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嫌な気配

体育祭当日。

天気は、快晴。

気持ちのよい青空が、広がってる。

開会式が終わると、直ぐに学ランに着えて、鉢巻きをする。

「詩織、カッコいい」

里沙が、感嘆の声をあげる。

「僕に惚れるなよ」

ちょっと低めの声で、冗談を言う。

他の子達も、それぞれ溜め息をつく。

「ほらほら。応援始めるよ」

私は、声を張り上げて、応援を始めた。

その時、護と目があった。

護は、ビックリした顔で私を見る。

恥ずかしいけど、しょうがないよね。

学ラン姿の私は、どんな風に見えてるのかなぁ?

ちょっと気になるけど…。


護が出る二百メートル。

自分のクラスメートも同じラインに並んでる。

心では、護を応援したがってる。

今は、クラスの応援団長。

クラスの男子を応援しなきゃいけない。

スターターの合図で、走り出す。

私は、一生懸命声を出して、応援する。

が、クラスの男子は三位で、護は一位でゴールする。

凄い。

決勝、進出じゃん。

私は、笑顔で応援する。

その横で。

「にやけすぎでしょ」

里沙に注意されて、気を引き締め直す。

プログラムは、何事もなく進んでいく。

男子八百メートルでも、護は一位をとる。

そんな護を尊敬してる。

応援の方で必至で、なかなか護の所には、行けない。

それに対して、護の周りには女の子が群がってる。

’護は、私の’って言いたいが、それを封印して、応援に専念した。

「詩織。次、障害物競走だよ」

里沙に言われて、慌てて学ランを脱いだ。

そして、入場門に向かった。


とりあえず、ビリにはならずにすんだ。

自分の種目をやり終えて、直ぐに学ランを着る。

これ、暑いんだけど…。

「頑張ったじゃん」

里沙が、労いの言葉を掛けてくれる。

「まぁね。残りの種目も、頑張って応援するよー」

私は、声を張り上げた。

最終種目は、借り物競走だ。

護が、スタートラインに並んでるのが見える。

スターターの合図。

護のスタートダッシュ。

途中にある封筒を拾って、中を見ていた。

どんなお題なんだろう?

って思ってたら、こっちに向かってきた。

エーッ。

何?

「詩織、来い!」

無理矢理手首を引っ張られる。

突然の事で、ついていけなかった私の足が、もつれる。

「わっ…」

転ぶかと思ったけど、護が抱き止めてくれた。

「危なっかしいなぁ」

そう言ったかと思うと、足が宙に浮いていた。

「しっかり掴まってなよ」

訳がわからないうちに、抱き上げられ疾走する護。

「キャーーっ」

四方八方から、黄色い声が上がる。

護は、そんな事も気にも止めず、ゴールまで走る。

「お題は、何でしたか?」

優兄が、確認のため護に聞く。

「学ラン姿の女の子って書いてありました」

そう言いながら、その場で下ろしてくれた。

「そうですか…。一位、おめでとうございます」

優兄は、いぶかしげな顔をしながら、他の確認に向かう。

「本当にそうなの?」

改めて聞き直す。

「本当は、’彼女’って書いてあった」

護が、耳元で囁いた。

アッ……。

顔が、火照り出す。

嬉しい。

「詩織。学ラン似合うじゃん」

笑顔で、護が言う。

「最初は、ビックリしたけどな。一生懸命応援してる姿が、可愛いよ」

護の言葉に、ますます顔が熱くなる。

「そろそろ、戻るね」

そう言って、応援席に戻ろうとしたら。

「次のレース始まってるから、今動くのは、危ないよ」

護が、私の腕を掴む。

「でも、やっぱり戻るよ」

その手を振りほどき、元の場所に戻った。

…ものの、またもや借り物に引っ張り出されたのだ。

何なんですか?

全く。

ゆっくり出来ないじゃんか…。

「ごめんな、水沢。お題が、’鉢巻きをしてる人’だったから、お前しか居なかったんだよ」

佐久間くんが言ってきた。

「ううん、気にしなくていいよ」

私は、笑顔で言う。

「俺としては、気にして欲しい」

ボソッと聞こえってきた。

エッ…。

その声が、護にも聞こえてたらしく、こっちを向く。

護が、彼を睨んでる。

まずいなぁ。

「じゃあ、私、戻るから」

私は、その場を逃げるように応援席に向かう。

戻りながら、護の方を振り返ると目が会った。

でも、その目はみるからに怒っていた。

どうしたらいいんだろう?

彼の事は、前に断ってるのに、未だに想われていたとは、思ってもいなかった。

どうしよう。

護、彼の事覚えているよね。

彼が、私に告白してたの…。


体育祭も無事に終わり、ホッとした。

やっと、肩の荷が下りた感じだ。

「詩織、お疲れ様」

里沙が、声をかけてきた。

「里沙、喉が痛いよー。」

喋ると掠れていた。

「一番声出してたもんね」

里沙が、笑いながら言う。

「出さないわけにいかなじゃんか」

私が、ふてくされてると。

「水沢、これやる」

佐久間くんが、飴を出してきた。

「エッ…」

私が驚いてると。

「そんなにビックリする事か?」

「あっ…ありがとう」

取り合えず、お礼を言う。

「どういたしまして」

それだけ言うと、行ってしまった。

「詩織。佐久間と何かあった?」

里沙が不思議がる。

「うーん。ちょっとね」

里沙には、まだ話してないことだからね。

しかし、またしてもアプローチしてくるとは、思わなかったけど…。

「里沙ー」

「詩織ー」

教室の出入り口から、二人の声がする。

私達は、同時に振り返る。

里沙は、笑顔で優兄の所に行ってしまった。

私は、さっきの事もあるので、なかなか行くことが出来ずにいた。

見かねた護が、私の方に来る。

「どうした。もしかして喉痛めた?」

護が、優しく声を掛けてくれる。

その優しさが嬉しくて。

「大丈夫だよ」

声を出して答えたけど、ガラガラだった。

「ありゃりゃ。凄い声だね。可愛い声が、台無しじゃん」

そう言いながら、のど飴を取り出した。

護が、その包みを破る。

「ほら、口開けな」

私は、素直に従う。

護が、飴を口の中に入れてくれた。

「ありがと」

私は、お礼を言う。

「帰ろう」

護が、私の鞄を持ってくれる。

「うん」

私は、護の後ろを歩いた。


学校から出ると。

「詩織。借り物の時にお前を引っ張ってきたのって、あの時の奴だよな」

「そうだけど…」

やっぱり、覚えていたんだ。

「まだ、諦めてなかったんだな」

ボソッて言う。

「って言うか。お前、隙ありすぎだろ。また、隠れファンが増加するだろうが」

ちょっと、拗ねてるのは気のせいかな。

「そう言うけど。護だって、今日の活躍で、女の子に大人気じゃんか。陸上部より足が速いって、反則じゃん」

決勝で、ブッチ切りの一位で優勝しちゃうんだから…。

「もしかして、焼きもちかな?」

護が、ニヤニヤしながら聞いてくる。

「どうとでもとってくれて結構です」

膨れっ面の私に。

「そんな可愛い顔するな。キスしたくなるだろ」

護が、私の頬にキスしてくる。

「くすぐったいよ」

「詩織は、オレのだからな。何処にも行くなよ」

真面目な顔で言う。

「うん。私も、護の傍に居たいです」

私は、護の目を見て言う。

そして、唇が重なる。

甘く、優しいキス。

大好きな気持ちが、溢れてくる。

誰にも、邪魔されたくない。

フッと、唇が離れた。

「詩織。可愛すぎ」

そう言いながら、そっぽを向く。

「…フフ。護も可愛いよ」

私が言うと。

「可愛い言うな!」

照れながら、言う。

思わず、笑顔になる。

「その笑顔、オレが守るから」

そう言って、再び唇が重なった。


「明日のデートだけど、何処に行きたい?」

突然、護が言い出した。

「じゃあ、遊園地!」

思いきって言ってみた。

「よーし。明日は、遊園地に行くか」

「エッ。本当に?」

改めて聞き返すと。

「本当だよ、明日の九時に駅で待ち合わせでいいか?」

「いいよ」

やった。

子供っぽいかなと思ったんだけど、ちゃんと受け止めてくれた。

私は、それが嬉しくて護に抱きつく。

「こらこら。そう、抱きつくなよ。恥ずかしいから…」

戸惑いながら言う護が、愛しい。

「護。顔が赤いよ」

からかいながら言うと。

「誰のせいだよ」

ふてくされるように言う。

私は、つい吹き出してしまった。

「笑うなって…」

だって、耳まで真っ赤なんだもん。

「そんなに笑うなって」

護が、そっぽを向く。

私が、いつまでも笑っていたら、突然唇を塞がれた。

私が、驚いてると。

「やっと、止まった」

不意打ちなんて、ずるいよ。

私は、俯いてしまう。

「あんまりからかうなよ。オレだって、本気にしてしまうだろ」

私が顔を上げると、真顔の護がいた。

「お前を帰したくなくなるだろ」

エッ…。

そう言って、私の腰に手を回してくる。

「オレの弱点は、お前だな」

照れながら真顔で言う。

「じゃあな。明日、遅れるなよ」

家に着くのが、早いよ。

私は、護の背中を何時まで見送った。


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