってやるよ」
隆弥兄が言う。
「悪いですよ」
護が、遠慮してると。
「俺も用事があるんだ」
時計を見ると、隆弥兄のバイトの時間が近付いてる。
「じゃあ、お願いします」
「早くしろよ」
隆弥兄は、車に鍵をもって、玄関に向かう。
護も慌てて鞄を持つと、隆弥兄の後を追う。
玄関で、靴を履き終えると。
「今日は、ご馳走さまでした。長々とお邪魔してすみません」
きちんとお礼を言う護。
「いや…。こちらこそ、引き留めてしまって、悪かった」
お父さんが、答えている。
「お休みなさい」
「お休み」
「じゃあ、また明日」
「うん。お休み」
私は、手を振って見送る。
玄関を出て行く護を見送った後にお父さんが。
「こんなに早く、お前に相応しい奴が出てくるとは、思わなかった。ちょっと、寂しいなぁ…。本当は、学生結婚だけは、させたくなかったんだがなぁ」
小声で言う。
どういう事?
キョトンとしてる横で、お母さんが。
「詩織には、話してなかったよね。お父さんとお母さんは、学生結婚だったんだよ。だから、自分の子供達には、絶対にさせたくないって、言ってたんだよ。苦労が耐えないから」
考え深げに言う。
「まぁ、あなた達の場合は、護くんが大学卒業するまでは、結婚はお預けになるだろうけどね」
「そうだね。護が一人前の教師になるまでは、無理だろうなぁ…」
口に出して、言って虚しくなる。
婚約しても、護が教師としてやれるまでは、結婚はお預けなんて…。
「詩織、よかったな。親父達の許しが出て」
優兄が、私の部屋で寛ぎながら言う。
「うん。でも、まだ不安がぬぐえない」
「何で?護が、受験失敗するわけ無いじゃん。あいつ、学年トップなんだぜ。落ちる理由はない!」
優兄が、断言する。
「受験の事じゃないよ。護モテるから、そっちの方が心配なの」
「そうか?案外大丈夫なんじゃないか。護、お前以外に心許した女、居ないぜ」
「でも…。今日、目の当たりにしたの。護の回りに女の人が群がっているのを。その中に、綺麗な人が居て、さっき護に聞いたんだけど、クラスメートだって言ってたけど、私よりお似合いだったから、自信なくて…」
不安がる私に。
「何言ってるんだよ。俺は、お前が一番護とお似合いだと思うぞ。護、お前にしか甘えてるとこ、見せてないし、何時だって、お前の事しか見てないよ」
優兄は、護と同じクラスだから、色々知ってるはずだよね。
ちひろさんの事、聞いてみようかな。
「ねぇ、優兄。ちひろさんって、どんな人?」
「ちひろ? あぁ、小川ちひろか…。どんなって、まぁ、クラスの中で人気のある女子かなぁ…。でもな、高飛車で、我が儘で、人の物を欲しがる奴でもあるかな」
やっぱり。
あの時、わざと護の腕に絡み付いてたんだ。
「そういえば、一時護に迫ってたな」
思い出したように言う。
「まだ、お前と付き合う前だ。護は、その時から詩織一筋だったから、相手にはしてなかったがな」
エッ…。
じゃあ、さっき言ってた事は、本当なんだ。
信じていいんだ。
「詩織は、護の事を信じてればいいんだよ。何も心配するな。俺が、お目付け役になってやるから」
優兄が、私の頭を撫でる。
「だから、もう、心を閉ざすなよ」
優兄には、見透かされていた。
私が、頷くと。
「よし。じゃあ、俺も一様受験生なんで、勉強するかな」
それだけ言って、優兄は部屋を出て行った。
トゥルルル…。
鞄の中を探って、携帯を出すとメールのマークがついていた。
画面を見ると。
“詩織、今日は本当にごめんな。
オレの不注意で、心配させてばっかりで…。
でも、不謹慎かもしれないが、お前がそこまでオレの事を愛してくれてた事、嬉しかった。
それに、お前の親父さんにも認めてもらえたみたいだし…。
オレには、お前しか居ないんで、宜しく。
お休み 護“
私は、直ぐに打ち返す。
“護。今日は、心配掛けてごめんなさい。
私自身が、こんなにも嫉妬深いとは思わなかった。
愛しい人とずっと、一緒に居たい気持ちばかりが先走ってた。
護と婚約できるだけでも、嬉しい。
お休みなさい 詩織“
と、返信した。
私は、ベッドに潜って、寝る事にした。