将来の夢
早朝五時。
私は、キッチンでお弁当の準備に取りかかる。
唐揚げに春巻き、卵焼きにポテトサラダとミニトマト。
それから、ツナマヨとチーズにハムのサンドウィッチを作る。
護、喜んでくれるかな。
なーんて、思いながら、バスケットに入れる。
水筒にお茶を入れているとこに。
「詩織、早いじゃん。今日、何かあった?」
「護の試合なんだ」
「あっそうか。って、お前もうすぐ、試合始まるじゃんか…」
優兄が言う。
私も、慌てて時計を見る。
やばい。
まだ、着替えていない。
自分の部屋に行き、昨日選んだ服に着替えて、慌てて部屋を出る。
…と。
「詩織。また、遅れそうなんだって…」
隆弥兄に言われて。
「そうなの。どうしよう」
私が、困ってると。
「しょうがねーな。車、出してやるよ」
と鶴の一声。
「わー、ありがとう。隆弥兄」
私は、隆弥兄に抱きついた。
「ほら、さっさと行くぞ」
隆弥兄が、鍵をチャラチャラさせながら言う。
私は、キッチンに行き、準備したお弁当と水筒を持って、玄関を出た。
車に乗ると隆弥兄が。
「前と、同じで良いんだよな」
って、確認して来た。
「うん」
私が頷くと、車を走らせた。
会場に着くと。
「頑張って、応援してこいよ」
隆弥兄の優しい声。
「うん」
荷物を持って、走って会場の中に入る。
九時十分前についたので、まだ、ウォーミングアップの途中だった。
私は、護の姿を探す。
護が、私に気がついて、手を振ってくれた。
私は、そこへ駆け寄った。
「おっせーよ。来ないかと思った」
護に言われて。
「ごめん」
それしか言えなかった。
「もう良いよ。しっかり、応援してくれよ」
それだけ言うと、練習に戻っていった。
ピピー。
試合開始のホイッスル。
ハラハラ、ドキドキのゲームが始まった。
一対一の攻防戦。
勝っても負けても、最後の試合。
私は、護に悔いの残らないように戦って欲しくて、一生懸命に応援する。
「頑張れ、護」
大きな声で応援する。
護に、私の声が届いたのか、動きが良くなる。
凄い。
こんなに、白熱した試合になるなんて、思いもよらなかった。
私の心臓は、ドキドキが止まらない。
勝って欲しい。
私は、祈るように天を仰ぐ。
ピッピー。
試合終了の合図。
三対二で、勝った。
「やったー!!」
私は、思わず大声で言っちゃった。
その声に護が、私の方を見て、軽く手を振る。
護に手を振り返した。
試合終了後。
私達は、この間の川原で、昼食を取った。
「おめでとう」
改めて、護に言う。
「ありがとう」
「今日の試合、凄かったね。ハラハラしっぱなしだよ」
「そうだな。オレも、詩織の応援がなかったら、どうなっていたかわからなかったけどな」
護が、真顔で言うから、ちょっと恥ずかしくなった。
「あのピンチの時、詩織の声が聞こえて、底力が出たんだ」
やっぱり、気がついていたんだ。
一度だけ、大声を出したの。
「嬉しかった。オレ、こんな所で負けたくないって、思った」
「でも、良くわかったね。他の声援もあったのに…」
「詩織の声は、耳からじゃなくて、心に届いたんだ」
護が恥ずかしそうに言う。
「本当に?」
「嘘ついて、どうするんだよ」
優しく微笑む。
「これで、オレの出番も終わりだな」
「寂しい?」
「そうだな。ちょっと寂しいかな。今まで、頑張ってきた分な」
どこか、遠い目をする護。
「しょうがないか。オレは、受験生だもんなぁー。そろそろ本腰入れて勉強しないとな。オレの目標は、教師だから…」
堂々と言う護。
護みたいな先生だったら、勉強頑張っちゃうんだろうな。
私は、護の 教師姿を想像してしまった。
「どうした?オレの顔に何かついてるか?」
慌てて首を横に振る。
「良いなぁ。護は、目標があって…」
「詩織は、オレの傍で、笑っててくれれば良いんだよ」
頭を撫でてくる護。
「でも、それじゃあ、何も出来ない子じゃんか…」
口を尖らせて言うと。
「それで良いんだよ。オレが居ないと、何も出来ない女で」
目を細めて言う。
「今日で、試合も終わったし、来週は、デートでもするか?」
腕を空に向かって伸ばしながら、こちらを伺うように聞いてきた。
「勉強は?」
「息抜きしてからでも良いだろ。体育祭もあるしな」
護の笑顔が、眩しかった。
そんな護に抱きついた。
「こらこら。こんな所で、抱きつくなよ…」
護の顔が、赤くなっていく。
「嬉しいんだもん」
護の耳元で、囁いた。
「しょうがないな」
言いながら、私を抱き締めてくれる。
「今だけだからな」
照れながら言う護。
嬉しいな。
私の我儘を受け止めてくれる護が、大好き。
この気持ちは、変わらない。
でも、護って、以外とモテルから、気が気じゃないんだよね。
体育祭も不安だよ。
護が、活躍するのも見たいけど、半分は不安のか塊が、心に有る。
「どうした?急に黙ったりして…」
護が、心配そうに覗き込んでくる。
「ううん。なんでもないよ」
私は、勤めて明るく答えた。
「ならいいけど…」
あえて、言わないことにした。
気にしすぎなんだって、言われるだけだから…。
「さぁ、そろそろ帰ろうか?」
護に言われて、家路についた。
「ただいま」
私が、玄関を開けて家に入ると。
「お帰り。試合どうだった」
兄達が、聞いてきた。
「三対二で、勝ったよ」
そう、報告すると。
「やったな」
「よかったな」
って、返ってきた!
「隆弥兄。朝は、ありがとう」
「気にするな。俺が、暇してたからな」
隆弥兄が、私の頭をポンポン叩く。
私は、バスケットをダイニングテーブルに置いて、お弁当箱を洗うのだった。




