嫉妬心
自分の部屋に閉じ籠った。
どかこかで、携帯が鳴っている。
出る気はない。
暫くすると、鳴りやんだ。
もう、何もする気が起きない。
何もいらない。
誰も居ない。
ただ、一人きり。
私は、一人なのだ。
もう、自分で動く気力もない。
誰にも会いたくない。
自分で、心を閉ざす。
何も聞こえない。
暗闇の中、足を抱えて座り込む。
もう、私を呼び起こさないで…。
私は、疲れたんだ。
たった、一人の人の為に何時も傍に居たかった。
それは、もう望んではいけない。
求めてはいけない。
だから、一人で居ることにする。
「…おり。…詩織」
どこかで、誰かが呼んでる。
私を起こさないで…。
放っといて…。
ピンポーン。
チャイムが、遠くで鳴っている。
足音が、近づいてくる。
何?
もう、誰も来ないで!
私に構わなくていいよ。
あっちに行って…。
私の思いと裏腹に。
「おい。詩織、詩織!」
体を揺さぶられる。
誰?
さっきとは、違う声。
パッシーン!
私の両頬に痛みが走る。
痛いなぁ。
何なのよ、もう。
ほっといて!
「詩織。しっかりしろ!」
もう一度、体を揺さぶられる。
「こら! 詩織。オレの声、聞こえてるか?」
私を起こさないでよ!
そっとしておいて。
苛立ってる私の唇が、塞がれる。
上手く、息が出来ない。
「詩織。オレの所に戻って来い!」
もう一度、唇が塞がれて、我に返る。
「…まも…る」
私の目の前に護の優しい笑顔があった。
「やっと、戻って来たな…」
護の腕に抱き締められてる。
何で?
その向こうでは、優兄が部屋を出て行ったのが見えた。
「何で、護が居るの?」
私は、不思議に思いながら、訪ねた。
「そりゃないぞ。詩織の様子が可笑しいって、優基から電話もらって、素っ飛んできたのに」
優兄が、呼んだんだ。
「お前が、フリーズしたのって、オレのせいだよな」
護の優しい声にも、素直に頷く事が出来ない。
これ以上、迷惑掛けたくなかった。
「いい加減、素直になれよ。逆に心配になるだろうが…」
抱き締めてる腕の力が、強くなる。
「今日は、朝から悪かったな。まさか、ぶっ倒れるとは思わなかった。詩織が、優基を呼んでくれたお陰で、病院で注射打ったら直ぐに良くなって、学校に出てきたら、詩織の様子が可笑しいって里沙ちゃんに言われて、教室に行くと思いっきり固まってるし、元に戻ったかと思って安心したら、まただ。それって、オレのせいなんだろ? 何かしたか? オレ」
そっか、さっきの見てないと思われてるんだ。
「さっき…」
「ん?」
「さっき、女の子に囲まれていたよね」
私は、ゆっくりと口を開く。
「ああ…」
「しかも、腕まで組んで…」
「あれは、詩織を見つけて、声を掛けようとしたら、クラスメートに捕まったんだよ」
護が、真顔で答える。
「それをみたら、居てもたっても居られなくて、逃げ出してた」
私は、視線そらして言う。
「ただのクラスメート。詩織が気にする事なんかないんだ」
護が、私の頭を撫でながら言う。
「凄く綺麗な人に腕を絡まれて、楽しそうだった」
思い出しただけで、嫌になる。
「ハァー。それって、“ちひろ“の事か?」
護が、面倒臭そうに言う。
普通、女の子を下の名前で呼ばないよね。
それだけ、仲が良いんだ。
私が落ち込んでると。
「ちひろは、お前と付き合う前の彼女。って言うか、一方的に言い寄られてただけで、何もない!」
護が、断言する。
「本当に?」
「本当さ。オレは、詩織だけしか触りたいとは思わない。他の女なんか、眼中にないよ。それに、腕だって、詩織以外の奴としたいとは、思わない」
優しい微笑み。
「オレが、本当に好きで、ずーっと一緒に居たいと思うのは、詩織だけだよ」
そう言って、私の頬に口付ける。
「ほんと?」
私は、真顔で聞き返す。
「ああ、本当さ。朝も言ったと思うけど、婚約して、同棲したいくらいだ」
護も、真顔で答えてくれる。
「そろそろ、帰るかな」
護が、立ち上がる。
エッ…。
「そんな不満そうな顔するな。帰れなくなる」
護が、切なげに言う。
その時。
コンコン。
部屋のドアが、ノックされる。
「はい」
私が返事をすると、優兄が顔を出す。
「護。飯、食ってけって…」
「でも、迷惑じゃ…」
護が、戸惑ってる。
「なんか、話が有るんっだってさ」
優兄が、意味ありげに言う。
私と護は顔を見合わせた。